Monster Hunter 《children recode 》   作:Gurren-双龍

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おはこんばんちは。お久しぶりですGurren-双龍です
頑張ります


第29話 金色は迫る

「どっか行ってろ!!」

 

 こやし玉。〈モンスター〉の排泄物を詰めたボールで、ぶつかると弾けて激臭を放つ。これを利用し、〈モンスター〉をその場から追い出すアイテム。そう、例えば──

 

グルルオォアァ!!

ギェエアァァ!!

 

 〈モンスター〉が同時に二頭、一緒にいる時なんか効果覿面のアイテムだ。

 リオレウス亜種とリオレイア亜種。雌雄(つがい)の飛竜で、俺と真治(まや)にとっては因縁浅からぬ〈モンスター〉達だ。

 

「リオレイアに当てた!!」

「しばらくはリオレウス亜種よ!!」

「おうよ!!」

 

 こやし玉の臭いはおぞましいほどに強烈で、これを受けて逃げない〈モンスター〉など滅多に居ない。リオレイア亜種は直にここを去っていくだろう。しかし火竜の夫婦(めおと)は固い絆で結ばれた生き物。排泄物の臭い程度で引き剥せる代物ではなく、多くの例でも追い払ったがまた合流されたという報告が上がっているという。今回もその例に漏れることは無いだろう。故にこその「しばらく」である。

 

「雄也、閃光玉はいつでも用意を。脚に斬り込んで」

「分かった」

「アニキ、落とし穴を。その後爆竜轟砲の準備」

「おうよ!!」

 

 真治の指示が入り、即座に散開。アニキが落とし穴を仕掛ける間に隙を晒す。俺の仕事はそこを狙わせないことだ。

 

「雷属性でやや通りづらいとは思うが……いくぞ……!」

 

 その背中から抜き放つは舞雷竜(ベルキュロス)の角や鱗から鍛え上げ、半年前に倒した冥雷竜(ドラギュロス)の素材で更なる補強を施した双剣。銘を『極舞雷双【雀鷹】(ごくぶらいそう【つみ】)』と呼ぶ。片や鉤爪の如く、片や尖角の如く刃を構えて打ち鳴らし、いざ真・鬼人解放を行う。

 

「せやっ!!はぁぁっっ!!」

 

 まずはステップの要領で踏み込み斬り。そのまま左の剣を逆袈裟に斬り上げて脚部の鱗を削り、皮を裂く。痛みの原因たる俺を認知したリオレウス亜種がこちらを振り向く。いいぞ、このまま走ってこい。

 

ゴォアァ!!

 

「おっと!?危ねぇ……!?」

 

 そのまま走ることはなく、その名──『蒼火竜』──の名を誇示するが如く、蒼き翼を震わせながら火球を叩き付けてきた。ある程度予測出来てたので回避は出来たが、少し遠のいた。だが──

 

「熱い火には冷えた弾がちょうど良いわね!!」

 

 氷結弾が真治のライトボウガン──『天狼砲【北斗】』より放たれる。放たれた三発が雄大な蒼翼に吸い込まれるように着弾し、凍結して弾けた。リオレウス亜種は傷を突き刺すような冷気の元を見やり、首をもたげる。火球ブレスだ。

 

「雄也、落とし穴に!!あと麻痺を二本!!」

「了解!!」

 

 走りながら右手を太もものナイフラックの付いたベルトに伸ばす。右の剣を納める暇はないため、人差し指と親指の根で挟みながら、人差し指と中指、中指と薬指の間で一本ずつナイフを掴み、それをリオレウス亜種に向けて放つ。ヒット、頭と翼だ。

 

「滑空来るわよ!!」

「そう飛べると思うなよ!!」

 

 真治の言葉に振り返り、今度は左手で閃光玉を掴む。口で安全紐を抜き、今にも飛び立ちそうなリオレウス亜種の視線ど真ん中に投げ込む。

 

グオォォアァ!?

 

「グレート!!落とし穴にそのまま突っ込むぜ!!」

 

 飛び立って慣性が乗った瞬間に視界を潰されたリオレウス亜種は、その勢いのまま地上に落下、そして俺達の方を向いていたこともあって、落とし穴の方向に滑ってきた。

 

「いくぞ……爆竜轟砲、発射ァァッッ!!!!」

 

 竜撃砲の構えから砲弾の発射準備も整え、威力を更に増した大砲撃。爆竜轟砲が、轟竜の咆哮もかくやの圧と、鎧竜の熱戦を思わせる熱量をその蒼躯に叩き付ける。

 

グォオォルラガァァァァ!!??

 

 その爆発に耐えかねた右の翼膜は穴を開け、翼爪は砕け、各部位の鱗は何枚も弾けた。海外の〈ハンター〉から竜の息吹(ドラゴンブレス)の愛称を持たれることも頷ける威力だ。

 

「総攻撃!!麻痺を掛けた後『超速射』!!射線上に気を付けて!!」

「「了解!!」」

 

 俺に撃ち込ませた麻痺毒の効力を発揮すべく、Lv1麻痺弾を撃ち込む。すると効いてきたのか、自由を奪われた身体が重力に従って翼と頭を地につけた。俺は柔らかい頭へ、アニキはまだ砕けてない左の翼へ砲撃を繰り返す。そして真治は──

 

「発射準備、完了!!」

 

 頭から背中に抜ける位置に構え、トリガーを引いた。Lv1貫通弾が放たれ、頭部の甲殻を貫き、胴体に突き抜ける。だが一発ではない。二発、三発と速射が発生する。しかし侮るなかれ、まだ終わりではない。四発、五発、六発とまだ終わりはない。そして次第に放たれる弾の感覚は短くなりそして──

 

「──ッ!とぉっ!撃ち切った、そろそろ出てくるわよ!!」

「了解!閃光玉、用意!!」

 

グォガアァ!!

 

「飛んだ──投擲!!」

 

 投擲から一秒、光が弾けた後に地面に叩き付けられる音が響いた。

 

「シビレ罠、行くぞ!!」

「了解!!」

 

 アニキが悶えるリオレウス亜種の足元の、もがく足に蹴られない位置にシビレ罠を仕掛ける。センサーの範囲内に入ることで起動するそれにとって、撃墜によってもがく竜の躯体を捕捉することなど容易いこと。落とし穴・麻痺毒・撃墜に続く4回目の拘束、シビレ罠のコンボ。最近の真治の指揮では、最早定番となりつつあるほどの作戦だ。

 剣を構えて設置を待つ間に、リオレウス亜種が起き上がろうとする全身を一瞬で強張らせた。

 

「総攻撃!!」

「「了解!!」」

 

 刃を通しやすい頭はガラ空き。ここしかないと言えるほどの弱点に、乱舞・改と乱舞旋風を続け様に叩き込む。アニキは叩き付けフルバーストを撃ち込み、真治はリオレイア亜種が戻って来ないかレーダーを気にしつつ氷結弾を放っている。順調だ。だが──

 

──覚悟を決めておけ

 

 ()()()が久しぶりに五月蝿い。こいつが聞こえる時は、大体ロクでもない事がこれから起きるか、既に起きてる時だ。でも──俺に何ができるってんだ。

 

「そろそろ壊れる!リオレイア亜種も来るかもしれない!!リオレウス亜種を牽制しつつこやし玉用意!」

「「了解!」」

 

 今は、目の前の狩りに集中するのみだ。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「すみません、遅れました!」

「気にするな。むしろオフなのだ、避難側にいても良かったのだぞ?」

 

 【ハンドルマ第一中国地方支部】の司令室(オペレータールーム)。雄也達と外出していた私が持ち場に戻った頃には既に交戦開始、そして有利に事を運んでいる最中だった。

 

「そうは行きません。私は……」

「分かっておる。持ち場に着け」

「了解!」

 

 服はそのままだが、ヘッドセットをセットして席に座り、状況を確認する。

 リオレイア亜種とリオレウス亜種の同時出現の予報、人民の避難は出現前に完了、同時出現の後、こやし玉を用いた分断作戦から各個撃破という状況。至って順調だ。まるで心配する要素がない。だと言うのに──

 

(胸騒ぎが止まらない)

 

 これは経験による勘か、それとも〈龍血者(ドラグーン)〉ならではの直感か。どちらにせよよろしくないものが私の中に渦巻く。

 

(なんなの、これ)

 

 だが現場に居ない私に、どれだけのことが分かる。雄也達はまだ何も訴えてこない。ならば下手に混乱させることは、言えない。

 

「……冬雪オペレーター、高高度にもレーダーを機能させてくれ」

「りょ、了解!!」

 

 しかしそんな不安を知ってか知らずか、支部長(おじいちゃん)からの指示が、私の不安に突き刺さるように下った。その指示通り、レーダーを高高度──皮肉にもかつて私が乗ってたヘリが撃ち落とされた辺りの高度が自動で検出された。

 

「──え?」

 

 天罰でも下って来たかのような衝撃が降りてきた気分になる、そんな結果から目が離せなくなった。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「もう!!牽制で精一杯になるなんて、思ったより強いわねこの個体……!」

 

ゴオォォ!!

グゴギャアァ!!

 

 リオレイア亜種がリオレウス亜種の元に再び合流して以来、中々分断出来ずにいる状況が続く。というのも、飛行能力も地上戦能力も高い上に、夫婦同士で意思疎通が取れてることと知能の高さも相まって、良い具合に向こうにペースを握られ、特に俺と真治の行動を制限されている。

 俺があの激臭の元と見なし、また真治がこのチーム(奴らからしたら『群れ』か?)の主軸だと気付いたらしい。俺の至近距離まで来たと思えば真治に向けてブレスを撃つ。そこを突こうとすればもう片方が追ってくる、なんてのがさっきから続いている。状況を打破しようにも、アニキは低い機動力が災いし、俺の元にも真治の元にも駆けつけられないという状況が続く。

 

「クソっ、俺がこやし玉を投げる隙を見つけられねえとは……」

「麻痺弾が撃てても隙が大きい……どうしたら……!」

「クッ……もっと俺がアイテムを持っておけば……!!」

 

 アニキは比較的フリーになりやすいが、こやし玉も閃光玉も持っていないため、攻撃以外の手段はない。罠は合流前に使い切ってしまったのだ。ここは……賭けに出るか!

 

「来やがれ!」

「雄也!?退いて!!」

「あの馬鹿野郎……!」

 

 そう言いつつも、真治は弾の装填を、アニキもそこらの石ころを拾って気を引く準備を始めていた。

 そして俺の手には二つのこやし玉。リオレイア亜種を分断するための物だが、最早この際選り好みすらしてられない。両方とも離れてしまったならそれで構わないし、片方だけでも戦況は変えられる──!

 

ゴオォアァ!!

ゴギャアァ!!

 

「来た来たァ!!」

 

 ビンゴ!とかグレート!って言いたくなるくらいの思惑通り。さっきまでしてない動きに対し、とりあえず同時に詰めて止めるつもりのようだ。だが、俺に注意を向けすぎだ。真治は耐性蓄積を考慮してリオレウス亜種に睡眠弾を、アニキは石ころではあるがリオレイア亜種の気を引く。その隙ならば──

 

「もら──」

 

ヴィィィィィィィィィィィ!! ヴィィィィィィィィィィィ!! 

 

 と思った矢先、先程聞いたばかりの警報、いやそれ以上の音量で鳴り響いた。この轟音に、流石に火竜夫妻も困惑して動きを止めた。

 しかしなんなのだこれは、〈モンスター〉の乱入?いや、それなら警報では無いはずだ。では何故──

 

『こちら司令部!!総員撤退してください!!』

「真癒さん!!どうして!?」

 

 考えを巡らせていると、司令部(まゆさん)から連絡が入る。しかし意味不明だ。まだ俺達は目標の〈モンスター〉の迎撃を完了していないのだ。

 

『高度3000メートル、北北東より超高濃度龍力生命体の感知あり!!これは──』

 

ゴオォアァオォ!?

グギュウアァ!?

 

 真癒さんの声を遮るように、突如火竜達が怯えるような声を上げ始めた。ますます意味がわからない。今までこんな状況は──

 

「逃げるぞ雄也!!真治!!ここに居たらやばい!!離れろォォ!!!!」

「アニキ!?」

 

 大抵のことには臆せず動じないアニキが、信じられないくらい慌てて真治の手を引きながら俺の元まで走ってきた。そのまま俺の手を掴み、走り出した。

 

『超高濃度龍力生命体の感知、こちらに近付いてます!!急いでください!!』

「分かってるよ姐御!!」

「待てよ何なんだよこれ!?説明してくれ!!」

「説明はあとだ!!死ぬぞ!!」

「死ッ……!?」

 

 いつになく鬼気迫るアニキの顔に、俺も真治も何も言えない。

 

ゴオォアァ!!

グギュウアァ!!

 

『リオレイア亜種、リオレウス亜種、共に離脱体勢!撃退と見なし、本クエストは完遂と見なされます!!』

「完遂とみなす、つったって……」

 

 あまりにも不可解な決着だった。だが説明を待つしかない。

 

『──ッ!!超高濃度龍力生命体、こちらへの接近速度を速めました!!これは……撤退、間に合いません!!姿を隠してやり過ごしてください!!』

「応ッ!!」

「ちょ、アニキ!!指揮権は今私──」

「そんなこと言ってる場合かッッッッ!!!!!!」

「──ッ、ごめん……」

 

 真治がいつもの強気をあっさり崩された。アニキの本気度でここまでのは見た事がない。だからこそ不可解な点が増えていく。そもそもアニキは何が来るか知って──

 

「ん?アニキ、()()なんて降ってたか?」

「──雄也、今なんつった」

「いや、金粉が降ってたかなって」

「…………ッ!」

 

 顔こそ(ヘルム)で覆っているが、アニキが絶句し青ざめていくのが何となくわかった。

 

「アニキ……?」

「クソ、駅付近の地下通路使うぞ!!」

「お、おう!」

『超高濃度龍力生命体とリオレイア亜種及びリオレウス亜種、接敵──何これ、接近者側に膨大な龍力エネルギーの圧縮と放出を検知──みんな逃げて!!!!!!』

「──え?」

 

 

 

 

 

キア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ッッッッッッッッ!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 空から、光が世界を塗りつぶす様な圧を感じた。




第一次クライマックスまであと僅か

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