私がフランドール・スカーレットになっていた件 (未完) 作:冷水
==紅魔館:レミリア私室==
「ねえ、フラン。貴女は覚えているかしら」
レミリア・スカーレットは布団に入りながら、一人で呟いていた。
妹のフランドールが消え、もう何日も経っている。
従者たちに幻想郷の全体を探させてはいるが、一向に見つかる気配はない。
「あの日、私は『貴女の運命』を操って、地下から出られないようにした」
布団に横たわり、過去のことを回想する吸血鬼。
その姿は弱々しくて、尊大な吸血鬼の面影など、かけらも見つけることはできなかった。
「でも、あの出来事だけは私は許せなかった。後悔はしてるけど、それでよかったと思ってた」
レミリアは自身の『運命を操る程度の能力』で、フランドールを『地下室に引き籠る』ように運命を操ったはずだった。
500年近い間、その呪縛は解けず、つい最近までずっと大人しく地下室に居た。
「貴女は『運命』さえも、破壊する力を得たとでも言うのかしら?」
破壊を司るフランドールと、運命を捻じ曲げることのできるレミリア・スカーレット。
フランドールは、運命という曖昧なものを破壊できる力など、持っていなかったはずだった。
「いえ、私にできるのだから、できても不思議じゃないのかしら?」
そう呟いて、レミリア・スカーレットは過去を回想する。
==約490年前の紅魔館==
「あははは」
当時のフランドールは見た目相応の幼さで、精神的にも未熟であった。
ゆえに、手当たり次第に「破壊の力」を使ってしまう事があった
妖精や使い魔の使用人を破壊することもあれば、屋敷の一部を破壊することもあった。
特に新月の夜には、フランドールの精神状態が不安定になるので、レミリアはフランドールを地下室へ閉じ込め、鍵をして出られないようにしていた。
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当時はスカーレット家の吸血鬼は何人も居て、ある日、スカーレット姉妹の叔父が紅魔館へ尋ねて来た日があった。
レミリアは叔父の事を家族のように慕っており、妹の次に大切な存在に思っていた。
突然の来訪という事もあり、気が抜けてしまったのか、その日はフランドールを部屋へ閉じ込めておくのを、忘れてしまっていた。
使用人達は、この日が『どういう日』であるのかを理解していて、闇が深くなる夜は絶対に屋敷内であっても出歩く事はなかった。
誰もフランドールの部屋が開いている事には気づかずに、吸血鬼の力が最も高まる夜の時間になってしまった。
吸血鬼にとって、新月や満月の夜というのは、特別な夜となる。
一説には、吸血鬼は新月を嫌うとあるのだが、新月の日には精神が不安定になりやすく、精神的にも未熟なフランドールにとっては、狂気に呑まれやすい日でもあった。
夜の闇が深くなり、月が真上に昇る頃、フランドールは廊下へ出て一人で散歩していた。
その日フランドールは、叔父が泊まりに来ている事など知らなかったし、夜の屋敷内を散歩していた。
すると、フランドールへ声を掛ける者がいた。
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「フランドールか?今日は屋敷に居ないと聞いていたのだが」
フランドールが振り返ると、そこには一度だけ会ったことのある叔父の姿があった。
「あ、叔父さんだー」
フランドールが叔父へ近づき、幼い笑顔を浮かべながら楽しそうに笑い声をあげている。
フランドールはその時、とても気分が良かった。
気持ちは晴れやかで、そして同時に何かを握りつぶしてしまいそうなほど、力が充実していた。
吸血鬼としてはどこかおかしくて、本来なら新月の夜にそのような気分になる事など、ありえないはずだった。
満月の夜は力が満ち、新月の夜は力が低下する。
それが吸血鬼の『普通』であるのだから。
「何か、楽しいことでもあったのか?」
フランドールは妖しい雰囲気を漂わせている。
それでも見知った顔であるので、叔父は警戒をしていなかった。
「ねえ、私と遊んでよ」
フランドールは服のすそを掴み、上目遣いに潤んだ瞳で叔父を見つめる。
その様子はフランドールの母親に似ていて、どこか妖艶さを感じさせた。
子供の頼みは、いくら吸血鬼といっても、断れなかった。
姪っ子の頼みならと、肯定の意をフランドールへ伝える。
「では、何をして遊ぶのだね?」
見た目は20代前半、世間では美男子に分類される見た目の叔父は、同じ吸血鬼である。
力でも若い吸血鬼に負ける気はしなかったし、大抵の遊びには応えてやれると思っていた。
「鬼ごっこ!」
フランドールの瞳が一瞬輝き、獲物を見るような瞳に変わった。
「私が10数えるから、逃げてね?」
その返事を聞かずに、フランドールは数を数え始める。
「じゅう」
「きゅう」
「はち」
戸惑いながらも、叔父はその場所から静かに離れる。
あまり遠くに行っては、姪は自分を見つけられなくなると、背が少しだけ見える程度の位置に居た。
それが、災いの始まりであるともしらずに。
「ゼロ!」
跳ねるように、目元を覆っていた手を取り、あたりを見回しているフランドール。
「あ、叔父さんみっけー」
軽く手を伸ばし、叔父の背中に焦点を合わせ、その実態を捕まえようとする。
「ぎゅっとして」
そういって、フランドールは握りこぶしを作る。
「ドカーン!」
叔父の背中が爆ぜ、血が流れ出る。
「があああ」
痛みが脳に信号として駆け上がり、生物の本能として悲鳴を上げてしまった。
その時、姉のレミリアは悲鳴を聞いて飛び起きた。
スカーレット家の吸血鬼は、日光への耐性が強く、フランドール以外は『夜に寝て、朝に活動する』事が多い。
ゆえに、叔父が夜出歩いていたのは、たまたま外の空気を吸いたくなっただけであり、姉レミリアのように、本来なら寝て過ごす時間であった。
それでも夜に活動できないわけじゃないし、叔父は久しぶりに会ったフランドールの頼みを聞いて、遊ぼうとしていた。
「あはははは」
這いずる叔父の背を靴の裏で踏みつけ、高らかに笑うのはフランドールであった。
「もう、壊れちゃうの?」
最後のとどめとばかりに、もう一度、今度は背中だけではなく殺し切る為の「急所」を捉える。
「ぎゅっとして」
今夜は満月の夜ではなく、吸血鬼の力が最も弱まる新月の夜。
いくら強大な吸血鬼と言えど、そう簡単には再生できない。
「ドカーン」
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レミリアが駆けつけると、そこには叔父の遺体と、楽しそうに笑っているフランドールが居た。
「あ、お姉さまだ!」
狂気に支配され、していいことと悪い事の区別がついていないフランドール。
それを見つめる姉は、叔父を失ったショックと、今日が新月であり「フランドールを地下室へ閉じ込めておく」事を忘れていた自分を責めていた。
「ねえ、遊ぼうよ」
そういって近づいてくるフランドールへ、レミリアは怒りにまかせて突き飛ばした。
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「フラン、貴女は『ずっと地下室に閉じこもってなさい』これは『命令』よ」
言葉に乗せているのは、運命を操る程度の能力であった。
「フラン、私は今、物凄く怒っているの。顔も見たくないわ」
意識せず、レミリアは妹の『可能性』を断ち切っていく。
それは、妹が『狂気を克服する未来』でもあったし、紅魔館を『出ていく未来』でもあった。
それと同時に『一生地下室に幽閉される可能性』が存在していて、それに近い形で『フランドールが地下室に引き籠る』という運命へ、導かれてしまった。
「あ・・・・・・」
レミリアの目は赤く光っており、この時は激情に任せ「魅了」の攻撃をフランドールへ放っていた。
糸が切れた人形のように、力なくうなだれ、地下室へ歩いて行くフランドール。
さすがに、同じ吸血鬼相手に「魅了」の効果は長続きはしない。
それでも、フランドールがまだ未熟な吸血鬼であったので、抵抗できずに『命令』に従っていた。
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膝から崩れ落ちるレミリアは、叔父の亡骸の前で、涙した。
この日の事を、レミリアは後悔し続けた。
叔父の事や、勢いで妹の「可能性」を奪ってしまったこと。
様々な事が胸の中で渦巻いていた。
それでも、たった一人、レミリアの大切な妹であり家族である。
嫌いになんてなれなかった。
==現在==
過去を思い出し、涙しながらも、レミリアは眠りに落ちていた。
目元には涙が溜まっていて、一筋だけ枕を濡らしていた。
==作者のつぶやき==
レミリアとフランドールの過去に関する閑話です。
レミリア視点を想像する為に、これは必要だと思っています。
今まで、レミリアの出番が少なかったので、唐突かもですが、入れます。
また、更新間隔について、記載します。
次から1か月以内には更新するようにします。
最近はこっちで気分が乗らなくて、別サイトに出没していました。
「小説家になろう」で細々とオリジナル作品の連載をしていました。
ですが、こっちを忘れた訳ではありません。