砂隠れの里に、四代目風影がまだ存命の頃。
人知れぬ場所で会った、傀儡師二人の決着の話。


※本作はNARUTOオリ主二次創作物です。原作にない設定をいくつかシレッと付け足していますが、是非ご了承いただけたらと思います。文才に乏しい身ですので、アドバイスなどいただけたらと思います。

2015/6/23 11:00 修正しました

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傀儡たちの夜

およそ十間ほどをはさんで対峙する二人を、青白い月だけが照らしていた。足元に広がる砂丘は、昼は焦熱の、夜は極寒の地獄となる極限環境。砂を巻き上げ吹く風は、ひどく寒い。

対峙する二人は、傍目に見ても只者ではなかった。

かたや、仁王を思わせる偉丈夫。

荒々しく身体を覆うマントを脱ぎ捨てれば、背中に見えるのは『戯』の字が入った蒼い忍び装束。その上から背中に一つ、そして腰に四つの巻物が備えてあった。

かたや、全身を黒いローブで覆った怪人。ローブは小柄な身を頭まですっぽり覆っている。

おもむろに、頭を覆うフードをとった。中から現れたのは、赤い毛が特徴的な童顔の少年。

砂隠れの里の抜け忍にして、三代目風影を暗殺した、赤砂のサソリその人である。

 

「久しいな、サソリよ。里抜けの時以来か」

「年をとったな、ブンラク隊長」

「まだ四十だ。そういう貴様は、変わらんな」

「だろうよ。いまの俺は身体も傀儡だからな」

 

二人が立つのは、風の国と雨隠れの里の境に近い場所だった。砂隠れの里へ背中をむけるブンラクの視線の先に、昼先なら森林が見えるかもしれない、そんな位置だ。

 

「サソリよ、文は届いたか」

「届かなけりゃ、こんなところまで足を運びはしねえよ」

「それはよかった。届かぬなら、どうしようかと考えていたのだ」

「正確に俺の潜伏場所を割り出しておいてよく言うぜ。隊長どのでなければ、肝が冷えたところだ」

 

サソリはかつて、砂隠れ傀儡部隊で若き天才造形師と呼ばれる忍びだった。一人で砂の忍び五人に相当すると謳われた傀儡部隊。その当時の隊長が、ここにいるブンラク。

袂を分かったのは、もう十年の昔。

 

「それで、わざわざ呼び出した用件はいったいなんだ?敵討ちか何かか?」

 

「うむ。まあ似たようなものだ。」

 

おどけるようなサソリの問い掛け。

ブンラクは、無造作に腰の巻物を取り出し、前に掲げた。

「貴様の命、とってやろうと思ってな」

 

開く。

 

召喚煙と共に、現れたのは三面六臂の人形傀儡。青い装飾が各所に目立つ、ブンラクの傑作『八部衆』が一機。

 

「アシュラか」

「懐かしいか」

「ああ」

 

流麗なるアシュラの造形。余計な仕込みはできるだけ入れず、ただ操り手の技量に全てを任せた、傀儡の一つの到達点。

サソリの目から、涙がこぼれた。それは目に入った砂を洗い流すための自動機構か、あるいはーーーー

 

サソリの全身が煙に包まれる。

そこから現れたのは、口から大尾を吐く般若の面。四肢を手につけ、まるで蠍のように構える異形の傀儡。

 

ブンラクは、腕を大きく振り上げる。これから全霊をもって振り下ろすために、強くためをつくった。

 

「ゆくぞ」

 

砂塵が舞い上がる。これより始まる操演を見届けるのは、中天に瞬く月ばかりである。

 

 

□□□□□

 

 

「ブンラク様はどこだっ⁉︎」

砂隠れの上忍は、里から消えたブンラクを探していた。

抜け忍は、忍里の忍びにとって最も許されざる行いである。諜報屋の総本山たる忍里には、様々な機密情報が集められているから、里内で互いを監視する目は厳しい。砂隠れ最強をうたわれ、風影の側近を務める傀儡使いブンラクには、信頼と同時に特に厳しい監視の目が寄せられていたはずだった。

 

「いったいいつから入れ替わっていたんだ…」

 

恐るべきはブンラクの操演。日中、里の誰にも気付かぬ早業で傀儡と入れ替わり、その後も人形だと悟られることなく監視を騙し切った。砂隠れの忍びたちが全てを悟ったのは、傀儡のブンラクが自室で書き物を終えた後、突如ばらばらに崩れ落ちたからだ。

 

「いたかっ⁉︎」

「いません!おそらく、里にはもう…」

「くそっ…⁉︎」

 

この上忍は里の機密情報が漏れそうだから、歯噛みしているわけではない。上忍はブンラク人形が最後に書いた文を固く握り締めていた。文面にはこのようにあった。

『抜け里御免。我、因縁に決着をつける所存なり』

 

「里の外を探せぇっ!!何としてもブンラクさまを見つけるのだ!!」

「ハッ!!」

 

 

□□□□□

 

 

傀儡使いの優劣を明確に分ける要素は主に二つある。

一つは、操る傀儡の数。傀儡使いはチャクラを糸状に変化させて指から放出し、傀儡を操作する。

当然、操れる傀儡は多いほうが良い。傀儡を操作する間、操演者は完全に無防備だから、攻撃と防御の二体以上を操れる事が、最低限の条件ライン。

もう一つは傀儡の性能、仕込みの部分である。

 

「ふっ‼︎」

「っ‼︎」

 

ブンラクの薬指、そのかすかな動き一つで、アシュラがサソリへ接近する。踏み込みもままならない砂丘を、脚部の車輪へチャクラを集中させることにより、滑走するように移動する。

対するサソリの傀儡、開いた口から苦無を発射。銃身のライフリングによって回転を与えられた苦無が、まるで吸い込まれるかの様に移動するアシュラの腕関節に飛び込んでゆく。

絶妙の呼吸、絶妙の角度。通常の傀儡ではかわせない軌道。

 

金属音が響いた。とさり、と苦無が砂漠に落ちる。

 

苦無を叩き落としたのは、高速で振るわれた傀儡の左前腕だ。いつの間にやら、アシュラは全ての手に武器を持っている。前腕、後腕、上腕にわかれる6つのパーツ。両の前腕に刀、後腕と上腕は左右に別れて、長大な槍を構えている。

 

「でかい図体して、繊細な指づかいだな」

「褒め言葉と受け取っておこう。姿が見えんが、まさか貴様その中に入っておるのか?」

「その通りだ。装甲型傀儡ヒルコ。自慢のコレクションなんだが、どうだ?」

「悪趣味だな」

「ぬかせ」

 

内部のサソリの操作により、ヒルコの腹部から仕込み筒が飛び出る。大量の突起がついたそれは、火薬の力で回転しながらブンラクとアシュラの中間地点にはいろうとする。無数の千本が収納された仕込み筒はしかし、アシュラの右槍が迎撃する。泳ぐ魚を銛で突くように、傀儡の腕で仕込み筒を串刺しにするブンラクの技倆は、まさしく入神の域。

接近するアシュラを迎撃するのは、ヒルコの巨大な尾。硬質、かつ伸縮自在の尾が先端からぱらりと四つに別れ、アシュラの剣戟を弾き返す。

十合、二十合、三十合。

極限化する傀儡戦闘は、両者にとってウォーミングアップでしかない。

示し合わされたように、二体の傀儡が距離をとる。武器が全て破壊されているアシュラに対し、ヒルコの尾もまた、根元から砕かれている。

 

「らちがあかねぇな」

「里を抜けて、腕が落ちたわけではないようだな」

「お前もな。四代目の腑抜けのそばで、錆びついてないようで何より、といったところか?」

「饒舌だな。余裕のあらわれか?」

「意味は好きにとるんだな」

 

□□□□□

 

傀儡は孤高だ。傀儡の世界には、己と、己の絡繰しかいない。どんな仕組みで動くか、その仕込みはどのように相手の不意を突くか。

問いかけるのは自分で、答えるのも自分。どこまでも、内側へと向かう世界。

 

傀儡作成を至上として、自分の世界に他者を受け入れない。その姿勢をどこでも貫き、部隊でもどこか敬遠されていたサソリ。そのサソリに声をかけたのがブンラクだった。

 

『おい、その仕掛けはどのように作っている』

『…傀儡の仕掛けは自分の家族にも見せてはならない。お前、その程度のこともわからねぇのか?』

『それくらいはわかっている。しかしその傀儡においてその仕掛けは明らかに邪魔だ。何か理由でもあるのか?』

『…フン』

 

結局、サソリはその後一時間ほどかけ、ブンラクと語り合った。己こそが中心であり、それ以外は全てどうでも良い。そう思っていたサソリにしては、らしくない行動だった。

 

ブンラクは、義理堅く面倒見の良い男だ。自分とは違って情を知り、里への忠義に厚い。

 

愛を知らぬサソリにとって、ブンラクという男は、傀儡へ向ける熱以外に、何一つ似通うものの無い男だった。

里にいた頃、よく話したと思う。共に同じ飯を食い、共に死線をくぐり、互いに背中を合わせて戦ったことを憶えている。

 

『貴様のことを、本当の弟のように思っている』

『…怖気が走る。二度と言うな』

『ぬぅ…』

 

暖かな記憶が、まだこの人傀儡の身に残っている。兄とはこういうものだったのかと、ふと考えてしまう。

 

だからこそ、殺さなければならない。永遠を追求するサソリの目には、人の部分は捨てなければならない物として映っている

 

 

損傷激しいヒルコを送還し、本体を露呈したサソリが取り出すのは、『三』の印の入った巻物。召喚されるは赤砂のサソリが技術の結晶「人傀儡・三代目風影」

同じくブンラク、アシュラを出した巻物を宙に投げ、開く。巻物に残る七つの召喚印が輝き、場に出揃うは八つの絡繰。四足の獣、半人半馬。三面六臂の人形に、やや大きめの座禅した人型。大きさも、動かし方すら異なる八機の傀儡『八部衆』。

 

 

「三代目か。」

「驚かないのか?」

「貴様ならあるいは、とは思っていた」

「こいつを殺すには随分と苦労したんだがな」

「そうか」

「何か思うところでもないのか?」

「何も」

 

サソリの問いかけに、ブンラクはかぶりを振った。

 

「何も、ない」

 

 

□□□□□

 

 

「風影様っ!」

砂隠れの里の上忍は、里の最上部にある風影の部屋に来ていた。

赤銅の髪を短く切った四代目風影は、チャクラを磁力に変換する三代目の血継限界を持つ。砂金を操り敵をなぎ払う、平地で無類の強さを誇る忍びだった。

体が衰え、目は落ちくぼみ、かつての面影はもうどこにもない。

疲れ果て、磨耗しきっている。四代目はそういった印象を与える男だ。

 

「なんだ」

「ブンラク様が…ブンラク様が里を抜けましたっ!里の中にはもうおられず、しかも…部屋にこのような手紙が!」

 

渡された文に四代目は軽く目を通し、握りつぶした。くしゃりと、紙の擦れる音。

「なっ……!?」

「ほうっておけ」

「何故ですか!?文書からするに、ブンラク様は死ぬおつもりです!一刻も早く居場所を探し助太刀をーー」

「ほうっておけと言ったのがわからんのか?」

「うっ……しかし!」

老いてなお、四代目の眼力には言いがたい威圧があった。ひるむ上忍だが、すぐに言葉をかえす。

 

「お言葉ですがっ!ブンラク様の文書にあった因縁とは違えようもなく『赤砂のサソリ』!あの男はブンラク様の妻であり、あなたの姉君であらせられる羅衣さまの仇ではありませんか⁉︎」

「………」

「それだけではありません!サソリが里から抜けた時と、三代目風影さまが失踪された時期はかぶっております!私見ですが、おそらくサソリはあなたの父君のーーー」

「黙れいっ!」

「ひっ……」

 

机を両手で叩き、風影は上忍へ怒鳴りつけた。窪んだ目が血走って、上忍は二の句がつげなくなる。

「憶測でものを語れなど誰が言った!ブンラクのことはほうっておけと言ったのが聞こえなかったのか!」

「も、申し訳ありません、しかし!」

「もう良い!夜叉丸!こやつを摘み出せ!」

「お、お考えなおし下さい、四代目!四代目ーーー」

 

重い扉が閉じると同時、四代目は椅子に倒れこむように座り込んだ。

先ほどの激情が嘘のように、顔には疲れがこびりついている。

「よろしかったのですか」

若き側近、夜叉丸が問う。何が、とは問わなかった。

「仕方あるまい。やつは己一人でやるといった。助太刀など邪魔なだけだ」

上忍には知る由もなかったが、元を正せば一週間前の話である。風影のもとにやってきたブンラクは、彼のゆるしを得て、里を抜けることを許された。公にしないで欲しいと言ったのもブンラクだ。あくまでこれは己の私闘であると、ブンラクは頑として譲らなかった。

「一人にしてくれるか」

「はっ」

 

自分だけとなった部屋で、風影は窓際の写真立てを手に取った。

うつっているのは四人。四代目とその妻加流羅、彼の姉羅衣と、その隣に立つブンラク。

 

「…サソリが姉上の仇だと?」

写真立てを伏せて、空を見上げる。

吸い込まれそうな夜の黒の中、白い月が、雲に隠されようとしている。

 

「俺にとっては、ブンラクも同じだ」

 

上忍が知らず、四代目が知る事実がある。彼の姉、羅衣はサソリの里抜け時にサソリと戦い、敗れた。

だが、羅衣を殺したのはサソリではない。

 

 

□□□□□

 

月の隠れた砂漠の夜は、二人の戦闘になんら支障を与えなかった。

チャクラ糸が唯一の光源である宵闇で、演者たちは互いの位置を、己の操る傀儡のようにしっかりと認識している。

 

「ソォラァ!!」

砂塵と共に、傀儡が踊る。

「セェイッ!!」

巻き上げられた砂が、ばらばらとサソリとブンラクに当たる。無論、その程度で集中の途切れる2人ではない。

「千手操武!」

三代目の傀儡は、空中から無限と思えるほどの義腕を召喚する。義腕はその一つ一つに刃が取り付けられ、ブンラクの傀儡へ降り注ぐ。

「操演・嵐独楽!」

ブンラクの言葉に呼応するかのように動くのは、他よりひと回り大きい八部衆・テン。腕を伸ばした上半身が分離し、上昇。刃の雨に安全地帯を作り出し、他の傀儡を避難させる。

だが、それはサソリの罠。

三代目が、腕を分離する。地面に刺さった大量の義腕の全てに、ブンラクは起爆札を確認した。

「爆!」

轟音。

太陽と見間違わんばかりの閃光と熱が炸裂する。

 

三代目を手元に戻したサソリは、噴煙の奥をじっと見つめる。

煙が揺らぎ、飛び出すのは雨のような苦無。難なくはじき返して、一つ息を吐いた。

 

「なかなかやるじゃねえか」

 

煙がはれたとき、傀儡たちがいた位置に、巨大な竜が砂から顔を出していた。いや、それもまた傀儡だ。迷彩をほどこしてある絡繰竜の口が開けば、爆風を受けるはずだった傀儡は、全くの無傷。

 

「リュウオウが間に合わなければ、貴様の勝ちだったな」

「それくらいやってくれねぇと、張り合いがねぇな」

 

テン、リュウオウ、ヤシャ、ケダツバ、アシュラ、カルラ、キンナラ、マコラガ。護法神の八柱の名を冠する傀儡たちは、それぞれの用途も異なれば大きさも不揃いで、技量もチャクラ量も、並の遣い手ではまるで務まらない。傀儡に一日の長がある砂隠れの里でさえ、八機同時に操れるものを探せば片手の数すらいるかどうか。

 

「張り合いがないのは此方だ。三代目の人傀儡、よもやこれだけとは言うまいな」

「せっかちな野郎だ。……だが、まあいい」

 

人差し指を強く引くこと、三回。

カパリと開いた三代目の口から、黒い砂が広がる。

 

「見せてやる。俺の作品の全てをな」

 

 

□□□□□

 

 

人傀儡は、天才傀儡師赤砂のサソリが開発した禁術である。しかし、彼が人傀儡を作ろうと思い至った時に抱いていた思想は、当時において独特の発想だとか突飛なアイデアというわけでは無かった。

傀儡使いが傀儡を操る時、同時に忍術を使うことはできない。人形を操るチャクラ糸の生成自体が、非常にシビアなチャクラコントロールを要求するためだ。

ならば、傀儡が忍術を使えばよい。誰もがそう思い、誰もが挫折した。

忍術の発動には、神経のように全身を巡る経絡系が必要である。一から経絡系の再現をするというのは、河口から川の流れを全て予測しろと言っているような物。それに、問題は経絡の再現だけではない。

 

忍術を扱う傀儡の作成。それはもはや、全ての傀儡家たちの夢物語だと言ってよい。しかしチャクラを忍術に変えるのは、前述した静脈のように広がる経絡と、何よりも魂。

魂の力なのだ。もともとが魂のない絡繰には、土台無理な話。

死した人間の魂を封じ込め、人間を傀儡にしてしまうというサソリの着眼点は、その猟奇性に目をつむれば、革命的としか言いようがなかった。

 

 

 

ーー磁遁・砂鉄刃雨ーー

 

人傀儡となった三代目風影は生前と同じように、チャクラを磁力に変換する。磁力による反発力によって固められたいくつもの砂鉄の刃は、絨毯爆撃のように眼下に降り注いだ。本来は全方位にばら撒かれる砂鉄を、上空からまとめて発射しているのだ。

攻撃範囲は膨大であり、当然そこにはブンラクも含まれている。だが、八部衆たちが動きを止めることはない。サソリが見やれば、ブンラクは半人半馬の傀儡キンナラに乗り込み、爆撃圏内から飛び出していた。

 

「テン、カルラ!」

 

飛び出したのはブンラクだけではない。上半身を分離させて独楽のように飛ぶテンと、地上から飛び立ち三代目の頭上をとるのは有翼の空戦型傀儡カルラ。挟み撃ちの攻撃。上下同時の攻撃に、ほとんどの人型絡繰は対応できない。

 

「ぬうっ…!」

 

ブンラクの苦悶の声。チャクラ糸を伝って感じる傀儡の動作が、急に鈍い。

 

「まずは二体だ」

 

砂鉄槍が、二体を貫く。

貫いた砂鉄は傀儡の体内で互いに反発しあい、テンの上半身とカルラを粉々にした。

 

「さすがは、三代目の術か」

「砂隠れ最強をうたわれた血継限界だ。もっともそれだけに、倒すのは苦労したがな」

「里を抜けた時か」

「そうだ。どうやって倒したか、知りたいか?」

「知っている」

 

ボン!という音とともに、テンの下半身が貫かれる。貫いたのは、砂中から飛び出した砂鉄の角錐。

 

「エェイヤァ!!」

 

粉々にされた二体のチャクラ糸を切り離し、振るう。

ブンラクを下ろしたキンナラが、先のアシュラをも上回るスピードでサソリを襲う。

さらに地中では巨大絡繰リュウオウがうねり、サソリを丸呑みにしようと接近する。

 

「俺を攻撃すればなんとかなると思ったか?」

 

三代目風影が手を向けた。キンナラはサソリの三歩手前で動きを止め、ぎしりと音を立てる。先ほども傀儡の挟み撃ちを止めた、砂鉄の磁力による拘束。見えざる手に押しつぶされるように、キンナラが膝を折る。

向けた手をそのまま握れば、砂鉄の角錐がキンナラの内部から一斉に飛び出した。

地中のリュウオウに対して、人傀儡は砂に手を突っ込む。砂中に混ぜ込まれた砂鉄が瞬時に変形し、リュウオウの胴を貫く何本もの槍となる。巨大傀儡は何もできず、砂の中で沈黙した。

現砂隠れ最強の操演者の傀儡を、ほとんど一瞬で四体撃破。通常の傀儡と人傀儡には、こうまで圧倒的な差があった。

 

「ぬっ…」

「ククク…アハハハハハハ!」

子供のように笑うサソリ。彼の声には、無邪気さと嗜虐の色が介在している。

 

「どうだ!これだ!これこそが芸術だ!」

 

興奮を抑えきれず、サソリは叫ぶ。地中も含めた全方位から襲い来る砂鉄に、ブンラクの傀儡は避けることしかできない。防げば砂鉄が侵入する。これ以上入れば、剛力のブンラクですら動かせない。

 

「人の体はいずれ、老いて死ぬ!三代目はその体を傀儡に昇華させ、永遠を手に入れた!朽ちることのない、体を!」

「それを地獄と呼ぶのが、なぜわからぬ」

「地獄じゃあない!後世まで長く残る栄光と美!これこそが芸術だ!」

 

 

ーー磁遁・砂鉄縛陣ーー

 

サソリの運指に従い、三代目のチャクラが磁力に変わる。砂中にて蜘蛛の巣のように広がる砂鉄の陣が、地上の砂鉄を誘引し、絡繰たちを拘束する。

無防備なブンラクに降り注ぐは、先の倍近くある砂鉄の雨!

 

ーー磁遁・砂鉄大刃雨ー

 

「終わりだ!ブンラク!」

「そうでもない」

 

ブンラクは腰の巻物を取り出した。

 

 

□□□□□

 

 

丑の刻。

砂隠れの里、風影相談役であるところのチヨバアは、普段はとっくに床についている時間に傀儡のメンテナンスを行っている。

胸騒ぎがしていた。相談役であるチヨバアにも、ブンラク失踪の報は届いていた。搜索は止めよとの令を風影が発したことも。

「サソリが、来ておるのか」

それは疑いようもなかった。里での任をけして蔑ろにせず、忠に厚いブンラクがいなくなる用など、孫たるサソリ以外無い。

「ブンラクは、勝てんじゃろうな」

贔屓でもなんでもない。チヨバアにとってはそれは純然たる事実だった。

ブンラクが己を越え、サソリに並ぶ程の操演者である事は知っている。しかし、サソリの真骨頂は傀儡の操作でなく、製作にこそある。

加えて、里を抜けて外道に落ちたサソリだ。いったいどれほどの傀儡を作っているか。

 

「羅衣ちゃん。ブンラクを、守ってやってくれ」

 

ブンラクを止めるには、自分は年を取りすぎた。せめて、サソリに殺された妻の敵討ちに向かうブンラクの無事を祈るしか、己にできることは無い。

 

 

 

祈るチヨバアにはたった一つ、勘違いしていることがあった。

外道に堕ちたのは、サソリだけではない。

羅衣を殺したのは、やはりブンラクなのだ。

 

□□□□□

 

巻き上がった砂が、ブンラクの姿を覆い隠していた。

「何故だ」

三代目風影の傀儡を操るサソリはしかし、己の想像を越えた事態に戸惑っていた。このような感情を味わうのは、随分と久しぶりのことだ。

サソリが見たのは、付着した砂鉄により身動きが出来ないブンラクの傀儡だ。関節まで入り込んだ砂鉄と、地中の砂鉄で二重の磁力拘束を受けて、微動だにできないはずの四体。

彼らが、突如動き出した。

 

「磁遁!」

三代目風影の傀儡が、再び術をかける。しかし、四体が動きを止める様子は無い。傀儡たちが全身を稼働させると、ばらばらと砂鉄が落ちた。

 

ーー三代目の術が、無効化されている。

 

「ブンラクぅ!!」

 

ーー磁遁・砂鉄大槌ーー

 

砂鉄大刃雨の降った地点に、三代目風影より五倍ほどは大きい砂鉄塊が落下する。

落下音はなかった。

ある地点で急に速度を落とした巨大砂鉄塊が、進むごとに自らの形を保てなくなり、やがて崩れ去ったからである。

このような光景を目にしたのは、後にも先にも一度だけだ。

 

「まさか…」

「貴様が」

サソリの言葉をさえぎって、ブンラクは口を開いた。砂鉄の雨の中、声はよく響いてサソリに届く。

 

「貴様が里を抜け、三代目風影がいなくなり、我が妻が植物状態で帰ってきた時、俺は全てを悟った」

 

ブンラクの懐には、新たな傀儡が召喚されていた。

赤い髪、白い肌、片目に入った隈取。ブンラクと同じ、青を基調にした忍び装束。

ブンラクは妻を愛おしそうに見つめた。傀儡の手は未の印を結んでいた。

 

「植物状態になっても、命はまだそこにある。人傀儡にするには十分よ」

 

なぜ、ブンラクに三代目を殺した手段が分かったのか。

なぜ、ブンラクがサソリにしか作れないはずの人傀儡を作れるのか。

まさか本当に、あのブンラクが妻を傀儡にしたというのか。

 

ーーなぜ

 

襲い来る困惑の波に、サソリは一瞬我を忘れた。それは傀儡使いにとって、致命的な一瞬。

 

「八部衆!」

前後左右、三代目風影の四方を、地上の八部衆たちは素早く囲んだ。

アシュラ、ヤシャ、ケダツバ、マコラガの四体が口を開けば、そこに書かれるは『護』『法』『絶』『界』の字。三代目風影を中心において、封印術式が八部衆を繋ぐ。

「リュウオウ!」

剛力をもってブンラクが腕をめいっぱいに振れば、砂中からリュウオウが飛び出し、上空を取る。砂鉄で破壊されずにいた頭部のみを切り離し、大顎を開いて落ちるリュウオウの口には巨大な『陣』の文字。

 

「しまっ…!」

「詰めが甘かったな」

焦ったサソリは三代目を陣から脱出させようとしたが、ブンラクはそれを逃さない。

首と腰に手を回され、抱きとめられる三代目。止めたのは、ブンラクの妻、羅衣の傀儡。

 

「封!」

 

ーー封印・護法絶界陣ーー

 

四方の封印が、傀儡となった親子にまとわりつく。封印をかける四体と、互いを確かめ合うように深く抱擁する二体は、やがて竜の顎に飲まれ、砂の中へ消えていった。

 

 

 

□□□□□

 

 

深くうなだれて、沈黙するサソリと対照に、ブンラクの息はかなり荒い。

リュウオウの口腔に閉じ込められ、砂中に埋められた三代目風影の傀儡は、サソリの操作にも微動だにしない。成果は大きかった。ブンラクは八部衆の全てと妻の人傀儡を引き換えに、サソリの持つ最強の武装を剥ぎ取ったのだ。ブンラクは語った。

 

「風影に伝わる血継限界である磁遁には全く弱点がないように思われるが、一つだけある。同じ磁遁だ」

 

磁遁はチャクラを磁力に変換する忍術である。攻撃、防御、罠などあらゆる面での万能性がある。しかしながら、そのコントロール難度は当然、並みの性質変化とは次元が違う。

チャクラを異なる極の磁力に作り分け、引き寄せ、反発させ、さらには砂鉄に纏わせる。少しでもコントロールを違えれば、磁力は霧散し術は不発になる。

たとえ傀儡になったとして、三代目の磁遁をここまで扱える者など、サソリ以外に誰がいようか。それほど磁遁には精密なコントロールが必要となるのだ。だがーー

 

「ーー裏を返せば、横槍が入れば磁遁は維持できなくなる。三代目の血を色濃く受け継ぐ我が妻なら、磁遁に干渉できる。三代目の術を、封じることができる」

「貴様はそこに着目し、我が妻をなんらかの方法で操った。人間を意のままに操り、術まで使わせるのだ。操られた人間が植物状態になる事がリスクでもおかしくはない。違うか?」

 

里を抜けた友、息があるのに目覚めぬ妻、突如失踪した三代目風影。

サソリの為した所業を全て悟ったブンラクの胸中は、凪のように静かだった。

静かに、外道に堕ちる覚悟を決めた。

廃棄されるべきサソリの資料を持ち出し、5年もの間、人傀儡の研究を人知れず行った。

ブンラクは復讐ではなく決着を選んだ。そのためにこそ、妻を捨てた。植物状態の妻を人傀儡にした。

全ては、この時のために。

 

「サソリ、貴様を地獄へ送ってやる。安心しろ、すぐに俺も行こう」

 

「…ククッ」

「クハハハハハハハハハハハハッ!」

「アハッ、アヒハハハハハハハハハハッ!!!」

 

突如狂ったように笑い出したサソリは、ひとしきり笑うと、呟く。

 

「さすがだな、隊長どの」

その顔が、野蛮に歪む。下手をうてばこちらが死ぬと直感した、手負いの獣が浮かべるものと同質の笑み。

 

黒いローブを脱ぎ去るサソリ。その下にあるのは『蠍』の印が心臓に入る、異形と化した傀儡の体。

その背中から、ひときわ大きい巻物を手に取った。

ブンラクもまた、構える。腰に備えられた巻物の二つを両手に取った。

 

 

□□□□□

 

 

月にかかる雲がはれてゆく。神域の操演者たちがつくる劇は、実のところまだ一刻ほどしかたっていない。だんだんと月が隠された姿を見せ始め、巻物を手に構える両者を浮かび上がらせた。

 

「思えば俺は、隊長どのをどこかで見くびっていたんだろうな」

 

赤髪の演者、サソリは語る。その顔に余裕の類は、もはや無い。

 

「どういう意味だ」

「まさか個人《・・》相手に、こいつを使わされるとは思ってなかったってことだ」

 

巻物を投げる。空中で開く巻物に、サソリは右胸から無数のチャクラ糸を伸ばして接続。召喚印を通して、1分以上、傀儡が連続召喚される。

悪夢としか言いようがなかった。

演者が操れる傀儡の数は、どうあがいても一指に一体。それ以上を行おうとすれば、指の動作と傀儡が対応せずに動かせなくなる。

己を傀儡に改造し、『指で傀儡を操作する』という発想を捨てたサソリの、これが奥義。膨大なチャクラ量に物をいわせて、一国を一夜で落とす、最凶最悪の百鬼夜行。

 

「赤秘技ーー百機の操演」

「どうやって動かしておる?」

「右胸から直接チャクラ糸で接続してるからな、意思によって自在に動く」

「そうか」

 

サソリがちらりと見やるだけで、赤秘技人形はまるで水を得た魚のようひ自在に動いた。

それを受け、ブンラクは二枚の巻物を開く。

ボゥン!と音とともに、姿が煙に覆われた。次第にブンラクの姿が見えると、サソリはほう、と息をもらした。

 

「まるで人形浄瑠璃だな」

 

 

サソリの言葉どおり、ブンラクが召喚したのは人形浄瑠璃のような傀儡である。

全長はブンラクの上半身程度。左は、青の直垂と烏帽子をつけた翁。右は、紫陽花の花が描かれた振袖をつけた遊女。

傀儡は背中から手を突っ込むような構造になっているようで、腕を揺らせば翁と遊女がからからと音を立てた。

 

 

「貴様の『指越え』がそれなら、これが俺の『指越え』だ」

 

チャクラを流す。ブンラクの絡繰がゆらりと腕を伸ばした。それぞれの指先から、チャクラの糸が伸びる数、合計二十本。

 

「傀儡に操演をさせるわけか」

「これで指の数は二十本だ」

「あんまり笑わせるなよ。それがあったところで、最大二十体だ。数の差は絶望的だな」

 

サソリの指摘はもっともだ。

最大十体が二十体に増えたところで、サソリの赤秘技は文字通りの百機。どうあがいても、圧倒的不利。

 

ならばなぜ、ブンラクは不敵に笑っている?

 

「だれが、操る傀儡は二十体だと言った?」

 

ブンラクから伝わった浄瑠璃傀儡のチャクラ糸が、器用に背中に回り込んで、巻物を取り出した。

開く。

片手で持てる巻物の中から飛び出したのは、それより一回り大きい巻物。それが開けばまた一回り大きい巻物。頭のおかしいマトリョーシカのように、召喚されるごとに巻物が大きくなっていき……

最後の、ブンラクの背丈も越した青い巻物を開く。

 

「青秘技ーー大浄瑠璃・阿修羅」

 

号砲を鳴らしたかのような音とともに、今夜最大の召喚煙が起きた。

 

□□□□□

 

三面六臂の巨人が、膝をついて鎮座していた。

色は青。ブンラクが最初に召喚したアシュラ、それがまるまる五倍ほどの大きさになって、眼前の赤秘技傀儡を睥睨している。人の胴回りほどもある腕の一本に握られるのは、剣、鉾、自動装填の弓矢など。

これが傀儡とよべるのかすら怪しい、ブンラクのとっておき。

 

「壮観だな」

「糸十本では、操れんのでな。貴様以外に、見せるものがおらん」

「でかいだけの傀儡に、価値があるか見ものだな」

「ならば、目にもの見せてくれよう」

 

動き出す。ブンラクの手に持つ浄瑠璃傀儡が、意思を持つかのように自在に動く。二体の腕が、ブンラクの意思を忠実に反映して持ち上がった時、サソリはすでに動き出していた。

 

 

赤い傀儡が、殺到する。サソリの意思によって操作された傀儡たちは、各々が持つ武器を、術者のブンラクへ振りかぶりーー

 

地響きと共に、吹き飛ばされた。

 

サソリの傀儡を三体ほど一気に破壊したのは、大アシュラの振り下ろした剣の一撃。ばらばらと降り注ぐ砂の雨に、ブンラクは動きを止めることはない。大きな図体、傀儡の身体、その見た目を裏切って、巨人の動作は驚くほど速い。

秘密はアシュラの仕込みである。下半身に重い仕込みの全てが集中し、限界まで軽量化がなされたアシュラの腕は、素早く振り回しても重心が崩れない。

小型の竜巻が巻き起こるかのような大アシュラの剣舞に、サソリの傀儡たちは数を減らしつつある。

 

「やるな…だが!」

「ぬぅっ! 」

 

15体ほど破壊した頃から、サソリの動きが変わってくる。傀儡を意思でコントロールしながら、サソリ本体がブンラクへ手を向けた。

放たれるは体内で超圧縮した水のレーザー。これにはたまらずブンラクが飛び退く。アシュラの剣嵐に、わずかに隙間が空いた。その隙を逃すサソリではない。

 

「ソォラア!」

「ハイィ!」

 

大アシュラの六腕をかい潜り、迫る赤傀儡は三体。ブンラクの左手に持つ翁人形が腕を交差させると、大アシュラの足の部分が開き、クナイが射出された。二体が撃墜されるが、最後の一体はクナイを受けながらブンラクのすぐそばに着弾する。

アシュラの大槍が、傀儡を四体近くまとめて串刺しにした。

 

□□□□□

 

サソリを殺さねばならない。

妻、羅衣の目覚めぬ姿を見た時、ブンラクはそう思った。

恨みや、憎しみから来る決意ではなかった。

 

サソリは、己と己の傀儡にしか興味を示さない男だ。後世まで語り継がれる芸術こそ至高とまで言った。

だが、客観的にサソリを分析すれば、他者への共感能力に欠け、自己顕示欲が肥大していることがわかる。

子供だ。サソリは大人になりそびれた子供。

あの若い人傀儡の外見よりも前に、サソリの時は止まっている。

失われ、注がれることのなかった父と母の愛を、サソリは泣き叫びながらさがしている。

 

サソリの抜け里は、必然だろうとブンラクは思っていた。だからその前に、自分がサソリを導いてやりたい、と思っていた。

あなたのそこが私は一番好きだと、妻は弧月のように笑った。

 

傀儡とは孤独だ。

傀儡と向き合う時、そこには己しかいない。他者の入る余地がないから、いつか心が歪に曲がる。

サソリに、他者を作ってやらねばならない。でなければ、妻のような人間が何人もできると思った。

ブンラクはこの後に及んで、サソリを正道に戻そうとしていた。

 

『貴様のことを、本当の弟のように思っている』

 

そう言ったとき、嬉しそうにサソリが笑ったことを覚えているから。

だからこそ、ブンラクはサソリと向き合わねばならない。

たとえ、それによって妻を傀儡にしても。

己が死んでも。

 

□□□□□

 

三面六臂の巨人が刃を振るう。宙を舞う大量の赤い影が巨人に殺到し、吹き飛ばされる。これが傀儡の戦いなのかと、目を疑いそうになる光景。

上方の嵐のような戦いと裏腹に、地表の二人は瞑目と沈黙を貫いていた。勝負はすでに将棋や囲碁のような、手の読み合いが主体となる頭脳戦に移行している。

大アシュラの仕掛けを全てかい潜りブンラクを叩けばサソリの勝ち。それまでに傀儡を全て叩けばブンラクの勝ち。

 

ぎしり、と。ブンラクの歯が軋む音。半分にまで減ったサソリの赤秘技だが、状況はブンラクが不利である。数を増やすにつれ、サソリの操作精度が加速していくからだ。

 

「ここだ」

「ぐぅっ…」

 

戦いが持続するにつれ、だんだんと剣筋が見切られてきている。

ブンラクはアシュラの腕をくぐり抜けた傀儡に対し、下半身の仕込みで対応するしかないから、このままではジリ貧である。

 

勝負に出るなら、今をおいて他にない。

 

「うおおおおおおおおおっ!!!」

 

ブンラクは走りながら、傀儡浄瑠璃をちぎれんばかりに横薙ぎに振った。

三面六臂のアシュラの顔は、『喜』『悲』『怒』の3つに分かれている。

今までは『怒』に固定されていた面が、ブンラクの叫びに呼応するかのように回転し、『悲』の面をつくった。

変化は劇的である。アシュラの肩口から、がこん!という音とともに、六腕が全て外れ、頭部も首から転げ落ちる。

ずぅん!と震動をつくり、大アシュラの胴と下半身が倒れた。

ブンラクは、すでに走り出していた。

 

「よくやるもんだな。その仕掛けは見抜けなかった」

 

迫る赤い傀儡、その数50機。

走り出すブンラクは、取り外した大アシュラのパーツを自らの周りに展開する。

さらに軽くなり、竜巻のようにうねる六刃は、傀儡の突撃に数を減らしながらも進む。

 

砕ける傀儡、砕ける刃。

浄瑠璃の片方を投げ捨て、刃風をかい潜る傀儡を殴り壊してでも、進む。

ついに残るはアシュラの頭部となりながらも、ブンラクはサソリの懐に飛び込んだ。

 

「うおおおおおおおおおっ!!!」

「!」

 

アシュラの面が、飛び込んでくる。

砂塵が舞い上がった。

 

 

 

□□□□□

 

 

眼前に、バラバラに壊れたサソリの体があった。目に光がなくなり、四肢がバラバラに壊れている。

 

ブンラクは息をついた。

ずぶりと、刃がブンラクに入り込んだ。

 

「負けたか」

「そうだ」

 

振り返る。赤秘技の傀儡が、言葉を話していた。否、それは紛れもなく赤砂のサソリだ。

 

「便利なものだ…いつだ?」

「アシュラの頭部が飛び込む直前だ。あそこ以外のタイミングだと、ばれちまうだろうからな」

 

サソリの心臓部には、『蠍』の印の入った部分があった。傀儡使いである以上、チャクラを練る生身の器官が必ずいる。サソリはチャクラを練る経絡器官と脳機能を搭載した生身の部分を自在に取り外し可能にしたのだ。時間が、サソリをさらなる外道へと堕としていた。

 

「そうか…」

 

その言葉を最後に、ブンラクは死んだ。

刃は体の中心を貫いている上、強力な毒が塗ってあった。一言二言喋れたのも、ブンラクだからこそだ。

 

倒れるブンラクの体を、サソリはじっと見つめた。毒を受けたというのに、目は閉じて顔にこわばりもない。ブンラクは眠るように死んだ。

チャクラ糸を、砂中に埋める。数分して強く引っ張ると、砂中からリュウオウの頭部がとびだした。三代目風影を封印していた傀儡だが、封印はすでに解けていた。術者たるブンラクが、術をかけて間もない時間で死んだためだろう。

 

「あばよ、隊長」

 

物言わぬ体に、それだけを告げた。三代目風影を操ると、チャクラを練る。

 

「磁遁!」

 

砂鉄によって、砂漠に巨大な穴ができた。ブンラクの亡骸と、リュウオウの頭部ははそこに吸い込まれていって、どすんと音を立てて落ちた。破壊されたリュウオウの口から、落ちた拍子に傀儡がこぼれて、赤い髪の毛の傀儡が、青い死体の胸に落ちた。二人をつなぐ二本の手は、砂中にゆっくりと沈んでいった。

 

サソリは砂漠に背を向けて、来た道へと戻る。夜空が白んできて、日が登ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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