運命の耳というテーマで、30分弱で書きました。よければご拝読下さい。

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耳にタコができました

「……ただいまー」

 やべえ、すっかり帰るのが遅くなっちまった。

 俺は玄関で靴を脱ぎ、音を立てないように自室に戻ろうとする。

「こら! けーすけ! どこほっつき歩いてたの!」

「っち」

 あーあ、お袋に見つかってしまった。またうるさくどやされるぞ。

「あんたまだ学生なんだから、少しは生活習慣正してしっかり勉強して――」

「はいはい、わーりましたよ」

 お袋の説教はもううんざりだ、耳にタコができるくらい聞いたからな。

「こら、待ちなさい! けーすけ!」

 お袋を無視して、俺はそそくさと階段を上がり自室へと戻る。

「ったく、うるせえよなあ」

 ちょーと遅くなったくらいですぐこれだ、きっと俺のことが嫌いなんだろうな。

「まあ……ダメ息子だもんな」

 高校に入ったはいいが、いきなりイジメに合い不登校気味。最近は多少マシになったが、遅刻と早退しか繰り返していない。

 夜になれば地元の友人と遊びに出かけ、帰ってくるのはいつも0時過ぎ。

「俺だってこんな生活、もうやだよ」

 自室で一人物思いにふける。

 どうすればいいんだろう。どうすればこんな生活から逃れられるんだろう。

「けーすけ、ちょっといいか」

 ドアをノックする音と共に、親父の声が耳に入ってきた。

「ああ、いいよ」

 親父は好きだ。お袋みたいにうるさく言わないし、何より無断で俺の部屋に入ってこない。

 部屋に入るなり、親父はドスンとその場にあぐらをかいて、真剣な眼差しで俺を見つめる。

「な、なんだよ」

 こんな親父の顔初めてだ、なんか緊張する。

「お前、母さんのこと嫌いか?」

「っ!」

 んだよ、久しぶりに話す内容がそれかよ。結局説教かよ。

「当たり前だろ、嫌いだよ」

「そうか……」

 俺が思いっきり態度を悪くしてそう言うと、親父は分かってたように頷き、そして、

「母さんな、もう長くないんだ」

 ……は? 何言ってんだこの親父は。

「ガンだそうだ、持って2、3ヶ月らしい」

「ま、待てよ、いきなり何言ってんだよ」

 俺は動揺していた。お袋が死ぬ? あのうるさいだけが取り柄のお袋が?

「今まで黙っててすまん」

 親父が深く頭を下げた。

「母さんがお前にうるさく言うのは、後悔したくないからなんだ」

「後悔?」

「そうだ、死んでからじゃ口が聞けないだろう?」

 なんだそれ、バカじゃねえの。

「母さんはお前のことを心から心配してるんだ、頼む、心配かけないでやってくれ」

「……」

 お袋がいなくなったら、俺はもううるさく言われなくなる、耳にタコができることもなくなる。

 良い事づくめじゃないか、やった、やったぜ。

「出てってくれ……一人になりたい」

 気持ちとは裏腹に、目頭が熱い。涙が溢れそうだ、親父に泣き顔なんて見られたくない。

 

バタン。

 

 俺が俯いていると、部屋のドアが閉まる音がした。親父が出て行ってくれたんだ。

(何も考えたくない)

 俺はそのままベッドに横になり、深い眠りに就く。心なしか、枕が湿っぽかった。

 

 

 翌朝。

 目覚めてすぐ、俺は出かけることにした。もちろん学校に行くんじゃない。どこでもいい、何でもいいから、お袋にうるさく言われたい。

「あ、けーすけ! どこ行くの!? 今日学校でしょ!?」

「うるせえ、俺の勝手だっつの」

 お袋の怒鳴り声を背に、俺は家を飛び出した。行く宛も無く、ただがむしゃらに。

 ずっとあの声を聞いてたい、死んでほしくなんかない。だから……。

「俺の耳にタコができるまで、死ぬんじゃねえぞ。お袋」


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