フォーサイスより愛を込めて(魔法先生ネギま!×EVOLIMIT)   作:瓶缶ペットボトル

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2000年6月21日

西暦2000年6月21日 麻帆良学園 学園祭最終日

 

*****/////*****

 

 翠色にかすかに輝く世界樹の下に5人の男女と1台のロボットが降り立った。

 そう、麻帆良学園に超鈴音(チャオ・リンシェン)と火星学園都市フォーサイスの4人の超人とブラザー・チャペックが140年以上の時と火星‐地球間の距離を超えて、地球の大地に立ったのだ。

 

「イヤー、本当に起動するとは思わなかたヨ」

 

 数メートルのエメラルドグリーンの球がはじけた後、懐中時計の文字盤を確認していた超鈴音がわざとらしく頭を掻きながら口を開いた。

 

「ち、地球だー!」

 

 青みがかった髪の毛を三つ編みに編んだツインテールの少女――ツナミ・カラニコフが両手をあげてはしゃいでいた。

 

「地球よ、私は帰ってきた! わーい\(^o^)ノ ☆ミ」

 

 白いロボット――ブラザー・チャペックが宙にレーザー顔文字を描きながらくるくる回っていた。

 

「ここが、地球ですか」

 

 肩までかかるプラティナ・ブロンドの髪と切れ長の目、腰に一振りの日本刀を差した女性――アクア・ダンチェッカーが周囲を見回しながら感慨深く呟いた。

 

「不思議なにおいだ」

 

 忍者服に身を包んだ糸目の青年――風魔環太郎が深呼吸をしながら口に出した。

 

「ここがツナミちゃん達が生まれた星なんだ」

 

 長くゆるやかに伸びる金色の髪のちみっこ――リーティア・フォン・エアハルトがきらきら目を輝かせながら誰にともなく喋った。

 地球に初めて降り立つリーティア、アクア、環太郎の3人は興味深そうに周囲を見回していた。一際目につく空高く伸びる巨大樹を見て3人揃ってため息を吐いていた。

 

「スズネー、今何年?」

 

「カシオペアによると現在は――西暦2000年6月21日ヨ」

 

「私が生まれるよりも前だー。ここが麻帆良学園?」

 

「そうだと思うヨ。私の知ってる知識が正しいならばネ。日本埼玉県麻帆良市麻帆良学園世界樹広場、のはずヨ」

 

「情報収集が必要。大体タイムトラベル物のお約束では偶発的タイムトラベルに巻き込まれた主人公は季節外れの服装で新聞かニュースを確認して絶叫する。私達――というよりもスズネーには目的があるんだから目を付けられないように不自然にならないように可及的速やかに情報を集めなければならない」

 

 ツナミが名探偵になったポーズを取りながら超鈴音に確認するように喋っていた。超鈴音はといえばいつものわざとらしい笑顔を引っ込めて分かってるとでも言うかのようにツナミの言葉に頷いた。

 

「て、鉄の牛が走ってるぞー!?」

 

 ふと重くなりかけた雰囲気を壊すかのようにチャペックが叫んだ。

 重くなりかけた雰囲気は確かに壊れたが、しらけた空気が5人を包んでいた。

 

「環太郎君、忍者のコスプレは目立つので着替えてください」

 

「替えの服、持ってない」

 

 アクアと環太郎のやりとりに肩をすくませて超鈴音がその場にいる全員を安心させる声色で口を開いた。

 

「多分、大丈夫だと思うヨ。世界樹が光ってるということは学園祭期間中だからネ。我々は麻帆良学園の学園祭を見に来た旅行者という設定でいけば大丈夫ヨ。あとは、話の分かりそうな人に迷子になったフリをして情報を集めればイイネ。麻帆良は大らかな気風で知られた日本一の学園都市ヨ、ちょっとくらいのコスプレでは誰も注目しないから安心して欲しいネ」

 

「了承」

 

「集合場所はここで、1時間後でいいですか?」

 

 アクアが全員に確認するように訊いた。

 浮ついた雰囲気のまま全員が頷いた。チャペックだけはモノアイを光らせてピピピと唸った。

 

「魔法使いには気を付けてネ。あとなるべくパッチの力は使わないで欲しいヨ。身体能力は気を使ってない状態の私と同じくらいに抑えてほしいネ。不便だろうガ」

 

任務開始(ミッションスタート)!」

 

 ツナミが叫んだ。

 

「アクアー、お祭り見に行こう」

 

「部長、遊びではありません」

 

「イヤイヤ、リーティアサン達を巻き込んでしまったのは私だからネ。せっかくなんだから地球旅行気分で楽しんで欲しいヨ。ア、お小遣いを渡しておくから、無駄遣いは避けてほしいところネ。環太郎サンとツナミサンにも」

 

 背負っていた鞄の中から数枚のくたびれた日本紙幣を取りだし、全員に配っていた。

 

「ありがとー、チャオリン」

 

「この時代でも使える紙幣ですか?」

 

「そうだヨ。分の悪い賭けだったがカシオペアが動くかもしれないと思っていたからネ。必要な物資は持ってきてたんダヨ。皆は念話が可能なんだから遅れるときは誰かに連絡してくれればいいヨ」

 

「スズネー、私も遊びに行ってくるねー。チャペック、行くよ」

 

「ツナミサンもはしゃいでるみたいネ。チャペックサン、ツナミサンを頼むヨ。環太郎サンはどうするネ?」

 

「一緒に行動する? それとも別行動?」

 

「別行動で構わないヨ。さっきからいろんなところを見に行きたくてウズウズしてるのがまる分かりヨ。私は近くを見て回ってるから観光に行ってくるとイイネ。日本は不知火サンと一条サンの生まれ故郷らしいからネ」

 

「了承。では、1時間後に」

 

「ウム。皆サン楽しんできて欲しいヨ!」

 

 超鈴音の掛け声の後、他の面々は始めてお祭りに来たような快活さで、どこに向かうか決めあぐねた子供のようにふらふらと歩きだした。

 その様子を見守っていた超鈴音は誰も向かわなかった方向へ歩きだした。

 

*****

 

 さて、どうしたものカナ?

 カシオペアがちゃんと起動できたのは良いとして、西暦2000年というと――ネギ・スプリングフィールドが赴任するのは2002年の冬だったハズ――まずは来年度の麻帆良学園女子中等部へ入学するのが良いカナ。そのためにはまず全員の戸籍を準備するところ始めなければならないガ。

 一番の難関を超えて安心したせいか、喉が渇いたネ。

 ジュースでも買うとするネ!

 140年以上の時を超えて初めて地球で買うものが缶ジュースとは少し笑えてくるヨ。

 っと、シニカルな笑みを浮かべて考え事していたせいか、誰かとぶつかってしまったネ。

 

「オヤ、失礼したネ」

 

「いいや、先どうぞ」

 

 むむむ、そういえば、自動販売機を使うのも初めてだたヨ。袖振り合うも多生の縁ということネ。この人に話相手になてもらおうカナ。

 

「先と言われても困るネ。日本の自動販売機は初めてだからネ。どれも馴染みないヨ。アナタが先に買ってほしいヨ」

 

「ふーん、日本の……っていうと、どこから?」

 

「中国だヨ」

 

「中国でもコーラくらいあるだろ」

 

「中国で飲めるものを日本で飲まなくてもよくないカナ」

 

「まっ、一理あるな。缶コーヒーでも買っとけばいいんじゃないか」

 

――がこん。

 

「じゃあ私も同じのにしておくヨ。アナタはここの学生さんカ?」

 

――がこん。

 

「ああ、そうだけど?」

 

「少し話相手になってくれないカ? アッ、急いでるなら他の人を当たるから大丈夫ヨ」

 

「いや、いいよ。もう帰るところだったし。ていうかあんた日本語うまいな」

 

「ソウ! 話したいのはそのことヨ! 来年からココに留学したいと思っていてネ。今日は見学に来てたんだヨ」

 

「留学? あんた年いくつだよ。私とあんまり変わらないんじゃ」

 

「ウーム、来年から中学生で合ってる、はずヨ。ココの中等部に来年から入ろうかと考えてるんだガ」

 

「ああ、同い年だな」

 

「そうカ! ちょうど良かったヨ! 学校生活がどんな感じか聞かせてもらってもいいカナ?」

 

「……んー」

 

 おや、なんだか嫌そうな顔をされてしまったネ。

 

「ど、どうかしたカ?」

 

「いや、学園祭見てなかったのかと思ってさ。とにかく学校自体がでかいし人数も多い、生徒は自由で非常識」

 

「……それは分かってるガ。ム、非常識、なのカ?」

 

「あぁ、車より足が速い奴が普通にいたりな。高いとこから飛び降りても平気な奴がいたり。でけー恐竜ロボが歩いてたり」

 

「…………騙されないネ。まったく、日本人はみんな冗談言うときも真顔なのカナ? 車より足が速い人なんて滅多にいないハズヨ。中国の田舎娘だと思ってるネ? 私だって日本に忍者がいないことくらい知ってるヨ。それともアレカ、渋滞のせいで車より走った方が速いというジャパニーズジョークカ?」

 

「…………」

 

 今度は黙りこんでしまったヨ。この人、自分の学校生活を話す気もないみたいだし。

 

「な、何ヨ?」

 

「……ふっ、あっはっは、そうだよな。やっぱりそうだよな。アレだ、あんた、ここに留学するのやめといた方がいいぜ。恐竜ロボとかは見なかったか?」

 

「あれは中に人が何人も入ってて動かしてるんじゃないカ? あれくらいなら雑技団でもできるヨ」

 

「ふふっ、そうだといいな」

 

「違うのカ?」

 

「知らない。中を見たことないし」

 

「それで、留学はやめた方がいいというのは、どういう意味カナ?」

 

「私は嘘はついてない。常識人は苦労するよ、極めつけはあの木だな。世界樹ってやつ」

 

「大きな木だネ。はじめて見たヨ。大きさも光るのもネ」

 

「木が光るなんて、あり得ない」

 

「そうカナ?」

 

「うん?」

 

「光ってるのだから、あり得ることだと思うヨ」

 

「なんで光るか分かるのかよ」

 

「……分からないヨ。未知のヒカリゴケと共生してるとかいう説明だったと思うが、あまり信憑性はないネ。私はてっきり、発光ダイオードのイルミネーションかと思ってたけど、違うみたいダネ」

 

「イルミネーションか……それは、いいな。木が光るよりそっちの方が好きだ。木のでかさには何もなし? あんたも不思議には感じない?」

 

「……オヤ? 当たり前……じゃなかったのカナ?」

 

「ああん? 当たり前?」

 

「そ、そんなに睨まないで欲しいヨ。私だって最初に見たときは驚いたヨ。でもネ、周りの人達は誰も驚いてないみたいで驚いてたのは私達だけだったんだヨ」

 

「たち? なんだ、連れがいたのか」

 

「ウム、言ってなかったカナ? 来年度から留学を考えている人達と一緒に来たんだヨ。5人で来たんだガ、他の皆はまだ祭りに夢中みたいでネ。アー、それで世界樹を見て驚いてたのが私達だけだったからネ。外国人が集まって騒ぐのも恥ずかしかったからネ。世界樹は麻帆良では当たり前のものとして受け入れられてるんだと思ってたんだヨ。誰も疑問に思ってないみたいだし、観光地にある案内のようなものもなかったからネ」

 

「そう、だったのか。なんで不思議に思わないんだろうな。ギネスぶっちぎってるのに」

 

「……そういうことなんじゃないカナ?」

 

「そういうこと?」

 

「世界樹は何メートルくらいあるか知ってるカナ? どうにも高さは比較対象がないから目算で分からなくてネ。ギネス記録は超えてるっていうことは200メートル以上あるのカナ」

 

「ああ、確か300近かったはず」

 

「ということは樹齢5千年以上カナ。200メートル超えで4千年から5千年くらいだからネ。日本人が土着の信仰を持ってからずっとあるということになるネ」

 

「もしかして、あんた、そういうことに詳しいのか?」

 

「これでも天才と言われてきたからネ。大陸から宗教が持ち込まれるまで日本には独自の信仰があったみたいでネ。まぁ単純に言えばアミニズム信仰ヨ。自然と神様が同一視されていたとも言えるネ。よりプリミティブな信仰では、神様は年中同じ場所にいると考えられていた、日本では弥生時代以前の話だけどネ。例えば、山、湖、巨大な岩、巨大な木のような動くことのない自然的シンボルにネ」

 

「世界樹みたいな、か?」

 

「そういうことヨ。そして神様がいる場所の周りには人が集まる。きっと、昔から麻帆良という場所はそういうところだったんだと思うヨ」

 

「ふーん、歴史にはあんまり興味ないんだけどなー」

 

「私の話で少しでも興味を持ってくれたら嬉しいネ。エート、世界樹の周りには人が集まる、最初に集まった人々は世界樹があることをありのまま受け入れて暮らす。そして世界樹の存在に疑問を持つことなく暮らし続ける。最初からずっとあったんだからネ。人は人が集まったところにさらに集まるようになる。後から来た人々は他の土地から来たわけだから、世界樹に対して疑問をもつ、かもしれない。ダガ、最初から住み着いていた人達が何の疑問も持っていないことから徐々に受け入れていく。下手をすれば、神様が住む世界樹に対して疑問を持つことすら許されなかったかもしれない。昔から宗教は集団を結びつける重要な役割があったからネ、異端は排斥される」

 

「歴史が証明してるってわけ?」

 

「その通りネ。これが延々と今まで続いてきたんじゃないカナ。今の日本では宗教的信仰はさほど強くは機能しないらしいけどネ。それでも、周りのみんなが疑問に思ってないことに疑問を持ち続けることは難しいヨ。受け入れてしまうことの方が簡単だし、受け入れられないと集団の仲間として認めてもらえないこともある」

 

「……っ、だけど!」

 

「もしかして、麻帆良で育った子供たちは大人になっても麻帆良に住み着くということはないカナ? 一つの都市として機能しているようだし、学校を卒業しても麻帆良で就職する人が多い、トカ?」

 

「それは、多分、ある。うちの親も麻帆良出身だし」

 

「はー、もう誰も責められないヨ。子供は親の背中を見て育つからネ。親も先生も周りの大人も子供も全員が当たり前だと言ってることにノーと言い続けられる子供はほとんどにいないと思うヨ。ア、これは儒教社会の中国だけカナ?」

 

「……いや、日本でもそうだと思う」

 

 この人……。

 

「難儀な人生送ってるようだネ」

 

「わ、私がそうだとは限らないだろ」

 

 それならもっとマシな顔をして欲しいヨ。

 

「苦虫は美味しいカ?」

 

「そんな顔してねーよ!」

 

「ウム、薄暗いから見間違えたみたいネ。少しは役に立てたカナ? 時間を取らせてもらった恩を少しは返さないとネ」

 

「少しじゃねーよ。何か飲むか?」

 

「ウム、任せるヨ!」

 

「非常識さを肌で感じてみろよ」

 

――かたん。かたん。

 

 おや、なんだか音が軽かったネ。

 紙パックのジュースもあったのカ。暗くなってきてるせいで何味か読めないネ。非常識さ、と言うくらいだから普通の味ではないと思うガ。

 

「「まずっ」」

 

 何なのヨ!? この味は!?

 こんな変な味のジュースなんて誰が飲むネ!?

 

「アハハ、なにヨこれは」

 

「麻帆良印の麻帆良ドリンク。ここでしか売ってないゲテモノジュースだよ。噂には聞いてたけどまずいなー」

 

「アナタまで同じもの買う必要はなかったんじゃないカナ」

 

「あんたにだけ飲ませるのは気が引けてな」

 

「麻帆良が非常識だというのが少し分かった気がするヨ」

 

――ゴクゴク。

――ゴクゴク。

 

「次はまともなものが飲みたいヨ」

 

「あぁ、私もだ」

 

 この人と少しだけ打ち解けられた気がしたヨ。

 あとはずっと、並んだ空き缶と紙パックのピラミッドを見ながら階段の縁に座ってだらだらとお喋りネ。

 しかし、この人は誰なんだろうネ。暗くてちゃんと顔も見なかったし。お互い名前も名乗らなかったから今更聞けないヨ。

 麻帆良であった変な出来事やおかしいクラスメートの話。麻帆良の七不思議の話。あとは『一緒に東大に行くと約束をした男女は結ばれる』とかよく分からない噂話を喋り続けているうちに空き容器のピラミッドだけがどんどん高くなっていったネ。

 

「あんたさ、麻帆良に留学なんかして何かやりたいことでもあるのか?」

 

「まぁネ。私には夢があるからネ。……聞きたいカ?」

 

「いいや、別に」

 

「聞いてヨ!」

 

「はいはい、それで夢は?」

 

「もう言わないヨ」

 

「言えよ!」

 

「世界全てに肉まんを。カナ」

 

「世界全てに、か。でかいな」

 

「衣食足則知榮辱、ネ」

 

「お? 中国語喋れたのか」

 

「当たり前ヨ! 疑ってたのカ!」

 

「だってあんた、日本語うますぎるだろ。で、どういう意味なんだ?」

 

「衣食足りて礼節を知る。世界平和は食から始めないと駄目ネ。私は肉まんで世界を獲る!」

 

「ほー、是非とも獲ってくれ。心の片隅で応援してるから」

 

「手伝ってくれないのカ! 肉まんあげるヨ?」

 

「世界征服手伝う給料が肉まんかよ」

 

「美味しいヨ? きっと世界が肉まんにひれ伏す日が来るヨ」

 

「平和そうでいいな、そんな世界も」

 

「あとロボット作りたいネ。ロケットパンチ撃ちたいネ、目からビームも必須ヨ。銃弾は跳ね返してマッハ5で飛ぶメイドロボ」

 

「兵器じゃねーかよ!」

 

「でもメイドさんだヨ?」

 

「メイドだからって許されるわけじゃねーよ!」

 

「本当のことを教えて欲しいネ……ガンダム、完成してるネ?」

 

「してねーよ!」

 

「メイドロボは? マルチさんとかセリオさんとかいるんじゃないのカナ? 那波重工あたりが怪しいと思うんダガ」

 

「いねーよ!」

 

「ウム、では私が作るしかないということネ!」

 

「……あー、いたなー、あんたみたいな奴」

 

「ムム、ライバルネ? きっとオチャノミズという名字ネ」

 

「アトムはメイドロボじゃねーだろ。しかもあんたが天馬博士かよ! あ、そう確かハカセだ、ハカセ」

 

「博士? 大学教授カナ? ムムム、出遅れないようにしなければ」

 

「いや違う。葉加瀬って名字の奴だ。同い年だったと思うけど……私は会ったことないからなー。小学生なのに大学の研究室に出入りしてるって聞いたことあるけど」

 

 ……葉加瀬聡美サンか。できれば麻帆良入学前に接触しておきたい人物ネ。

 

「……葉加瀬、カ」

 

「ロボット作るのが夢らしいけど、あんたと話合うんじゃないか?」

 

「……そうネ、会ってみたいヨ」

 

――ゴクゴク。

――ゴクゴク。

 

「次は私が買ってくるネ」

 

「任せる」

 

「フフフ、後悔しても知らないヨ?」

 

「させてみな」

 

「言ったネ?」

 

 ウーム、これとこれとこれは飲んだハズだから、紙パックが麻帆良ドリンク……コレ! もうひとつ同じの!

 

「「まずっ」」

 

 麻帆良ドリンクは今のところ全部変な味ネ! 文句なく美味しいジュースは作ってないのかもしれないネ。

 

「後悔したカナ?」

 

「した」

 

「実は私もヨ」

 

「だと思った」

 

「……私の夢は話したガ、アナタはどうなのカナ?」

 

「……平穏な生活、かな」

 

「……枯れてるネ」

 

「目指せ中堅会社社員もしくは地方公務員、そして寿退社。最後は、平和でつまらない日常だった、という一言で人生を締めくくりたい」

 

「……夢は『お嫁サンです』と言ったほうが良いと思うヨ」

 

「考えとこう。ま、才能も野心もない私みたいな一般人じゃ肉まんで世界征服なんて思いつきすらしないよ」

 

「……それなら――」

 

「スズネー! あの木見た目より遠かった! すっごい遠かったよ!」

 

「……オヤ、ツナミサン! 早かったネ、時間通りヨ」

 

「……連れか。そんじゃ私はこれで……じゃあな。あんたと話せて楽しかったよ」

 

「私もヨ」

 

「なんだ、スズネーはもう友達できたの?」

 

「そうヨ」

 

「あんたやっぱり日本人だったんじゃねーのか」

 

「違うヨ。アッ、そういえば名前名乗ってなかったネ。私は超鈴音(チャオ・リンシェン)。鈴を転がしたみたいな美しい声という意味ネ! 鈴の音と書くからツナミサンはスズネと呼んでくれるんだヨ」

 

「私はツナミ・カラニコフ。ヨロシク」

 

「……あんた、わざと名乗らなかったのかと思ってたけど」

 

「友達の名前知らないのは変。ていうか、名前知らないのに友達かどうかは即答するって神経図太いと思う」

 

「……忘れてただけヨ。別に名前を聞いたらまた会いたくなって平等に学校選びが出来なくなるとかそんな理由じゃないヨ?」

 

「……いや、お互い最初に名乗らなかったし、今更聞きにくいからあえて無視してたのかと」

 

「アナタもカ! 気にせず聞いてくれて良かったのに」

 

「あんたから聞いてこいよ」

 

「せっかく名乗ったのにあんた呼ばわりはどうかと思うヨ! 名前を呼んでっていうお約束カ!」

 

「うん? そんな約束知らないけど?」

 

 おっと、この人隠してるけどサブカルチャーに詳しそうだから通じるかと思たけど……まだ放送してなかったのカナ?

 

「もう二人は友達でいいよ。名前名乗らないまま別れた方が良かったのかも」

 

「それでアナタの――」

 

「長谷川千雨」

 

「――名前……え?」

 

――からんからん。

 

 長谷川千雨って言ったのカ?

 この人が? ちょっとイメージと違うネ。

 

「……ちょっと興奮してしまったヨ。ゴメン、ちょっとよく聞こえなかったからもう一回」

 

「長谷川千雨。あんたの名前は来年また会ったら呼んでみるよ」

 

 皮肉そうな顔で笑うこの人が長谷川千雨サンだったとは。

 

「……そうカ。それなら私もアナタの名前を呼ぶのはまた今度にするヨ」

 

「そんじゃ、元気でな、カラニコフさんも。――最後のは聞かなかったことにしとくから」

 

「……ばいばーい」

 

「アナタも元気でネ。――続きはもう話さないかもしれないヨ」

 

 お互いニヒルに笑ってお別れネ。

 とはいえ、相手が長谷川サンだったとは、予定外に接触が早まってしまったヨ。

 まずは四葉サンと葉加瀬サンと接触する予定だったのダガ。

 

/////*****/////

 

 世界樹前広場から長谷川サンの姿が見えなくなってから私の隣にリーティアサンとアクアサンが現れたネ。アクアさんのパッチは便利で羨ましいネ。

 

「いつから見てたのカナ?」

 

「えっ、えーっと、結構前?」

 

「そのピラミッドの3段目からです」

 

「ツナミサンよりも前じゃないカ! 出てきてくれても良かったと思うのダガ」

 

 いつの間にか環太郎サンも戻ってきていたみたいネ。

 

「いや、そうとも言えない。気のせいかもしれない、けど。彼女、僕に気付きそうだった」

 

「はい。彼女は何度か私達の方を見ていました。あの角のところから部長と覗いていましたが」

 

「超さん、訊きたいのですが、長谷川千雨との接触は偶然ですか?」

 

「偶然だヨ。情けないことに、名前を聞いたとき動揺して缶ジュースを落としてしまったし。顔を合わせたのが目が慣れる前だったから気がつかなかったヨ」

 

「スズネー、長谷川千雨はどんな人だった?」

 

「どんな、と言われても少し困るネ。思ってた人と違うヨ。話してみた印象では苦労人だが良い人そうだったヨ。しかし、そうカ、最初に長谷川サンと接触したのは失敗だったかもしれないネ」

 

「失敗? やはり彼女が――」

 

「いや、長谷川サンと話して分かったヨ。麻帆良全体に認識阻害の魔法がかけられてるヨ、多分、そうだと思う……違うかもしれないガ、そう考えておいた方が良いネ。認識阻害に関しては少なくともツナミサンと私には効いてない。アナタ方は麻帆良が非常識だと感じるカナ?」

 

 皆が考え込むように目を閉じたネ。環太郎サンはもともと糸目のせいかいつもと変わらないけど。

 

「地球は初めて、なんだけど」

 

 困ったみたいに環太郎サンが呟いたガ、やはりそうカ。

 

「非常識と言われても常識とはなんですか?」

 

 アクアサンの言葉はいつもと違って哲学的で少し返答に困るネ。

 

「人が多いのと大きい木がある? あの大きさの木は地球にはよくあるの?」

 

 そう、それヨ。

 

「ないヨ。世界一大きい木みたいだヨ」

 

「うん?」

 

「どういうことですか? あの木は地球では普通ではないんですか?」

 

「違うヨ。普通にはあり得ないくらい大きな木だヨ」

 

「で、でも、誰も気にしてないみたいだけど?」

 

「これが認識阻害の効果ですか」

 

 アクアサンは分かってくれたようで何よりネ。

 

「長谷川サンの言葉を借りれば、『木のでかさには何もなし? あんたも不思議には感じない?』ということネ。長谷川サンだけが不思議に感じているということヨ。長谷川サンが不思議に感じて悩んでいるようだったから話を合わせたけど……迂闊だったかもしれないネ」

 

「大きすぎるとは思ってたけど」

 

「異常を異常と感じられないということですか」

 

「意外に、やっかい?」

 

「私達の常識と麻帆良の一般人の常識が違うということが分かっただけでも収穫カナ」

 

「魔法使いには効いているのですか?」

 

「効いてないはずヨ。認識阻害の魔法は魔法使いには効きにくいものらしいからネ」

 

「私も魔法使いだったのか!」

 

「なんと! マスター・ツナミは魔法使いだったのですか! ワタクシにも認識阻害の効果が及んでいません……ワタクシも魔法使いだったのですね!」

 

「いや違う……とも言い切れないガ、認識阻害が効いてないことはバレないようにしないといけないネ。それにしても……長谷川サンからは何も感じなかったヨ? 本当にあの人が?」

 

「ですが、彼女は我々に気が付きそうだった……不知火さんと雫の二人と同じように」

 

「偶然では、ないと思う」

 

「パンパカパーン! 彼女は間違いなく長谷川千雨さんです。このチャペックが保証します」

 

「あてにならないかも」

 

「それは後々、確認していけばいいネ! まずは……」

 

「わー?」

 

「全員の戸籍を準備するところから始めるネ! 次は、歴史のお勉強ネ! 10月から留学生として入学する準備に入るからあと3カ月、忙しくなるヨ! 環太郎サンだけは正規の入学試験を受けてもらわないといけないから受験勉強もしてもらうネ! リーティアサン、アクアサン、環太郎サンの3人は、機械に慣れてもらわないといけないヨ!」

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