フォーサイスより愛を込めて(魔法先生ネギま!×EVOLIMIT)   作:瓶缶ペットボトル

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2003年4月8日 (2)

「これで奴が私にかけた呪いも解ける」

 

 校舎の屋根の上でネギが茶々丸に羽交い締めにされていた。エヴァンジェリンとの追いかけっこをしながら追い詰めたはずが、茶々丸が出てきて逆に追い詰められていた。魔法を唱えようにも茶々丸にデコピンされたり頬を引っ張られたりでまともに詠唱できなかったネギには勝ち目がなかった。

 茶々丸に捕まって動けないネギにエヴァンジェリンが近づいた。

 

「え……呪い……ですか?」

 

「そうだ、吸血鬼の真祖にして最強の魔法使い、闇の世界でも恐れられたこの私がなめた苦汁……」

 

 過去を思い出してエヴァンジェリンが怒りにわなわなと震えていた。

 

「え? そんな風には見えませんけど……」

 

 頼りになる良い人かと思ってました、と言うネギの胸ぐらをエヴァンジェリンが掴んで吠えた。

 

「坊やが教師を諦めてウェールズに帰ってしまっては私が困るからだ! 私はお前の父親サウザンドマスターに敗れて以来、極限まで魔力を封じられ、もーーー15年間もノーテンキな女子中学生と一緒にお勉強させられてるんだよ! この3年間は今までに輪を掛けた阿呆共が集まりおって、何度迷惑掛けられたと思ってるんだ!」

 

「その気持ち、僕もよく分かります」

 

 ネギがしみじみ頷いた。

 自分の父親がエヴァンジェリンにそんな呪いを掛けていたことなど知らなかったが、怒るのも最もだと思ったからだ。

 故郷では笑いながら滝を真っ二つにしていたタカミチが胃潰瘍になるようなクラスにエヴァンジェリンさんを閉じ込めるなんて。あれ、なんだかんだ言ってエヴァンジェリンさんも楽しんでいるって皆が言ったけど違ったのかな……でもさっき長谷川さんに怪我をさせていた、けどあれも二人とも同意の上での喧嘩だったような。とにかくエヴァンジェリンさんがお父さんに対して怒っているのだけは分かった。

 

「それもこれも全てはサウザンドマスターの呪いのせいだ! 奴の息子であるお前の血があれば呪いが解ける! ……はずだ、解けなかったらどうしよう。来年新しい問題児どもの子守はご免だ……だから悪いが、死ぬまで血を吸わせてもらう……」

 

 エヴァンジェリンさんの怒るのも分かるけど。

 

「うわあーん! 誰か助けてー!」

 

 こんなことなら、誰かパートナー探しておくんだったよー、とネギが後悔しながら泣いていた。

 泣いているネギの首にエヴァンジェリンがかぷりと噛みついた。

 

「ん? なんだこれは……」

 

 一口だけネギから血を吸って、エヴァンジェリンがネギの首から口を離した。険しい顔つきでネギの首から垂れる血を指で掬い取り、慎重に舐めた。

 

「どういうことだ……?」

 

 さらに険しい顔でネギの首から垂れる血を指でこすって月明かりに照らして丁寧に観察し、舐め、首を傾げて考え込みはじめた。

 あれ、僕もしかして、助かった? とネギの顔が明るくなった。

 

「妄想中申し訳ありませんが、マスター! 邪魔が入ります!」

 

 茶々丸が思考に耽っているエヴァンジェリンに忠告した。

 茶々丸は地上8階の屋根の上を駆け抜け近づいてくる何者かの姿を捉えていた。

 

「さしずめ不埒者に拐かされた少女の危機を救う主人公のように颯爽と――」

「コラーッ! この変質者どもーっ!! ウチの居候に何すんのよーーーっ!」

「――あ……」

「はぶうっ! あぶぶぶぶーーーーーっ!」

 

 颯爽と登場した明日菜が茶々丸とエヴァンジェリンに渾身の跳び蹴りを食らわせていた。

 重量の違いで茶々丸は近くにガンッと落ちて、エヴァンジェリンはごろごろと吹っ飛ばされていた。

 二人を蹴り飛ばした明日菜はネギの前に着地し、ネギを守るかのように立ち上がった。さながら主人公のように。

 

「か、神楽坂明日菜!?」

 

 頬を押さえながらよろよろと立ち上がるエヴァンジェリンが自分を蹴り飛ばした相手に驚きながら叫んでいた。

 

「スケキヨの真似」

 

 茶々丸は頭だけで逆立ちをしながらネギと明日菜を見ていた。

 

「茶々丸さん! パンツ見えてるわよっ!! ……あれっ? 茶々丸さんとエヴァちゃん!? どういうことなのよ、これ?」

 

 明日菜がネギから見えないように両手を広げていた。

 

「茶々丸! 何をやってるんだっ! さっさと立て!」

 

 このボケロボが! とエヴァンジェリンが一人だけ騒ぎ続けていた。

 エヴァンジェリンに怒られた茶々丸がバーニアを吹かして浮き上がり、一回転して屋根の上に着地した。

 

「マスター、鼻血が出ていますがばっちいので自分で拭いて下さい」

「ばっちくないわっ!」

「妄想も大概にしてください」

「しとらんわ! そんなことより、私は障壁を張っていたか?」

「耄碌しないでください、障壁ならさっき張ったばかりです」

「なんで私は蹴り飛ばされてるんだ? 障壁張ってたのに」

「主人公補正というものかと」

 

「漫才中悪いんだけど、あんた達ネギと長谷川に何したのよ! ま、まさかあんた達までおかしくなっちゃったの!?」

 

 もしかして長谷川に影響されすぎ!? と明日菜の顔が青ざめた。

 

「神楽坂明日菜、もう一度かかってこい。調べたいことがある」

 

 エヴァンジェリンが明日菜の方を向いて手招きし始めた。

 

「い、嫌よ! 投げ飛ばすつもりでしょ!」

 

 いつもの長谷川みたいに! 言いながら明日菜が後ろに下がった。

 

「ならばそこでじっとしていろ。茶々丸、注射器を出せ」

 

 茶々丸から注射器を手渡されたエヴァンジェリンが明日菜とネギに近づいた。明日菜を素通りして、ネギの腕を手に取った。

 

「坊や、血をもらうぞ」

「いたっ」

「注射くらいで泣くんじゃない! 男の子だろ!」

「注射のせいじゃないですよー!」

 

 半泣きになっているネギの腕に注射器を刺し、注射器一本分採血をした。

 

「30分くらい押さえておけよ」

 

「は、はぁ、分かりました」

 

 ネギが腕を押さえながら頷いた。

 

「ところで坊や、貴様本当にサウザンド・マスターの息子か?」

 

 注射器を揺らしながらエヴァンジェリンがネギを観察していた。

 

「も、もちろんですよ!」

 

 心外だとばかりにネギが叫んだ。明日菜は一体何がどうなっているのか分からず所在なさげにネギとエヴァンジェリンを見ていた。茶々丸は満月の下で自分の影を見ながらロボットダンスの練習をしていた。

 

「……となると、おかしいのは……はぁ、これではジジイを馬鹿にできんなぁ。少し考えてみるか……茶々丸、帰るぞ」

 

「覚えてやがれー。では、失礼します」

 

 エヴァンジェリンと茶々丸が屋根の上から飛び降りた。

 

「…………えっ? ここ8階よ?」

 

 明日菜が屋根の先に座り込み、下を覗き込んでぶるぶると首を振った。

 

 その後、ネギが血を吸われたときの恐怖を思い出して明日菜に抱きついて泣いたりしていた。さながら危機一髪で助かった少女が主人公の胸の中で安心して泣くかのように。

 とはいえ、終わってみればせいぜい注射器一本分程度の出血で済んだことに、安堵していた。

 

/////*****/////

 

 なんやこれは、うちは何を見てるんや。

 西洋魔法使い同士の小競り合いやと思って眺めてれば、眼鏡かけた小娘が邪魔して金髪がやり始めた。知り合いっぽかったし、まあそれはええわ。

 だがあの眼鏡の小娘、あいつは何や? なんであの眼鏡が……。

 

「環太郎はん、あの眼鏡は誰や?」

 

「えーと、誰って、それは重要?」

 

 言えんということか。それもええわ。

 

「ああ、そうやな。無関係な生徒の情報は聞かん約束やった。あの流派、九鬼流かどうかだけ答えてくれへんか」

 

「……肯定」

 

「知っているんですか?」

 

 アクアはんまでこっち向いてきたわ。リーティアはんまで。なんやこいつら、あの眼鏡の知り合いなんか。

 

「あぁ、昔の知り合いが使い手やった……あり得へん。弟子なんぞ取るわけない、うちの知っとる人なら……耀鋼はんが弟子なんか……」

 

 いいや、もう分かっとる。腕の動き、身のこなしは耀鋼はんに比べれば弱すぎる。でも、あのコート、あの手袋、傘の使い方には見覚えがある。

 耀鋼はん、あんたに何があったんや。

 あんたはうちと同じ穴の狢やなかったんか……復讐以外は眼中にない、そんなろくでなしだったはずや。

 なのに、なんやこれは……なんであの悪鬼羅刹に片足突っ込んでた耀鋼はんと同じ技を使う者が、同じことをする者が、あんなに――。

 

「まずいことになってきはった……あの声、お嬢様や。3人ともうちに話を合わせぇ、今はまだお嬢様に魔法のことは教えられん。うちは医者、帰り道に迷ってあんたらに案内されてた部外者。アクアはんはあの前髪長い子に魔法をばらさんように脅しとけ、環太郎はんは残った西洋魔法使いと話を合わせ。あのガキに任せるのは心配や」

 

「……了承」

「確かに、まだ子供ですから」

 

 環太郎はんとアクアはんは良し、と。

 

「千草さん? え、えーと、私は?」

 

 こんなちみっこい子に何させぇ言うんや。加治前はんに騙されたとちゃうんか。アクアはんはいいとして、リーティアはんも波多野島の人達を助けたってリーティアはんに気を使ったんと違うか。

 

「悲鳴でもあげとけばええやろ……やることないんやったら、話の分かる奴と力持ち呼んどいてくれへんか? 誰かがあの眼鏡を運ばなきゃならんやろ……行くで、アクアはん!」

 

 アクアはんのはほんまに便利な能力やな。探知系の呪術にも魔法にも機械の類にも引っかからんのはおかしすぎるわ。

 

/////*****/////

 

 明日菜と木乃香が走り込んできたときには桜通りの煙は晴れ、エヴァンジェリンの姿はなく、ネギとのどか、そして両手から血を流し道路に倒れる千雨の姿があった。

 

「本屋ちゃん! 大丈夫!? あっネギも!? なんなのよさっきの音!」

「こっちに千雨ちゃんも倒れて……きゃーーっ!」

 

 木乃香が倒れた千雨を指差して悲鳴をあげた。

 

「なんや! 誰か怪我でもしてるんか?」

 

 悲鳴を聞いて駆けつけた風を装って、さらに4人。先頭が環太郎、後ろに天ヶ崎千草とアクア、最後尾がリーティア。長瀬楓と馴染みある環太郎が前にいた方がいいという単純な理由から。

 

「何事ですか! 今の悲鳴は」

 

「ごにょごにょ(大根役者が。真面目にやらんかい)」

 

 千草が隣にいたアクアを小突いていた。アクアが憮然とした表情で、真面目にやってますが、と返していた。

 

「……怪我してるの?」

 

「ごにょごにょ(お前も真面目にやらんかい)」

 

 千草が前にいた環太郎を蹴飛ばした。環太郎が振り返って困った顔をしていた。

 

「こしょこしょ(二人ともいつも通りだよぉ?)」

 

 千草の後ろからリーティアのフォローが入っていた。

 

「あっ! 風魔先輩! 長谷川が怪我してるみたいなのよ! 忍術で治せない?」

 

 明日菜が倒れてる長谷川を指差して叫んだ。

 

「あんた忍者だったんか!? けったいな恰好して仮装やと思ってたわ」

 

 千草がアクアと環太郎に目配せした。

 話合わせに行け、と。

 

「この人……医者みたい、だから」

 

 千草が千雨の横にしゃがみ込んだ。

 環太郎が困ったような顔をしつつも、千草に千雨を任せてネギに近づき二言、三言話していた。アクアはのどかに近づき、耳元で何やら呟いていた。

 

「そういうことなら分かりました! ここはお任せします!」

 

 ネギが環太郎に頷き、杖を取って走り出した。

 

「ちょっとネギーッ! どこに行くのよ!」

 

 明日菜も走り出しそうになるが、足踏みしつつちらっと木乃香を見た。

 

「明日菜も行ってええで。ネギ君だけやと心配やー」

 

「誰か、そこの娘っ子に見えないように隠しとけ、パニック起こされでもしたら迷惑や」

 

「リーティアちゃんならうちに任せといてー」

 

 木乃香がリーティアの前に立って千雨の姿を隠しつつ、頭を撫でていた。

 アクアがのどかの肩を優しく叩いた。

 これで木乃香とのどかからは千草の手元が見えなくなり、千草が符を取り出した。

 

「何があったん?」

 

 木乃香がのどかに話しかけた。

 のどかが慌てかけたがアクアに優しく肩を叩かれてゆっくり深呼吸を一回。木乃香に顔を向けた。

 

「えー、長谷川さんとエヴァンジェリンさんが喧嘩したんですー」

 

「いつものことやなー、なんで千雨ちゃん怪我したんやろ」

 

「売り言葉に買い言葉でー、白熱しましてー」

 

 木乃香とのどかが会話している間に、治癒符で簡単に出血を止めるだけの治療を終えた千草が振り返った。

 

「ハンカチ持ってる奴、全部出せ」

 

 千草が手招きしていた。

 全員が千草にハンカチを渡し、びりびりに破いて千雨の手に巻き始めた。

 そんな千草を見て木乃香が何やら考え込んでいた。

 

「足らんやないか……この眼鏡のも使わな」

 

「白じゃないですかー!」

 

 のどかが千雨のポケットから出てきたハンカチを指差しながら叫んでいた。

 

「どうしたん?」

 

 木乃香が不思議そうにのどかを見ていた。のどかはのどかで一人でぶるぶる首を振って、なんでもないですー、とだけ返した。

 

「……よし、こんなもんでええやろ。で、誰がこいつ運ぶんや?」

 

 一通り手当を終えた千草が振り返ってリーティアに目配せした。

 力持ち呼んどけ言うたやろ、と。

 

「え、えーと」

「うーん、うちらじゃ無理やなぁ」

 

 のどかと木乃香が顔を見合わせていた。

 

「あぅ……チャペック呼べないの?」

 

 リーティアが千草に目で謝ってから木乃香を見上げた。

 のどかと木乃香の顔が明るくなり、木乃香が携帯電話を取りだした。

 

「そうかー、ツナミちゃんにチャペック呼んでもらえばええんやな……もしもしー? ツナミちゃん今チャペックと一緒? あんなー、千雨ちゃんが桜通りで怪我してん……迎えに来てくれへん? うん、はーい……来てくれるって」

 

「良かったですー」

 

「もうええな? 帰るで」

 

 千草が立ち上がって、アクア、環太郎、リーティアの順に顔を向けた。顔を向けられた3人は無反応で千草が目を吊り上げていた。

 

「あ、ありがとうございますー」

「ありがとう……あのー、お姉さんどっかで会ったことない?」

 

 のどかと木乃香が千草に向かって頭を下げていた。そしてふと木乃香が千草の顔を見ながら首を傾げた。 

 

「あんたの産婆さんや」

「ほへー、凄い偶然やなー」

「嘘に決まっとるやろ……帰るで?」

 

 千草がもう一度3人の顔を見た。

 

「はぁ、助かりました。さようなら、お気を付けて」

「……さようなら」

「ばいばーい」

 

 眼鏡を押さえて千草が溜息を吐いた。いらいらと貧乏揺すりを始めていた。

 

「あんたらなぁ……駅まで案内する言うたやろ! さっさと案内せい」

 

 千草が背を向けて歩き始めた。環太郎が頭を掻きながら、逆だけど、と千草の背中に話しかけ、リーティアは千草に振っていた手をのどかと木乃香に向けて振り直し、アクアはのどかに話しかけていた。

 

「お任せしても大丈夫ですか?」

「え? あっ、はいー。大丈夫ですー」

 

 のどかが頷くのを確認してからアクアが千草達を追って歩き始めた。

 

 木乃香とのどかの姿が見えなくなるところまで離れてから、アクアが千草に話しかけた。

 

「芝居、お上手でした」

 

「あんたらが下手すぎるんや」

 

「千草さんはー、どうして九鬼流を知ってるの?」

 

 千草に睨まれてリーティアがアクアの後ろに隠れて顔だけ出していた。

 

「あの眼鏡のことは話さんのにうちには聞くんか……はぁ、人探しに手貸した奴が同じ流派だっただけや」

 

「よく分かりませんが」

 

 これで見つからんときはもういっぺん来い。耀鋼はんにそう言ったのがもう何年も前やった。

 来なかったんやから見つかったはずや。耀鋼はんが探しとった仇が。

 復讐を諦めるような奴やない。

 仇討ちの相手に情が移る人でもない。

 だったら何があったんや。弟子なんぞ取るわけないのに、あの眼鏡は弟子に間違いあらへん。

 よく分からへんのは――。

 

「うちだってそうや」

 

 まぁ今はええか。

 お嬢様が京都に来る修学旅行は二週間後、その時はうちの番やな。

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