フォーサイスより愛を込めて(魔法先生ネギま!×EVOLIMIT) 作:瓶缶ペットボトル
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2003年4月13日
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朝、目を覚ましたネギの心は晴れやかだった。澄み渡った山の空気を吸って、朝日を浴びながら目を閉じてみれば昨日まで見つからなかった杖があっさりと見つかるくらいにはネギの心は晴れやかで尚且つ澄みきっていた。昨日から現実は変わっていなかったが、ネギの気持ちがより前向きに変わっていたが故だった。
長瀬楓に一筆書き置きを残して、杖に乗って飛び上がると気持ち良い風を身体に感じた。心配事など何もなく、どこまでも飛べるような気分になっていた。そんなネギは楓に見られていたことに気付かなかった。
杖に乗り、空を飛びながら寮の部屋に帰ろうと考え始めたとき、ネギの心がどんより曇り始めた。
「そういえば僕、家出しちゃったんだ~、明日菜さん怒ってるかなぁ」
麻帆良上空をぐるぐる旋回しながら、寮からそこそこ離れたところに降り立って、どう話せばいいか考えながら歩き始めた。
結局何も考えはまとまらないままネギが部屋の前に立った。寮に戻る途中で会った明石裕奈と少々内緒話もして、少しだけ現実が良い方向に変わったこともあり、このまま明日菜さんにも怒られずに済めばいいと願いながらドアノブに手をかけた。
「おはようございます~」
小さな声で形だけの挨拶をしながら忍び足でネギが部屋のドアを開けた。ドアを開けるときの音にも気を付けながら。どのみち戻ってきたことはバレてしまうが、家出をした後ろめたさがネギの心の中に残ったままだったからだ。
明日菜さんに何て話したらいいかとあれこれ考えていたネギは部屋に入って一歩目にその明日菜と目が合った。目線が泳いだ先にはのどかがいてのどかとも目が合った。明日菜はカーペットの上に寝転んで漫画を開いていたし、のどかはテーブルの上でハードカバーの小説を開いていた。二人とも部屋のドアが開いたことに気付いて顔を上げたような感じだったし、事実そうだった。
「あら、早かったわね」
「そうですね~」
「兄貴、おかえりッス!」
テーブルの上ではカモが火の点いてないたばこを咥えたまま前足を挙げていた。
「あっ、はい。ただいま戻りました~」
あれ、怒ってないような気がする、とネギが安堵した。
「夕方まで戻って来なかったら迎えに行こうと思ってたんだけど、自分探しの旅は終わったわけ?」
「自分探しの旅って、そんなんじゃないですよー。明日菜さん……怒ってないんですか? のどかさんも」
「「あー」」
何も気にしていないようなとぼけた声を出しながら、明日菜とのどかが揃って天井を見上げた。
「昨日の夜に楓ちゃんから電話あったし、長谷川からは怒られた……ちょっと違うわね、昨日のは何て言えばいいの?」
「えーっと……ネギ先生の気持ちも考えなさいという話だったと思うんですけどー」
「確かにそんなこと言ってたわね。『ちっとはネギ先生の気持ちも考えてやれよ。てめぇら二人分の命が重すぎて押しつぶされてるだけだろ。自分の分だけなら賭けるか降りるか決められても、他人の分までは簡単には決められないだろ』だったかしら」
「『お前らがネギ先生に一言言えば済む話じゃねえかよ』とも言われちゃいましたからー」
明日菜の方は少し似ていて、のどかの方は全然似ていなかった。
「は、はぁ」
ネギが曖昧に頷いた。どうして長谷川さんは僕が家出したことを知ってるんだろうと思いながら。長瀬さんはタケノコのお礼しか言ってなかったはずなのに。
「それで本屋ちゃんと話したんだけどさー、あんたの好きにすれば? 私達も好きにするし……って、やだっ! この言い方ちょっと長谷川っぽかった?」
「はいー、似てます~」
「メガネの姐さんが兄貴に冷たかったのは兄貴が責任を感じないようにするためだったんじゃないかっつーのが俺っち達の結論ッス」
「それはあんただけでしょ。騒がないときの長谷川はいつもあんな感じよ」
「騒ぐときはわざとらしく騒ぎますからね~」
「そーよ! 昨日、茶々丸さんが実はロボットだったのよ、って話をしたら長谷川なんて言ったと思う? 『てめぇら今更何言ってんだ。どっからどーみてもロボットだろ』だって、ちょっと酷いと思わない?」
「『バカレッドはこれだからなぁ。合成音声聞いてて気付かねーのかよ、しかもチャペックの妹だぞ』って怒ってました~」
「嬢ちゃん、全然似てないから真似しない方がいいッスよ」
聞くに耐えかねてカモがのどかに言った。
「あっ、僕も思ってました」
「実は私も」
「あぅ~……恥ずかしいです~」
のどかが顔を赤くして俯いた。
ネギは日常に戻ったことを嬉しく思い、明日エヴァンジェリンさんにちゃんと授業に出るように言うことを決意した。
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一方その頃、千雨はと言えば。
気持ちよさげに寝ていたエヴァンジェリンを叩き起こしていた。
「朝から何の用なんだ! 下らん用事だったら許さんぞ……くちゅん!」
「成田空港土産のどらやき持ってきた」
「……成田まで行ったのか?」
「あぁ。着いてすぐ神楽坂から電話が来た。ネギ先生は長瀬が保護してるから大丈夫だって言われた」
「……貴様も食べるか?」
「いらねーよ!」
「拗ねるな、面倒くさい奴だな……くちゅん。あー、花粉の季節か」
「昨日一人で一箱食べたからもうどらやきなんか見たくもねぇ」
「何をやってるんだ、馬鹿か……あぁ馬鹿だったな」
「じゃあな」
「ん? もう帰るのか」
「8時半までには戻れるだろ、ツナミとザジの3人でテレビ見ないと」
「なんでこんな時間に来るんだ!?」
「早起きは三文の徳、だろ」
睡眠を邪魔されて機嫌の悪いエヴァンジェリンにぶん投げられて腰を擦りながらログハウスを後にした。
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2003年4月14日
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「おはようございまーす! エヴァンジェリンさんいますかー?」
エヴァンジェリンが風邪で休みだと分かるとネギが教室を出て行った。
それを見ていた千雨とザジとツナミも席を立った。
「ちょっとあんた達、どこ行くのよ。授業始まるけど」
明日菜が後ろを振り返った。
千雨は肩を竦めて、ザジは無反応だった。
「Без кота мышам раздолье」
ツナミが万歳しながら答えた。
「日本語で言ってくれない?」
「猫がいなけりゃ鼠が好き勝手やるってことだよ」
「なによ、それ。意味分かんないし」
明日菜が授業中に見せるつまらない顔で千雨を見返した。
「ていうか長谷川ロシア語分かるの?」
「あぁ、ツナミと仲良くなるために勉強した」
「そんな理由!?」
「チサメの嘘つきー。私と会う前からロシア語できてたでしょー?」
「喋れなかったけどな。読み書き、聞き取りはできたな」
「あんた何者なの!?」
「ロシア人のお姉ちゃんに覚えさせられただけだ。そんでさっきのは日本語で言うところの――」
続きはツナミが話し始めた。
「鬼がいないから洗濯しとけーってこと」
「分かってるなら最初からそう言えよな」
「え、意味分かんないし」
明日菜がつまらない顔でツナミを見た。
「え……本気で言ってんのか?」
呆れた顔の千雨と本気で分からない顔をしていた明日菜の目が合った。
「明日菜ー、ツナミちゃんでも知ってたえー」
「はぁ。教師が授業サボってるときには生徒もサボって遊びに行けってことだよ。じゃあな」
千雨が肩越しに手を振りながら扉に手を掛けた。千雨が開けるよりも早く、教室前方の扉が開いた。
「はい、三人とも席についてー」
「高畑先生!?」
「なんで高畑先生が来るんだよ、クビになったんじゃなかったのかよ」
「違うからね。ネギ先生から聞いてないかい? 出張から戻ってきたから今日は僕が授業をするんだけど」
教室から出ようとしていた3人がつまらない顔で席に座り直した。それを確認した高畑が出席を取り始めた。
出席も取り終わり、出席簿を教卓に置いて、ちらりと千雨を見た。
「先週の金曜日にロシアから帰ってきたんだけど、面白い人に会ったんだよ。日本人で教師をやってるから話も合ってさ、僕が麻帆良にいると話したら彼の知ってる子も麻帆良にいるという話になって、凄い偶然もあるものだと思ったよ……長谷川君」
「ん? 今マインスイーパやってるから後にして下さい」
ディスプレイから顔を上げずに千雨が答えた。
「加藤虎太郎という人だったんだけど」
千雨が顔を上げた。
「あー、虎太郎先生? 知ってますけど」
「春の天皇賞、トーホウシデンが来るか聞いておいて欲しいと言われたんだけど、何のことか分かるかい?」
龍宮の目がピクリと動いた。
「トーホウシデン? 来るわけねーよ。そんな馬ばっかりに賭けるから有り金全部持っていかれるんだよ。金なくなって毎日かき氷だけ食ってりゃいいんだ」
「違うならどの馬が来るか聞いておいてって言われたけど?」
「ヒシミラクル」
「はぁ?」
龍宮がバカなことを言うなという顔を千雨に向けていた。
「なんだよ?」
「ダイタクバートラムだろう、普通は」
「3着くらいじゃねーの」
「……椎名、お前はどう思う?」
「んー? 競馬はわかんなーい。でもヒシミラクルの方が名前が可愛いからそっちー」
「ヒシミラクルにするか……当たるのか、これ」
「馬券買っちゃ駄目でしょ、うちらは」
龍宮の隣で柿崎がまともなことを言っていた。
「売る方が悪いんだよ……フフフ」
「いやあの、教師の前だからね、そういう話はしないでくれないかな」
「先に競馬の話出したの高畑先生なのに酷いよなー」
「長谷川、なんか文句あるわけ!?」
「ヒシミラクル、サンライズジャガーでいくらだろうな。3万円くらい?」
「うっそ、マジで!?」
「まぁ、競馬の話はやめて授業か」
「ちょっと待ってよ、3万円でしょ!? 新聞配達何日分なのよ!?」
「中学生は馬券買えないんだから意味ねーよ」
「タツミーは買うっていう話だったじゃない!?」
「こういうとき老け顔は得だよな。こっちを見るな、那波には言ってねえよ」
龍宮が顔を歪ませた。
「チッ……あいつ一言多いんだよ。ちょっと待て、サンライズジャガーなんて来るか? ツルマルボーイも来ないのか、当たらないだろう、これは」
「長谷川もたつみーも競馬詳しいんだー。本当に中学生かにゃっ!? 那波さんには言ってないよ、言ってないからね!」
千雨の隣で裕奈が背もたれに寄りかかった。
「当たらないレースばっかり賭けるんだ、あの人。有り金すって私のお小遣いでカップラーメン奢ったこともあるからな。そりゃ自分の財布が軽くなるかもしれなかったら必死で勉強するだろ。そういえば……母さんに預けた競馬貯金はどうなってるんだろう、結構貯まってるはずなんだけどな」
千雨がふと考え込んだ。
「ああ!? 競馬貯金ってなによ!?」
明日菜が振り返り、目を剥いた。
「父さんは家立て直すまで貯めてくれって言ってたけど、まさか使ってねえだろうな」
「そんなに!?」
明日菜が愕然とした顔になっていた。
「長谷川、今度一緒に浦和に行こうか」
「それはいいけど、賭け事に熱くなりたくないしな。椎名連れてきゃいいんじゃねーの?」
「私も行きたいんだけど! 3万円でしょ!?」
「今日の格言、悪銭身に付かず。神楽坂、意味分かるか?」
「そのくらい分かるわよ! そう言うあんたはどうなのよ?」
「半年ごとに買い替えてるからなぁ。新しいの買う度に20万くらい飛んでいくんだよ、パソコンもっと安くならねーかな」
千雨が机の上に出していたVAIOを片手で持ち上げた。
「身に付いてるじゃないの!?」
「一番意味のない格言は働かざる者食うべからず」
「ちょっと一発殴らせてくれない?」
「椎名のこと殴ってからにしろ」
「前から思ってたけど、すっごいムカつく!」
「私じゃなくて椎名に言えっつーの。運だけで勝ってる椎名の方がおかしいだろ」
「長谷川は違うの?」
「違うよ。基本的には競馬は勝ちにくいギャンブルなんだ。馬と騎手、距離、芝生の状態、天候、気温、馬の組み合わせ、位置関係、当日のコンディションとレース展開、集められる情報は全部集めてからが勝負なんだよ。ヒシミラクル、サンライズジャガー、ダイタクバートラム……椎名は買うか?」
「買うー!」
「決まりだな」
「フフフ、勝ったなこれは」
龍宮が良い笑顔で笑っていた。
「誰かメモった!?」
明日菜の声に和美が親指を立てた。
「だから中学生は馬券買えないんだって何回言えば分かるんだ?」
「タツミーは買うんでしょ?」
「……買うわけないだろ、中学生だからな、フフフ」
「絶対買うでしょ、その顔」
柿崎が呆れた顔を隣の席に向けた。
「老け顔は得だよな……だから那波には言ってねえよ」
千雨の方を振り返った那波千鶴はいつもと変わらない雰囲気だった。
「今のは怒ってなさそうだったよね」
裕奈が小さな声で千雨に話しかけた。
「買いに行くんじゃねーの?」
千雨も小さな声で答えた。
「いやだから競馬の話はもう終わりにしよう……ヒシミラクル、サンライズジャガー、ダイタクバートラムかぁ。加藤先生は長谷川君が遊びに来なくなってから競馬も競艇も当たらなくなったから遊びに来いって言ってたんだけど」
「なんでこっちから行かねーといけねーんだよ。寂しいなら寂しいって電話してこいっつーの」
千雨が憮然とした顔でそっぽを向いた。
「チサメは友達が出来るまで遊びに来るなって言われたことを今でも根に持ってるのー。本当は遊びに行きたいのに意地張って遊びに行かない……生物学的に言ってまだまだ子供」
そっぽ向いた先にはやれやれというジェスチャーをするツナミがいた。
「そそ、そんなんじゃねーよ」
「声が裏返ってるですよ?」
「綾瀬、今は授業中なんだから私語は慎め」
「お前が言うなです」
「私は長谷川、明石は隣」
「12点くらい」
祐奈がちらりと龍宮を見ると、小さく頷いていた。
「それ神楽坂の点数だろ」
「私今関係なくない!? ……あ、言うなと祐奈ね、別にうまくないわよ」
「アスナー、0点」
「なんでよ!?」
「いけてないから」
「なんなのよ、もー! エヴァちゃん、なんとかしてよっ……っていないじゃないの! 最近エヴァちゃん休みすぎじゃない?」
「今日は風邪だろ。昨日くしゃみしまくってたから花粉症もか。絡繰がいるときはサボり、いないときは病気。今日は絡繰もいないから病気だろ」
「それも含めてネギ先生には家庭訪問に行ってもらったんだけど……話し忘れたのかなぁ」
高畑が頭を掻きながらぼやいていた。