フォーサイスより愛を込めて(魔法先生ネギま!×EVOLIMIT) 作:瓶缶ペットボトル
お昼休みの3-A教室、廊下側最後尾の席では千雨、ツナミ、ザジの3人がお弁当をつついていた。休みのエヴァンジェリンの席には千雨が、茶々丸の席にはザジが座り、3人の後ろではチャペックが給仕をしていた。
「あ、そうだ。ろうそく余ってたか覚えてるか?」
千雨がふと思い出したように呟いた。目の前のザジ小首を傾げるばかりで覚えている様子もなく、左を向けばツナミも首を傾げていた。
「んー? チャペックー?」
ツナミも覚えておらず後ろを振り向いた。
「前回の停電で使い切りましたが、ワタクシが頑張れば寮の電力くらいでしたら供給できますよ」
「変圧器ないと電気製品壊れちゃうでしょー」
「……あっぶねぇ、マジで頼もうかと思っちまった。やっぱろうそく買っとくか」
「買わなくてもいいけどー? 寝るだけでしょ?」
「まぁな。何があるから分からないから一応買っとくか。チャペック、買っといてくれ」
「ロボ使いの悪いマスターには困ります。誰かさんと似てきたのではありませんか? 具体的に誰とは言いませんが、あぁ妹も同じ苦労をしていると思うと目から洗浄液が」
「あん?」
「ちゃんと買いますからご安心をー」
千雨が点滅するチャペックのモノアイにガンを飛ばしていた。
そんな二人を無視してツナミが手を挙げて超鈴音を手招きして呼んでいた。
「スズネー、肉まんちょうだい」
「はいネ。一つだけカナ?」
「あ、私も。ザジは?」
こくり。
「3つ」
「360円ネ」
超鈴音の手の上に千雨が小銭を置いた。
「はいよ。超はさ、停電ってあれなんでやってんのか知ってる?」
ツナミとザジの二人に肉まんを渡していた超鈴音が千雨に顔を向けた。
「なんでって、麻帆良が所有してる発電所の定期点検ヨ?」
「いや……それって必要あんのか? 半年に一回って多いよな」
「アー。そういえばそうネ」
上を向いて少し考える素振りを見せた超鈴音から千雨が目を逸らした。
「そうか……超も知らないってことは皆知らねーんだろうな」
空いた右手の人差し指で神経質そうに机を叩きながらため息を吐いてから肉まんを一口齧った。
「長谷川サンは何か知ってるのカナ?」
机を叩く手を止めて、千雨が超鈴音を見返した。
「んー、あぁ、なんかやってるっぽいんだよ」
「だからそれを聞いてるネ」
「はぁ……私達ホームページ作ってるだろ?」
言いながら千雨が机の中からノートパソコンを引っ張り出して机の上で立ち上げた。
「ちうの部屋カ」
「そう、それ。そんで作る前にセキュリティ関係調べたんだけどさ、やたら容量食ってるところがあるんだよ。サブシステム系はほぼ全部なんかよく分からないものに使ってるし、メインも妙に容量食われてるんだけどさ……停電の日でもサブシステムだけ動いてるんだよ、知ってた?」
ディスプレイだけを見ながら千雨が喋っていた。キーボードの打ち込みは右手だけで、話す合間に肉まんを齧りつつ。自室での食事休憩中によく見られる千雨の姿と同じだった。
「アー、知ってるヨ?」
「あれは何に使ってるんだよ? 麻帆良全体に関係してるっぽいのは分かってるんだけどさ」
「さぁ? 私も知らないネ」
超鈴音が大げさに肩をすくめた。そんな超鈴音を胡散臭げに千雨が眺めていた。
「……そうか。超なら知ってるかもと思ったんだけどな」
「それがどうかしたのカナ?」
「あぁ、停電終わるとサブシステムの中のデータ書き換えられてるんだよ……それが変なんだけどさ」
「フム、面白い話になてきたネ!」
「いや、自分で調べりゃいいじゃねえかよ」
千雨が超鈴音の方に顔を向けている間もキーボードを叩く音は止まらなかったし、今も響いていた。
「チサメー、続き話して」
「はいはい……日付、だと思う」
「ン? 日付カ?」
「そう、カレンダーっぽいデータを打ち直してんの……おかしくない? 普通カレンダー手打ちで直さないよな?」
「そうだネ。ところで、思う、って何カナ?」
「カレンダーのデータがおかしい」
「ホウ? どういう意味ネ?」
「そんな日付の場所がないんだよ」
「フーム。面白い話ネ!」
キーボードを叩く音が止まって、千雨がノートパソコンを超鈴音に見えるに回した。
「ここ」
千雨がディスプレイに映る文字列を指さした。超鈴音がディスプレイを覗き込んだ。
「2620.04.14.12.36.51……52……53」
「日付だよな?」
「……そう見えるネ」
「617はなんなんだ」
「西暦じゃないだけじゃないカナ? あと、ナチュラルにハッキングするのはどうかと思うヨ?」
「あんたは人のこと言えんのかよ。じゃあ次、617年違うだけじゃない。気になって前見てたんだけどさ、24:39:35で桁上がりして00:00:00に戻る……これ、どこ? それか……なに?」
ディスプレイを覗き込んでいた超鈴音が千雨に顔を向けた。千雨はいつも浮かべる笑顔ではなく感情の読めない真顔を向けられたことに少々驚いていた。
「火星ネ」
「火星? なんで火星のカレンダーがあるんだよ。天文部がなんかやってんのか? じゃあこっちは?」
千雨が別のウィンドウに同じような文字列を映し出した。
「見ただけでは分からないヨ」
「こっちはもっと変。桁の上がり方がおかしい。1年よりも1日が長い……えーと、確か5800時間くらいの設定になってたはずだけど」
超鈴音がやや真面目な顔でディスプレイを睨んで考え込んでいる中、口を開いたのは千雨の前にいてこれまでずっと成り行きを見守りつつ、パソコンの操作に夢中で存在を忘れられていた千雨の肉まんをくすねて食べ終わっていた人物だった。
「……金星」
「ん? ザジも詳しいの? あれ、私全部食べたっけ?」
千雨が顔を上げてザジを見つめた。次に自分の左手を見て、知らん顔でそっぽを向くザジを見て、諦めたようなため息を吐いた。
「ザジも星とか詳しかったっけ?」
ザジがふるふると首を振った。
「詳しくないのに知ってるの?」
今度は一度頷いていた。
「金星で間違いない?」
もう一度こくりと頷いた。
「じゃあ金星か……なんでこんなデータがあるんだよ?」
千雨がディスプレイに目を向けた。
千雨の視線がなくなってからザジが超鈴音ににこりと笑いかけた。超鈴音がかすかに目を細めた。
「つーかよー、火星と金星ならいちいち打ち直さなくてもよくない? そんなにずれるもんなの? 半年に一回打ち直さないといけないくらい?」
千雨はザジと超鈴音の様子に気付くことなく一人でべらべらしゃべり続けていた。
「ン? ……そんなことはないヨ」
「私には分かる。火星と金星にいる宇宙人と時間を合わせてるの。彼らは独自の暦を持っていて彼らの時計に合わせてあげてるの。チサメー、ジュンイチ・ヤオイに連絡してー」
ツナミが両手を挙げて喜んでいた。
「宇宙人? いるわけねーだろ」
千雨が鼻で笑い飛ばした。
「ハハハ、そうダナ」
「…………」
超鈴音がわざとらしく笑っていた。笑ってはいても、超鈴音はザジと同じような表情をしていた。
「停電の理由分かったら教えろよって、なんつー顔をしてるんだよ」
千雨が超鈴音とザジの顔を見ながら首を傾げた。
「アー、そのことなんダガ、エヴァンジェリンサンなら知ってるかもしれないヨ?」
千雨が超鈴音を睨みつけた。超鈴音は千雨の視線などどこ吹く風でウィンクで返していた。
「はぁ……そういうことかよ」
千雨が吐き捨てるように呟いた。
「サービスネ。肉まん食べて元気出すネ!」
千雨の左手に肉まんを一つ乗せて、超鈴音が葉加瀬の元へ歩き出した。
/////*****/////
千雨達が一日のお勤めを終える頃、エヴァンジェリン邸からネギが飛び出した。癇癪を起こしたエヴァンジェリンに追い出されたところだった。
エヴァンジェリンはと言えば、体調もずいぶんと良くなりベッドから身体を起こした。夢見は良くなかったし、その夢をネギに覗かれていたと思うと気分も良くなかった。
「バチが当たったか……他人の夢など覗くものではないな」
今しがたネギが出て行ったドアを眺めながらエヴァンジェリンが呟いた。ついこの間、屋上でうたた寝する千雨の夢を覗いたことを思い出してほんの少しだけバツの悪い気分にもなっていた。そのまましばらくの間物思いに耽っていた。
「マスター、お元気になられたんですか? お薬の時間ですが」
茶々丸がドアを開けて部屋に入ってきた。手にはお盆、その上にはコップ一杯の水と薬包紙が一つあった。薬包紙を見たエヴァンジェリンが露骨に顔を歪ませた。
「苦いからやだ」
「子供みたいなこと言わないでください」
「風邪なんか血を飲めば治るんだ。薬なんかいらん……くしゅん」
「花粉症のお薬の時間ですが? 超から聞きましたが、花粉症は塩水を鼻から飲んで口から吐けば治ると」
鼻を指で押さえて嫌そうな顔をしたまま茶々丸の手の中の薬包紙を指差した。
「……薬を寄越せ」
「はい、どうぞ」
エヴァンジェリンが薬を飲もうか飲むまいか逡巡しているうちに部屋のドアがノックされた。
「マクダウェル、いる? 起きてる?」
部屋の外から千雨の声が響いた。
エヴァンジェリンがちらりと壁掛け時計に視線を向けた。その間に茶々丸がドアを開けて千雨を招き入れた。
「なんだ、もうそんな時間か? 今日は無理だ。血だけ寄越せ」
「それはおかしくない?」
「風邪は血を飲めば治るとマスターが言っておりますから」
茶々丸が注射器を取り出した。
「血で治るわけねーだろ、吸血鬼じゃねえんだから」
「吸血鬼なんだよ! 私は!」
エヴァンジェリンと千雨が話している間に茶々丸が千雨の袖を捲り上げていた。
「あ……そういえばそうだったな。さっさと治せよ……いたっ、絡繰はマクダウェルよりも下手だな」
「間違えました。刺し直します」
「間違ってねえだろ!」
「血があれば薬の苦さも紛れるだろう」
「薬飲むなら血いらねーだろ」
「これは花粉症の薬だ」
「花粉症なんか塩水で鼻うがいすりゃ治るっつーの」
「貴様、それ誰かに言ったか?」
「ずっと前に超に言ったな。東洋医学の話をしたときに」
「貴様のせいか」
「何が?」
「さぁ?」
千雨がエヴァンジェリンの視線を辿って茶々丸に目を向けた。茶々丸は首を傾げながらワイングラスに血を注いでいた。
「ちゃんとご飯食べてるのか? おかゆ作ろうか? オートミール? 違いはよく分からねーけどネギとニンニク入れときゃすぐ治るだろ」
「どっちも食えんわっ! わざと言ってるのか、貴様!」
「まったく、ネギとニンニク嫌いって吸血鬼かよ」
「そうだと言ってるだろうが! ハックシュン! ずずー、貴様もう帰れ」
「はいはい。早めに治せよな。1日休むと3日分下手になる……ってよく言うけど、1週間分は下手になると思うんだよなぁ」
「貴様はな。私はならんがな」
「才能のある奴って嫌いだよ。まぁいいや、道場は使うけど、いいんだよな? ツナミもいるからちょうど良かったな」
「あぁ、好きにしろ……くちゅん」
「苦い粉薬を子供に飲ませる方法は何かありますか?」
茶々丸がグラスをエヴァンジェリンに手渡した。
「八つ橋だと思って飲めばいいんじゃねーの?」
「あぁー、それでか……八つ橋も嫌いだが、そんな味だったかもしれんな」
「マクダウェル、好き嫌い多くないか? 大きくなれな……ごめん」
「悪気はないようだからいい……それだけ質も悪いがな」
「病気の子供には世話を焼きたくなるもんなんだよ」
「子供扱いするな」
「ババア扱いよりマシだろ」
「もういいからさっさと帰れ」
千雨が袖を下ろして立ち上がり、部屋から出た。その背中を見ながらエヴァンジェリンが疲れたようなため息を吐いた。
ドアが閉まり、もう一度開いた。ドアの隙間から千雨が顔を出していた。
「あー、最後にもう一つだけいいか?」
「ムカつく入り方するんじゃない!」
「コロンボみたいでした」
茶々丸の言葉は無視して千雨がエヴァンジェリンのベッド脇の椅子に腰掛けた。
「今日超と話したんだけどさ、停電ってあれは何をやってるんだ」
千雨のてめぇは分かってるんだろうという顔を見ながらエヴァンジェリンが眉を寄せた。
「……何の話だ?」
「おっかしいな。超はマクダウェルなら何か知ってるかもって言ってたんだけどな。停電の日にサブサーバいじってるじゃん?」
「さぶさーば? なんだ、それは?」
「メインサーバは普通に使ってるんだけど、サブサーバは何に使ってるのか分からねぇんだ。ほとんど使われてないのに電力はもの凄い量食ってて、停電の日もそっちは動いてるんだよ、知ってた? 知ってたよな?」
「だから貴様は何の話をしてるんだ! 茶々丸! 通訳しろ」
「停電の夜にも電気を使っている謎の施設があります」
「最初からそう言え!」
「ババア扱いされたいならそう言えよ」
エヴァンジェリンが千雨を睨み付けた。
「殺すぞ! けーたいでんわだって使いこなしているんだ、ババア扱いするんじゃない!」
「件名に全部書いて送ってくるのやめろよ。あとひらがなだけだし」
「ん? 茶々丸、通訳!」
「詳しいことは風邪が治ったらお話します。前にお教えしようと思ったときには知恵熱を出されて体調を崩してしまいましたから」
「子供かよ……で、何か知ってんの? いや、知らねえんだろうな、その顔を見る限り」
「ああ、知らんな」
「マクダウェルが知らないってことは誰が知ってるんだろうな。超も知らないって言ってたし、まぁアイツのことだから知っていても私に話さないだけなんじゃないかと思うんだけどな」
エヴァンジェリンが顎に手を当てて考え込んだ。
「ジジイなら知っているだろうが…………話さないことか。私に話すとマズイことでもあるということか」
「マスター、そんなに考え込まれては熱が上がりますよ?」
「あぁ……明日は授業に出てやるか。看病の礼にな」
布団から手を出してひらひら振った。
「すぐに帰るって。つーか先生は看病してたのかよ。教師が授業サボって何やってんのかと思ったら……はぁ、今日ならネギ先生一人で勝てたんじゃねーのか」
千雨がそっぽを向きながら呟いた。
「…………それで私が坊やに情けをかけるとでも思っているのか」
「さぁ、どうだろうな。私には関係ないことまで考える余裕はなくてな。どっちみち満月までは時間あるし、分かり合えないとは思わないけど。まだやる気なのかよ」
「私だけではない。坊やもやる気のようだぞ? 今日の用事はこれだったらしいな」
エヴァンジェリンから渡された文を千雨が読み上げた。
「果たし状? 字は子供だな。まぁ漢字が書けるだけ十分か」
「嫌みか?」
「漢字ドリル持ってくる?」
「いらん!」
「えーっと、エヴァンジェリン殿。此度の件に関して余人を巻き込むことなく魔法使い同士の決闘で――ハッ、古風で良いねえ。だが日付と場所が書いてねえな」
「私が決めて良いってことなのだろう」
部屋のドアがノックされた。
「チサメー、まだー?」
「もう行っていいぞ……帰れ帰れ」
「あぁ、そんじゃまた明日」
千雨がネギの果たし状を茶々丸に渡して部屋を出て行った。千雨とツナミの二人がログハウスを出て行くのを窓から確認してからエヴァンジェリンが口を開いた。
「停電か。茶々丸、調べてみろ……千雨の奴、超鈴音に良いように使われたな。もしかすると私もか」
「36度9分。明日には登校できるかと」
茶々丸がエヴァンジェリンの額に手を当てていた。
「そうじゃなくてだな! 停電で何をやってるのか調べろ、と言っているんだ!」
「明後日でもよろしいですか?」
「終わってるだろうが!」
「マスターが元気になられて良かったです」
/////*****/////
「またツナミに抜かれたな」
千雨が後ろ手で日傘をぶらぶら振りながら呟いた。稽古帰りの寮までの帰り道、今日はツナミと二人肩を並べて歩いていた。
「毎月のことでしょー」
「そうなんだけどな。私の一ヶ月はツナミにとっては3時間かと思うとなぁ」
「ショックなの?」
「ショックでもあるし、もっと頑張らないと駄目だとも思うし」
「嬉しくないのー?」
「うーん、何故だか嬉しくもある。不思議なもんだよなぁ。師匠ってのは弟子に追い越されると嬉しいもんなのかな。もしそうなら、
私もいつかは……なんてな」
「今のままじゃ無理でしょー、生物学的に」
「そこは否定するなよ」
「チサメのジュージュツはまだ未完成。生物学的に見て人間の技止まり」
「それって褒めてんの? それとも慰めてんの?」
「動物にはできないけど、人間ならできるってこと」
「よく分からねーな。ツナミは柔術に詳しいけど、なんでなんだ?」
「私の姉みたいな人もジュージュツ家だったの。生物学的に見てギリギリ有り得るくらい凄かった。お父さんは軍隊格闘技の達人だけ
ど、お父さんが宙に浮かんだのを見た」
「へー、マクダウェルも宙に浮くくらい?」
「出来なくはない」
「その人に教えてもらおうかな」
「それは無理。今どこにいるかわからない」
「そいつは残念だ」
全然残念がってない顔つきで呟いた。
「チサメはエヴァンジェリンに教えてもらった方がいい。気が合うでしょ?」
「合わねーよ」
心外だという顔つきで呟いた。
寮に着いた二人は超鈴音と顔を合わせた。
「オヤ……ツナミサンと長谷川サン。お疲れ様ネ!」
超鈴音は偶然鉢合わせたという雰囲気を漂わせながら右手をひょいと挙げた。
「今日は実験じゃないのー?」
「寮にいるの珍しいな」
「明日は停電だからネ! 今実験始めると明日まで終わらないから切り上げてきたヨ」
「ふーん。マクダウェルも停電のこと知らなかったみたいだけど?」
「アー、ソウカー。あの人機械オンチだからしょうがないかもナ」
「茶々丸がいるから大丈夫ー」
「超は……私に喋って良かったのか?」
千雨がちらりと周囲を確認しながら超鈴音に訊いた。
「ウム。エヴァンジェリンサンと喧嘩して倒れたアナタを運んだのは私だからナ」
「チャペックじゃなかった?」
「チャペックサンの背中まで運んだヨ?」
「そっか。ありがと」
「お互い様ネ」
千雨がムッとした顔つきで超鈴音を睨んだが、にこにこと笑う超鈴音には通じずに頭をがしがし掻いて舌打ちして大きく息を吐いた
。
「……私がマクダウェルに話さなかったらどうしてたんだよ」
「さぁネ? 何も関係ない話になるガ、茶々丸は私の子供みたいなものヨ。知ってたカナ?」
「葉加瀬との愛の結晶だもんな」
「妬いてるのカナ?」
「んなわけねーだろ」
「ねぇー、何の話してるのー?」
千雨と超鈴音が顔を見合わせた。
「内緒話だよ」
「内緒話ネ」
ツナミが口を尖らせた。
「私にも内緒?」
「そりゃそうだろ、内緒話なんだから」
「でも私も知ってるよ?」
「それでも内緒なんだよ。バレるのはしょうがないけど、話したのは私じゃないっていう保険だ」
「回りくどい」
「日本人だからなぁ」
「ツナミサンから聞いていたガ、長谷川サンは信じてなかったみたいだネ」
「普通は信じねーよ。日朝8時半だけ十分だしな」
「私は信じてたよー?」
「ツナミがいつか騙されないか心配だ」
「長谷川サンの凝り固まった常識論の方が心配ネ」
やれやれと呆れた顔を見せる超鈴音から背を向けて、千雨がわざとらしく身体を伸ばした。
「さ、部屋戻ってブログの更新でもするかな」
「バイバーイ、ブログの前にご飯」
ツナミが超鈴音に手を振った。
「露骨に話逸らしたネ。自覚あるなら直した方がいいヨ?」
「あぁ、分かってるよ。そんであんたはいつになったら世界征服始めるんだよ。さっさと世界征服して私の常識通りの世界にしろよ。
肉まん腐っちまうぞ」
「冷凍してあるから大丈夫ネ!」
「いつになったら解凍するんだよ。冷食だって賞味期限あるぞ」
「……もうすぐネ」
「……もうすぐか」
「見つめ合ってないで行くよー?」
「はいはい、じゃ、おやすみ」
千雨が超鈴音に背を向け日傘を振った。
「おやすみネ」
追記)2016/3/17 6:14 抜けていた部分を追記