フォーサイスより愛を込めて(魔法先生ネギま!×EVOLIMIT)   作:瓶缶ペットボトル

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説明回で長くなりましたが、よろしくお願いします。

追記:毎月1日があずきの日なので1日にしました。


2001年5月1日(2)

 手は綺麗に――。

 心は熱く――。

 頭は冷静に――。

 

 桜咲の横をすり抜けてくる鬼を前に深呼吸を一回。

 

「え? あっ! 長谷川さん!」

 

 桜咲の焦った声が聞こえた。

 ツナミを後ろに突き飛ばし、さらに深呼吸を一回。左手に日傘、右手は掌を前にして胸の前で構えて鬼は目の前。

 きっと、全ては今日この日のために積み重ねてきたと信じよう。

 ――拳では駄目だ。

 ――妖は不定の存在。拳では波動が伝わらぬ。

 ――外を破壊するのではなく、内を穿ち、波打たせる。

 師匠の言葉を思い出せ、隻眼で重たいコートと黒い傘を携えた師匠との日々を思い出せ。

 師匠とはサイズ違いのコートと師匠よりも短い日傘、師匠よりも兄弟子よりも遙かに劣る才能なれど、教えを胸に。

 ――全ての基本は円。

 

 鬼の棍棒の一振りを日傘でいなした。私からわずかに逸れて地を打つ棍棒の振動が身体に響く。

 

「対妖拳法九鬼流絶招・肆式名山・内の壱、焔螺子(ほむらねじ)

 

 開いた体を前に、右手で捻りを加えた掌打を鬼の左胸に放つ、そこから踏み込んでさらにもう一打。

 鬼は煙となって消えていく。

 煙? 死体が残らないのは妙だな。今はいいか。 

 

「今のはまぐれだ! 桜咲、一人も後ろに通すんじゃねえ!」

 

「えっ? いや、まぐれって……」

 

「ボサっとすんな! 前見ろ、前! ちっ、また一人来ちまったじゃねーか!」

 

 日傘を右手に持ち替え日傘の先、石突の保護部品を外して弓なりに引いて構える。石突の保護部品を外せば傘の先は巨大な針、エストックのようでいつ見ても怖気が走る。今は必要なものなのだが。

 

 鬼を前に、直線的に心臓を狙って打つ。傘刃・焔錐。

 まっ、さっき触った感じだと鉄板みたいだったから胸板で弾かれるのは分かってたけどな。日傘から手を離して飛んでいくのは気にしない。ツナミに当たらない方向に飛んでいったしな。

 私があんまりにも弱い一撃しか打てなかったせいで油断している鬼へ距離を詰め、左手で捻りを加えた掌打を放つ、そこから踏み込んでさらにもう一打。

 やっぱり煙になるんだなぁ。なんで体も残らないんだろう。

 とはいえ、今はあんまりツナミから離れすぎないようにしないとな。

 

「ふー、今のもまぐれだ。桜咲、もっと気合い入れろ! ツナミ、大丈夫か?」

 

/////*****/////

 

 桜咲刹那は疑問だった。なぜ、長谷川さんと目が合うんだろう、と。

 龍宮真名は疑問だった。なぜ、長谷川が生きてるんだ、と。

 これはつまり、長谷川千雨が鬼に勝ったことに他ならない。だが何故だ? 二人は確かに見ていた、見ていてなお理解が及ばなかった。鬼を倒したのは2発の掌打、捻りが加えられているが、ただそれだけに見えた。鬼を倒すには明らかに弱い、ごくごく普通の人間が放つことが出来る2発の掌打だった。桜咲刹那のように気を使っているわけではない、他の魔法使いのように魔法を使っているわけでもない。なのに、何故?

 そして二人は長谷川千雨の次の声で再び動きを止めた。

 

「今のはまぐれだ! 桜咲、一人も後ろに通すんじゃねえ!」

 

「えっ? いや、まぐれって……」

 

 桜咲刹那と龍宮真名は同じことを考えていた。こいつは一体何を言っているんだ? と。

 

「ボサっとすんな! 前見ろ、前! ちっ、また一人来ちまったじゃねーか!」

 

 そして二人はやっと気が付いた。長谷川千雨が普段と何一つ変わらない表情、姿勢、身のこなしをしていたことに。鬼を前にして体を強ばらせることもなく、恐怖で取り乱すこともなく、毎日のように教室で見ている長谷川千雨と何も変わっていなかったことに。

 日傘を右手に持ち替える様子も、日傘の先端を取り外せばその下には明らかに殺傷能力を持つ刃を隠していたことにも気が付いた。

 間違いなく鬼の命を奪うためにその刃を撃ち放つ様子にも迷いがなく、刺突が効かないと見るや左手で2発の掌打を打つところまで二人は見ていた。

 二人はようやく思い至る。長谷川千雨は私達からも気付かれぬほど巧妙にその技量を隠し続け、一般人を擬態していたのだと。桜咲刹那と龍宮真名の二人から見ても、左手で放った2発の掌打は見事であった。一人目の鬼を倒した右手の掌打をはっきりと覚えていた二人は気付いていた。右手で放つ掌打と左手で放つ掌打は完璧に左右対称だった。鏡合わせにしたら完全に重なる程に。それはつまり、まぐれではあり得ないことだった。

 ここまで思い至り、ようやく二人はいつもの調子を取り戻した。

 

「ふー、今のもまぐれだ。桜咲、もっと気合い入れろ! ツナミ、大丈夫か?」

 

 千雨はツナミの前に立ち、桜咲刹那と龍宮真名が残った鬼達を一掃する様子を眺めていた。

 ツナミは千雨の動きを見ているうちに思い出していた。千雨の動きはツナミのよく知る人物と似ていた。その相手は皇文傑(ホアン・ウェンジェ)、共に火星を目指した同世代の仲間だった。中国ではほぼ廃れていた流派、北派・円華拳の数少ない使い手だった人物。でもどうして、千雨が使えるのか、そして似ているだけで違っているのは何故なのか、ツナミには分からなかった。

 

「チサメもマジカル拳法の使い手?」

 

「いや、普通の拳法だけど」

 

「セツナの動きは生物学的にあり得ないから鬼を斬るのはまだ分かる。でも、チサメの動きは生物学的にあり得るから逆に変」

 

「練習すればツナミにも出来るぞ」

 

「神鳴流奥義・百烈桜華斬!」

 

「あり得ねえだろ、剣が桜吹雪吹いてるぞ」

 

「チサメは嘘ついた。サムライは絶滅したって言ってたのに」

 

「常識的には侍は絶滅してたんだよ!」

 

「ニンジャもいたよ」

 

「忍者はもっと忍ぶもんなんだ!」

 

 千雨とツナミが喋っている間に鬼達は全て消えていた。

 

「長谷川さん、カラニコフさん、終わりました。怪我はありませんか?」

 

 桜咲が千雨に対して胡乱げな目を向けていた。

 

「ねえよ」

 

 千雨はやけに刹那から視線を感じていたが黙殺した。

 

「チサメに突き飛ばされてお尻が痛い」

 

 ツナミがお尻をさすりながら立ち上がった。

 

「ったくインドア派にはキツいな、勘弁してくれよ。(あやかし)がなんでこんな人里近くにいるんだよ」

 

「また嘘ついた。普通インドア派はモンスターを倒せない」

 

「そ、そうです! 鬼を倒すとは、長谷川さんもこちら側だったんですか」

 

「こちら側ってどちら側だよっ! お前らみたいなびっくり人間と一緒にするな! 私は普通の女子中学生だ」

 

「「普通?」」

 

 ツナミと刹那の二人から言われて千雨が顔を背けた。

 

「う、うるせーな。そういえば龍宮はどこにいるんだ?」

 

 千雨の後ろに龍宮が木の上から飛び降りてきた。

 

「ここにいるよ。やるじゃないか長谷川、まぐれとは言え鬼を2匹還したんだ。実はまぐれじゃないんじゃないのかい? 長谷川も武道四天王入りか」

 

「数合ってねーよ」

 

「武道戦隊・バトレンジャー!」

 

「やらねえよ! インドア派だって言ってんだろ! つーかよ、バトレンジャーなら超を入れろよ。なんでアイツ古菲より強いのに四天王じゃねーんだよ」

 

「スズネーは文武両道だから」

 

「……実は古菲と中華娘キャラ被ってるからじゃねーの? 古菲と龍宮も褐色キャラで被ってるけどさ」

 

「しーっ!」

 

「さて、そろそろ真面目な話をしようか。長谷川、鬼を倒したの初めてじゃないな?」

 

「ん? ああ、初めてってわけじゃないがあんだけ血の濃い妖を相手にしたのは初めてだぞ。血が濃い割に弱かったし、最後は煙になっちまったしな」

 

「「…………?」」

 

 千雨の返答の意味が分からず刹那と龍宮が首を傾げた。

 

「なんか微妙に話が噛み合ってない気がする。日本語の神秘?」

 

 千雨、刹那、龍宮の3人の顔を見回しながらツナミが不思議がりながら口にだした。

 

「な、なんだよ。さっきの鬼は妖だろ、どう見ても。純血の妖にしては脆すぎたし、死体が残らなかったのは気になるけどよー」

 

「術者が召喚した鬼ですよ。なので倒されても還るだけです」

 

「……?」

 

 刹那の答えに今度は千雨が首を傾げた。

 

「やっぱり話が噛み合ってない」

 

「いや、大丈夫だ。話はちゃんと噛み合ってる。うん、分かった。幻覚だったんだな。うん、はい、幻覚、分かってる分かってる」

 

「モルダー、あなた疲れてるのよ?」

 

 千雨が日傘を拾いながら龍宮と刹那に背を向けた。

 

「よし、ツナミ、帰るぞ。じゃあな、桜咲、龍宮。歯磨けよー、宿題やれよー、風呂入れよー」

 

 手を振りながら帰ろうとする千雨の肩を龍宮が慌てて掴んだ。

 

「いや待て」

 

「長谷川さん、魔法使いについてどう思いますか?」

 

「魔法使い? あー、うん、あれだろ? 世界の本を守るため、ビブリオルーランルージュ! ってやつだろ。ハッ、いやもうお前らも疲れてるんだよ。憧れるのも分からなくはねーがお前らは魔法少女ってキャラじゃねえよ、うん」

 

「「…………」」

 

 千雨の返答を聞いて刹那と龍宮が無言になった。こいつもしかして、魔法を知らなかったのではないか、と頭を抱えた。

 

「チサメ、文脈的に考えて、魔法使いは存在する」

 

「ねーよ」

 

「いえ、魔法使いはいますよ」

 

「はーん、読めたぞ。鬼を召喚したのが魔法使いってことだな、んで鬼が弱かったのは魔法使いが弱かったからで召喚された体だから死んだら里に還っていくんだな。ばーかばーか、寝言は寝て言え」

 

「その通りだよ」

 

「龍宮、お前はあのクラスの中じゃあ常識人だと思ってんだけどな、はぁー。あんまり人前で言うなよ、嘘つきって言われるのがオチだぞ。今日のことは誰にも言わないから安心してくれ。非常識なクラスで疲れてるんだよ、分かる分かるから私には分かるから大丈夫分かってる分かってる、心配するな。な? 今日はもう帰って寝ようぜ?」

 

 千雨が同情の視線を向けつつ龍宮の肩を優しく叩いた。

 

「刹那、ムカついてるのは私だけか?」

 

「長谷川さん、現実逃避はやめてください」

 

「してねーよ! お前らこそ魔法使いがいるとかアホなこと言ってんじゃねーよ!」

 

「チサメ、頑固すぎる。鬼がいるなら魔法使いがいてもいいんじゃないの?」

 

「よくねーよ! 妖は実際に存在する、魔法使いなんかいるわけねーだろ」

 

「なんかムカつく」

 

「が、頑固ですね」

 

「チサメ、論理がおかしい。鬼は認めても魔法使いを認めない理由が分からない。セツナの生物学的にあり得ない動きは魔法じゃないの?」

 

「ちげーだろ」

 

「ええ、違います。あれは気によるもので――ん?」

 

「待て待て。長谷川、なんで刹那の動きが魔法じゃないと言い切れる?」

 

「なんでって……そりゃお前らが人妖だからだろ」

 

 目の前には銃口、首元には日本刀を突きつけられて千雨が息を飲んだ。

 

「ちょっと待てえ! 刀と銃を仕舞え! 分かった、うん、ちゃんと分かったから。魔法使いはいる、うん、いるんだな。分かった、分かったから仕舞え、いや、仕舞ってくださいお願いします」

 

「いや、魔法使いのことはどうでもいい」

 

「うん?」

 

「チサメ、私達を人妖って言ったせいでセツナとマナは怒ってる」

 

「ツナミは人妖じゃないだろ。お、お前らは何でそんなに怒ってるんだよ! 人妖なんて珍しくもないだろ」

 

 ツナミが首を傾げた。

 

「……? チサメは人間と人妖の違いが分かるの?」

 

「ああ、分かるけど」

 

「刹那、学園長はまだ学校にいるか?」

 

「確認する」

 

 刹那が刀を仕舞って携帯電話を取りだし、電話をかけ始めた。

 千雨が落ち着くんだ、というジェスチャーをしながら龍宮に話しかけた。

 

「ふー、た、龍宮……さんも銃を仕舞ってくれ……ください」

 

「逃げるなよ」

 

「何で逃げなきゃいけないんだよ。ていうか逃げられるわけないだろ」

 

「チサメ、ビビりすぎ」

 

「いや、ビビるに決まってるだろ! 刀と銃突きつけられたんだぞ! 怖かったに決まってるだろ!」

 

「鬼は怖がらないのにクラスメートを怖がるのはおかしい。ていうか、人妖って何?」

 

「妖の血を継いでいて妖の異能を発現した人間って感じか。ツナミに分かりやすく言うと、生物学的にあり得ないことができてそれが先祖のモンスター由来である人間だな。合ってるよな?」

 

「知らん」

 

「あ? なんで龍宮が知らないんだよ」

 

「チサメ、嘘ついた?」

 

「ついてねーよ」

 

「私達は人妖とか妖という呼び方をしないから定義も知らん」

 

「ふーん、じゃあなんで怒ったんだ?」

 

「人妖の意味は分かったからな」

 

「学園長に連絡がつきました。長谷川さん、カラニコフさん、これから学園長室まで来てくれますか」

 

「……行きたくねー。おい、銃を出すな、刃を見せるな、行くよ行けばいいんだろ」

 

「ぬらーりひょーん。生物学的にあの頭はおかしい、CT撮ってみたい」

 

 ツナミの言葉に千雨が刹那と龍宮に今まで気になっていたことを尋ねてみた。

 

「それなんだけどさー、学園長って人間なのか?」

 

「分かるんじゃないのか?」

 

「人間だと思いますけど」

 

「私からすると人間に思えるんだけどさー、ぬらりひょんに見えるじゃん? ぬらりひょんの血を引いてるかどうか知らないか?」

 

「何がそんなに気になるの?」

 

「うーん、いや、ぬらりひょんの血を引いてる奴に心当たりがあるってだけだ」

 

「誰だい?」

 

 龍宮がなんだか面白いことになりそうだと軽く笑いながら訊いた。

 

「私達の知ってる人?」

 

「話の流れからするとお嬢様じゃないんですね、良かった」

 

 近衛木乃香が将来ぬらりひょんにならなくて済むことに刹那がほっと胸を撫で下ろした。

 

「龍宮と桜咲は知らないのか。うーん、学園長は気付いてるはずなんだから、教えてないだけか」

 

「1-Aの誰かなんだな」

 

「うん、うちのクラスは集まりすぎてるからなー、わざとなんじゃないかと思ってたんだが」

 

「で、誰なんだい?」

 

「お前らは誰かにべらべら喋るとは思えないからいいんだけど、ツナミはなー」

 

 千雨がちらりとツナミを見て、ツナミが不満を顕わにした。

 

「むー。私も誰にも言わないけど」

 

「村上だよ」

 

「「「は?」」」

 

 3人が唖然とした。

 

「だから、村上夏美」

 

「え? 村上さん? あっ、わかりました。冗談なんですね」

 

「いやいや待て待て、村上は一般人のはずだ」

 

「チサメ、一気に胡散臭くなった」

 

「いやいや、アイツの目立たなさは異常だよ。誰と一緒にいても目立たないし、どこにいても悪目立ちしない。村上の目立たなさは人妖の異能だ。悪く言えば影が薄い、良く言えばどこにいてもどんな奴らの中にでも溶け込める。ぬらりひょんは元々そういう妖だろ。人妖の血が完全に目覚めたらかくれんぼなんかやったら絶対に見つけられないぞ、目の前にいたとしてもだ。お前ら人混みの中から村上を見つけられるか?」

 

 刹那が村上夏美のことを思い出しながら腕を組んで唸っていた。

 

「いや、そこまで言われると自信が」

 

「なぁ、長谷川さっき集まりすぎてるって言ったよな」

 

「チサメ、他にはー?」

 

「これ私がべらべら喋っていいのか?」

 

「いいんじゃないですか」

 

「もう喋ってるんだから気にするな。私達を人妖と呼んだんだから他の奴のことも喋れよ」

 

「それに私達は学園から依頼されて学園の警備員をやってますから」

 

「私も誰にも言わないよ」

 

 なんだかんだで他の人妖のことが気になる3人。ツナミは興味本位だが、刹那と龍宮は割と切実に聞きたがっていた。そして、既に刹那と龍宮は千雨の異常性に気が付き、信じ始めていた。

 

「はぁー。お前らクラスメートが人妖だからって態度変えたりしないよな?」

 

「「「しない」」」

 

「はぁー。妖の血が濃いのはマクダウェルとザジの二人、どっちかっつーとザジだな」

 

「エヴァンジェリンさんよりもですか!?」

 

「ザジか、一般人だとは思わなかったが」

 

「ピエロまじすごい? 同じ部屋だけど気付かなかったよー?」

 

「人間なんだから当然だろ」

 

「むー! チサメは分かるのにー」

 

「私は人妖の知り合いが沢山いるからな。ザジとマクダウェルが具体的にどんな妖の血を引いてるのかは分かんねーよ。日本古来の妖じゃないことだけは分かる。つーか、マクダウェルってそんなに凄いのか?」

 

「ええ、まぁ」

 

「いいよ、言わなくて。んで次がお前ら二人だろ。格段に濃いのがこの4人だろうな。あとは、んー、信じらんねーだけど、古菲と長瀬は人間だと、思う」

 

「「それは知ってる」」

 

「中国拳法とニンジャまじすごい」

 

「あり得ねーだろ! 大の男ぽんぽんぶっ飛ばすんだぞ! 長瀬は忍者だし!」

 

「ですから、あれは気を使ってるんです」

 

「気ってなんだよ! ドラゴンボールかよ!」

 

「長谷川は使えないのかい?」

 

「鬼倒してたよ」

 

「使えねーよ! だから気ってなんなんだよ! 私のは練習すれば誰でも出来るんだよ!」

 

「私からすると気を使わないのに鬼を還した長谷川さんの方が不思議です」

 

「あーもう! だから私のは誰でも出来るって言ってんだろ!」

 

「ねーねー、他には?」

 

「ん、あぁ。あとは妖の血はそんなに濃くないし、異能も完全には目覚めてないから似たり寄ったりだな。明石、朝倉、大河内、椎名がちょっと目覚めかけてる」

 

「明石か」

 

 ほんの少し前まで共に仕事をしていた明石の姿を思い出して龍宮が呟いた。

 

「あいつは野鉄砲で間違いないな」

 

「朝倉さんは?」

 

「何代か前に百目がいるな」

 

「大河内さんは?」

 

「ありゃ分かりやすいな、人魚の血を引いてる。水に入ると人妖の血が濃くなるし」

 

「サクラコは?」

 

「座敷童だろうな」

 

「それで全員かい?」

 

「んー、あとは目覚めるか目覚めないか分からないくらいか」

 

「ほう、たとえば?」

 

「超、宮崎、早乙女、那波、絡繰も入れていいか」

 

「んー、全然分からないかも。スズネーがおかしいのとチャチャマルがロボってくらい?」

 

「超は血が混じりすぎててよく分かんねーけど混じりすぎてるせいで血は目覚めないと思うぜ。宮崎は(サトリ)、早乙女は文車妖妃(ふぐるまようひ)、那波は産女(うぶめ)、絡繰は将来的に付喪神になるかもしれないってくらいだな」

 

「多いな」

 

「多いですね」

 

「人妖が何割くらいいるのか知らないけど多すぎると思う」

 

「だからそう言ってんだろ! 集まりすぎてるって。お前らが人妖だからって珍しくもねーよ。そもそも10代も遡れば先祖に一人くらい妖も混じってるっつーの!」

 

「そ、そうだったんですか」

 

「長谷川はどうなんだ?」

 

「私か? 先祖に妖くらいいるだろうな。妖の血が目覚めることはない。血が薄すぎるのと異能を扱う才能そのものがないからな。んで、なんだよ、桜咲は何を悩んでんだよ」

 

「い、いえ、悩んでいるというわけでは……」

 

「血は選べないからなー。人妖だからってなんかあったのか? 妖の里で暮らしてたわけじゃねーだろ?」

 

「っ!」

 

「……そういうことかよ。ここは日本だからな、お前は神性が高すぎる。妖と一緒に暮らせるわけがない、桜咲はどっちかっつーと神に近いからな、人と一緒に生きた方がいい」

 

「私はどうなんだ?」

 

「知るかよ。龍宮は日本古来の妖じゃないから分かんねーんだよ」

 

「分からないだけマシってことにしておくか」

 

「ねーねー、私は?」

 

「だから、日本以外の妖のことは分からねーんだよ! 私が見た限りだと人妖の血は目覚めないな」

 

「学園長がぬらりひょんかどうか分かったらあとで教えてくれないかい?」

 

「わ、私にも是非!」

 

「分かった分かった」

 

 学園長室のドアを刹那がノックした。

 

「開いとるぞい」

 

「失礼します、長谷川さんとカラニコフさんを連れてきました」

 

 部屋の中には学園長ともう一人いた。

 

「あれ、高畑先生も残ってたんですか?」

 

「あぁ、まあね」

 

「ねーねーチサメ、ぬらりひょん?」

 

 ツナミが学園長がいることを気にすることなく千雨に訊いた。

 

「「「ぶっ」」」

 

 刹那と龍宮、そして高畑が吹き出した。

 

「これこれツナミちゃん、いきなり失礼だぞい」

 

「違う、人間だな。頭を見ると信じられないが、ぬらりひょんの血は混じってないな」

 

「本当ですか!?」

 

 はぁー、良かった、と近衛木乃香のことを思い出した刹那が大きくを息を吐いた。

 

「本当かい? あっ、あはは」

 

 高畑が今まで気にかかっていたことの答えを聞いて千雨の言葉に反応した。が、すぐに学園長の前だと気が付いたのか苦笑いしながら頭を掻いた。

 

「た、高畑君!?」

 

「高畑先生も疑ってたんですか?」

 

「え? いや、そんなことはないよ」

 

「脂汗が出てる」

 

「いきなりなんじゃい、儂はこれでも人間じゃよ」

 

「はい、そのようですね。それで、私とツナミはどうして呼ばれたんですか?」

 

 千雨の言葉に学園長が咳払いをして姿勢を正した。

 

「ごほん、そうじゃったな。長谷川君もツナミ君も怪我がなくて何よりじゃった。龍宮君と刹那君から聞いていると思うが、儂らは魔法使いじゃ」

 

「冗談は頭の長さだけにしろよボケ老人。魔法使いなんかいるわけねーだろ!」

 

 バン、と学園長の机を叩いて千雨が吠えた。

 

「……は?」

 

 学園長は呆然とした顔で千雨を見ていた。

 

「えっ、は、長谷川君?」

 

 高畑が少し狼狽しながら何が起きたのかよく分からず、千雨を見た。

 

「あっ、失礼しました。聞いて下さい、学園長。桜咲と龍宮が魔法使いは存在するなんてアホなこと言って信じない私達に刀と銃を突きつけてくるんです」

 

「信じてないのはチサメだけだよ?」

 

「ち、違います! 長谷川さんに刀を向けてしまったのは魔法使いとは関係ないです!」

 

「そうだな。私達を人妖と言ったから銃を向けてしまっただけだ」

 

「じゃが、長谷川君も鬼を見たじゃろ? しかも君は2体の鬼を還してたように見えたが」

 

「妖がいるのはおかしくないだろ、人里近くに出てきたことには驚いたけど」

 

 学園長は長いひげをさすりながら、千雨の言葉を考えていた。

 

「つまり何か、鬼が出るのはいいけど、魔法使いがいるのは駄目ってことかのう?」

 

「そうです」

 

「いやいや、長谷川君。鬼がいるなら魔法使いがいてもおかしくないんじゃないのかい?」

 

「いいえ、それはおかしい」

 

 おずおずと刹那が手を挙げて発言権を求めた。龍宮は頭が痛そうにこめかみを押さえ、ツナミは面白そうに千雨を見ていた。

 

「あ、あの、長谷川さんは魔法使いがいることを信じてくれないんです」

 

 刹那の発言に学園長と高畑が首を傾げた。

 

「「……?」」

 

「私がおかしいみたいな言い方をするな!」

 

「いや、じゃが、刹那君が大量の鬼を還していたのはどう考えるんじゃ?」

 

「それは桜咲が人妖だからだろ?」

 

「「!」」

 

 千雨の一言で学園長室の空気が張り詰めた。

 学園長は細い目を見開いて千雨をじっと見ていた。高畑はスーツのポケットに手を突っ込んでいた。

 

「な、なんだよ? いきなり怖い顔して」

 

「ちょっと待ってください。学園長も高畑先生も」

 

「チサメ、さっきも同じこと起こったよ。私が見てた限り、チサメは何か非常識な技能を当たり前に使ってる。多分、普通は人と人妖を見分けられないんだと思う」

 

「そんなわけねーだろ!」

 

 机をバンバン叩きながら叫ぶ千雨に呆れながら龍宮が学園長に話しかけた。

 

「学園長、人妖って何だい?」

 

「人妖とはまた古風な言い方をするのう。普通は妖怪と人間のハーフのことじゃろう?」

 

「え?」

 

「チサメと言ってること違うよ?」

 

「ほう、そうか。ではあれか、人の身でありながら妖怪の力を使う者達のことかのう」

 

「そう、そっちだろ、普通! 人妖って言ったら!」

 

「じゃがなぁ、長谷川君の言う人妖は絶対数が少ないからのう、今まで忘れておったよ。普通は人妖と言ったら人間と妖怪とのハーフやクォータのことじゃよ」

 

「なん……だって? そんなわけねーだろ! じゃあうちのクラスに人妖が集まってるのはどういうことなんだ!?」

 

「何を言っとるんだ?」

 

「チサメ?」

 

「長谷川さん?」

 

「長谷川?」

 

「長谷川君?」

 

 全員から疑惑の目を向けられて千雨が若干たじろいだ。

 

「そんな目で私を見るな! しらばっくれるな、この狸爺! てめえのやっていることは全て丸っとお見通しだ!」

 

「Why don't you do your BEST!」

 

「上田!」

 

「山田!」

 

 ぱちーん、とハイタッチを交わす千雨とツナミ。

 

「何をやってるんだ、こいつら?」

 

「さぁ?」

 

 呆れた顔で二人を見ている刹那と龍宮。面倒くさくなって、早く帰りたい、などと呟いていた。

 

「去年までやってたドラマだね」

 

「明らかに1-Aは人妖が集まりすぎている! これは少なくとも学園長が人妖を見分けられることを表していて、なおかつ! うちのクラスは作為的に集められたことは火を見るよりも明らかだ! さぁ、ネタは上がってるんだ! キリキリ吐きやがれ!」

 

 今度は学園長に疑惑の目が向けられていた。

 

「うーむ。勘違いしとるようじゃが、儂は人妖を見分けられんぞい」

 

「まだしらばっくれるか、このジジイ!」

 

「はーい、これから上田の謎解きが始まるから全員チサメに注目ー!」

 

 ツナミの言葉で学園長室内の緊張の糸がすっぱりと切れていた。

 

「ごほん! まず、ここにいる桜咲と龍宮、そしてマクダウェルは人妖である。異論はないな!?」

 

「うーむ」

 

「エヴァのことも」

 

「この3人は言わばサポート役としてあのクラスにいる。桜咲が学園側から依頼されて警備員をやっていることと、桜咲がマクダウェルのことを知っていることから間違いない! サポート役とはなんなのか、それは人妖の血がまだ目覚めていない奴らが人妖として覚醒したときにいち早くフォローするためだ。人妖としての生き方に悩んだとき、同じ立場でアドバイスができるように!」

 

「ちょっと待つんじゃ!」

 

 学園長が焦った声で千雨を止めた。

 

「何だ!?」

 

「ジジイはルール違反、探偵の謎解きを途中で止めたからペナルティ! あずきバーちょうだい」

 

「ツナミ君、あずきバーならあとであげるからちょっと待っとくれ」

 

「私にも寄越せ!」

 

「分かったからちょっと待つんじゃ! 長谷川君は今人妖の血がまだ目覚めてないと言ったかのう?」

 

「言ったけどそれがどうしたんだ」

 

「それがどうしたって、そもそもの話なんじゃが、異能を覚醒する前の人妖を見つけることは出来ないはずじゃろ」

 

「はぁ? 出来るだろ」

 

 千雨の何言ってるんだこの爺は、という目を見て学園長が大きく溜息を吐いた。こりゃ思った以上に大事じゃのう、と呟きながら言葉を続けた。

 

「人妖は異能を使うまで普通の人間と違いがないから人妖病を発症するまでは見分けられないというのが今までの常識じゃよ。多くの人妖は異能を使ったことで発見され、人妖都市で異能の制御を学び社会に復帰するのが普通じゃ。長谷川君はどうやって人妖と人を見分けとるんだ?」

 

 学園長の言葉に千雨が少しだけ考え込んだ。

 

「どう、やって? えーと、勘!」

 

「「「「…………」」」」

 

 学園長室内には気まずい沈黙が漂っていた。言うに事欠いて勘だと、今までの話はなんだったのか、と。

 

「はーい、ドラ一枚めくって」

 

 ツナミがやれやれと首を振りながらしらけた雰囲気を破った。

 

「し、信じてねーな!?」

 

 千雨が叫んだ。

 次の言葉を言う前に学園長室のドアが開き、2人入ってきた。

 

「どれ、なかなか面白い話をしてるじゃないか。法螺吹き娘の成れの果てでも眺めてやるか」

 

「こんばんは」

 

 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルと絡繰茶々丸の2人であった。

 

「チャチャマルだー! ビーム出してビーム!」

 

 ツナミがはしゃいでいた。そして、千雨はちょっとお怒りだった。エヴァンジェリンの言葉に過去のトラウマを刺激されたせいだった。

 

「法螺吹き娘、だと!?」

 

「私を相手に反抗的だな、貴様」

 

「うっせーな、こっちはザジが付いてるんだぞ!」

 

 千雨の一言に学園長の目がぴくりと動いた。

 

「……ピエロがどうした?」

 

「ザジはマクダウェルよりも妖の血が濃いからな!」

 

 ふふん、と勝ち誇った顔をする千雨と、それを唖然として見ているエヴァンジェリンが向き合っていた。

 

「なん……だと? ジジイ!?」

 

「……ノーコメントじゃ」

 

 学園長の反応を見て、千雨が言うことがあながち間違いではないということに気付いたエヴァンジェリンが額を押さえた。

 

「……まぁいい、続けろ」

 

 手をひらひら振って千雨に続きを促した。

 

「何を?」

 

 あっけらかんと疑問の声を出した千雨を見て、エヴァンジェリンがぽかんとした。エヴァンジェリンだけでなく、ツナミ以外の全員がぽかんとしていた。

 

「……あずきバー、みんな食べるかのう?」

 

「「食べる!」」

 

 千雨とツナミはようやくあずきバーにたどり着いた。

 

「鬼が出たりもしたけれど、私は元気です」

 

「食べろ」

 

「かたっ! 駄目だ、今日も勝てなかった……」

 

「よし! 私の勝ちー」

 

 あずきバーの堅さに敗北した千雨と勝利したツナミ、そしてなんだかもう面倒くさくなっている刹那と龍宮、怪我人もなく一安心した学園長と高畑、かっこつけて登場した割に大した見せ場もなくあずきバーを囓っているエヴァンジェリン、そして受け取ったからにはと、とりあえず囓ってみる茶々丸、これもまた麻帆良の風景であった。




あのクラスの面々がパクティオーして出て来たアーティファクトを考えると、先祖に妖がいてもおかしくないキャラが何人もいそうなので、説明回が長くなりました。
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