フォーサイスより愛を込めて(魔法先生ネギま!×EVOLIMIT)   作:瓶缶ペットボトル

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説明回もこれで一旦終了です。


2001年5月1日(3)

「チサメ、まるっとお見通しだぁ! の続き」

 

 あずきバーを食べ終わり、ほうじ茶を飲んでほっと一息吐いたところで千雨はハッと気が付いた。

 

「そうだった! うちのクラスには人妖が集まりすぎている! 明らかに作為的なあのクラスはどういうわけなんだ!?」

 

 全員が溜息を吐きながら、続きをやるのか、と呟いていた。

 

「じゃから、人妖を集めたわけじゃないと言うとるじゃろ?」

 

「だったら、なんなんだ、あのクラスは!? 偶然ではあり得ない、何が目的だ!」

 

「そうだ、それを聞きにわざわざ隣の部屋から出て来たんだ。さぁ、ジジイ、吐いてもらおうか」

 

「あれ、マクダウェル達ってアイス食べに出てきたんじゃないのか?」

 

「違うわ!」

 

「うーむ、あんまり生徒には聞かせられん話なんじゃがなぁ」 

 

 ひげをいじりながら学園長が渋っていた。

 エヴァンジェリンが目を細めて学園長を睨み付けていた。

 部屋の中の温度が一気に下がったように刹那と龍宮は感じていた。学園長と高畑は少しだけ冷や汗を垂らしていた。

 千雨とツナミはいつもと変わらない顔で座っていた。

 

「なんだよ、マクダウェル。目つき悪いな、ちったぁ愛想良くしろよ」

 

「貴様は人のこと言えんだろーが!」

 

「イェーイ!」

 

 ぱちーん、と千雨とツナミがハイタッチを交わしていた。エヴァンジェリンはそんな2人を見て頭を抱えていた。

 

「刹那、私は胃が痛くなってきたんだが」

 

「私も早く帰りたい」

 

 龍宮と刹那が囁き声で会話をしていた。

 

「まぁ、他の者に言いふらさないようにしてくれるなら構わんか。可能性の話じゃが、孫の木乃香はもしかすると将来この椅子に座ることがあるかもしれん、雪広君は財閥を背負って立つかもしれん、那波君も親の会社を継ぐことがあるかもしれん。この3人の将来のために最も必要なことはなんじゃ?」

 

 学園長がぐるっと生徒達の顔を見た。

 

「金を集める力」

 

 千雨が学園長と目が合った瞬間に答えた。

 

「正解ー!」

 

 ツナミが両手を挙げて同意した。

 

「ち、違うぞい! 多種多様な価値観に対する寛容さじゃよ! 金の稼ぎ方を教えるのはもっと後じゃ!」

 

 学園長が焦った声で否定した。

 

「なんだよ、違うのかよ」

 

「違うみたい」

 

 千雨とツナミが顔を見合わせていた。

 

「おいジジイ! こいつらの言うことにいちいち反応するな! さっさと答えろ!」

 

「じゃから、多種多様な価値観の生徒を集めたんじゃ……あとは察してくれんか?」

 

「察しろ、だと! いいから答えろジジイ!」

 

「あー、もう分かった分かった! ショックを受けるかもしれんから言いたくないんじゃが……トラブルメイカーや問題児を集めたクラスなんじゃ!!」

 

 学園長の言葉で生徒達の頭の上に稲妻が落ちた、もちろん幻だが、精神的な衝撃はそのようなものだった。

 

「「納得した!」」

 

 千雨とツナミが他の生徒の顔を見ながら声を揃えた。

 

「おい待て、私を見るな」

 

「こっちを見ないでください」

 

「貴様ら、馬鹿にするのもいい加減にしろよ!」

 

 茶々丸だけはピースサインを出していた。

 学園長が何か良からぬことを企んでいたのではないかと心配していた高畑は少しだけ安心したように溜息を吐いた。

 

「まぁ安心しろよ、てめぇら3人は学園長がフォロー役で用意してる、はずだ。だから問題児じゃ……ないとは言えない気がするけど、まぁそう思っとけよ」

 

「面倒くさいが……私達はそれでいいとしよう。だが、長谷川とカラニコフは問題児なんだろう?」

 

「違うよ。私とツナミとザジは問題児達に振り回される一般人被害者だから」

 

 千雨は何を馬鹿なことを言ってるんだ龍宮は、という雰囲気のまま否定した。

 

「常識人はツライ」

 

 やれやれ、とツナミが肩を竦めていた。

 

「ちょっと待って下さい! それはずるいです」

 

「刹那、諦めろ。私は分かった、この2人を見て納得したよ」

 

「貴様らふざけるのも大概しろよ」

 

「そう言うなよ、マクダウェル。あんたらは慣れてるのかもしれないけど、ツナミは今日初めて鬼を見たんだぞ。ドラゴンボールみたいな気は使えるくせに普通に気を使えないのかよ。ちょっとは気を使え」

 

「……む」

 

「そういえば……」

 

「はぁ……雰囲気に飲まれて忘れてたな」

 

「んー? 私は大丈夫だよ。前にホッキョクグマ見たときとあんまり変わらなかった。チサメこそ、足震えてるよ」

 

「ツナミにはバレてたか……安心したら震えだしたんだよなー、前の時もそうだったからそのうち治るだろ」

 

 気にすることなく普通に話す千雨を見てツナミ以外が唖然としていた。

 少しくらいは大目に見ないといけない、少々の失礼くらいは受け入れなければならないと誰もが感じていた。

 

「話を続けてもいいかな?」

 

 学園長が千雨に気を使って優しく話しかけた。

 

「ん? あぁ、いいんじゃないですか?」

 

 答える千雨はいつもと変わりなかった。

 

「チサメの推理外れまくってたよー」

 

「そういう日もある」

 

「長谷川君、人妖の可能性がある子達について教えてくれんか? 何かあったらすぐフォローできるようにしたいんじゃ」

 

「ん? あぁ、村上、明石、朝倉、大河内、椎名、超、早乙女、宮崎、那波、絡繰、くらいかな」

 

「多すぎやせんか!?」

 

「えっ、そんなに!?」

 

 学園長と高畑が驚いていた。

 

「だからそう言っただろ! わざと集めなきゃ集まらないだろーが!」

 

「うーむ……確かにそうじゃのう。それで、長谷川君は何故人妖を見分けられるんじゃ?」

 

「人妖の知り合いが沢山いるからいつの間にか分かるようになってた」

 

 ごくごく当たり前な世間話の続きのように話していた。

 

「は? 人妖と知り合う機会なんかないじゃろ?」

 

「何言ってんだよ、神沢市なんてすぐそこじゃねーか」

 

「行ったことがあるような言い方をするのう」

 

「ほとんど毎週行ってたっつーの!」

 

「……うーむ、長谷川君は神沢市に親戚でもいるのかのう?」

 

「いないけど」

 

「どうやって神沢市に入ったか教えてくれるかのう?」

 

「最初は迷い込んだだけです。そんでー、歩いてたらばかでかい家に着いて、家まで送ってもらった。んで、次の週にお礼を言いにもう1回行った。その後から休みの日はずっと行ってたな」

 

「いつ頃の話かな?」

 

「小学校1年だったかなー」

 

「……うーむ、分かった。神沢に行き来できるなら人妖を見分けられるのもあり得るかもしれん」

 

「どういう意味なんだ、それ」

 

「神沢市は部外者が入れないようになっておるんじゃよ。中にいる人妖の力で都市全体が迷ヒ家になっているせいで、何度も行き来できないはずなんじゃ」

 

 千雨は目を閉じて学園長の言葉を考えていた。

 

「……そういうことか。分かった分かった、今分かったから、うんうん。じゃ、ツナミ、帰るぞ」

 

「チサメ? 私はよく分からないよ」

 

「帰ってから説明するって」

 

 千雨が立ち上がってドアの方へ歩き始めた。

 

「じゃ、龍宮、桜咲、マクダウェル、絡繰、また明日なー。歯磨けよー、宿題やれよー、風呂入れよー」

 

「ちょ、ちょっと待つんじゃ。話はまだ終わっとらんぞい」

 

「あ? そうなのか。私からはもうないですよ」

 

 ドアの前から戻ってきてまた元の席に座り直した。

 

「それもさっきやってたよ」

 

「鬼を倒したことについても説明してくれるかのう」

 

「説明って言われてもなぁ。神沢市で武術を学んでただけだけど」

 

「鬼を見ても冷静だったようにも見えたけど」

 

「だから、神沢市で妖を相手に生き残るための武術を学んでたんです。うちの師匠がお前は覚えておけって、必ず必要になるときがくるからって。お前はいつか必ずトラブルに巻き込まれる。お前がトラブルに巻き込まれたときは間違いなく命の危険がある。生き残るために覚えろって。そういうことなんでしょう?」

 

「うむ。良き師匠に恵まれたようじゃな」

 

「才能には恵まれなかったがその分師匠には恵まれてる、っていつも言われてましたから。ツナミと私が無事だっただけでお釣りが来るくらい役に立ったな。今日ほど師匠に感謝した日はないよ。じゃ、歯磨けよー、宿題やれよー」

 

「風呂入れよー」

 

「「じゃ」」

 

「おい待て、一つ聞きたいことがある。正直を答えろ、嘘をつけば分かる」

 

 千雨とツナミが椅子に座り直しながらエヴァンジェリンの方を向いた。

 

「やだ」

 

 千雨が普通に断った。

 エヴァンジェリンの目が吊り上がった。

 

「ああん? 反抗的だな、長谷川千雨」

 

「ちょ、ちょっと待つんじゃエヴァ」

 

 学園長が慌ててエヴァンジェリンを落ち着かせようとした。

 

「黙れジジイ」

 

「その調子だジジイ。宿題の答えは教えてやらねーからな、絡繰に教えてもらえ」

 

「茶々丸は国語は苦手だったはずだからジジイに聞けば?」

 

「そんなことが聞きたいんじゃない!」

 

「あの……何度も言おうと思っとったんじゃが、長谷川君とツナミ君、ジジイ呼ばわりはやめてくれんか」

 

 学園長の言葉をスルーして千雨が続けた。

 

「違うのか……神沢市の場所は教えられないぞ? 教えるなって師匠に言われてるからな」

 

「それも違うわ!」

 

「他に何かあるか?」

 

 千雨がエヴァンジェリンではなく、ツナミに訊いた。

 

「んー、分かんない」

 

「いいから答えろ、人妖は人間か、それとも化け物か?」

 

「「!?」」

 

 エヴァンジェリンの言葉に刹那と龍宮の顔が引きつった。

 

「人間に決まってるだろ、馬鹿か?」

 

「ほう? 神沢市に出入りしてるだけあって即答とはなぁ」

 

「当たり前だろ……あ、ツナミはキリスト教徒か?」

 

「んー? 違うよ? 空飛ぶスパゲティモンスター教!」

 

「なにそれ、美味しそう」

 

「えー、チサメ知らないのー? この世界は空飛ぶスパゲティモンスターが作ったの。大酒を飲んだ後二日酔いのときに作ったから私達は不完全なんだよー」

 

 千雨が腕を組んで考え始めた。

 

「…………凄くいいな!」

 

「スパゲティモンスター神が最初に作ったのは山と木と小人!」

 

「海は?」

 

「スパゲティモンスター神が寝てるときに垂らしたよだれ!」

 

「……いいな。見えざるピンクのユニコーンよりもかっこいい!」

 

「そっちは知ってるのになんで空飛ぶスパゲティモンスターは知らないのー」

 

 エヴァンジェリンが痺れを切らした。

 

「真面目にやれ! 殺すぞ!」

 

「……ごほん。桜咲と龍宮にはさっき話したけど、人間なんて10代遡れば先祖に妖の一人や二人入ってるもんだろ。つーことは人間と人妖なんて大した違いなんてない。ほとんどの人間は潜在的には人妖なんだからさー」

 

「……お前の間違いを一つ正しておく。お前流に言えば私は人妖じゃなくて妖だよ」

 

 千雨がエヴァンジェリンの顔を見て首を傾げた。

 

「不思議そうな顔をするな!」

 

 何度も首を傾げながら、たまに刹那と龍宮を見て、またエヴァンジェリンを見た。

 

「うーん……うーん……うんうん、違うぞ?」

 

 結論が出たのか、千雨はエヴァンジェリンの言葉を否定した。

 

「エヴァンジェリン、違うってよ?」

 

 ツナミが優しく、間違ってるよ、とエヴァンジェリンを見て言った。

 

「違わないわ! なんなんだ貴様らさっきから! こっちが真面目に話してるというのに」

 

「これから私が核心を突いた(クリティカルな)質問をする。なんなら私以外は席を外してもらうか?」

 

「構わん! 聞け!」

 

「年いくつだ?」

 

 刹那と龍宮の2人が吹き出した。高畑は頭が痛そうに目元を押さえて、学園長は面白そうに千雨とエヴァンジェリンを見ていた。

 

「おちょくってんのか貴様! 縊り殺すぞ!」

 

「マスターは御年630歳になります」

 

「茶々丸! お前も答えるな! 後で巻いてやる!」

 

「サンキュー、絡繰……あっ! なんでロボが学校通ってんだよ! なんで誰もつっこまねえんだよ!」

 

「今更何言ってるのー?」

 

「情操教育の一環です」

 

「真面目にやれ! 殺すぞ!」

 

「まっ、630歳なら仕方ないかもしれないなぁ」

 

 千雨が1人だけ分かったような顔で頷いていた。

 

「何一人で納得してるんだ貴様は! 何がクリティカルな質問をする、だ! 縊り殺すぞ!」

 

「きゅっ、とな」

 

「そう、きゅっ、とその首を…………ツナミ・カラニコフ! 貴様から先に殺されたいようだな!」

 

「待てよ、マクダウェル」

 

「なんだ!」

 

「人間として生まれたこと覚えてないのか? 人妖として初めて力を使うまで普通の人間として生きてたときのこと、もう覚えてないのか?」

 

「覚えてるわ!」

 

「はあぁ?」

 

 千雨が意味が分からないという顔でエヴァンジェリンを見ていた。

 

「ああん? なんだその顔は」

 

「それじゃ人妖だろ、何言ってんだ。人間として生まれ育ったなら人妖だろ」

 

「違うわ!」

 

「ん? うーん……うーん……妖の血でも飲んだのか、飲まされたのか?」

 

「……似たようなものだ」

 

「ああ、そういうことか。後天的人妖か! 血が濃いのも納得だ。珍しいな」

 

「やっと分かったようだな。私が純粋な妖だということが」

 

「いやそれは違う」

 

 手をエヴァンジェリンの顔の前でひらひら振って否定した。

 

「違うってよ?」

 

「違わないって言ってるだろうが! ジジイ、タカミチ、説明してやれ!」

 

 千雨と話が通じないことに苛立ったエヴァンジェリンが学園長と高畑に怒鳴った。

 

「えっ、儂?」

 

「僕にも荷が重いなぁ」

 

 2人は呆れながら苦笑いをしていた。

 

「セツナー、マナマナー、懲らしめてやりなさい!」

 

「えっ!?」

 

 うわっ、こっちに飛んできた、と刹那が驚いた。

 

「ここで私に振るのはやめてくれないか。この二人今すぐ窓から突き落としたい……それか私が帰りたい」

 

 龍宮が頭を押さえながらぶつぶつ言っていた。

 

「この紋所が目に入らぬかー、カカカカ」

 

「チサメー、私が御老公なの!」

 

「分かったよ。ごほん……こいつはうっかりだ」

 

「茶々丸のお風呂シーン、スタート」

 

「お色気シーン入るタイミングおかしくない?」

 

「馬鹿にしてんのか、さっきから貴様ら! よほど命が惜しくないようだな!」

 

「まぁ落ち着けよ、真面目な話だ。マクダウェル、あんたちょっと気が短いぞ」

 

「背も低いしなー」

 

「お前が言うな! 同じようなものだろ!」

 

「いや頭一つ分違うんだから同じようなもんじゃないだろ」

 

「スパゲティモンスター神のせいだから。私の背が低いのはスパゲティモンスター神のヌードル触手に頭を押さえつけられてるからなの。マナマナー達はスパゲティモンスター神のヌードル触手の数が足りなくて頭押さえられてない、ずるい」

 

「そうだったのか。すくすく育ったな……でかっ!? 龍宮、ここだけの話……サバ読んでるんだよな?」

 

「ほう、命が惜しくないようだな」

 

 龍宮が千雨の言葉に青筋立てながら銃とちらつかせていた。

 

「それさっきマクダウェルとやったから! 銃しまってください、お願いします」

 

「これこれ、みんな落ち着くんじゃ」

 

「長谷川千雨! 龍宮真名に対してその態度はなんだ!」

 

「え? だって銃とか怖いだろ。なんか龍宮に凄まれると財布出さないと駄目かなぁって」

 

「ちょっとそこでジャンプしてみろ。はい、マナマナー、言ってみて」

 

「ちょっとそこで――」

 

「言わんでいい!」

 

「みんな落ち着いて。長谷川君とカラニコフ君はふざけない。エヴァもそんなに怒らないで」

 

「「はーい」」

 

 千雨とツナミが高畑の言葉に素直に返事をした。

 

「ちっ」

 

 エヴァンジェリンは舌打ちをしながらも口を閉じた。

 

「え、え? なんで高畑君の言うことは聞くんじゃ? え、儂も同じこと言ったよね?」

 

 学園長が皆の顔を見回しながら同意を求めたが、誰も学園長に同意しなかった。

 

「はい、皆さんが静かになるまで45秒かかりました」

 

「校長先生! つーことは、学園長はクビ!」

 

「なんじゃとっ!?」

 

 学園長が瞠目した。

 

「カラニコフ君、長谷川君、これ以上ふざけないでね?」

 

「ごほん。あー、それでさっきの話の続きだ。マクダウェルは狭間の者とか狭間に生きる者っていう奴だろ?」

 

「……貴族のことまで知ってるのか?」

 

 疑惑の目を向けるエヴァンジェリンと普段と表情の変わらない千雨が向き合っていた。

 

「いや? うん、貴族? そんなのは知らない」

 

「また話噛み合ってないよ? チサメ、ちゃんと説明しなきゃ駄目だよ」

 

「妖の血を飲んだ人間のほとんどは死ぬ。妖の血は人間にとっては劇薬と一緒だからな。それでも、ごくわずか生き残る人間もいる。マクダウェルは生き残ったんだろ?」

 

「ああ、それがどうした?」

 

「生き残った人間は人妖になる。先祖由来ではない後天的な人妖のことを狭間の者とか狭間に生きる者っていう呼び方をする」

 

「ジジイ!」

 

「あー、長谷川君の言ってることは本当じゃよ。ただし、実在しないという但し書きがつくんじゃが」

 

「いや、それはあれだろ? 日本には自らの血で人間を人妖にする妖がいないからだろ? 世界的に見れば狼男(ライカン)とか吸血鬼(ヴァンパイア)とかいるしな。狭間の者には他の人妖にはない特徴があって、一つは親となった妖よりも強い力を持つこと、これは親となった妖の種族を単独で滅ぼせるレベル。二つ目が親となった妖に対する無条件の憎悪、これは人間的感情の名残と考えられている。この二つの特徴から、狭間の者に滅ぼされた種族も多いらしくて、妖の中では絶対的なタブーになっている、らしい。まぁ、もちろん例外もあって、人間を後天的に人妖にすることで種族を増やす妖もいる。マクダウェルは親の妖を殺したのか?」

 

「私を妖にした奴という意味なら……ああ、殺したが」

 

「それじゃ問題なし。これから自分と同じ人妖を増やす予定とかあるか?」

 

「ないな」

 

「よし、全く何も一つも問題なし。マクダウェルは人妖、つまり人間」

 

証明終了(Quod Erat Demonstrandum)!」

 

 ツナミの言葉と同時に千雨とツナミが立ち上がった。

 

「それじゃまた明日。歯磨けよー」

 

「宿題やれよー風呂入れよー」

 

「「じゃ」」

 

「さようなら。長谷川さん、カラニコフさん」

 

 帰りそうになる2人を学園長が引き留めた。

 

「これこれ、待つんじゃ二人とも!!」

 

「え? まだ何か?」

 

「むー、帰れると思ったのに」

 

 ツナミが頬を膨らませた。

 

「3回目ともなると、あれやってみたくなってこないかい?」

 

「す、少し。お嬢様とやってみたい」

 

 龍宮と刹那が囁き声で会話していた。

 

「二人とも、今日のことは」

 

「ああ、喋らないですよ。どうせ誰も信じないんだから」

 

「秘密秘密ー」

 

「おい、長谷川千雨」

 

 いつの間にか静かになっていたエヴァンジェリンが千雨に声をかけた。

 

「あ? 何、まだ何かあるのか?」

 

 エヴァンジェリンが千雨からそっぽを向きながら静かに口を開いた。

 

「私は吸血鬼だ」

 

 千雨が斜め上の方を見ながら考え込んだ。

 

「……え、太陽が弱点じゃないの?」

 

「克服した」

 

「おめでとう。拍手、いる?」

 

「ぱちぱち」

 

「いらん! 私は人の生き血を啜る化け物だと言ったんだ」

 

「トマジューで我慢しとけよ」

 

「ま、私ほどになれば血を飲まずとも問題ないがな」

 

「我慢できなくなったら私の分けてやるから注射器用意しとけよ」

 

「特性麻雀牌もなー、ざわっ……ざわざわ」

 

「貴様ら本気で一度死んでみたいようだな」

 

「いやマジな話」

 

「私はヤダからチサメで我慢してー。じゃっ」

 

「…………」

 

 無言のまま帰ろうとする千雨に視線が集まっていた。

 

「チサメー、言わないの?」

 

「うん、もういいかと思って」

 

「言えよ」

 

「言ってください」

 

 龍宮と刹那の反応は早かった。

 

「ごほん。歯磨けよー」

 

「…………」

 

 ツナミがそっぽを向いて歩き始めようとしていた。

 

「ツナミは言えよ!」

 

「ごほん。宿題やれよー、風呂入れよー」

 

 そのまま千雨とツナミはドアの前まで歩いた。ツナミの後ろを歩いていた千雨が後ろ手で日傘をクルクルと回した。

 

「なんだ? まだ何か用か?」

 

「ほう?」

 

「なんだこれ。糸か何かか?」

 

 日傘で弾いたものが何なのか見えないまま手応えだけで口に出した。

 

「見えてないのに捌けるか、なぜ分かった?」

 

「勘だ」

 

「ドラ一枚めくってー」

 

「いやだから、これも持ちネタみたいになってるじゃねえか」

 

「チサメ、ごにょごにょ」

 

 ツナミが千雨の耳元で何かを囁いた。

 

「……ごほん。嶺上開花(リンシャンカイホウ)!」

 

「「「「「…………」」」」」

 

 全員が無言だった。

 

「ぐー!」

 

「ぐーじゃねえよ! 滑ってるじゃねーか!」

 

「1000点です」

 

 茶々丸が点数の計算結果を発表した。

 

「そんなに面白くないだろ!」

 

「いえ、嶺上開花のみですので」

 

「あと一個はカンが欲しかったかも」

 

 千雨が信じられない顔で茶々丸を見ていた。

 

「絡繰、お前冗談とか言うのな」

 

「チャペックの親戚だから」

 

 ツナミが答えていた。

 

「納得した! 心から納得した!」

 

「チサメ、次は勘の代わりにこう言って」

 

「そう囁くのよ、私のゴーストが。ってツナミもなかなか話せるな。やっぱ海外の方が評価高いのかなぁ」

 

「うん? 日本だと人気ないの?」

 

「ああ、私は好きなんだけどな」

 

「チャペックが外で待ってるから乗って帰る!」

 

「いいのか? 助かるよ」

 

 そのまま2人は学園長室を出て行った。

 千雨とツナミが出て行った学園長室はさきほどまでとは打って変わって静かであった。

 そんな中、エヴァンジェリンが茶々丸を見ながら口を開いた。

 

「茶々丸、一回整備してもらってこい」

 

「実は、私はちょっとだけ面白かったんだが」

 

「深夜だからだろう」

 

 刹那と龍宮が囁き声のまま会話をしていた。

 

「お前達二人は良かったじゃないか。バレた相手があの二人で」

 

「む」

 

 龍宮が険しい顔つきになっていた。

 

「そういえば、そうでしたね」

 

 刹那が目を閉じて頷いていた。

 

「エヴァだってそうだろう?」

 

「フン。で、なんであいつら、魔法のことを一言も聞かなかったんだ? 本当に魔法があることを信じてないのか?」

 

「うーむ、どうやらそうらしいのう」

 

「良かったのか悪かったのか」

 

「それで、長谷川千雨のことは分かった。が、ツナミ・カラニコフ、あいつは何者だ?」

 

「ほう、長谷川君に認識阻害の類が一切効いていないことにも気付いとったか」

 

 エヴァンジェリンと学園長が顔を見合わせた。

 

「……そうなのか?」

 

「そうじゃよ。神沢市は世界一強力な認識阻害と意識誘導の結界に包まれとるからのう。まさか自力で行き来できる人間がおるとは驚いたのう」

 

 フォフォフォ、と笑いながら学園長がひげを撫でた。

 

「……長谷川千雨のことは分かった。が、ツナミ・カラニコフ、あいつは何者だ?」

 

「何者って、クラスメートじゃろう? しかも席隣同士じゃろ?」

 

「確かお二人はルームメイトのはずですが」

 

「刹那は気付かなかったのか?」

 

「なに?」

 

「ツナミ・カラニコフも私の糸に気付いていたぞ。長谷川千雨が日傘で全部捌いてしまったがな」

 

「えっ!?」

 

「ツナミちゃんはのぅー、良い子だと思うぞぃ」

 

「そういうことを聞いてるんじゃない!」

 

「調べても何も出てこなかったんだよ」

 

「何も?」

 

「ああ、何もじゃ」

 

「大丈夫なのですか?」

 

「うむ、問題ないじゃろう。むしろ学園の運営という側面で見れば、手放したくない生徒の一人じゃよ」

 

「なんだ? 寄付でもしてるのか?」

 

「いんや。ツナミちゃんはある一分野において世界最高の学者じゃからな」

 

「シアノバクテリアの研究では世界一の生物学者なんだ」

 

「世界一!?」

 

「葉加瀬みたいなものか」

 

「学術レベルは超と同等、生物学という分野では超を超えています。技術系統上では私の兄にあたるチャペックの管理者でもあります」

 

「あのー、シアノバクテリアって何ですか?」

 

 刹那が聞いたこともない単語について質問した。

 

「うーむ、高畑君」

 

 学園長は高畑に丸投げした。

 

「えーと、僕もあまり詳しくなくて。光合成をするバクテリア、だったかなぁ」

 

「カラニコフさんの目指しているものはシアノバクテリアの人工養殖モジュールの開発です。その用途は月などへの移住です」

 

「は? え?」

 

「スケールの大きな話だな。超の世界全てに肉まんを。が簡単に見えてくるよ」

 

「月に住んで何になるんだ? 理解に苦しむな」

 

「カラニコフさん自身は火星のテラフォーミングが夢であると語っており、最初の入植時には火星上に酸素を作るシアノバクテリア養殖モジュールが必要になるそうです」

 

「だから、火星に行って何になるんだ?」

 

「ロマンだそうです」

 

「カラニコフさん、変わってますね」

 

「案外、超と葉加瀬もいるから出来てしまうんじゃないか」

 

「打ち上げ目標は2040年です。超と葉加瀬の協力次第では前倒しが可能です」

 

「お、おう、頑張ればいいんじゃないか、うん」

 

「火星開拓団の名前は災害の猿たち(カラミティ・モンキーズ)と既に決まっています」

 

「うん、分かった、分かった」

 

「旗印はくるくる巻いたしっぽの上に座って、上を向きながら自分の喉元をナイフで貫きながら笑う猿です」

 

「分かったからもういい。それで、ツナミ・カラニコフは何者なんだ?」

 

 学園長と高畑が不思議そうにエヴァンジェリンを見た。

 

「うむ?」

 

「分からないって言ったじゃないか」

 

「結局分からないのか!」

 

「そうじゃ。でも気にしても疲れるだけじゃよ。入学前に面接したんじゃがあの通りじゃ」

 

「シアノバクテリアが可愛いという話だけで面接時間1時間以上オーバーしたからね」

 

「一緒に面接を担当した明石君なんか大学の生物学科の教授に招きたいと言い出す始末じゃ。まぁ、ツナミちゃんがヤダ中学校に通いたいというから明石君も納得してくれたが」

 

「ああ、もういいもういい。お前たちちょっと危機感が薄いんじゃないか、うん?」

 

「そうかのう?」

 

「カラニコフ君は長谷川君に懐いているみたいだからね。僕達は心配してないんだ」

 

 学園長と高畑がのほほんと答えていた。

 

 大人の事情を鑑みれば、崩壊が近づく魔法世界(ムンドゥス・マギクス)を救うことが出来る可能性を持った生徒の一人として、ツナミ・カラニコフは認識されていた。行方不明になる前にナギ・スプリングフィールドが雪広財閥へ打診した火星のテラフォーミング計画。当時は科学技術的な問題で不可能だったが、今年度に入った途端、不可能が可能になる光が見え始めていた。既に麻帆良の最強頭脳との呼び声高い超鈴音、天才少女として麻帆良大学工学部へ小学生のときから出入りしていた葉加瀬聡美、そして火星テラフォーミング計画の最初から終わりまで全て知っているかのような計画を既に立てているツナミ・カラニコフ。もしかしたら、間に合うかもしれない。未だにまともな解決策が一つも出てこない中で、魔法使いではなく、科学者がその解決策を出した。だからこそ、学園長は殆ど素性が不明だった超鈴音とツナミ・カラニコフを1-Aの生徒とした。出る杭を打たないどころか出る杭を伸ばし続けるためのクラスへと。火星のテラフォーミングというあまりに大きすぎる夢を、ツナミ・カラニコフが諦めてしまうことがないように、と。そして、その夢を出来るだけ早く叶えて欲しい、と思いながら。

 

「学園長、そろそろ帰ってもいいかな? 話ももうないみたいだし」

 

「あ、私も失礼します」

 

 龍宮と刹那が立ち上がった。

 

「今日は遅くまで御苦労じゃった」

 

「残業代分の振り込みも頼むよ」

 

「ちゃっかりしとるのう」

 

「「…………」」

 

 刹那と龍宮が無言のまま互いをちらりちらりと見ていた。

 

「刹那、言っていいぞ」

 

「龍宮が言え」

 

「桜咲さん、龍宮さん、また明日。歯磨けよー、宿題やれよー、風呂入れよー」

 

「茶々丸! お前ほんとに一回整備してもらえ!」

 

「おかしいです、マスターが笑ってくれません。マスターの情報を更新しました。ユーモアセンス、皆無。超と葉加瀬にその場に合わせたジョークを言う(ファジーリアクション)プログラムの更新を申請します」

 

「茶々丸!?」




茶々丸はチャペックの妹ということで。

超鈴音があのクラスに配属されていたのは、超鈴音のオーバーテクノロジーに学園長が期待していたからではないか、と思いまして。というわけでツナミ・カラニコフがあのクラスにいる理由も同じです。


原作前から始めると原作開始が遠いものだなぁとしみじみ思いました。
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