ふと思い付いただけの物、息抜きの息抜き。閲覧は自己責任でお願い致します。
食事中、黒いアイツが嫌いな方は、絶対に見ないでください、いいね?
俺は社会的に見れば、普通の男子高校生なんだろう。
普通の家に生まれ、普通の学歴を保ち、普通の学校を卒業し、普通の高校に入学した。
なんとなく始めたアルバイトは適度にしている、なんとなく入った部活にも適度に顔を出している。
どこからどう見ても普通、何の特別な点も無い、しかし俺は一つだけ、人とは違う点があった。
「ギャーーッッ!?出たァーッ!!」
それは、ゴキブリが異常な位嫌いだと言う事。
世の中にはゴキブリを嫌う人は多いだろう、むしろ好きな人はちょっとおかしいと思う。
だが俺ほどゴキブリを嫌う男子高校もそう居ない。
見るだけで全身に怖じ気と鳥肌が走る、下手をすると気絶する、その位、大嫌いだ。
だから夜中、自室に現れたこの黒光りする悪魔を野球部絡みで買った金属バットで叩き潰しても、きっと神様は許してくれるだろう。
さあ、この天高く掲げられた金属バットに跡形もなく粉砕されて消えるが良い、悪魔め。
「やめなさい、人間」
ふと、透き通った男前な声が俺を呼び止めた。
何かと思って辺りを見回す、誰も居ない?
「ここです、ここ」
どうやら声は目の前から聞こえたようだ。
しかし目の前には忌まわしい黒いガンダムのみ。どういう事だ、まさか神様が怒っているのか?
「私です、あなたの目の前の私が止めました」
ゴキブリが俺をガン見している、ワハハ。
そんな馬鹿な、ゴキブリが喋る訳が無いだろう。
おかしいな、俺は疲れているのだろうか。
「精神科行った方がいいかなぁ」
「人間、これは現実です。幻覚ではありません。
私を潰すのはお止しなさい、それは悪行です」
「うわァーーッッ!?」
思わず振りかぶった金属バットを降り下ろした。
金属バットは派手にゴキブリが居た場所に命中、間違いなくこの悪夢は終わった、そうに違いない。
「全く、人間は進化する度に野蛮になる」
・・・何かが、俺の頭の上で喋っている。
「私のIQは300です、無駄な抵抗はやめなさい」
「・・・はぅ」
前髪にぶら下がったゴキブリの腹を見て、俺の意識は暗闇へと沈んでいった。
次の日、俺は普通にベッドから起床していた。
どうやら夢だったらしい、本当に良かった。
「人間、土曜日の朝ですよ」
・・・ベッド脇の机にゴキブリが居る。
「お前・・・ッ!?いや、それよりだ、お前、どうやって俺をベッドに運んだ?」
「私のIQは300です。あなたが倒れる位置を予測し、ベッドに倒れるよう気絶させるなど造作も無い」
触角をクイクイ動かしながら喋るゲテモノ。
何だか物凄い事を言ってる気がするが、とりあえず、悪夢である事は確かだ、間違いない。
ガッコウノカダイヤロー、ヘイジツサボッタカラー。
「人間、その資料の山は課題ですね。
この量を一日でやるとは、正気の沙汰では無い、一日に少しずつ処理するのが基本でしょう」
なんでゴキブリに説教されなきゃならないんだ?
机の脇で、触角を動かしながら作業を見てやがる。
悪夢だ、全身の鳥肌が止まない、誰か助けてくれ。
・・・もー嫌だ、気晴らしだ、気晴らし、我が机には秘蔵の書物が眠っている。
男子高校生なら誰もが持っている筈だ、割といかがわしいアレな漫画とかな!
それを取り出して、パラパラと捲っていく。
もはや反応もしないが、気晴らしにはなる筈だ。
「人間、そんな物を読んでいる暇はありません、手早く課題を終わらせるべき、そうでしょう」
「うるさいな、ゴキブリが説教するなよ」
機嫌悪く本を顔に被せ、椅子に寄りかかる。
もういっそ寝よう、寝たらこいつも消える筈だ。
「人間、実は我々の〈ソレ〉にも前戯があります」
・・・は?突然このゴキブリは何を言い出す?
「我々も〈ソレ〉の際は(規制)や( 規 制 )があります、本当ですよ。
我々は何億年も前から進化を辞めています。
分かりますか?あなた達の〈ソレ〉は所詮、我々ゴキブリの真似ご」
「うわァァァッ!?やめろ、やめろォォッ!」
とんでも無い事を言い出したゴキブリに怒鳴り顔に被せていた本を投げ捨てた、冗談じゃないぞ。
「人間、読書はおしまいですか?
では課題に取り組みましょうか」
クイクイと愉快そうに触覚を動かすゴキブリ。
金属バットで叩き潰そうとして、やめた。
攻撃しよう物なら、こいつは間違いなく俺のSAN値を削る行動を取るに決まっている。本当に精神科送りにされるなんてゴメンだ。
しかし課題をやらねばどちらにせよ精神汚染を何の躊躇も無く容赦なくしてくるだろう。
やらねば。やらねば、俺は狂死してしまうだろう。
必死になって課題に取り組んだ、かつて無い集中だった、努力であった。
気が付くと課題の山は消えていて、外は最早真昼時になっていたのだった。
「・・・終わった」
「人間、お疲れ様です。課題は消えました」
ゴキブリが俺の真正面に移動して触覚を動かす。
もう見慣れてしまった、目の前に居ても、頭がぼんやりするだけで、何も感じない。
「これで、あなたは休みを自由に過ごせます
おめでとうございます。では、私はこれで」
「待てよ、何でこんな事をしたんだ?」
立ち去ろうとするゴキブリを呼び止めて、俺に課題を強制した理由を尋ねてみる。
するとゴキブリはくるりとこちらに向き直り、触覚を動かして、こう言った。
「私は、あと一日で寿命が尽きてしまいます」
「は?」
「だから、何かを残したかった、この私が。
生きていた事を、誰かに覚えていて欲しかった。
人間、あなた達が羨ましくて仕方無い。
どんな生き物よりも自由で、未来があって、同じ進化の袋小路の身でありながら、宇宙にすら羽を伸ばすあなた達が、羨ましい、100年も生きられるあなた達が、羨ましい。
だから、我々を覚えていてください。
いつまでも、宇宙に旅立っても、共にコンクリートの塊の中で過ごした憎たらしい天敵として、覚えていてください」
ゴキブリは、それだけ言ったと思えば。
カサカサと、部屋の外へと出ていってしまった。
「・・・訳、分かんね」
俺はそれだけ呟いて、ベッドに横になった。
その日から俺は、ゴキブリが苦手では無くなり、何故か成績も伸びて、高校で首席を取ったりしたが、多分、あのゴキブリは、関係ないと信じたい。