ふと思いついたISの短編です

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インフィニット・キサラギッス

 途方もなく広い研究室、天井は高さ数十メートルはあるだろうか。広さも東京ドームよりやや狭め、そんな広い空間。壁は無機質な白で、天井は埋め込み式の蛍光灯が床のタイルのように張り巡らされている。白い床の上にポツンと、機械染みたパーツを身にまとった黒髪の少女が居た。さながら剣のように両腕のパーツが尖っており、両足はまるで猛禽類の爪のようだ。両肩のコアには赤い血管のようなワイヤーに繋がられ空中に浮かんでいる、八つの口径を持つレーザー砲、社内コード名破壊天使が、まるで羽のように広がっている。真っ黒な機体に、魔術のような赤いラインが入っている。左腕には第二次世界大戦に使われた伝説の列車砲グスタフを四分の一サイズまで縮小させ、ISでも(ギリギリ)持てるようにリメイクとしてよみがえらせた特性巨大兵器──グスタフ・フラップ。そして右腕に取り付けられているのは仁王、社内開発コード名『とっつき』どちらも自社製である。

 IS機名、黒い鳥。PICによる加減速の瞬間速度を高める為に、戦闘機用のブースターを小型化させて取り付けた試作機である。なおあまり効果は見られないのだが、絵面が派手になったのでOKらしい。永理としても、PICよりこちらの方が信頼度があるので、心理的には割と貢献しているのだ。

 実験室は、標準的な企業に比べたらやや狭いだろうか。軍事兵器を開発する企業としてはやや狭いという印象を持つが、此処以外の軍事企業なんて知らないし、知るつもりもない。

 少女はちらりと、右腕に装備されているとっつきを見る。

 IS戦闘というのは、基本的に高軌道戦闘である。三次元処か四次元に飛び回るISに近接武器を当てるのは至難の業であり、事実キラサギお抱えのISパイロットでも今ISを装着している少女を除けば、誰もが匙を投げるような変態兵器なのだ。これを当てる事が出来るのは社内屈指と言えど自分しか居ないと自負してはいるが、でも実用化するのは何か違うような気がする。

 

『これよりテストISを投入する。永理、調子はどうだ?』

 

 ISコア近くに設置されたスピーカーから、男の声が聞こえてきた。技術部の男だ。永理は面倒くさそうに、お決まりの台詞を返す。

 

「エルフ17のようなラバースーツを着て最悪な気分だ、スピタリスのウォッカ割を呑んだ次の朝のようにね」

 

 ISに乗る事自体は嫌いではない。だが、それでも肌にぴっちりと吸い付くスーツはどうも慣れないのだ。別に裸が恥ずかしいという訳ではないのだが、何処か落ち着かない。永理は普段は、どちらかというとダボダボな服を好む。よくそれの裏側に武器を仕込み、ガン=カタごっこをするのが最近の日課となっている。流石に職場ではそんな服を着たりはしないが。

 

『軽口を叩けるなら結構、これよりテストISを投入する。試験は仁王、破壊天使、グスタフ・フラップ。数は三機。それぞれ別々の武器での撃破が目標だ。無傷のままテストを終了出来たら……飯でも奢ってやろう』

 

「その言葉忘れるなよ?」

 

 軽口のたたき合いを適当なところで終わらせる。それと共に壁の一部が開き、両腕がひし形の盾のようになっており、三つの逆関節脚で立つ黒い無人ISが、がしゃんがしゃんと音を立てて現れる。

 キサラギが開発した試験用IS、スカベンジャー。ISの開発者である篠ノ之束以外の者が作りだした、唯一のISである。とはいえ無理矢理ISの機能を再現しようとした結果、人間が乗れば五分で機体内部の熱によって燻製にされ、十分で機械がオーバーヒートし、ジェネレーターがドロドロに溶けてしまう。更に変にIAを積んでしまったせいで、人が操作している時に勝手に動いてしまうという欠陥を抱えた問題品である。だがそれ故ISに搭載する兵器の実験機、いわゆるモルモットには最適で、現在キサラギのメイン収入はスカベンジャーである。ちなみにその次がどういう訳かシメジの養殖である。

 ブザーが鳴り、好き勝手にスカベンジャーが動き回る。火力を確かめる為だけのものなので武装は積んでいないが、それでも下手を打てば鋭い盾のような両腕に貫かれてしまう危険がある。

 永理は照準を合わせる際にはハイパーセンサーを使用せず、目視でするよう心掛けている。そして左腕を上げ、トリガーを引く。耳を貫くような轟音と共に、戦艦の先端部分を切り取ったような弾頭が一番端に居たスカベンジャーの一機を破壊。着弾時の衝撃で飛んだ破片が飛んでくるが、即座に左腕のグスタフ・フラップをパージし、重量を軽くしてからそれらを楽々と避ける。

 二機のスカベンジャーが飛んできて挟み撃ちのように広がり、ぐるぐると攪乱するように回り始める。永理はブースターを最大出力で地面にぶつけ、天井すれすれまで跳躍し、叫ぶ。

 

「ぶち壊せ!」

 

 音声認識によって八つのレーザー砲が羽のように広がり、八門のレーザー砲から発射されるストロベリー色の太いレーザー光線は、スカベンジャーに直接当たらず床にぶつかると同時に広がり、その拡散によって脚を破壊されてしまう。まるで芋虫のようにぎちぎちと動くスカベンジャーは、その色と相まって気分的害虫を見てしまったようなげんなりとした気持ちにさせてくれる。

 足元を見ると、床がまるで溶岩をぶちまけたかのようにどろどろに溶け、グツグツと鍋でシチューを温め直しているかのように煮えたぎっている。

 永理は身体を百八十度回転させ、右腕を大きく振りかぶってから天井を蹴るように足裏に取り付けられたブースターを点火させ、急激に加速。地面にぶつかる寸前の所で腕を振り下ろすと同時に機体を上に持ち上げ、衝突を阻止。とっつきによって実弾を直接埋め込まれたスカベンジャーの身体から一瞬遅れてガコン、と音が鳴り、装甲がまるでクレーターのように凹む。そして遅れて爆発音が鳴り響き、機体が後方へ吹っ飛ぶ。壁にぶつかった際の衝撃で内装を押しつぶし、完全に機能を停止させた。残るは一機だけだ。

 キュロロロロロロ、と鳴き声のような電子音が鳴り響く。まるで雨に打たれもう少しで命を落とす子犬のような声だが、永理は無情にも、まるで鍵爪のような手を胴体に突き刺す。指には返しが付いており、引き抜く際余分に敵の装甲を強引に外へ持っていく。手を突き刺したまま大きく跳躍し、急降下して床にたたきつける。腕や脚が千切れ、コードからスパークが走る。

 

『テスト終了、武器の火力は凄まじいな』

 

「条約に引っかかりそうだけどな」

 

 貫かれた断面からバチバチとスパークがほとばしるスカベンジャーを捨て、永理はこの惨劇を改めて見直す。一機は永理が乗る黒い鳥の格闘戦によって破壊されたから別カウントとして考えても、あまりに過剰暴力すぎる。やっと冷え固まり始めた床、外部から内部の機体を押しつぶし破壊されたスカベンジャー。そして床に散らばるスクラップの数々……ISの軍事転用と思われたとしても仕方のない火力。一機でミリタリーバランスを崩壊させると言われていたが、これまでとはあの博士も思うまい。と永理は苦笑する。

 パージしてしまったグスタフ・フラップを回収し、粒子化させISの中に収納する。ISに備わっている能力の一つで、武器を一時的に粒子へと変換し、拡張領域と呼ばれる箇所に収納するのだ。追加で容量を増やす事も出来る。ちなみに重量はIS機能の一つであるPICによって、ほぼ空気と同程度まで軽量されている。

 背中に付いた破壊天使砲も粒子化させ、とっつきも粒子化させようとして……やめる。標準装備として付けたままでもそれほど困る事は無いだろう。

 天井が二つに開くと、永理はゆっくりと上昇していく。オレンジ色のライトに包まれ、無機質な壁を数秒ほど眺める羽目となる。

 やがて終点となり、下の部屋へと続く穴の縁に着地する。すると永理を一人の男が出迎えた。

 白いスーツを着た、若い男。背は永理より半分ほど高く、顔は少しばかり老けているようにも見える。しょっちゅうの徹夜故に現れた白髪が余計にそうさせているのかもしれない。

 

「ご苦労様、新兵器の性能はどんな感じかね?」

 

「破壊天使砲は真下にしか行かない爆雷兵器だから、もう少し使いやすいように改良が必要だな。グスタフ・フラッペは火力こそ素晴らしいがパッケージを圧迫する。とっつきは──道すがら話そう、長くなるからな」

 

 ISを待機モードへと移行させ、機体が粒子化されとん、と小さく着地しながら永理は率直な感想を述べる。ISは永理の首に、逆十字のネックレスと化した。ラバースーツのジッパーを下げこの場で脱ごうとするが、男に静止されてしまう。永理は若干不満顔になりながら、かけてあった男性用Yシャツを羽織る。

 

「……君は少し、恥じらいというものを覚えた方がいいと思う」

 

「オレは気にしないし、お前はオレを襲うつもりはない。なら何の問題も無いのではないか? お前がロリコンというなら話は別だが」

 

 呆れる男を他所に、ボタンをかけていく。第二ボタンから上は開けたままだ。妙にアダルトチックな恰好ではあるが、そもそもの話ISのパイロットスーツの時点でかなりのものだ。

 

「よしてくれ……ただでさえ、こんな職場に勤めてるせいで妻に浮気を疑われているんだ。これ以上俺の髪を、白く染めて胃を荒らさないでくれ」

 

「ハゲないだけまだマシと思え、それがオレに出来るアドバイスだ」

 

 永理はそう言い締め、勝手に歩き出す。男もその後を、溜息を一つ吐いてから付いて行く。

 様々な機械の置かれた部屋の扉は、薄い鉄製の扉を開く。無愛想な研究のみの機能を持った部屋から、長く続く廊下へと背景が変わる。四隅に緑色の線が入っている、長い廊下。その道を歩いていく。

 この廊下と繋がっている部屋は様々だ。設計図を書く場所もあれば、武器を試作製造する部屋。武器がしっかりと動くか動作テストをする部屋、シメジ養殖場、生物兵器開発場、休憩ルーム、そして食堂。設計図部屋と動作テスト、試作製造の部屋に人は既に居ない。

 

「AMIDA可愛いよAMIDA、ISの自立進化システムと合体して更に可愛くなったね。いいよ、凄くエロティックだよ僕のアイドル……もっとだ、もっと進化してくれたまえ」

 

 生物兵器研究場から、甲高い男の声。しきりに興奮しているのか、荒い息遣いが扉越しに聞こえてきた。永理はとんとんと二回ノックする。

 すると勢いよく扉が開けられ、前髪の妙に長い白髪の男が、興奮を隠す事なく荒い息遣いで姿を現す。

 緑色の液体で白衣はドロドロに汚れ、黒い髪は寝癖が付きっぱなし。黒い眼の下にかなり濃いくまがあり、一目見て寝てないように見える。しかしその眼は眠たげに半開きではなく、まるで麻薬でも打ったかのようにギラギラと輝いていた。ズボンは古い茶色のカーゴパンツ、飲み物を溢した跡が残っている。

 

「ああ、永理か。見てくれ、ついに出来たんだ! ISの自立進化システムだけを再現、そしてそれをAMIDAと融合させる事で──ISにも対抗出来る可能性の道を一歩進み始めたんだ! 僕のAMIDAが! 僕の! 可愛い! AMIDAが!」

 

「OKOK、解った。解ったから少し落ち着け」

 

 後ろで男が溜息を吐いたのが聞こえた。明日また白髪が増えてるかも、と勝手な想像をして内心で笑う。

 永理の静止も虚しく、男は更にテンションを上げながら叫び始める。

 

「落ち着け? 落ち着いてなぞいられるか! 表向きはただのメジャースポーツと成り下がってるISとは違い! AMIDAは何の条約にも縛られていないので軍事利用でも何でも可能! もはやISなぞ過去の兵器となり、自己で増え、自我を持って行動するAMIDAこそが世界を牛耳るメイン軍事兵器として世界中に、宇宙中に流通し始めるのだ!

 これはその偉大なる第一歩であり、我らAMIDA研究委員会にとって名誉の偉業である!」

 

 AMIDA、キサラギが現在開発中の、ISに変わる軍事兵器の一つだ。生体兵器の一種であり、元々はペット用に研究されていたバイオ生物なのだが、キサラギによる変態力注入によってまるでダニのような姿に変貌してしまい、更に突然変異として鉄さえも溶かす胃酸を体内に生産するようになった。兵器を見つけると一番下っ端であるAMIDAが接近し自らの身体を自爆させ、装甲を溶かす。その溶けた装甲から鉄がAMIDAの餌となるのだ。ちなみに何故かはわからないが、最初から動かないもの相手には爆発しない。なので研究場で飼われているAMIDAの餌は主にスカベンジャーや失敗作兵器だ。処理の手間もかからず、割と重宝する。

 

「で、どう改良されたんだ? ついに飛行し特攻兵器よろしく突っ込むようになったのか?」

 

「胃酸を吐くように改良したのだろ? というか、よく飯の前にこんな話を出来るな」

 

 げんなりした様子で男が勝手に答えを明かす。研究員の男は少しばかりテンションが下がったのか、寝癖もどこかしんなりしている。

 なるほど、と永理は納得する。確かに、一々爆発するより胃酸による中距離からの攻撃の方が効果的かもしれない。ISに絶対防御という機能があるが、それはあくまでパイロットを守るもの。IS本体の方を守る訳ではない。確かに、一歩ISに近付いたと言えるだろうか。

 

「何故落ちを最初に言ってしまうのだ……僕はまだまだ、AMIDAに関して話足りないというのに」

 

「一々貴様の説明は回りくどい。永理、行くぞ」

 

 AMIDAの話を聞いてしまい若干顔を青ざめながら、男は急かす。

 

「ちょっと待っててくれ、流石に喉が渇いた。一杯だけ、なっ?」

 

 くいっ、と酒を飲むようなジェスチャーをしながら、眼で催促する。AMIDAの男はまるで子供のようにタッタッタッと走り、冷蔵庫の中からペットボトルに入ったミネラルウォーターを永理に投げ渡した。

 

「ナイスコントロール」

 

「昔は野球をやってたからね! これでも昔はピッチングマッシーンと呼ばれていたのだよ」

 

 新品のペットボトルを開け、中の水を流し込む。冷たい水が渇いた喉を潤し、戦闘で火照った身体を冷やしていく。ごくり、ごくり、と水を飲むたびに喉が脈動する。

 半分ほど飲むとキャップを締め、別れを告げてから扉を閉める。がちゃん、という音と共に変態的な笑い声が部屋の中から響いてきた。

 

「……あいつはAMIDAと結婚するつもりなのか?」

 

「さあ、オレに聞かれてもね。そんな事より、だ」

 

 幼馴染の将来の安否を『そんな事』で永理が強引に片づけ、先ほどの戦闘を巡らせる。右腕に装備されていたあの武器、仁王。あれは前から開発されていた武器であり、今更テストを行うものではない。

 食堂への道すがら、話すにはいい話題がある。あのAMIDA中毒者よりも気分的に楽な、そして永理のモヤモヤを晴らしてくれるものが。

 

「何故オレに、仁王の動作テストをさせた」

 

「動作テストというよりも、データ収集といった方が正しい。前にテストしたのでは、少しデータが古くてな」

 

 態々古い兵器を持ち出し、データを収集する。その目的は一つだけだ。だが、永理の頭の中で「あり得ない」という言葉が何度も連呼される。

 仁王、というよりキサラギが開発した実体型ブレードはいわばライフルの銃弾を直接相手の機体に打ち込み、内部で弾頭を発射させマイナス距離で被弾させるというもの。商品登録こそブレードではあるが、その実態はただのくぎ打ち機である。

 そんなものの為販売はあまり上手く行っておらず、使いこなす者の事を敬意と尊敬を込めて『ドミナント』と呼ばれている。その為販売促進PVを取ったとしても、ただのスーパープレイとして終わらされてしまうのだ。

 そんな武器の為長い間PVも取っておらず、開発もされていない兵器だったのが、いきなり急にデータ収集。まさか買うのか、しかし誰が? と永理の頭に素直な疑問が思い浮かぶ。

 

「……どこの会社が、あんなものを買うんだ?」

 

「君の愛用武器でアイデンティティとなっているものを『あんなもの』呼ばわりか……まあ、気持ちは解るが」

 

 あんなものがアイデンティティであってたまるか、と毒づく永理に苦笑を溢してから、男は答えを出す。

 

「ディアノ社だ。何でも盾にとっつきを仕込むつもりらしい」

 

「盾にか……盾に? 盾に!?」

 

 盾に武器、という発想は十六世紀~十七世紀に作られたランタン・シールドは金属バックラーと篭手を取り付け、更に着用者の腕と平行に剣身が伸びているものがあった。更に相手の眼をくらますフラップのついたランタンを取り付ける事が出来たという。しかしそのような精巧な仕掛けが実戦的であったとは言い難い。

 フィクションの世界であれば、機動戦士ガンダムに出てきたギャンが一般的だろうか。盾の中にミサイルやらを詰め込んだもので、誘爆性の危険があり盾として使うには安全性が足りてない武器がある。そもそも弾薬を打ち尽くしてから盾として転用しようという発想の時点で、何処かおかしな話なのだが。

 

「ディアノ社は何処に向かってるんだ……」

 

企業(われわれ)が望むは果て無きロマンへの欲求、そういう意味では何処の企業も思惑は一致しているのかもしれない」

 

 男の言葉に永理は同意しかけるが、すぐに意識が飯の方へと持ってかれてしまう。色気より食い気、そんな彼女の背中を見て男は苦笑する。

 その後永理の食べた量に泣きを見るのは、また別のお話。


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