やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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先週は更新できずに申し訳ありませんでした。
今週から通常通り週1更新になりますのでよろしくお願いします。


LEVEL.107 彼女は初めて彼の気持ちを知る

 俺の頼みを聞いた大海は嬉しそうに笑って頷いてくれた……くれたのだが、改めて話そうとベンチに並んで座ったのだが、どのように話せばいいのかわからず数分ほど沈黙が続いた。

「……大丈夫?」

 俺が話し始めるのを待っていてくれた大海だったがさすがに痺れを切らしたのか心配そうに問いかけて来る。相談に乗って欲しいとお願いしたのは俺なのに彼女に心配かけてしまった。

「ああ……」

「最初からでいいからゆっくり話して」

「……すまん」

 謝る俺に彼女は微笑みながら気にしないでと首を振る。しかし、今のやり取りで俺が人と話すのに向いていないことがわかってしまった。情けない。こんな調子で本当にサイと話し合えるのだろうか。

「……そう、だな」

 だが、大海相手に話せないようではサイに話せるわけがない。だから俺は夜空を見上げながら必死に言葉を探す。始まりはいつからだっただろう。そう、あれは――。

 

 

 

 

 

「――『サウルク』が発現した時……俺たちは一緒に戦うって約束したんだ」

 

 

 

 

 

 あれが始まりだった。正直、それまでの俺はサイと一緒に暮らしていければいいと思っていた。しかし、あの出来事があってわかったのだ。今までの戦い方では生き残れない、と。だから俺たちは約束したのだ。一緒に答えを探そう、一緒に戦おう、と。

「でも、約束しただけだった」

「しただけ?」

「ああ、ろくに方法を考えずに何となく生きてただけだったんだよ」

 そして、その間に俺とサイに少しずつズレが生じた。その結果が今である。俺は自分の存在意義を疑い、あの戦い方を考案し、サイは俺の身を案じて戦いから遠ざけようとしている。お互いがお互いを想い合うからこそ噛み合わない意見。何より俺たちはお互いの考えを伝え合っただけで終わっている。それを指摘してくれたのが雪ノ下と由比ヶ浜だった。しかし、2人にはサイと話し合ってみると言ったが話し合いの仕方を知らない俺にはできないことが先ほど発覚してしまったのだ。

「……そっか」

 全てを話し終えるのに十数分ほどかかってしまったが大海は最後まで黙って聞いてくれた。だが、その表情は暗い。まぁ、聞いていて気分のいい話ではなかったな。

「あの……聞いてもいい?」

 話し終えてから数分ほど沈黙していた彼女は顔を上げてそう問いかける。特に断る理由はないので頷いて答えた。

「サイちゃんと一緒に戦うのはすごくいいと思う。いいと思うんだけど……その、八幡君がそこまでする必要があるのかなって」

「っ……」

 

 

 

 

 

 ――だから、すごく不思議なの。なんで危険を冒してまでハチマンが戦う必要があるのかなって。

 

 

 

 

 

 脳裏にサイの言葉が過ぎった。やはり他の人からすると俺がしようとしていたことは無謀であり、無駄だと感じるらしい。サイに言われてから改めて考え直してみたが確かに無謀であり、無駄なことだと思う。俺とサイだけで戦うならもしかしたら役に立つかもしれない。だが、今は大海たちがいる。わざわざ人間である俺が前に出る必要はないのだ。

「サイちゃんはきっと八幡君が傍にいてくれるだけでいいと思うの。傍にいてくれるだけで……ううん、むしろ前に出たら八幡君を心配して満足に戦えないんじゃないかな」

 大海の言う通りだ。サイは俺に依存している。もし依存相手が自分の隣、もしくは前に出て戦っていたらどうなるだろう。おそらく俺のことを気にして戦いに集中できない。最悪の場合、俺がピンチになれば自分の身を挺して俺を守るかもしれない。それだけサイは俺が傷つくことを恐れている。修学旅行の時だって自分が傷つくことになっても俺を守るために奉仕部を崩壊させた。なら、サイを想うのなら俺は今まで通り、無理をせずサイの後ろで呪文を唱えていた方がいいに決まっている。

「……でも」

 それでも俺は一緒に戦いたい。たとえサイが傷つくことになってもこの気持ちだけは変わらない。いや、違う。変えられなかった。自分の存在意義云々ではない。ただそうしたいだけ。彼女の隣で戦える日を夢見ただけ。彼女と共に戦うことを願っただけ。

「だから、頼む。サイと話し合えるよう協力してくれないか?」

 立ち上がった俺は頭を下げる。俺1人じゃどうすることもできないから。頼れるのは大海しかいないから。

「……サイちゃんだけじゃないよ。私やティオ、清磨君、ガッシュ君。もちろん、雪ノ下さんや由比ヶ浜さんだってあなたが傷つくところなんて見たくないの。傷つくようなことをして欲しくないの……それでも、八幡君はサイちゃんと一緒に戦いたいの?」

「ああ」

 大海の問いかけに即答した。誰も望んでいないことくらいわかっている。勝手なわがままだってことも知っている。でも……それを知ってなおこの気持ちは変わらなかった。そして、サイに現実を突き付けられても諦めきれなかった。なら、もうちょっとだけもがきたい。もしかしたらサイと一緒に戦える方法かもしれないのだから。

「……それなら、しょうがないね」

 その声を聞いて顔を上げると大海は呆れたように笑った後、立ち上がって俺に手を差し出した。

「八幡君が前に出て戦うのはすごく不安で怖い……でも、その分、私たちが頑張ればいいんだよね。八幡君とサイちゃんが心置きなく戦えるよう……私たちがあなたたちを守ればいいんだよね。きっとそれが……“私たちにできること”なんだと思う」

 思い出すのはクリスマスイブ。サイへのクリスマスプレゼント選びを手伝って貰った日に俺が彼女に言った言葉の答えだった。

「大海……」

「でも、まずは八幡君とサイちゃんがきちんと話し合いできるようにしなきゃね」

「……ああ、頼む」

 そう言いながら差し出された手を握ると彼女は嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『多分、今のままだと話し合いは出来ないと思うの。だからまずは私相手にスムーズにお話しできるようにしましょう。えっと……うん。とりあえず、ステップ1としてメールで自分のことを書いて私に送ってみて』

 別れ際に大海から出された課題に頭を抱えながらも何とか家に到着した。自分のことって何? 白紙でメール送ることになるかもしれないんですけど?

「ただいまー」

 肩や頭に残っていた雪を手で落としながら言うと居間のドアが開いてサイが顔を覗かせた。

「ハチマンおかえりー」

「おう。小町は?」

「寝てる。さっきまで起きてたんだけどさすがに疲れちゃったみたい」

 それを聞きながら靴を脱いで居間に入ると小町はソファで気持ちよさそうに眠っていた。まぁ、しょうがない。後で部屋に運んでやろう。

「……お疲れさん」

 眠っている彼女の頭に手を置いて労っているとサイも俺と同じように小町の頭を撫でる。しばらくそうしていると不意にサイが口を開いた。

「……小町ね。受験終わった後に聞いて来たんだ。『危ないの?』って」

「……明日のことか?」

「うん。何となくわかってるのかもね。私たちが危険なことに首を突っ込もうとしてるの」

「そう、か」

 動揺したせいか頭を撫でる手の動きが乱れ、小町は俺たちの手から逃れるように体を動かした。これ以上触れれば起きてしまうかもしれない。止めておこう。

「……小町には悪いが本当のことは言えんだろ」

「うん、そうだね……ごめんね、小町」

 小町に謝ったサイは俺の晩御飯の準備をするためか台所に向かった。俺も明日の準備をしなければならない。今日は早めに寝よう。大海の課題は……まぁ、後回しだ。

「ハーチマン」

「あ?」

 コートを脱いで風呂にでも入ろうかと思っているとサイが俺を呼んだ。振り返ると彼女は両手を後ろに回して俺を見上げている。

「はい、バレンタインチョコ」

「……ああ、そうか。まだ貰ってなかったか」

 あのイベントで腹いっぱいチョコケーキを食べたのですっかり貰ったつもりでいた。俺としたことがサイコンとしてあるまじき勘違いをしていた。

「もう、しっかりしてよね。ユキノとユイから貰ってふやけてたんでしょ?」

「何だよふやけるって……ん?」

 サイは雪ノ下と由比ヶ浜の名前しか言わなかった。もしかして大海からは連絡来ていないのか? あれ、なんか嫌な予感。

「あ、そうそう。チョコ放っておいたら溶けちゃうから一回冷蔵庫に入れちゃうね。他のも頂戴」

 冷や汗を流しているとやはりと言うべきかサイは笑顔でチョコを出せと要求して来る。貰ったチョコはコートのポケットに入れてある。でも、その数は3つ。それを見た彼女はどんな反応をするだろうか。

「……ハチマン?」

「何だ?」

「チョコ」

「……」

 そっと目を逸らすとサイは訝しげな表情を浮かべた後、目を見開いてすぐに俺のコートへ駆け寄った。ちょ、なんでわかったし。あ、待って。駄目。

「……ハーチーマーン?」

「お、おう」

「どーしてチョコが3つもあるのかなー?」

「お、大海から貰ったんだが……」

 正直に答えるとニコニコと笑いながらにじり寄っていたサイはその動きを止める。そして、そっとため息を吐いた。

「そっかー……そっか、うん。うん? うーん」

「サイ?」

「あ、ううん。何でもない。何でもないんだけど……もしかして遅くなったのってメグちゃんと会ってたから?」

 その質問に俺はすぐに答えることはできなかった。確かに遅くなったのは雪で電車が止まったからだ。しかし、俺が乗ったのは運行を再開してから数本ほど過ぎた電車だった。つまり、もう少し早く帰って来られたのである。

「……ふーん」

「いや、違う。会ってたからじゃない。決して違う。違うぞ」

「嘘吐かない」

「……はい」

 この後、その場で正座を強制され、その姿勢のまま小1時間ほど説教されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『サイに説教された。でも、チョコは美味かった。ありがとう』

「……ふふ」

 送られて来たメールを見て私は思わず、破顔してしまう。まさか本当に送って来るとは思わなかったのだ。

(それにしても)

 今日初めて八幡君の気持ちを知った。サイちゃんと一緒に戦う。それを達成するにはいくつもの問題を解決しなければならない。でも、もし全ての問題を解決して彼らが一緒に戦えたのならそれはどんなに素敵なことなのだろう。

「……」

 しかし、八幡君が問題だと言っていた『話の始め方がわからない』だが、私はさほど問題だとは思っていなかった。確かに彼はあまり自分のことを話さない。今日だって自分の考えを伝えるのに四苦八苦していた。

(でもね、八幡君)

 

 

 

 

 ――俺はお前が必要なんだ! 生きてくれ!! 俺のために生きていてくれよ! サイ!

 

 

 

 

 ――自分のできることをすればいいんじゃねーの?

 

 

 

 

 あなたはどんなに話すのが下手でも本当に大切なことはきちんと伝えられる人なんだよ。だから今回もきっと大丈夫。サイちゃんに伝わるよ、あなたの気持ち。

 だから今は――。

 

 

 

 

 

『日記じゃないんだからもうちょっと頑張って。あと、どういたしまして』

 

 

 

 

 

 ――少しでも彼が自信を持てるよう、私も頑張らなくちゃ。

 





次回、ガッシュ原作突入。










今週の一言二言

・初めてのアヴェンジャーはわんわんおでした。やっと来てくれました。これでルーラーをボッコボコにします。

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