やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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戦闘中のBGMは『カサブタ』でお願いします。
後、今まで投稿して来た話で由比ヶ浜の一人称が『私』だったので原作通り『あたし』に修正しました。


LEVEL.11 群青少女は彼を受け入れ、心の底から願う

「うおっ」

 魔物に激突した物体から聞き覚えのある声が聞こえるが、すぐにバランスを崩して騒音を立てながら倒れてしまった。

(な、何?)

 こんなところに一般人が来るとは思えない。まさかと思いながら痛む体に鞭を打ってそっちを見る。

「いって……さすがに自転車で突っ込むのは得策じゃなかったか」

「え……」

 そこには私のパートナーがいた。ここにいてはいけない人だ。このままじゃ彼はあの熱線の餌食になってしまう。

 

 

 

 でも、何でこんなに嬉しいのだろうか。彼を見た瞬間、安心したのはどうしてだろうか。

 

 

 

「ハチ、マン?」

「サイ、大丈夫か?」

 倒れている私の傍に来てくれた彼は相変わらず目が腐っていた。しかし、その目に心配の色が視える。私が生きているのを確認したからかハチマンはすぐに敵の方を見た。

「何で、何で来たの!? 貴方を巻き込まないために独りで――」

「『サシルド』」

 文句を言う私の言葉を遮って呪文を唱えた。私たちの前に群青色の盾が地面からせり上がる。

「『ガモル』!」

 その直後、敵が熱線を放ったらしく群青の盾がそれを受け流す。熱線が左右に分かれて背後へ流れていくのが見えた。そんなことより私が驚いたのは“相手の呪文よりも早く唱えた”ことである。ハチマンは相手の攻撃を予測したのだ。

「巻き込まない? 何を言ってんだお前は」

「いはいいはいいはい!」

 受け流され続けている熱線を驚愕しながら見ていると私の両頬を引っ張るハチマン。結構、本気で引っ張っているようで痛い。

「お前は俺が傷つくのが嫌なんだろ。俺だってそうだ。お前が傷つくところなんか見たくねーんだよ」

 私の頬から手を離して少しムッとした表情で彼は言う。

「でも、ハチマンは自分を犠牲にしちゃうでしょ! 傷つきそうな人がいたら助けちゃうでしょ!」

 あの時と同じように。私が止めたにも関わらずメグちゃんを助けたように。

「何勘違いしてんの? そんな自己犠牲するわけないだろ」

 しかし、私の予想とは反して彼は不思議そうに否定した。

「え、でも……メグちゃんを守るために」

「あの時はお前が楽しみにしてたコンサートが中止になるかもしれないって思って大海を庇ったんだよ。誰が好き好んで痛い思いしなきゃならん」

「私の、ため?」

「そもそも俺はぼっちだぞ。他人のために犠牲になるとかありえない」

 それは、つまり――私は他人じゃない、ということなのだろう。それがものすごく嬉しかった。そして気付いてしまった。

(私は……ただ嫉妬してただけなんだ)

 止めた私を無視して他人のために傷ついたのが許せなかった。パートナーである私より他人を優先したのが悔しかった。でも、それは全て私の勘違い。

「……もう、ハチマンってバカでしょ」

「あ? 何でいきなり罵倒されたの、俺」

 彼は本当に馬鹿だ。メグちゃんのコンサートが中止になるより貴方が傷つく方が嫌なのは当たり前なのに。

「ハチマン、お願いがあるの」

「嫌だ」

「……へ?」

 まさか断られるとは思わず、目を丸くしてしまう。こんな状況で断る人なんていない。ましてや、ちょっといい雰囲気だったのに。

「どうせ、一緒に戦ってくれって言うんだろ?」

「そ、そうだけど……嫌なの?」

 私の質問に答えずにチラリとハチマンが群青の盾を見る。受け流しやすい形だったとしてもずっと熱線を受け続けたら盾の温度が上がり、溶解してしまう。その証拠に盾が赤熱していた。あまり時間は残っていない。まぁ、相手が意地になって熱線を放ち続けてくれているおかげで彼と話せるのだが。

「お前が戦いたいって言えば戦う。お前が術を使えって言ったら呪文を唱える。今まではそうだった。それって本当に一緒に戦ってることになるのか? それでいいのか?」

 盾の様子を見ながら彼はそう問いかけて来た。

「……」

 それは私の操り人形になっているだけだ。一緒に戦っているとは言えない。私はハチマンを利用していただけだった。

「……そんなの嫌だ」

 私はハチマンと一緒に戦いたい。利用するなんて嫌だ。これからもずっと一緒にいたい。一緒に戦ってくれると頷いてくれたから。

「嫌だよ……ハチマン。私は、どうすればいいの!?」

 今までのままでは駄目だ。何も変わらない。変わらなくちゃならない。

「俺だって知らん。『一緒に』なんてこの先ずっと俺には関係ないことだと思ってたし。今更、一緒に何かするとか出来るとは思えない」

「……なら」

 私にもわからない。ハチマンにもわからない。私たちは独りでいた時間が長すぎた。間違っているとわかってもそれを修正することができない。そもそもわかっているのなら間違えない。間違っていても他人に答え合わせをお願いできない。正解を教えてくれる人がいない。答えを出せない。

 じゃあ、こうすればいい。

 

 

 

「一緒に、答えを探そ? いっぱい間違えて、いっぱい喧嘩して、いっぱい悩んで、いっぱい笑って……独りぼっちだった私たちなりの答えを見つけよ?」

 

 

 

 もう私たちは独りじゃない。私にはハチマンがいるし、ハチマンには私がいる。意見が食い違うことも、すれ違うこともあるだろう。お互いに間違えてしまうだろう。じゃあ、その度に答え合わせをすればいい。もし、答えが違ったら話し合ってお互いの意見を取り入れよう。答えすら出せなかったら2人で結論を出そう。そうすればきっと、答えは見つかる。

「……まぁ、それぐらいなら」

 私の提案を聞いたそっぽを向きながら彼は頷く。その顔には『素直になれなくてきまずい』と書かれている。

(そっか……)

 それを見て私は確信してしまった。

 “彼は生き方を変えられない”。“変えることが出来てもそれまでにすごく時間のかかる人”だと。だからこそ、捻デレ。捻くれながら人を助けてしまう、優しい人。どんなに周囲の人が嫌だと言っても自分を犠牲にしてしまうだろう。誰が何を言ったって彼は変わらないのだから。

(だからこそ、私は――願う)

 私は悔しかった。彼が鉄球に吹き飛ばされていくのを見て。

 私は悲しかった。彼が私よりも他人を優先したことが。

 私は情けなかった。守ると誓ったのにも関わらず、彼は傷ついてしまったから。

 そして、願った。どうか……どうか、私に力をください。自分を傷つけながら人を助けてしまう彼を守るために。彼に危険が迫った時、守れるように。誰よりも早く駆けつけられるように。私に、力をください。どんなに私が傷ついていても目の前でそっぽを向いている捻くれたパートナーを、彼が守りたいと願った人を守る術(すべ)をください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サイの提案に頷く。でも、正直きまずかった。普通の人ならあそこで素直に頷くだろう。だが、俺はしなかった。いや出来なかった。普通に頷いてしまったら答えが見つかると――期待してしまうから。

「ん……ハチマン! 本が!」

「え?」

 手に持っていた魔本を見ると群青色に輝いていた。この光は術を使っている時の光とは違う。

「まさか」

 急いで本を開けて確認し、見つけた。

(新しい、呪文……)

「ハチマン、唱えて」

 本から顔を上げるとサイはふらつきながらも立ち上がっていた。動けないほどの怪我を負っているのに。

「お前っ……」

「大丈夫。無理はしてないよ。そんなことより私、今ものすごく幸せなの」

「幸せ?」

「ハチマンがまた助けに来てくれたから。さ、唱えて!」

「……おう」

 『サシルド』はもう限界だ。盾を消した瞬間に新呪文を唱えて決着を付けるしかない。

「行くぞ――」

「ヒッキー? どこにいるの?」

 呪文を唱えようとした時、後ろから今一番聞きたくなかった声が聞こえた。由比ヶ浜だ。

「っ……」

 そして、気付いてしまった。熱線が止んでいることに。相手は俺たちよりも早く由比ヶ浜の存在に気付いたのだ。彼女が俺の知り合いだとわかったのだろう。俺と同じ学校の制服を着ている女子が都合よくこんな人気のない場所に来るなんてあり得ないから。

(くそっ)

 魔物が攻撃を止めた理由はただ一つ。由比ヶ浜を攻撃するためだ。殺しはしないだろうが怪我させて俺に降参するように要求するのだろう。それをされたらサイは……。

「ハチマン!!」

 サイの声が俺の脳に響く。それだけで俺のすべきことを理解した。

(由比ヶ浜を助けたのは偶然だ。彼女の犬だったから助けたわけじゃない。由比ヶ浜だったから助けたわけじゃない。知りもしない人を好き好んで助けるわけがない……でも、今は……今なら彼女を助けたいを想える!)

 何故なら、俺と由比ヶ浜はすでに知り合っているのだから。

 

 

 

 

 

「『サウルク』!!」

 

 

 

 

 

「『ガモル』!」

 盾が消え、魔物の姿が見えるようになった。しかし、すでに魔物は熱線を放つ直前だった。間に合わない。

「由比ヶ浜あああああ!」

 夢中になって彼女に手を伸ばす。俺の悲鳴でこちらに気付いたのだろう。彼女は驚いた様子で俺を見た瞬間、魔物の口から熱線が放たれた。それと同時に俺の前を群青が通り過ぎる。それが何か確認しようとするが、熱線が地面を抉って小さな爆発を起こす。

「くっ……」

 爆風に煽られ、思わず両腕で顔を守ってしまう。風が止んで目を開けると由比ヶ浜がいた場所には何も残っていなかった。

「ゆい、がはま……」

 彼女は俺を追ってここに来てしまった。あんな中途半端な別れ方をしてしまったから。彼女が焼失してしまったのは全て俺の――。

「何で……」

 呆然としていると何故か魔物が顔を歪ませて呟く。彼の視線は俺の後ろに向いていた。

「何で、動けるんだッ!」

 魔物の悲鳴を聞きながら振り返る。そこには目を白黒させながら驚愕している由比ヶ浜と両足と左腕に群青色のオーラを纏わせたサイがいた。

「サイ……由比ヶ浜……」

 2人の無事がわかって安堵のため息を吐く。本当によかった。

「ハチマン、ユイをお願い」

 右足の怪我など最初からなかったような足取りで彼女は俺の前に立つ。その背中はとても頼りになった。

「……おう」

 彼女の言う通り、地面に座り込んでいる由比ヶ浜を守るように移動する。

「どうして動けるのかわからないけど……僕の瞬間移動はどうすることもできないはず!」

「『モルパ』!」

 魔物の姿が消えてサイが“いた”場所より少し後ろに瞬間移動した。こうやって常にサイの背後を取り続けていたのだろう。身体能力の高いサイでも苦戦するはずだ。

 でも、それはもう無意味である。

「シッ」

 サイの左足が魔物の右側頭部に直撃し、思い切り蹴飛ばした。不意打ちを受けた魔物は抵抗などできるわけもなく、吹き飛ばされて地面に転がる。

「すげ……」

 俺はそれを見てそう呟くしかなかった。

 相手が術を使った瞬間、サイの姿もすでにその場になかった。しかし、サイは瞬間移動などしていない。ただ目にもとまらぬ速さで移動しただけだ。しかも、先ほど放ったただの蹴りも凄まじいスピードで蹴ったのでとんでもない破壊力を持っていた。普通の人間だったら怪我じゃすまされない。

「な、にが」

 フラフラしながら立ち上がり、困惑した様子で魔物がそうごちる。

「ずっと不思議だったの。どうして貴方は『サシルド』に熱線を撃ち続けたんだろうって。瞬間移動で盾の裏側に移動すればいいのにって。そして、気付いた。貴方、“瞬間移動する時、転移先を目線で捉えていないと駄目”なんでしょ?」

「ッ……」

 図星だったのか目を見開いて顔を歪ませた。あの魔物は『サシルド』に熱線を撃ち続けて溶解させ、開いた穴を利用して転移しようとしていたのだろう。

「でも、もう諦めた方がいいよ。私は貴方が転移した瞬間に貴方の背後に回れるから」

「そんな……怪我してるのに」

「それも術のおかげでね。この術が発動している限り、“私がどんなに傷ついていたって無傷の時と同じように動ける”」

 『サウルク』。サイの移動速度を上昇させ、更に痛みや傷による動きの阻害を一時的に失くすドーピング効果を持つ術。

「例え、この体が引き千切れたって、動けなくなったってハチマンやハチマンが守りたいと願った人を守るために駆けつけられる。それがこの術の効果だよ」

 そう語る彼女は群青色のオーラを纏っている左腕を見ながら心の底から嬉しそうに微笑んだ。戦闘中だと言うことを忘れて俺はその微笑みに見とれていた。

「ふざけるな……ふざけるなああああああ!!」

「『ガモル』!」

 また魔物の口から熱線が放たれる。だが、すでにサイは魔物の懐に潜り込んでいた。

「うらあああああああ!!」

 左手をギュッと握り相手の顎にアッパーカットを放つ。群青色のオーラが下から上へと彗星のように流れた。

「ッ――」

 熱線の反動で動けなかった魔物はまともにそれを受けて口を閉じてしまう。そして、彼の術はまだ生きている。そんな中、口を閉じてしまったらどうなるのか。決まっている。大爆発だ。

「ぁ……」

 口から黒い煙を昇らせながら魔物は背中から地面に倒れる。白目を向いているのでこれ以上の戦闘は不可能だろう。

「これで終わり、でしょ?」

 自分のパートナーがやられて硬直していた本の持ち主の傍で移動してライターを突き出す。誰が見たって詰みだった。

 




次回で一度、話が区切れます。多分、由比ヶ浜の誕生日プレゼントを買う描写はカットするかと。だいたい原作通りのことが起きたと思ってくださいな。

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