やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.115 群青少女と比企谷八幡は偶然にも囮役を演じる

「わあああああああああああああああ!」

「ぎゃああああああああああああああ!」

 狭い通路にキャンチョメとフォルゴレの絶叫が響き渡る。そして、轟音。魔物の拳が通路の壁を破壊した。何とか間一髪のところで回避した2人は急いで距離を採ろうとするが魔物もしつこく2人の後を追う。

「『ギガノ・アムルク』!」

 意外と逃げ足の速い2人だったが途中で魔物のパートナーが呪文を唱え、魔物の右腕が輝いた。『ギガノ』――つまり、強力な術なのだろう。変化が得意なキャンチョメだが目の前で変身しても意味がない。しかし、身を隠すにしてもここは通路。隠れる場所などどこにもない。最後までフォローに徹するつもりだったが助けるべきか。

「メルメルメ~!」

 どうしようかと私が悩んでいる間に私の隣で震えていたウマゴンが魔物の顔面に飛び付き、体全てを使って魔物の視界を奪う。いきなり目の前が真っ暗になった魔物は雄叫びを上げながら拳を振るい、また壁を殴った。だが、壁は破壊されずに“溶けた”。どうやらあの呪文は拳に物質を溶解させる効果を付加するものだったらしい。

「ひぃいいいいいいい!」

 それを見たフォルゴレは顔を青ざめさせて魔物に背中を向けた。魔物に殴られてもケロッと(顔面は血だらけだが)立ち上がるフォルゴレでもあれを喰らったら無事ではすまないはずだ。次あの術を使ったら助けに入ろう。そう思っていると顔面に張り付くウマゴンを頭を振って追い払った魔物が再びフォルゴレに向かって駆け出した。

「お」

 しかし、魔物を追いかけていたパートナーの足元から床に変化していたキャンチョメが現れ、パートナーの両足を掴む。上手い。私も見逃していたがウマゴンが魔物の顔面に張りついた隙に『ポルク』を発動させていたのだろう。いきなり足を掴まれたパートナーは勢いよく倒れて魔本を放り投げてしまった。

「もらっ――」

「――てませーん」

 フォルゴレとウマゴンは投げられた魔本に飛びかかるがその前に抱き着くように2人を抱えてその場を離れる。その刹那、先ほどまで私たちがいた場所を魔物の拳が通り過ぎた。魔本を取らせまいと壁を走って突っ込んで来ていたのだ。

「まさか壁を走るなんてね。大丈夫?」

「あ、あぶ、あぶぅ!」

「メ、メッ……」

 出来るだけ魔物たちから距離を取った後、体を放して話しかけたが目の前まで迫った魔物の拳が怖かったのかフォルゴレは首を振りながら震えていた。ウマゴンも蹲るように泣いている。今までもこう言った場面はあったがそろそろ限界なのかもしれない。特にウマゴン。

「フォルゴレー!」

 変化を解いてキャンチョメは自分のパートナーに駆け寄った。攻撃呪文を持たない彼は変化の術を使ったサポートに回るしかなく自然と魔本を奪う役目はフォルゴレとウマゴンになる。仕方ないとはいえパートナーと友達が心配なのだろう。チラリと魔物の方を見ると丁度魔本をパートナーに渡しているところだった。それなりに離れているので今すぐに襲われることはないはずだ。

「きゃ、キャンチョメ……さ、作戦だ!」

 私の腕を抱えるように掴みながらフォルゴレが手を挙げてそう提案した。まずはその腕を放そうか。フォローするとは言ったけど腕を組むのは許した覚えなどない。私と腕を組んでいいのはハチマンだけである。放せ。さもなくば――ふふふ。

「ひ、ひぃっ!」

 そんな意味を込めてフォルゴレに視線を送ると小さく悲鳴をあげながら私の腕を放した。よしそれでいい。

「わ、わわわわわわた、私たちは、今チャンスだぞ! キャンチョメの度重なる変化の術でキャンチョメの姿が消えたら壁か床に変身したと思ってるはずだ。そこで今度は……『コポルク』を使うんだ」

「『コポルク』?」

 初めて聞く呪文に首を傾げてしまった。キャンチョメの力は変化。おそらく『コポルク』もキャンチョメの体を変化させるものだと思うが。

「あ、ああ……キャンチョメの体が小さくなるんだ。きっと奴らは壁や床ばかりに注意がいく。そのスキに奴の本に近づいて本を燃やすんだ!」

 なるほど、先入観を利用した作戦か。確かに最初から『コポルク』を使っても効果は薄かっただろう。だが、何度も『ポルク』で邪魔した今なら確実に敵は小さくなったキャンチョメに気付かず壁や床を警戒する。

「僕、小さくなっても見つからないかな?」

「大丈夫、私たちも奴らの気を引く……って作戦なのですがいかかでしょうか」

 自信満々に作戦の内容を放していたフォルゴレだったが私を見たと思ったらビクビクしながら確認して来た。何故いきなり丁寧口調になったのだろうか。そんなに怖いかな、私。

「うん、大丈夫だと思うよ。私も撹乱するね」

 キャンチョメたちの実力を確認するためにフォローに回っていたがそろそろ倒さなければ他の魔物が来てしまうかもしれない。そろそろ潮時だろう。

「……うん、じゃあ、頑張るよ!」

 私たちが協力すると知ってキャンチョメは笑顔で頷いた。まるで役に立てることが嬉しいと言わんばかりに。彼の表情が少し気になったが今はあの魔物の注意を引こう。フォルゴレやウマゴンよりも敵の攻撃を真正面から受け止めた私が行けば魔物は私に集中するはずだ。その間に『コポルク』を使えばキャンチョメが小さくなるところを見られることはない。

「それじゃ行って来るね」

 3人にそう言って駆け出した。相手もこちらに向かって来ていたが今までフォローに徹底していた私が来るとは思わなかったようで魔物は慌てて立ち止まる。やはり私のことを警戒しているらしい。しかし、それは無駄な行為だ。私を警戒すれば警戒するほどあなたはキャンチョメ(ジョーカー)から意識を逸らしてしまうのだから。

「ここからは私が相手になるよ。覚悟はできてるかな?」

 私を観察でもしているのか微動だにしない魔物に声をかけた後、左手を隠すように半身になって晒している右手でちょいちょいと手招きをする。私になめられていることに気付いたのか魔物は雄叫びを上げて拳を振るって来た。さぁ、もう少しだ。だから無事でいてね、ハチマン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからどれだけ時間が経ったのだろう。それほど時間は経っていないと理解しているつもりだが、一つのミスが死に繋がる状況が続いている俺にとってとても長く感じた。それに対して戦況は正直芳しくない。ガッシュだけじゃなく俺も何度か隙を突いて魔本を奪おうとしたが魔物に邪魔されて上手く行かないのだ。気配分散の特性上、仕方ないとはいえここまで戦闘が長引くとは思わなかった。

 気配分散は気配を分散させて敵から見つかりにくくする技能だ。その効果は注目されなければされないほど大きくなる。つまり、目立つ行動をすれば気配分散していたとしても見つかってしまう。ガッシュが魔物と戦っている間、俺がこそこそ動いても見向きされない(ガッシュの猛攻あってこそだが)が、敵のパートナーは“呪文を唱える”、“魔本を奪われないようにする”という行動を取るようで背後に回るだけなら気付かれないが魔本を奪うという行動に移った途端、心を操られている人間に見つかってしまう。言ってしまえば相手にとってどうでもいい行動なら気配分散の効果は発揮するが重要な行動を取ると効果がなくなってしまうのである。

「ちっ……」

 もう一度魔本を狙おうと移動していると竜型の魔物をラウザルク状態のガッシュが吹き飛ばした。しかし、その後すぐにラウザルクの効果が切れてしまい、戦闘が止まったので慌てて岩の影に身を隠す。戦闘していない状況で動けば嫌でも目立ってしまうので戦闘が始まるまで俺は身動きが取れない。

「はぁ……はぁ……」

 肩で息をしながら服の上から胸を押さえる。『サイフォジオ』のおかげで一時的に体調は戻ったがさすがにきつい。敵の術が発動する度に強弱はあれど心臓が悲鳴を上げるのだ。サイとの訓練で痛みに慣れているとはいえこのまま行けばいずれ動けなくなってしまうかもしれない。

「くそったれが……どれだけこっちが攻撃してもまだオレ自身に攻撃して来ねぇか」

 どうしたものかと悩んでいると人型の魔物が忌々しそうに言葉を紡いだ。岩の影から様子を窺うと息を荒くしたガッシュと魔物たちが睨み合っていた。高嶺と大海も『ラウザルク』と『セウシル』を連続で唱えているので心の力を消費しているはずだ。てか、どうして大海さんこっち見ているんですかね。気配分散使っているはずなんだが。

「いい加減にしやがれ! てめぇ、戦いをなめてやがるのか!?」

「ウヌウ! いい加減にするのはお主の方だ! お主の戦いはもう千年前に終わっておるのだぞ!」

「ッ……だ、まれ。とことん腹の立つやろうめ」

「グッ……」

 魔物が怒りで震えていると今日一番の痛みが心臓を襲う。来る、馬鹿でかいのが。しかも、人型の魔物だけじゃない。竜型の魔物の方も心の力を注いでいる。こいつら強力な術で波状攻撃して来るつもりだ。

「この術をくらってもそのへらず口がたたけるかぁ!?」

「『エグドリス・ネシルガ』!」

 波状攻撃して来ることを伝えることもできずに第一波が射出される。予想通り、今までの術とは規模が違う。これは『ラウザルク』では受け止められない。高嶺もそう判断したのか彼の持つ魔本から眩い光が発せられた。

「『バオウ・ザケルガ』!」

 高嶺が呪文を唱えるとガッシュの口から雷の龍が放たれる。これが彼らの最大呪文。確か術を使えば使うほど威力が高まる異質な術。それでいて放った後、高嶺は倒れてしまう諸刃の剣。今の状況でこの呪文を使うのはまずい。『バオウ・ザケルガ』で第一波の術を無効化できたとしても第二波が飛んで来る。

 だが、チャンスだ。今ならパートナーは“呪文を唱える”という行動を取っているため、俺が近づいても反応できない可能性が高い。やるなら今しかない。多少強引になっても奪って見せる。

「っ……」

 そう思って岩の影から飛び出そうとしたがその直前で大海と目が合った。こんな状況でも俺を見ているとは思わず目を見開き、硬直する。彼女の瞳は真剣そのものでいつでも援護できるように俺を真っ直ぐ見つめていた。

(これは……よし)

 大海を見て思いついた作戦を実行するために彼女に手でサインを送る。別に複雑なものではない。ただ敵がいる方に向かって指を差しただけだ。まさかサインを送って来るとは思わなかったようで最初は驚いていた彼女だったがすぐに頷いた。その直後、雷の龍が敵の術と激突して大爆発を起こす。

「よし、相殺し――」

「――『ギガノ・ディオデルク』!」

 術同士が激突したせいで発生した粉塵を吹き飛ばしながら竜型の魔物が鋭く尖った特殊な鎧を纏って高嶺たちへ突っ込んで来た。それを見ながら俺は微かに残っている身を隠すように粉塵へ突入する。

「八幡君っ」

 その途中で高嶺たちの方から大海が走って来た。俺のサインをきちんと理解してくれたようだ。今、あいつらはガッシュたちを仕留めることに夢中になっており、俺と大海の動きを見落としているはず。

「裏から行け。タイミングは4秒後だ」

「うん!」

 手短に作戦を伝えて大海と別れた。そして、俺が指定した4秒後――。

「『マ・セシルド』!」

 ――大海が術を唱える。その刹那、背後から鎧が砕け散る音と何かが消滅する音がした。竜型の魔物の速度と高嶺たちがいる場所までの距離を見て大海の術を発動させるタイミングを計っておいてよかった。

「おっと、そうはいかねぇぜ!」

 ホッとしながら走っていると人型の魔物が俺の前に立ちはだかる。気配を分散させて見つかりにくくなる気配分散は意識されたら何の意味もなくなる。サイレベルの技術がなければ一対一では使えない欠陥だらけの技能。これまで何度も隙を突かれて来たのだから『俺がこんな“絶好なチャンス”を見逃さないこと』を見逃さないだろう。最大呪文を放ち、大爆発を起こした騒ぎに紛れて接近する。なら、俺が接近するであろうタイミングで俺を警戒すればいい。高嶺たちは竜型の魔物が相手しているのだから襲われる心配はないので俺だけに集中すればいい。俺だけを見てしまった。今まで姿を隠して不意を突いて来た俺が囮だと知らずに。

「あの女がまさかあそこまで強力な盾を持ってたとは思わなかったが……作戦は失敗だったみてぇだな?」

「……いや――」

「――あなたたちの負けよ」

 俺の言葉を引き継ぐように答えた大海。その手には3冊の魔本があった。野球のユニフォームを着た男が地面に倒れているので奪う時に合気道でも使ったのだろう。人間相手なら大海でも相手できるからな。特に合気道は相手の力を利用する武術。男に襲われたでも対抗できる。

「何!? オレたちの本を!?」

「お前は俺に集中し過ぎて大海の動きを見落とした」

「私たちの勝ちよ」

 こうして、長かった初めての千年前の魔物たちとの戦いは俺たちの勝利で幕を閉じた。

 









今週の一言二言


・CCCイベだあああああああ!
BBちゃんはもちろん、今回ばかりは全力全壊でガチャ回して行きますよぉ!
リップ、メルト、御前待っててねぇ!!!

……神様仏様サイ様。どうか、どうか私に今だけでもいいのでガチャ運をください。

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