やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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難産でした。


LEVEL.120 群青少女はやはり鬼畜である

「ブハッ」

 『サウルク』パンチを受けたビクトリームは錐揉み回転しながら壁に叩き付けられ、吐血した。そして、そのまま地面に落ちてピクピクと痙攣し始める。そこへサイが更に追撃しようと身を屈めたがすぐに舌打ちをして後ろに跳び、俺の前に着地した。見ればビクトリームがすでに立ち上がっている。追撃できないと判断して戻って来たのか。

「て、てめぇ……よくもやりやがったな! 分離せよ! 我が美しき頭部よ!」

 そう叫びながら彼のパートナー――モヒカンの男の前に出たビクトリームの頭がいきなり真上に飛んだ。皆も頭と体が分離したことに驚いているようで声を失っていた。モヒカンは特に呪文を唱えていない。つまり、あれは奴が元々持っている能力か。

「視界良好! この状態に死角なし! 我が体はVの体勢で待機せよ!」

「……」

 あの体勢に何か意味があるのだろうか。俺の前にいるサイも首を傾げているので特に意味はないんだろうけど。

荘厳回転(グロリアスレヴォリューション)! (スリー)(シックス)(オー)! 加速(アクセル)加速(アクセル)加速(アクセル)加速(アクセル)加速(アクセル)ゥゥゥ!」

「ぐっ……」

 ビクトリームの頭部が出鱈目に回転し始めた途端、俺の心臓がズキリと痛んだ。『サウルク』が解除され、思わず服の上から胸を押さえてしまう。まさかあの状態で術を使うつもりか? もし、さっきの『マグルガ』を使うとしたら少しまずいんじゃないか?

「「みんな! ティオの周りに!」」

 慌てて俺を横抱きに持ち上げたサイと高嶺が同時に叫んだ。『サウルク』が解除された状態でも奴が術を放つ前に何とか高嶺たちと合流することができた。

「『マグルガ』ァ!」

 サイが俺を地面に降ろした瞬間、モヒカンが呪文を唱える。そして、部屋がVで埋め尽くされた。『マグルガ』はビクトリームの頭部から放たれる術。本来であれば1本の光線でしかない『マグルガ』でもその頭部が高速回転していれば全方向を無差別に破壊する弾幕と化する。救いは1本の光線の状態よりも威力が下がっていることぐらいだが、この状態でも『サシルド』では防げない。一撃で破られる。

「恵さん、ティオ!」

「ええ! 『セウシル』!」

 大海が呪文を唱え、俺たちの周りに透明なバリアが出現し、『マグルガ』を防いだ。だが、たった一撃防いだだけで『セウシル』に小さな皹が走る。心の力に余裕があれば『マ・セシルド』を唱えられたのだが、これもビクトリームの思惑通りなのだろう。アホっぽいが戦闘に関してなら頭は回るらしい。

「フハハハ、時間の問題だな。モヒカン・エースよ、奴のバリアが破れるまで力の放出を続けよ。さぁ、心の力が減っている君たちにどこまでふせ……おい、私をボコボコにしたあいつはどこに行った!?」

 ビクトリームの言葉で俺も気付いた。サイがいない。おそらく『セウシル』が出現する前に気配分散を使って俺たちから離れたのだろう。じゃあ、今あいつはこの弾幕の中を駆け回っている、ということか? 術による強化もなしに?

「ふ、フハハ! 逃げたか! 仲間やパートナーを残して逃げよったわ! 我が力を前にして恐怖でもしたのだろう!」

 ビクトリームは嬉しそうに叫ぶがそれだけはないと心の中で首を振る。きっとバリアの中にいるより弾幕を避けながら攻撃するチャンスを待っている方がいいと判断しただけだ。それに加え、たった今ビクトリームは“サイから意識を逸らした”。気配分散の効果が最大限に発揮されるようになったのだ。待て、ひたすらその時が来るのを待つんだ。チャンスは必ず来る。

「これでお前たちもお終いだな! この部屋の崩壊とともに消えていくだろう! 部屋の壁、大破! テラス、粉砕!」

 Vの弾幕が遺跡の分厚い壁やテラスを破壊して行く。大海も負けじと奥歯を噛みしめながら魔本に心の力を注いで『セウシル』を保っているがすでに『セウシル』は皹だらけだ。後1発か2発で崩壊する。そして、ついにその時が来た。

 

 

 

 

 

「我が体、撃沈……ブルアァアアアアアア!」

 

 

 

 

 

 あれだけ出鱈目に弾幕を張っているのだ。いつか自分の体かパートナーにも当たるに決まっている。ビクトリームは吐血しながら悲鳴を上げ、攻撃を受け地面に倒れながらもVの体勢を維持し続けている体の近くに落ちた。

「待ってたよーっと!!」

 その刹那、奴の頭の前に姿を現したのは俺のパートナーだった。すでに右足を思い切り振り上げている。彼女が何をしようとしているのかわかったのかビクトリームの顔が引きつった。

「お、おい。さすがにそれは――」

「――ドーン!」

 そのキックはまさにシュート。サッカーボールをゴールに叩き込む時に使用されるトゥーキックだった。ゴシャリ、という音とともにビクトリームの頭がモヒカンに向かって飛んで行き、ぶつかって引っくり返る。ビクトリームもモヒカンもピクピクと痙攣してしばらく動けそうにない。

 そんな中、どこかすっきりした様子でサイが俺たちの方へ戻って来る。魔本を取りに行けばモヒカンは自分の体が傷ついても守ろうとするだろうし、下手に攻撃してビクトリームをこれ以上怒らせるのも俺の体質的な意味で得策ではない。サイが憎まれれば自動的にパートナーである俺にもその矛先が向くのだ。こんな体質でなければビクトリームをボコボコにできたのに、と思わず顔を歪めてしまう。

「恵さん、まだ呪文は使えそうか!?」

「わ、わからない……1回使えても2回目は」

「フォルゴレは!?」

「私もそれくらいだ!」

 今のうちにこちらの状況を確認するつもりなのか高嶺が慌てた様子で大海とフォルゴレに問いかけるがその答えは芳しくない。冷や汗を掻きながら彼は俺に視線を向けた。

「八幡さん、体の具合は?」

「今はそこまで……ただ魔力をぶつけられると術が強制解除されるらしい。期待はするな」

「くっ……みんな、よく聞いてくれ! 俺たちは今呪文がほぼ使えない。使えても1回か、2回が限度。少ないチャンスを最大限に活かさねばならん。みんな、見ろ! 今がチャンスだ!」

 高嶺の言葉で彼らを見るとモヒカンはすでに立ち上がっているがビクトリームは今までのダメージが残っているのかまだ倒れている状態だった。サイが攻撃しなかったのは彼女を通して俺に怒りを向けられる可能性があったからであり、ガッシュたちは関係ない。

「わあああああ!」

 倒れているビクトリームに向かってサイを除く魔物組が雄叫びを上げながら一斉に駆け出す。まさか一斉に向かって来るとは思わなかったのかビクトリームが目を見開いた。

「ハチマン、合図を出したら『サグルク』お願い」

「ああ、わかっ――」

「――ブルァアアアアアア!」

 サイの指示に頷くとビクトリームが絶叫した。どうやら、先頭を走っていたガッシュの口から『ザケルガ』が放たれ、ビクトリームの頭を吹き飛ばしたらしい。そのままモヒカンに直撃。彼らは再び地面に倒れ伏した。

「クソがァあああ……ひとまず体を元に戻さなければ」

 さすがに分離状態では勝ち目がないと思ったのかビクトリームがフラフラと浮かび上がり、周囲を見渡している。だが、先ほどの『ザケルガ』のせいで粉塵が舞っているせいかなかなか見つけられずにいた。

「おお、そこか我が体よ。合体だ!」

「……お願い」

「『サグルク』」

 ガシャン、とビクトリームの頭部と体が合体したのを見たサイが合図を出す。すでに心の力は溜め終わっていたので呪文を唱えた。この子は一体何をする気なのだろうか。まぁ、Vが酷い目に遭うことだけはわかるが。

「化けてやがったかぁ!!」

 少しだけビクトリームを哀れに思っているとその本人の声が部屋に響いた。合体した体が粉塵に紛れてビクトリームの体に変化していたキャンチョメだと気付いたらしい。なお、本物の体はガッシュたちに袋叩きにされていた。

「私の体をいじめるなああああ!」

「『マグルガ』ァ!」

 キャンチョメを突き飛ばしたビクトリームの頭部からVの光線がガッシュたちに向かって放たれる。それとほぼ同時に俺の前にいたサイが飛び出した。咄嗟に逃げようとしたガッシュたちの前に移動して倒れていた彼の体の足を掴み、光線の軌道上へ放り投げる。

「はっ、しまっ――ブルァァアアアア!」

 光線が自分の体に直撃してビクトリームはまた吐血した。しかし、絶対強者であるサイがそれだけで止まるはずもなく、空中へ投げ出されていた彼の体を再び掴んでVの尖っている部分――股間が真下を向くように調整して地面に叩きつけた。

「はぅっ……」

 股間を強打した彼の口から何とも情けない声が漏れる。あれは……痛いだろう。高嶺とフォルゴレも顔を青ざめさせているし。なんてえげつない攻撃をするんだ、俺のパートナーは!

「よいしょっと」

 だが、群青少女はまだ止まらない。痙攣している体を持ち上げてそのままジャーマンスープレックスを繰り出した。彼の両肩が地面に埋まる。なんかゴキリと人体(奴は魔物だが)から聞こえてはならない音が出たんだがS。

「ほい、ほい、ほい、ほい、ほい、ほい」

 しかし、これだけやっても鬼畜少女は止まらない。埋まった体を右足を掴んで引っこ抜き、彼の体を何度も地面に叩き付け始めた。叩きつけられる度、地面が割れていく。

「す、好き勝手にガハッ! やりやがブルァ! やりごぼっ」

 さすがにこのまま放置していれば死んでしまうとでも思ったのかビクトリームはダメージを負いながらもサイの元へ急ぐ。それを見た彼女は彼の体を左右の地面に叩き付けながら走って逃げ始めた。その姿はまるで遠くにいる友達の元へ大きく手を振りながら向かう子供のようだった。

「やめ、ろと言ってんだろうがああああ!」

「『マグルガ』ァ!」

 我慢の限界に達したようでモヒカンが呪文を唱え、頭部からVの光線が放たれたがサイは冷静に手に持っていた体を光線に向かって投げる。あ、なんかデジャビュ。

「はっ、しまっ――ブルァァアアアア!」

 術が体に直撃したビクトリームは再び地面に倒れた。なんというか、ごめん。俺のパートナーが鬼畜過ぎてごめん。











今週の一言二言


・羅生門イベは去年もやっていたので今回は楽ですね。私のカルデアで星4以上で唯一宝具レベル5ラーマきゅんでぶっぱするだけでした。

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