やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
「フォルゴレー! やったよー!」
「ああ、よくやったぞキャンチョメ。だが、私の心の力も少ない。あと1回が限界だ」
地面に倒れるビクトリームを見てキャンチョメが嬉しそうに叫んだ。彼のパートナーであるフォルゴレも笑顔を浮かべるが心の力の消費が激しいせいで少しだけ引き攣っていた。
「く……そったれがぁ!! もう許さん、ぶっ殺してやる!」
フラフラした状態で何とか頭部と体を合体させたビクトリームが血だらけの顔をこちらに向けて地団太を踏む。その表情は怒りに染まっている。
「ぐっ……ぁ」
これはちょっとマズいかもしれない。心臓の痛みはもちろんプレッシャーが凄まじい。『サグルク』も強制解除された。それに奴の魔力がどんどん膨れ上がって行く。ぐにゃりと視界が歪み、前のめりに倒れ込んでしまう。
「ハチマン!」
いつの間にか戻って来たサイに支えられて地面とキスせずに済んだ。しかし、上手く呼吸ができない。サイの声も遠くなっていく。
「Vの体勢をとれ! 怒りのパワーを右腕に!」
「『チャーグル』!」
彼のパートナー――モヒカンの男が呪文を唱えるとビクトリームの右手の水晶が輝き始めた。その瞬間、俺にかかっていた重圧が増幅する。口から『こひゅ』という日常生活ではまず聞かない音が出た。喉の奥が熱い。これは想像以上にやばいぞ。サイがあいつをボコボコにしたことで案の定あいつの怒りがサイを通して俺にも向いているのだ。
「ハチマン!?」
「我が強さを右肩に!」
「『チャーグル』!」
「くっ……ガッシュ、奴を見ろ! 『ザケ――」
「術は駄目! 生半可な攻撃じゃ止まらない!」
ビクトリームの右肩の水晶が輝いたのを見て止めようと魔本に心の力を込める高嶺だったがサイが俺を支えながらすぐに止めさせた。ここで無駄な力を使わず温存しておいた方がいい。あれを何とか出来たらの話だが。
「なら、体当たりでも何でもいい! アレを止めろ!」
「ウヌゥ!」
「私たちも!」
ガッシュの後にティオたちも続くがビクトリームはいち早くそれに気付き、モヒカンへ視線を向ける。まさか、あの状態でも術が使えるのか?
「『マグル・ヨーヨー』!」
俺の予感は当たり、術が発動するとビクトリームの両手が円盤に変化し、ヨーヨーのように伸びてガッシュたちを襲った。更に彼が腕を動かす度にヨーヨーの動きも変わっている。これではヨーヨーの動きが読み切れない。案の定、ガッシュたちはヨーヨーにまとめて吹き飛ばされてしまった。
「よし、続きだ。モヒカン・エース! 我が美しさを股間の紳士に!」
「『チャーグル』!」
「ごぼッ……」
奴の股間が光った瞬間、咳き込んでしまう。そして、吐血。ボタボタと赤黒い液体が地面に落ちた。まさか俺の体質がここまで悪質なものだとは思わなかったのかサイはそれを見て目を丸くしている。
「は、ハチ、マン?」
「き……ん、な」
駄目だ、声すら出せない。だが、今は俺よりもあいつの方がやばい。早く止めなければ確実にやられる。
「わあああああああ!」
「うわおっ!? わーおっ!」
その時、絶叫にも近い声が部屋に響き、突然ビクトリームが悲鳴を上げる。見るとティオが鬼の形相で石ころを奴に股間にぶつけていた。それなりの距離があるのに命中率は100%である。
「やめろ、やめろ! やめっ……私の紳士をいじめるなああああああ!」
さすがに移動できないのかティオの投石を全て股間で受け止めている彼は青筋を立てて叫んだ。すると、怒りを向ける対象にティオが増えたせいか俺にかかっていた重圧がある程度軽くなった。思わず、ホッと息を吐いてしまう。
「……ハチマン、ここにいて」
「さ……ぃ」
俺の様子を見てとりあえず大丈夫だと判断したのかサイはそう言ってビクトリームの方へ駆けだした。少しでも彼女の助けになるよう魔本に心の力を注ぐが上手く込められない。重圧が軽くなったとはいえ、未だ心臓は悲鳴を上げているせいだ。
(くそっ……くそくそくそくそぉ!)
こんな状況で呪文すら唱えられないなんて俺は――どこまで無力なのだろうか。役立たずなのだろうか。これじゃサイの隣に並んで戦うなど夢のまた夢。いや、夢とすら言えない。机上の空論ですらない。ただの戯言だ。
「く……そぉ! あったまきた……まだ完全ではないがここでてめぇらをロストしてやるぜ!」
ティオを睨みながらビクトリームが言うと右手、右肩、股間の光が一際強くなった。まずい、術が来る。その矛先は先ほどまで石を投げていたティオ。この魔力の感じから“彼女でも防ぎ切れない”ほどの威力を持った呪文だ。このままでは俺たちは――。
(でも、今なら)
状況は最悪だが、幸いなことに奴の意識はティオに集中している。つまり、今だけはサイの力を最大限に発揮できるのだ。後は俺が呪文を唱えられれば。
「――『サ、ルク』っ」
しかし、情けないことに唱えられたのは
「『チャーグル・イミ――」
「ぬおっ」
「――スドン』!」
モヒカンが呪文を唱えている途中で死角からビクトリームに迫ったサイが足払いして彼の体勢を崩した。その刹那、ビクトリームからVの半分が射出される。完全ではないと言っていたが、こういうことだったのか。完全になれば巨大なVになるのだろう。そんなのんきなことを考えながら向かって来る術を観察する。サイの一手で術は俺たちのわずか頭上を通り過ぎる軌道になったようだ。
(それでも“当たる”!)
確かに直撃は免れた。しかし、問題は術の余波である。掠るだけでもやばい一撃だ。その余波も馬鹿にならない。魔物組は大丈夫かもしれないが人間組はその余波だけで戦闘不能にされてしまうだろう。
「このままじゃ全員吹き飛ぶ! ガッシュ、Vの折り返し部分を見ろ!」
「清麿君! 一回ぐらいなら盾を出せるわ!」
「待、て」
高嶺が冷や汗を流しながらガッシュに向かって絶叫する。それに対して抗議する大海だったがそれを俺が止めた。あの術はティオの盾で防ぎ切れない。それに今回は余波を何とかすればいいので俺たちの頭上を術が通り抜ける直前にこちらの術をぶつけて余波を吹き飛ばせばいい。
「今、はあいつらに、まかせろ」
「八、まっ――血が……」
大海は俺の口の端を見て吐血したことに気付いたのか目を見開く。ティオのおかげで何とかなったから安心しろ。そう言いたいのは山々だが今は時間がない。小さく頷くだけに留めておく。そんなことをしている間にハーフVがすぐそこまで迫っていた。
「もう最後の呪文になるが……頼むぞ! 『バオウ・ザケルガ』!」
十分引き付けたところで高嶺たちの最大呪文が飛び出す。雷龍が雄叫びを上げながらハーフVと激突し――一瞬で打ち負けた。
「何っ!?」
まさかここまで容易く打ち負けるとは思わなかったのか高嶺が驚愕の声を漏らす。しかし、目論見通り余波だけは何とか吹き飛ばすことができた。ハーフVが俺たちの頭上を通り過ぎ、背後の壁や天井をまとめてVの字状にくり抜く。
「こ、のくそアマァ! よくも邪魔してくれたな! だが、今のが貴様らの最大呪文ならば……そこまで焦る必要もなさそうだ。散々邪魔してくれたくそアマのパートナーも瀕死みたいだからな。さぁ、モヒカン・エースよ、今度はフルパワーだ! 今度こそ終わらせるぞ! 怒りのパワーを右腕に! 『チャーグル』!」
ビクトリームは再び充電を始めた。俺たちに勝てると心の底から思っているのかこちらに怒りを向けて来ていないため、俺への負担もほとんどない。おそらく俺が吐血したところを見たから瀕死だと思ったのだろう。
「ぐっ……」
その時、高嶺が顔を歪めながら地面に倒れ、慌ててガッシュが駆け寄る。確か『バオウ・ザケルガ』を放った後、高嶺は戦闘不能になってしまうらしい。一か八かの一撃と言ったところか。とりあえず、できるだけビクトリームから距離を取るためにサイと合流した後、壁際まで移動した。ビクトリームの右肩の球体が輝くのを見ながら俺と高嶺は仲良く並んで壁に寄り掛かる。
「まだ、だ……まだ頼みの綱は残ってる」
苦しそうにしながら高嶺が声を漏らした。そうは言っても高嶺はご覧の有様。大海たちの盾はあの巨大なVを防げない。フォルゴレたちの術も切り札になるとは言えない。サイに関しては完全に俺が足を引っ張っている。ウマゴンはパートナーすらいない。この状況でどうする気だ?
「恵さん、呪文を使う準備を……」
「……ごめんなさい。あれほど大きな力、
大海も自分の力ではあれを防げないとわかっているのか悔しそうに言う。それに対し、高嶺は首を横に振った。
「いや……使うのは『サイフォジオ』だ」
「回復呪文……ねぇ、キヨマロ。まさか……」
「……すまない。だが、おそらくこれが一番確実なんだ」
「……そう、だけど」
高嶺の発言で何かわかったのかサイが少しだけ彼を睨んだ。そして、2人の視線が俺に集まる。え、何? 急にどうしたの?
それから高嶺は作戦を俺たちに告げた。確かに彼の言う作戦ならほぼ確実にあいつの魔本を奪うことができるだろう。途中で“俺が”ヘマしなければの話だが。
「ハチマンさん、できるか?」
「……ああ、やれるだけやってみる」
「よし……頼むぞ、みんな! 最後の
少しの不安を抱えたまま、最後の作戦が開始された。
今週の一言二言
・シノアリス始めました……いや、まぁ、メンテ中なんでほとんどできていないのですが……11日の午前中までメンテらしいです。運営さん、頑張ってください。
・FGOは新宿までAP半減来たのでそろそろアガルタっぽいですね。今から楽しみです。