やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
今週の水曜日までには返信出来ると思いますのでご了承ください。
「結衣?」
「……」
「おーい、結衣ー?」
「へ? あ、な、何?」
優美子に肩を叩かれたあたしはすぐに笑顔を浮かべる。しかし、彼女は訝しげな表情であたしを見るだけだった。
「どうしたの?」
「……ちょっと、ヒッキーが心配で」
「ヒキオ? あれ、休み?」
不思議そうにヒッキーの机に視線を向け、初めて彼が休んでいることに気付いたのだろう。
今、ヒッキーは魔物関係でアメリカに行っている。移動など色々あるので1週間以上休むと言っていた。彼は『他の奴らもいるし大丈夫だろう』と言っていたが心配なものは心配なのだ。
「インフルにでもなったの?」
「そんな、感じかな」
最近、インフルエンザが流行っており、このクラスでも数人ほど休んでいる人がいる。あたしはヒッキーが心配で誰がどれほど休んでいるか把握していないが結構長い間、休んでいる子もいるらしい。魔物に関して言うわけにもいかないのでインフルエンザってことにしておこう。
「ふーん、まぁ、あいつならすぐにケロッとした顔して帰って来るんじゃない?」
「……うん、そうだね」
大丈夫。ヒッキーだもん。いつだって彼は何でもないような顔でいつの間にか問題を解決しちゃう。今回だってすぐに解決して帰って来る。
(……あれ)
「結衣?」
いきなり顔を青ざめさせたあたしの名前を呼ぶ優美子だったがそこで教室に先生が入って来た。優美子に腕を引っ張られて何とか自分の席に座ることができたが気持ちは動揺したまま。
(もし……もし、今回も同じようにヒッキーが問題を解決するなら――)
――また、彼は……傷つくの?
ビクトリームの本を燃やした後、目を覚ましたモヒカンに街に行くように説明する高嶺たちを見ながら俺は水路の水で口をゆすいでいた。あれだけビクトリームが大暴れしたのに水路は無事だったのだ。まぁ、口の中が鉄の味がして気持ち悪かったので助かったが。
「ハチマン」
口内をすっきりさせてホッとしていると服の裾をくいくいと引っ張るサイ。何だそれ可愛いな。ちょっと心の力が回復したぞ。
「何だ?」
「大丈夫?」
「……」
彼女の問いにすぐに頷くことはできなかった。基本的にサイに嘘は通用しない。それに先ほどの戦いを見れば大丈夫ではないことぐらいわかるだろう。『サイフォジオ』である程度回復できたとはいえ、負の感情が乗った魔力を浴びる度に
「八幡さん」
その時、地図を持った高嶺が話しかけて来る。その後ろには心配そうに俺を見つめる大海。少し遠くの方でガッシュたちの相手をフォルゴレがしていた。魔物組にはあまり聞かせたくない話なのだろうか。
「体の調子はどうだ? かなり無茶させてしまったけど」
「……動けはする」
「戦えはしない?」
彼の表情からしてすでに答えはわかっているのだろう。ため息を吐きながら渋々頷く。ビクトリームとの戦いではっきりした。これ以上俺がここにいる意味はない。むしろ、邪魔だ。
「……わかった。ひとまず、ここを移動しよう。少し引き返すことになるがもっと安全な部屋へ。そこで入り口を塞いで体力と心の力をある程度回復させる。その後、八幡さんとサイを街へ送って再突入。もしくは作戦を練り直そう」
情けない話だが俺1人では街へ戻るのは難しい……というより危険だ。千年前の魔物が徘徊している可能性もあるし、もし鉢合わせしたらすぐに殺されてしまう。最悪の場合、人質になってしまうかもしれない。なので、少し休憩するのは賛成だ。だが――。
「いや、送るのは俺だけでいい。サイを連れて行ってくれ」
「ッ!? ハチマン!」
俺の発言に最初は目を見開いたサイだったがすぐに目を吊り上げた。まぁ、それもそうか。俺だってサイにそう言われたら怒るだろう。しかし、状況が状況である。
「お前なら術なしでも役に立つ。それに俺が魔本を持っていれば魔界に送還される心配もないしな」
「でもっ!」
頭では理解しているが、感情が俺の提案を拒否している。サイはそんな表情を浮かべながら首を横に振った。もちろん、このまま黙っていればいずれ『ハチマンの体が心配』などと言われ、彼女に論破されてしまうだろう。だから、こちらから先に仕掛ける。
「それにお前が言ったんだろ? 俺には戦わせたくないって。戦わなくていいって」
「っ……」
俺の口から出た言葉は皮肉にもサイが俺に対して言ったものと同じだった。まさかここでその言葉が出て来るとは思わなかったのか口をぱくぱくさせた後、悲痛の表情を浮かべて視線を地面に落とした。
「だからさ、俺のためにも高嶺たちを助けてやってくれよ。早くこの問題が解決すれば早く家に帰られるんだからな。むしろ、よくここまで働いたって褒めて欲しいぐらいだわ」
「……うん、そう、だね。早くお家に帰って小町の受験お疲れ様会をしなきゃね」
あまりにも下手くそな見栄に今にも泣きそうな顔でサイは笑う。高嶺も大海も辛そうに俺たちを見ていた。彼らに……何より彼女にそんな顔をさせたのは俺だ。俺は彼女を悲しませるためにここに来たのではない。ただ、一緒に……一緒にいたかっただけなのに。変なプライドで戦うことを選択して迷惑をかけて結局足を引っ張るだけ引っ張って。また間違えてしまったのだろう。期待することを止めたはずなのに。俺は同じ過ちを繰り返した。ただ、それだけ。
「メルメルメ~!」
その時、ビクトリームの術で空いた壁の穴の方からウマゴンの声が聞こえた。見るとウマゴンが外に向かって雄叫びをあげている。しかし、すぐにその場でへたり込んでしまった。ガッシュが慰めに走る。
「嘘っ……」
唯一、ウマゴンの言葉がわかるサイはその雄叫びを聞いて目を丸くした。だが、それも長くは続かない。ウマゴンを見ていた彼女はハッとして部屋の入口の方を振り返ったのだ。
「あれ? ビクトリームじゃないじゃない」
そこにいたのは図体のでかい魔物とサイと同じくらいの小さな角の生えた女の子だった。その後ろには魔本を持った人間が2人。彼らの表情は今まで見て来た千年前の魔物のパートナーとそっくりだった。
「もしかして……あなたたち侵入者? だとしたらビクトリームに勝ったんだ」
意外そうに言う女の子。だが、俺はもちろん他の奴らも彼女の言葉を気にするどころではなかった。俺以外の人は心の力を使い果たし、俺も満足に戦えない。そんな状況で無傷の魔物2人と戦うのは不可能だ。できてもサイが足止めする程度である。
「逃げるんだ! 今は戦えん!」
高嶺がすぐに指示を出す。それができたらどれだけよかっただろう。逃げること自体は可能だ。サイが足止めすればいいのだから。しかし、問題は逃走経路。
「フン……どこに逃げるという?」
今まで黙っていた図体のでかい魔物が勝ち誇ったように言う。そう、この部屋唯一の入り口は魔物2人の背後。ビクトリームの術によって大破した壁も通れるような状態じゃない。所謂、俺たちは袋の鼠。さすがにサイ一人ではこいつらを倒し切れない。
「『ベギルセン』!」
どうするか考えている間に図体のでかい魔物の腹から刃の付いた巨大な砲丸が放たれる。『サシルド』では防げない。ここは『サグルク』でサイの体を強化して――。
「羽!」
「っ……『サフェイル』!」
サイの指示に従って『サグルク』ではなく『サフェイル』を唱えた。砲丸の影に隠れるように移動したサイはそのまま一気に急上昇する。そして、それを見たガッシュが俺たちの前に躍り出て砲丸を生身の体で受け止めた。
「ホウ……素手で受け止められる奴がいたか」
「ガッシュ、大丈夫か!」
「ウ……ヌ。しかし、このまま攻撃を続けられたら」
砲丸を投げるように横に置いたガッシュの額には冷や汗が流れている。体が頑丈な魔物でも術を何度も受け止めていればいずれ限界が来るだろう。何度も攻撃されたら、の話だが。
「ダルモス、上」
「何……ッ!?」
女の子の言葉で上を見上げた図体のでかい魔物――ダルモスは咄嗟に右腕を上に掲げた。そして、サイの踵と彼の右腕が激突する。その衝撃で女の子の髪が揺れた。
「なんて威力、だ」
「ちっ」
奇襲に失敗したことを悟り、すぐにダルモスから離れるサイ。俺たちに攻撃することに夢中になっていたダルモスはサイを見逃していたようだが、彼の隣にいた女の子には見えていたらしい。
(だが……)
見ていたのならもう少し早く教えられたのではないだろうか。何というか、違和感を覚える。言葉にできないが……そう。彼女から漏れる魔力が今まで出会って来た千年前の魔物のそれと違うような――。
「もう一体の攻撃が来る! みんな、バラバラに逃げて惑わすんだ!」
高嶺の絶叫で思考の海から浮上すると丁度女の子が先端が三日月になっている杖を取り出し、こちらに向けるところだった。その杖の先が仄かに輝いた時、俺は確信する。
「敵意がない?」
「『ミグロン』!」
それを証明するように女の子の持つ杖から放たれた砲撃は左側の壁を破壊した。
今週の一言二言
・最終面接に行って来ました。面接中に内定貰いました。