やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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今回は長めです。







LEVEL.124 こうして、彼は絶望と対峙する

 左側の壁に女の子の術が直撃し、ガラガラと音を立てながら崩壊する。やはり、あの子に俺たちを攻撃する意思はない。むしろ、脱出経路を確保してくれた。だが、その理由はわからない。どうして、あの子は俺たちに味方する? 石にされてしまうはずなのに。

「……」

 高嶺たちが左右に飛び込む中、俺と動かなかった俺を守るために俺の前に着地したサイを見て女の子は少しだけ目を見開き、微かに微笑んだ。俺が気付いたことに向こうも気付いたのだろう。

「何をしている?」

「ええ、今度こそ当てるわ。アルベール、もう一度よ」

「駄目! また来るわ!」

 女の子の魔本に青年――アルベールが心の力を注ぎ始める。それを見た大海が大声で俺たちに注意を促す。しかし、術を唱えようとしたアルベールの口が途中で止まった。いや、術を唱えようとしているが何かに邪魔されてパクパクと口を動かしているだけだ。ダルモスもいきなり術を唱えられなくなったアルベールに視線を向け、気付き慌てて両腕を体の前で交差させる。

「レイラ! 貴様、何故攻撃の手を俺に向けている!?」

「……ダメね。やはり千年前の魔物同士戦おうとするとアルベールは呪文を唱えられないわ」

「どういう、ことだ?」

 女の子――レイラの言動に高嶺が戸惑うように呟いた。レイラに敵意がないことに気付いていたのは俺とサイだけだったようだ。

「味方ってことだ。今のうちに逃げるぞ」

「ほら、早く!」

 俺たちはレイラが開けた壁穴へと向かう。高嶺たちも慌てて俺たちの後を追って来た。彼女が危険を冒してまで作ってくれたチャンスだ。無駄にするわけにもいかない。

「くっ……後で説明して貰うぞ!」

「『アムベギル』!」

 レイラを睨んだダルモスの腕がこちらに向かって伸びる。ご丁寧に拳の形もサメのように鋭い牙の生えた口に変化していた。低空飛行で移動していたサイが俺たちの前に割り込んでダルモスの腕を蹴り上げる。だが、今度は逆の腕が飛んで来た。サイのフォローは間に合わない。咄嗟に狙われていた大海の前に移動して衝撃に備える。

「お願い、アル!」

「『ミシルド』!」

 その時、ダルモスの隣にいたはずのレイラがいつの間にか目の前にいた。そして、三日月の盾を出してダルモスの腕を受け止める。

「おのれ、何を考えておる! 構わぬ、術を使い続けろ!」

 術によって変化した両腕を三日月の盾に何度もぶつけるダルモス。盾に皹が走った。長くは持たない。

「あまり、持ちそうにないわね」

「ああ、だから唱え直せ。『サシルド』」

 『サフェイル』を解除した後、術を唱える。すると三日月の盾の前の地面から半円状の群青色の盾がせり上がり、ダルモスの腕と激突した。俺たちの盾は物理攻撃に弱いからすぐに破壊されるだろう。まぁ、レイラの盾を張り直す時間さえ稼げればそれでいい。

「アル」

「『ミシルド』!」

 レイラが俺の方を見て『ありがと』と声に出さずにお礼を言い、三日月の盾を張り直した。その直後、群青色の盾が粉砕される。だが、これでしばらくは持つはずだ。

「どういうことだ……あんた一体?」

「今の私たちのやってることが間違いだってことぐらいわかってるわ。だから、早く逃げなさい」

「しかし、あんたは!? こんなことをすればロードに石に戻されるんじゃないのか!?」

「確かにあいつがロードにこのことを喋ったらまずいかもね。でも、間違ってるのは私たちなのよ」

 彼女の言葉に俺たちは声を失った。何でもないように言っているがレイラも千年もの間、石にされていた被害者だ。復活して貰ったとはいえロードに利用され、裏切れば石に戻される。彼女たちにとってその脅しはどれだけ効果があったのだろう。あの人型の魔物のように戦いたくない奴らもいる。レイラのように間違っているとわかっている奴らもいる。しかし、ロードの言うことを聞いている現実がその脅しの効果を物語っていた。

 間違っているとわかっていてもやってしまうからこの世から犯罪は消えない。我慢しなければならないのに出来ないからこの世から悪はなくならない。

 だからこそ、レイラの言動はもはや異常としか思えなかった。気が狂ってもおかしくない仕打ちを受けたのにそれでも正しいことをしようとする彼女は今、どんな気持ちで俺たちの前に立っているのだろう。想像もしなくない。

 だが、戸惑う俺たちの中でただ一人――。

「皆、逃げろ! 俺たちはこの子と協力してあいつを倒す!」

 

 

 

 

 ――『高嶺清麿』だけは彼女を救う道を考えていた。

 

 

 

 

「っ……いやよ! 私たちも戦うわ!」

「そうよ、あなたたちばかり危険な目には……」

 彼の提案にすさかず反論したのは大海とティオだった。心の力のない高嶺たちを残すのはあまりにも危険だ。しかし、それは大海たちも一緒。残るとしたら――。

「いや、ここは逃げるんだ」

 その時、フォルゴレが大海たちを止めた。レイラとアルベール以外の視線が彼に集まる。

「私にだって今の状態じゃ足手まといなことぐらいわかる。全滅しては何の希望も残らない。それに八幡をこれ以上放っておくのは命に関わる! そうだろ?」

「くっ……」

 チラリと俺の方を見た大海は悔しそうに拳を握った。さすがに仲間の命が危険に曝されていると言われては反論できないらしい。説得の材料にされた俺としては情けなくて仕方ないのだが。

「清麿、本当にお前たちも助かる見込みがあってのことだろうな!」

「……ああ。ティオ」

「え!?」

 フォルゴレの言葉に微笑んだ高嶺は赤い魔本をティオに投げた。いきなり本を投げ渡された彼女は慌てながらも何とかキャッチする。

「その本を守り通せばガッシュは消えない」

「ウヌ! 頼んだぞ、ティオ!」

「……任せて!」

「サイ、出口までの地図を」

「うん。皆、こっち」

 高嶺から地図を受け取ったサイはそれを広げ、すぐに閉じた。どうやら、一瞬で出口までの道のりを記憶したらしい。先頭を走るサイの後を追うように俺たちはアジトから逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うー……」

 昼休み。ゆきのんとお昼ご飯を食べるために奉仕部の部室に向かっている途中、あたしは携帯を唸りながら睨みつける。ヒッキーが心配で連絡しようと何度も電話を掛けたが出てくれないのだ。もしかして本当に何かあったのかもしれない。どうしよう、ゆきのんに相談しようかな。

「携帯は使えないって出発前に彼、言っていたじゃない」

 さっそくお昼ご飯を食べながらゆきのんにそのことを話すと呆れたようにため息を吐いた後、そう教えてくれた。そう言えば、そんなこと言っていたような気がする。でも、どうして外国に行っていたら携帯使えないのだろうか。電波届かないとか?

「お金がかかるのよ」

「へぇ、そうなんだ」

 じゃあ、何かあったわけじゃないのかな。でも、やっぱり心配だ。ゆきのんも平気そうに言っているけど少しだけ落ち着かない様子。あたしも彼女も魔物同士の戦いに巻き込まれたことがあるので心配しない方がおかしい。

「邪魔するぞ」

 お昼ご飯を食べ終わった頃、いきなり平塚先生が部室に入って来た。ノックがなかったのであたしたちはビクッと肩を震わせてしまう。

「……先生、ノックしてくださいと何度言ったら」

「すまんすまん。それで由比ヶ浜ちょっといいか?」

「はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アジトを脱出した俺たちは駆け足で森の中を移動していた。サイだけは木の枝から木の枝へ飛び移るようにして先の様子を確かめながらだが。完全に忍者ですありがとうございます。

「八幡君、体は大丈夫?」

 俺の隣を走っていた大海が少しだけ息を切らしながら問いかけて来る。結構長い時間走っているが息切れだけで済んでいるのはすごいな。アイドルだからか?

「走る分にはな」

「そう……ねぇ、あの時――」

「――止まって!」

 何か言いかけた大海だったが木の上にいたサイの大声に遮られてしまう。俺たちに止まるように指示した本人は目を閉じていた。魔力を探知しているのだろうか。しばらくして難しい表情を浮かべたまま、木の上からサイが降りて来る。

「……敵か」

「……うん」

 俺の問いかけにサイは無言で頷き、全員に緊張が走った。アジトを脱出する時に勘付かれたか、サイのように魔物の居場所を探知できる能力を持っていたか定かではないが敵が迫っていることには変わらない。街までもう少しだが彼女の様子からして間に合わないのだろう。しょうがないか。

「サイ」

「ッ……わかってる」

 名前を呼んだだけで俺の考えていることを察したのか彼女は顔を歪ませて俯いた。大海もそれを見て気付いたようで目を見開いて首を横に振る。

「だ、駄目……八幡君の体はもう」

「これが一番確実だろ。さっきも本当なら俺たちが残るのがベストだったんだ」

「だけど、そんな体で戦えるわけないじゃない!」

 大海の絶叫が森の中に響いた。あまり大声出されて増援が来ても困るのだが、彼女の性格からして叫ばずにはいられなかったのだろう。フォルゴレも大海の意見に賛成なのか黙ったまま、俺をジッと見つめている。ティオもキャンチョメも不安そうに俺たちを見上げていた。そういえばウマゴンがいない。ガッシュたちのところに残ったのだろうか・

「急いで、結構近くまで来てる」

 サイが敵のいるであろう方向を見ながら忠告した。話をしている時間はない。

「じゃあ、心の力がない状態で戦えるのか?」

「それは……」

「フォルゴレも言ったよな。全滅したらなんの希望も残らないって」

「ぐっ……」

 俺の正論に2人は俯く。ああ、そうだ。彼女たちだってわかっているのだ。俺たちがここに残ることが一番“正しい”ことを。でも、感情がそれを許さない。はっきり言って追いかけて来る魔物がどんな相手だろうと俺たちの勝機はほぼない。サイはともかく敵と対峙した時点で俺は身動きができなくなるのだ。絶対的強者であるサイであっても足手まといを抱えながら千年前の魔物を相手にするのは無謀である。だからこそ、ここに残る(捨て駒にする)べきなのは(役立たず)なのだ。

「頼む。これ以上、俺に足を引っ張らせないでくれ」

 論破した後、今度は感情に訴える。否定する材料がない上、感情すらも揺すられたら頷かずにはいられないだろう。その証拠に、大海もフォルゴレも悔しそうに奥歯を噛みしめた。

「……絶対に、生き残って。必ず助けに来るから」

 俺を止める手段がないことに気付き、諦めたのか大海は涙を流しながら俺の両手を握る。その手は震えていた。

「言われなくてもそのつもりだ。俺だって死にたくねーよ」

「生き残ってッ!」

 いつものように捻くれた言い方をしたが彼女は真剣な眼差しをこちらに向けて再度繰り返した。誤魔化しは許さない。そう言わんばかりに。

「……ああ、わかってる。命乞いしてでも生き残ってやるよ。人質にされたら助けてくれよな」

「うん、助ける。絶対に助ける!」

「ハチマン、そろそろ」

 サイの言葉で俺は大海の手を振り払り、彼らに背中を向ける。さぁ、ここからが踏ん張りどころだ。『生き残る』と約束したからな。サイを魔界に帰すつもりもない。

「八幡君!」

 4人分の足音が遠ざかって行く中、大海が俺を呼んだ。俺は振り返らずに黙って言葉の続きを待った。

「あなたは話し合いが出来ないって言ってたけどそんなことない! あなたならきっと思いを伝えられるから!」

「恵、急げ!」

「どんなに拙くてもいいからあなたの言葉で気持ちを伝えて! あなたなら絶対にできるから!」

 フォルゴレに急かされながらも言いたいことは全て言えたのか大海も彼らの後を追いかけ始めた。森に静寂が訪れる。

「……すまん」

「ううん、こうなるってわかってたから。それにハチマンを置いていくわけがないでしょ?」

 俺の手を握って笑うサイ。ああ、やっぱり負けられないな。勝ち目がない戦いでも最後まで喰らいついてやる。

 

 

 

 

 

 そう、思っていたはずだった。

 

 

 

 

「ハチマン、来るよ」

「あぁ……」

 大海たちと別れて数分、やっと敵の姿が見えた。まだ距離があるのにすでに心臓は悲鳴を上げている。だが、ビクトリーム戦の時よりマシだ。これぐらいなら耐えられる。

 

 

 

 

 

 きっと、この時に気付くべきだったのだ。離れている時点で俺たちに負の感情の乗った魔力を向けている意味を察するべきだった。

 

 

 

 

 

「なっ……」

「……嘘でしょ」

 木の影から出て来た2人の人物を見て俺たちは言葉を失ってしまう。魔物の背丈はガッシュぐらいだがその背中に巨大な剣を背負っていた。その目は鋭く、俺たちに殺意を向けている。そして、そんな彼のパートナーは心を操られているはずなのに“俺”を睨んでいた。殺してやると言わんばかりに。

「なんで……お前がここにいる」

 声がみっともなく震える。明らかに動揺していた。サイも驚きを隠せないようで俺の前に出ながらも攻撃を仕掛ける様子はない。何故なら――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相模!」

 

 

 

 

 ――魔物のパートナーは俺のクラスメイトだったのだから。

 




ずっと考えていたシーンを出せてホッとしています。

というわけで次回から相模戦です。正直、魔物より相模の方が厄介です。

詳しくは次回。








今週の一言二言


・FGOでアガルタの女が配信されましたね。石溜まる度に引いてはいるのですが全然出る気がしません。とりあえず、不夜城のアサシンください。

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