やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
「すごい……」
彼らが空へ投げた3冊の魔本がガッシュ君の放った雷撃に撃ち抜かれたのを見て呟いてしまう。最初こそ八幡君たちだけで戦うのに反対したが彼らの戦う姿を見て心配した自分が恥ずかしくなってしまった。彼らははっきりと『答えを見つけた』と言っていたのにそれを私は信じることができなかったのだ。
「さて……まだやるか?」
「ゲロロロロ……逃げるゲロォ!」
サイちゃんと軽く拳をぶつけ合った後、八幡君がカエルの魔物にそう問いかけるとカエルの魔物はパートナーと共に空を飛ぶ魔物に飛び乗って逃げてしまった。生き残ったのはカエルの魔物以外に空を飛ぶ魔物のみ。数の有利はすでに敵にはなく、空を飛ぶ魔物のパートナーの姿はないので戦えるのはカエルの魔物だけだ。逃げるのも当たり前である。
「アポロ!」
カエルの魔物たちが逃げるのを眺めていると突然、清麿君がアポロさんを呼んだ。そう言えば、アポロさんが抱えている女の子をどこかで見たような気がする。確か――。
「ハチマン!」
思い出す前に後ろでドサリ、という音が聞こえる。振り返ると地面に倒れている八幡君と彼の体を起こそうとしているサイちゃんの姿があった。複数の敵――しかも、自分よりも遥かに強い相手に遅れを取らずに戦っていたので思わず自分の目を疑ってしまう。だが、呆けていたのは一瞬で私たちも慌てて彼らに駆け寄った。
「サイちゃん、八幡君は!?」
「……今すぐどうにかなるような状態じゃないけど放置しておくのもマズイかな」
「そんな……あんなに動いてたのに」
その場で正座したサイちゃんは八幡君の頭を足に乗せて膝枕をしながら答え、ティオが震える声で呟いた。確かに呼吸は安定しているが顔色は悪い。もしかして彼は無理して戦っていたのだろうか。
「彼は最初からこうなる覚悟で戦っていたよ」
不意に背後から聞き覚えのない声がして思わず振り返った。そこにはウマゴン君の魔本を持った見慣れない男性が立っていた。
「ああ、すまない。私はカフカ・サンビームという。ウマゴンのパートナーだ」
「は、初めまして。大海 恵です……それで先ほど言っていたことですが……」
「車とかの手配はキヨマロたちに任せておいて大丈夫だろうし私から説明するね」
気絶している八幡君の頭を撫でながらサイちゃんが笑って言った。清麿君が慌てた様子でアポロさんに声をかけたのはそれが理由だったらしい。それに八幡君が倒れているのに落ち着いているサイちゃんもサンビームさんが言っていた八幡君の覚悟について知っているのだろう。今は彼女の話を聞いた方が良さそうだ。
「聞いたかもしれないけど私たちだけで戦ったのにはいくつか理由があってね……まず、敵の戦力を可能な限り削ぐため。だから、カエルたちが撤退しないようにわざと敵に有利な状況にして戦った。それに加えて同時に敵を倒す必要もあってね。私たちだけで戦う方が何かと都合がよかったの」
『敵の数は最初からわかってたから』と苦笑を浮かべるサイちゃん。彼女は魔力を感知することができる。その能力で敵の戦力を把握し、2人だけで戦っても問題ないと判断したのだろう。
「これが1つ目の理由。次に情報を出来るだけ敵に渡さないため」
「情報?」
サイちゃんの言葉をナゾナゾ博士の肩に乗っていたキッド君が繰り返す。その彼の言葉で口を開けたのはサイちゃんではなく、ナゾナゾ博士だった。
「最初から敵を全滅させることは不可能だと判断して必要最低限の戦力で戦い、敵にこちらの手の内を明かさないようにした。そういうことだね?」
「うん、無理して全滅を狙って敵を逃がした上に情報を持ち帰られたら元も子もないからね。空を飛べる魔物がいることもわかってたし。これが2つ目……それで最後に」
そこで言葉を区切ったサイちゃんは視線を八幡君に落として小さくため息を吐く。その答えは何となく私にもわかった。
「ハチマン、もう限界だったんだ。『サルフォジオ』で傷の回復はできても失った血とか体力は元に戻らない。それに新しい術もハチマンに結構負担かかるんだよね」
「あの白いオーラのことか?」
「確か……八幡君専用の肉体強化、よね。八幡君の気力に依存するって言ってたけど」
フォルゴレさんの疑問に私も声を漏らす。サイちゃんの新しい術――『サジオ・マ・サグルゼム』で白いオーラを纏った八幡君は人間であるにも関わらず魔物相手に引けを取らない戦いを繰り広げていた。それだけ強力な肉体強化なのだ、デメリットもあるのだろう。
「パートナーである人間を強化する呪文? 私でもそんな術、初めて聞いた。元々サイ君の魔本は他のものと違うようだが……それに気力に依存するとは一体?」
「気力っていうか……気持ち? 八幡自身が強くなりたい、負けられないって想えば想うほど術の効果も強力なものになるし、継続時間も延びる。その代わり、気持ちが沈んでたり、諦めたり、折れちゃったりしたら効果も弱くなる上、すぐに消えちゃうけど」
ナゾナゾ博士の疑問に答えるサイちゃんだったが私たちは揃って言葉を失ってしまった。千年前の魔物たちと戦う直前、彼女は『八幡君の気力に反応して体を強化する効果を付加する』と彼女は説明していたのを思い出す。つまり、『サジオ・マ・サグルゼム』は八幡君を強化する術ではなく、正しくは『八幡君を強化する効果』を付加する術なのだろう。
「それでこの術のデメリットなんだけど……ハチマンの気力がすり減るんだ。精神的疲労がすごいの、あれ。一回使って効果が切れたらその場でへたり込んじゃうくらい」
「え、待って。ここに着いてから術を掛け直さなかった? 上から見てたけど恵を助けてくれた時に白いオーラ、吹き飛んじゃったじゃない」
ティオは空を飛ぶ魔物に上空へ連れ去られてしまった。だからこそ、私たちのことも見えていたのだろう。
「だから、言ったでしょ。限界だったって。相当無理してたと思うよ」
「じゃあ、なんで戦ったの? 限界だったのなら無理して戦う必要は――」
「――メグちゃんならわかるでしょ? ハチマンの性格」
「ッ……」
私の言葉を遮ったサイちゃんは困ったように笑っていた。
敵の戦力を可能な限り削りたい。
敵にこちらの情報を出来るだけ渡したくない。
そして、すでに限界の自分。
おそらく、八幡君は戦わなくても街に着いた時に倒れてしまうことをわかっていたのだ。だから、無理をしてでも戦った方がいいと判断した。体の異常で傷だらけの肉体に、『サジオ・マ・サグルゼム』でボロボロになった精神に鞭を打って彼はサイちゃんの隣に立ち続けたのだ。それが彼らの見つけた『答え』だったから。
「まぁ、本当は……ううん、これはいいや。さて、キヨマロたちの方も準備できたみたいだしそろそろ移動しよっか」
何か言いかけた彼女だったが清麿君とアポロさんがこちらに向かって来ているのを見て八幡君を横抱きにして立ち上がった。他にも八幡君が戦った理由はあるようだが、話す必要はないと思ったのかもしれない。でも、清麿君たちの方へ歩き出した彼女の横顔がどこか嬉しそうだった。
「あ、そうそう。メグちゃん、後でお話あるから。きっと誰にも聞かれたくないだろうから2人っきりで……色々と話そうね」
「……」
チラリと振り返って私を見ながら微笑んだサイちゃん。それだけで八幡君に対する私の気持ちが全て筒抜けであることに気付き、顔から血の気が引いていく。八幡君を心配するより自分の命の心配をした方がいいかもしれない。
「恵、後で骨は拾ってあげるわ」
因みにその後すぐにティオに励まされ、自分のパートナーにもばれていることを察して恥ずかしさのあまり、その場でしゃがみ込んでしまった。
しゃがみ込んだメグちゃんを見て私はくすくすと小さく笑う。少しからかい過ぎてしまったかもしれない。前からメグちゃんの気持ちには気付いていたが、本人がわかっていないのに話すわけにもいかず、ずっと放置していたのだが、やっと話すことができてちょっとだけホッとしている。自分の恋心に気付いた時にはすでに遅かった、なんて最後はあまりに可哀そうだから。
(まぁ、だからと言って容赦はしないけど)
そんなことを思いながら青ざめた顔で寝ているハチマンの顔を覗き込んだ。あれだけ無茶したのに気絶だけで済んだのは意外だった。まぁ、私たちだけで戦った“本当の理由”を考えればあり得なくもない話か。
「言わなかったことを褒めて欲しいなぁ」
きっと素直に話していたら彼の面目は丸つぶれだろうから。これだけ頑張ったのだから格好いいまま、“戦闘離脱”させてあげたい。
結局、彼は私と一緒に戦いたかっただけなのだ。私たちで導いた答えが本当に合っているのか確認したかった。ただそれだけのために色々と言い訳を考え、皆を納得させた。そして、答え合わせが終わった後、安心して倒れてしまっただけなのだ。
ハチマンは本当の理由について私にも言わなかったが戦っている間、あれだけ嬉しそうにしていたので私の予想は当たっていると確信している。それに――。
(もう……しょうがないなー)
――青ざめた顔で笑っている彼の寝顔が全てを物語っているのだから。
今週の一言二言
・FGOでボックスガチャイベ……じゃなくてネロ祭が始まりましたね。とりあえず箱を開ける作業をしたいと思います。まだ40個ぐらいしか開けていないのでまだまだですね。