やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
崩れる足場。幸いだったのは爆破されたことで階段の破片が飛び散って怪我をする人がいなかったことか。だが、このままでは皆奈落の底に落ちてしまう。
「『ポルク』!」
俺たちの中で一番早く行動したのはフォルゴレとキャンチョメだった。
「ナゾナゾ博士!」
「ウム……皆の者、わかってるな? 『作戦E』だ!」
フォルゴレと同じようにキャンチョメの手を掴んだナゾナゾ博士は空中を移動しながら離れていく俺たちに向かって声を張り上げた。
『作戦E』。俺たち12人が一丸となって一点突破する『作戦A』の遂行中に何らかの事故、または敵の攻撃によって俺たちがバラバラに引き離されてしまった時の非常時に一組にならず傍にいる者同士で手を取り、二組になるように行動する作戦だ。サイも単独行動だけは避けるように言っていた。
また、ゾフィスの初撃を恵さんとティオが防いでくれたおかげで不意を突かれた時の硬直もなくなっている。
そのため、ゾフィスに攻撃される前に俺たちは次の行動を取ることができたのだ。
『でも、近くにいる人なら誰でもいいってわけじゃないでしょ』
それは『作戦E』について話し合っている時にサイがホワイトボードに『前衛』と『後衛』という単語を書きながら放った言葉だった。
『もし、ティオとキャンチョメがペアになっちゃったら攻撃力に欠けるし、かといってガッシュとキッドが組んでも攻撃のバリエーションばかり増えてもしもの時に対処できなくなるかもしれない。だから、前衛と後衛という役割に分かれておいた方がいいと思う』
『後衛といってもティオとキャンチョメぐらいしかいないぞ』
『ここでいう後衛っていうのは援護のことかな。戦いの中で重要なのは前衛だけど援護する人がいるだけで前衛にかかる負担はグッと軽くなる。だから、前衛はガッシュ、キッド、ウォンレイ。後衛はティオ、キャンチョメ、ウマゴンでしょ』
『前衛』の枠にガッシュたち3人の名前を、『後衛』にティオたち3人の名前を書いたサイは使っていたペンでホワイトボードをコンコンと2回叩いた。
『問題はここから。誰と誰が組むか……まぁ、戦況によって必ずしも組んだ相手と一緒になるとは限らないけど決めておいて損はないから。とりあえず、ウォンレイとティオはペア決定ね』
『え!? なんでよ!?』
問答無用と言わんばかりにウォンレイとティオの名前を線で結ぶサイにティオが声を荒げた。彼女たちは今日が初対面だ。そんな相手といきなりチームを組めと言われても驚いてしまうだろう。
『さっき皆の戦闘スタイルを聞いたけどウォンレイはカンフーと術を組み合わせて戦う超至近距離タイプ。そんな彼の戦いにキャンチョメがついていけると思う?』
『……無理ね』
『つ、ついていけるさ!』
一瞬だけ考えたティオはすぐに首を横に振った。さすがに黙っていられなかったのかキャンチョメは声を荒げて否定したが目に涙は溜まっているし足も振るえているので説得力の一欠片も――むしろ、サイの判断が正しいと思ってしまった。
『まぁ、冗談はいいとして……キャンチョメの化かす力を侮っちゃいけない。敵はもちろん味方だって騙せちゃうんだから。キャンチョメにはそんなつもりはなくてもね』
キャンチョメの居場所を把握しながら戦うことはまず不可能だ。もし、戦闘中にいきなりキャンチョメが姿を現したら敵ではなくウォンレイまでその動きを止めてしまう可能性もゼロではないのである。
『なら、ウォンレイにもキャンチョメの居場所を伝えればいいじゃないか』
『……言ったでしょ。ウォンレイは超至近距離タイプなの。敵の傍にいる彼にキャンチョメの居場所を伝えたら自然と敵にも伝わるに決まってる』
『うぐっ……』
ため息交じりに論破されたフォルゴレは誤魔化すように目を逸らす。とにかく、キャンチョメとウォンレイの組み合わせはなしということになった。
『じゃあ、ウマゴンはどうだ? ウマゴンの速度なら敵を攪乱することもできる』
『ウマゴンは戦い慣れてないから敵の傍で戦ってるウォンレイに激突しちゃうかもしれない……それに私からしてみればアジトでガッシュと一緒に戦ったこと自体驚いてるの』
サンビームさんの言葉を否定した彼女は少しだけ眠たそうにしていたウマゴンの頭を撫でるサイ。撫でられたウマゴンは気持ちよさそうに目を細めた。
『この子は戦うことに慣れないと思う。ずっと怖いし逃げたいの……でも、逃げたら大好きな人たちが傷ついちゃうから戦ってくれてる。それを忘れちゃ駄目。ちょっとしたきっかけでこの子はすぐに戦えなくなるんだから慎重にいかないと、ね』
『……ああ、肝に銘じておくよ』
彼女はサンビームさんがウマゴンと意思疎通できていることを知っているので注意程度に済ませたがサンビームさんは真剣な表情を浮かべ、しっかりと頷いた。
きっとサンビームさんもウマゴンの性格を知っている。でも、知っているからと言ってウマゴンの気持ちを全て汲むことはできない。人間同士でもお互いの気持ちを伝え合うのに苦労するのに相手は言葉を話せないウマゴンだ。サンビームさんであってもウマゴンの感情を全て理解することはできない。だからこそ、サイの言葉は彼にとってとても重要だったのだ。この中でサイしかウマゴンの言葉を理解できないから。
『その点で言えばティオは完全に後衛タイプだからウォンレイの戦いの邪魔にならない。それに超至近距離で戦うウォンレイはガッシュやキッドより傷つきやすいから『サイフォジオ』で回復できるティオと組むのがベストなの。だから、我慢してね?』
『が、我慢って何のことかしら!? 別に文句があったわけじゃないのよ!?』
サイにからかわれたティオは顔を真っ赤にしてウォンレイたちの傍に移動した。恵さんもそんなティオを見て苦笑を浮かべながら彼女の後を追う。
『それでさっきの話の続きなんだけどウマゴンはガッシュと組ませたいの。キヨマロとガッシュはウマゴンの戦い方を知ってるし、ウマゴンもガッシュと一緒がいいと思うから。ね?』
『メル!』
『ウヌ、よろしく頼むぞ!』
ウマゴンは嬉しそうに頷いてガッシュに向かって体当たりした。普通の子供であれば吹き飛ばされているだろうけど魔物の子供であるガッシュはそんなウマゴンの体当たりをしっかりと受け止め、はしゃぎ出す。
『最後にキャンチョメとキッド。知らない仲じゃないしナゾナゾ博士ならキャンチョメの力を最大限に引き出せるでしょ』
『ウム。戦闘スタイル、性格、絆を考慮した素晴らしいチーム分けだ。可能な限りサイ君が決めたチームに分かれよう』
『でも、これはあくまで可能であればの話。絶対に無理はしないで』
彼女があそこまで真剣にチーム分けをしてくれたおかげで俺たちはすぐにサイが決めた仲間に目を向けることができた。
「『レドルク』!」
「ティオ、恵!」
「ウォンレイさん!」
足場が完全に崩れる前にリィエンが呪文を唱え、ウォンレイの足を強化。そして、ティオを抱いて彼らの傍まで移動していた恵さんを片腕だけで抱き上げて崩れる足場を踏み台にして移動し始めた。
「『ゴウ・シュドルク』! 清麿、ガッシュ!」
「スマン!」
そんな彼らを一瞥した後、術によって頑丈な鎧を身に付けたウマゴンに飛び乗って前を――階段の先を見上げた。炎の鞭によって爆破されたのは階段の中央部分のみ。そのため、上部の階段はまだ崩れ切っていない。崩壊する階段の様子とウマゴンの速度を考慮してもギリギリ間に合う。
「サンビームさん!」
「ああ! ウマゴン!」
「メル!」
俺と同じ結論に至ったのかサンビームさんはウマゴンに声をかけ、ウマゴンは全力で階段を駆け上る。他の仲間の無事も気になる。でも、今は彼らを信じて前を見つめるしかない。
「なっ……」
その時、俺たちの目の前の階段が突如として崩壊してしまった。ここから一番上の出口まで相当距離がある。このままでは――。
(……いや)
サイは言っていた。ウマゴンは戦うことに慣れない。ずっと怖いし逃げたいと思っている。だが、逃げたら大好きな人たちが傷ついてしまうから戦ってくれているのだと。
「メルメルメルメルメルメル!!」
ウマゴンは優しい魔物だ。自分が傷つくより仲間が傷つく方が嫌だと思い、震えながらも戦ってくれている。そう、だからこそ――。
「メルメルメ~!!」
崩壊する階段を目にしてもウマゴンは速度を落とさず、むしろ更に加速する。そして、一番上の出口に向かって跳躍した。
だからこそ、今の
「ぐっ……」
空中でバランスを崩しながらも一番上の出口に辿り着いた俺たちはもみくちゃになって通路を転がった。多少痛むが命がある分だけマシだ。
急いで立ち上がり、他の通路へ向かった仲間の無事を確かめるためにゾフィスに警戒しながら広間を観察する。どうやら、他の皆も無事に左右の壁にあった通路へ移動出来たようだ。
「……」
お互いの無事を確かめた俺たちは頷き合い、急いで移動を再開させた。俺たちのやることは変わらない。城を攻略してゾフィスを倒すこと。言葉を交わす必要はない。無事に合流できると皆、信じていたから。
今週の一言二言
・FGO剣豪ピックアップ2が来ましたね。これはちょっと本気で回すしかないです。段蔵欲しい。段蔵ください。段蔵頂戴。段蔵おおおおおおおお!