やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.141 彼は少ない情報から活路を見出す

 一体、どれだけの時間が過ぎたのだろう。数分? 数十分? それとも数時間? 常にヒトデに集中しているせいで時間の感覚がなくなっている。他の皆はどうしているだろう。無事でいてくれればいいが。いや、今は皆の心配をするよりも――。

「おぉおおおおおおお! 『ラシルド』!」

 ――まずはこの状況を打破する方法を考えることが先だ。

 ヒトデから放たれたレーザーを地面からせり上がった『ラシルド』が受け止め、電撃を付加してそのままヒトデに向かって跳ね返した。しかし、あのヒトデはまた回避する。先ほども『ザケル』よりも速い『ザケルガ』を放ったが簡単に躱されてしまった。

 電撃を纏ったレーザーがヒトデに向かって跳ね返るのを見ながら広間をぐるりと見渡す。この行動を何度繰り返したかもう覚えていない。それなのに未だに敵の姿を見つけることはできていなかった。術によって透明化しているのか、本当にこの部屋にいないのか。それとも別の何かがあるのか。探せ。何でもいい。ヒトデの挙動の法則性でも、敵の居所でもいい。とにかくこの硬直状態を早く抜け出さなければ無駄に心の力と気力を削られるだけだ。

「メル……」

 少しでも不自然なところがないか広間を観察していると不意に後ろで音がした。チラリと後ろを振り返れば常にヒトデに狙われる恐怖に堪えかねたのかウマゴンが少しだけ後ずさり、その拍子に蹄を引き摺ってしまったらしい。そして、それとほぼ同時に1つのヒトデがウマゴンに向かってレーザーを放ち、そのせいで動けなかったのか『ラシルド』で跳ね返したレーザーがそのヒトデにヒットした。

(当たった?)

「メルメルメ~!?」

 まさか連続でレーザーを撃って来るとは思わなかったようでウマゴンは悲鳴のような鳴き声を漏らしながら慌ててレーザーを躱す。

 あのヒトデは『ラシルド』で跳ね返したレーザーが迫っているのにも関わらずウマゴンに攻撃した。レーザーに当たるリスクを冒してまで攻撃するような場面ではなかったのにあのヒトデはウマゴンに攻撃することを優先したのである。

 ずっとおかしいとは思っていたのだ。こちらから敵の姿が見えないということは向こうからもこちらの姿を見ることはできないということでもある。そのはずなのにどうしてあのヒトデはここまで正確に俺たちを狙えるのだろう、と。

 考えられる方法としては二つ。一つはあのヒトデがカメラのような役割を持っており、ヒトデを目にして敵が直接俺たちに照準を合わせている方法。しかし、これは先ほどレーザーがヒトデにヒットしたことで可能性はほぼゼロになった。ヒトデを通してこちらを見ているのであれば『ラシルド』で跳ね返したレーザーを回避するはずだからだ。

 そして、もう一つは――。

(――“音”で俺たちに狙いをつけている方法!)

「ウマゴン、単独でこの広間を走り回ってくれ。気になることがある」

 可能な限り小さな声でウマゴンにそう頼んだ。臆病な彼にこんなことを頼むのは心苦しいが俺たちの中で最も足が速いのはウマゴンである。『ラウザルク』を使えばガッシュも走り回ることもできるが“魔力”を頼りにこちらを狙っている可能性も否定できない。ここはウマゴンが走った方が何かと都合がいいのだ。

「メ……メメ……メル!?」

 俺の頼みを聞いたウマゴンは戸惑ったように声を漏らす。だが、その声を聞きつけたのか再びウマゴンに向かってレーザーが放たれる。自分しか狙われていないことに気付き、覚悟を決めたのか彼は泣きながら駆け出した。

「メルメルメルメルメル」

 俺たちから離れていくウマゴンの後を追うように次から次へとヒトデから放たれたレーザーが地面を穿つ。その間、俺たちに向かってレーザーを放つヒトデは一つもなかった。サイのように体から漏れる魔力を探知されているかもしれないがガッシュが狙われていないのでその可能性もないだろう。これで“目”と“魔力”が消えた。

「サンビームさん、術を頼む」

「『ゴウ・シュドルク』!」

 次の検証を行うためにサンビームさんの指示を出し、ウマゴンを強化する。一気にスピードが上がったウマゴンが広間を縦横無尽に駆け、ヒトデもその後を必死に追いかけていた。

「……」

 その間、ずっとヒトデ本体の軌道を観察する。広間の隅にウマゴンが行っても大きく移動しているヒトデとほとんど動いていないヒトデが存在していた。それに大きく移動しているヒトデもウマゴンから遠ざかる軌道を描くこともある。全てのヒトデの軌道を頭に刻み付け、ヒトデの軌道の法則に気付いた。

(あの軌道は……『円運動』か!)

 一度に多数の物体を操る時に理想的な動かし方ある『円運動』しているヒトデ。それに加え、敵は音でこちらの場所を把握しているのであればこの近くにいることも確定している。広間全体の音が聞こえ、こちらに姿を見せずに『円運動』しているヒトデを操作できる場所。それは――。

「くっ」

 活路が見え、足に力が入ってしまい微かに音を出してしまった。咄嗟に足を上げてレーザーを回避するがヒトデの性能が上がっていることに心の中で舌打ちする。このまま放置すれば呼吸音だけで狙いを定めて来るかもしれない。それに今まで標的を1つに絞っていたのに俺とウマゴンを――多数の標的を同時に攻撃できるようになっている。時間がない。

「ウマゴン、あと一息だ! 壁を駆けのぼれ!」

「メルメルメルメルメルメル!」

 俺の指示を聞いてウマゴンが近くの壁を駆けのぼり始めた。もちろん、ヒトデたちもその後を追いかけるが明らかに正確さが失われている。敵が俺の思った通りの場所にいるのならこの現象も納得できた。

「そのまま、天井に体当たりだ! 岩を砕け!」

「メルメルメ~!」

 ウマゴンが凄まじい勢いで天井に体当たりすると天井は簡単に崩れ、大量の瓦礫が地面に向かって落ちて来る。敵の居場所も特定できたし、準備も整った。後は行動するのみ。

「ガッシュ、走れ!」

「ウヌ!」

 瓦礫が降り注ぐ中、俺とガッシュはヒトデに向かって走り出した。ヒトデも攻撃してくるが適当に撃っているのか勘違いしてしまうほど出鱈目な場所へレーザを放っている。

「き、清麿、あぶな……」

「大丈夫だ! この瓦礫が落ちる音に足音が紛れてレーザーは俺たちを狙えない!」

 敵は音でこちらの場所を割り出している。

 ヒトデの動きは常に『円運動』を描き、中心は一定の位置より動いていない。

「その中心がこの辺り!」

「ヌ!?」

 俺が足を止めたのを見てガッシュも急停止した。上を見上げればヒトデが綺麗な『円運動』を描き、今もなお天井を攻撃するウマゴンのおかげで鳴り止まない瓦礫が地面に落ちて砕ける音に惑わされ、レーザーを放ち続けている。

「そして、ヒトデは上よりも下の音に正確に反応した……つまり――」

 そう言いながら俺はその場に膝を付き、地面に向かって人差し指と中指を突き出す。それは俺とガッシュが出会ってすぐに決めた『照準』の合図。ガッシュは俺の手の動きに合わせて地面に顔を向けた。

「――ヒトデを操っている本体はこの床の下にいる! 『ザケルガ』!!」

 ガッシュの口から放たれた電撃が地面を抉り、大爆発を起こす。粉塵が舞い、地面に空いた大穴へと沈んでいくのを見ていると突然、大穴から光が漏れた。

「ほう……やはりここまで来るだけあるな」

「……姿を現しやがったか」

「ウヌ」

 穴から現れた魔物は両腕を胸の前で交差し、パートナーと共に宙に浮いていた。ヒトデの挙動を読み、本体の居場所を割り出されたのにも関わらず敵は少しも動揺していない。むしろ、できて当然といった様子だ。

「隠れてて悪かった。この星たちを操るには集中力と技術が必要でね」

「……千年ものブランクを埋めるためのトレーニングと言ったところか?」

 隠れていたことを謝罪した魔物にサンビームさんがウマゴンの頭を撫でながら問いかける。問われた魔物は微かに微笑み、未だ『円運動』を描いているヒトデ――星を見上げた。

「ばれていたか。まぁ、当然だな。呪文も一番弱いのしか使ってないし……だが、最初はぎこちなかった星たちも今では手足のように動かせる」

 わずかな音をキャッチできるようになったり、多数の標的を狙えるようになったのは星の性能が上がったのではなく魔物が星を操る感覚を取り戻したせいだったのだ。更に俺たちの前に姿を現したということは音だけでなく、目でもこちらを狙えることになる。この広間に入った時からわかっていたが厳しい戦いになりそうだ。

「ガッシュ、気合い入れていくぞ。こいつは今まで戦ってきた千年前の魔物の中で間違いなく最強だ!」

「……ゆくぞ」

「『ファルガ』!」

 魔物のパートナーが呪文を唱えると俺たちを包囲するように配置された星から先ほどまでよりも確実に威力の上がったレーザーが同時に放たれた。













今週の一言二言


・FGOでやっとハロウィンイベのミッションを全てクリアすることができました。アズレンもイベント中でしたので間に合ってよかったです。

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