やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.143 だから、彼らは群青少女を理解出来ない

 迫る格子状のレーザーに思わず半歩だけ後ずさってしまう。だが、後ろに逃げたところでレーザーに追い付かれ、体をバラバラにされてしまうだけだ。

(でも、横に逃げても人間の足じゃ到底間に合わない。それにウマゴンに乗って移動しても向こうだって黙ってそれを見逃すわけがない)

 左右に逃げたとしても星の陣形を保ったまま俺たちの進路方向にスライドさせるだけだ。とにかくどうにかしてレーザーをやり過ごさなければ。

「……よし。サン――」

「――清麿、あの魔物にどんな変なことを!?」

 必死に思考を巡らせ何とかこの危機を脱する方法を思い付き、サンビームさんの方を振り返ったが彼は俺の言葉を遮るように叫んだ。どんな状況でも冷静だったのにいかにも気になる、と言わんばかりの表情を浮かべている。

「いや、あんた今それどころじゃ」

「だって、あの怒りようただ事では……」

「このピンチを乗り越える方が先だああああ!」

「くっ……『ゴウ・シュドルク』!」

 俺の言葉を聞いて今の状況を思い出したのかサンビームさんは悔しそうに強化の呪文を唱えた。そんなに気になるのだろうか。まぁ、気になるだろうな。あの魔物の名誉のためにも言わないでおこう。

「星が並んでいるところを崩すんだ! 横のレーザーだけでも崩せば何とか避けられる!」

「メルメルメ~!」

 幸い、縦のレーザー同士の間隔はそこまで狭くない。半身になって突っ込めば回避できるはずだ。

 俺の指示を聞いたウマゴンは凄まじい速度で縦に並んでいる星のところまで移動し、ジャンプして角で星を弾き飛ばした。これで横のレーザーがなくなった。魔物が動く前に立てのレーザーの間に向かって――。

「舐めるなっ!」

 しかし、こちらが動く前に魔物が横に並んでいた星を操作してその場で出鱈目に回転させた。その星の動きに合わせてレーザーも縦横無尽に振り回される。

「ぐぉおおおおおお!」

 四方八方から迫るレーザーを躱し切れるわけもなく、魔本を守るように胸に抱くのが精一杯だった。いくつかのレーザーが体を掠り、その場に倒れ込んでしまう。直撃しなかったのが奇跡に近い。

「清麿!」

 体の小さいガッシュはレーザーに当たらなかったのか俺の傍に駆け寄って来る。先ほどの攻撃で頭部のどこかを切ったのか血が垂れてきた。今までのダメージも相まってすぐに起き上がることができない。

「集中!」

 そんな絶好のチャンスを敵が見逃すわけもなく、星がXの文字を形作る。それと同時に魔物のパートナーの魔本が激しく瞬いた。まずい、でかいのが来るぞ。

「ウマゴン!」

「『エクセレス・ファルガ』!!」

 Xの字を形作った星たちから巨大なレーザーが放たれる。だが、サンビームさんの声でレーザーが撃ち出される直前にウマゴンが動いてくれたおかげでレーザーに当たる寸前で俺たちを背中に乗せてその場を離脱することができた。俺たちを捉えることができなかったレーザーはそのまま広間の壁をぶち破り、外へ消える。残ったのは壁に残ったXの巨大な穴のみ。

「清麿、無事か?」

「ああ……かろうじて」

 サンビームさんの問いに肩で息をしながら何とか答える。今の一撃は今まで戦ってきた魔物たちが放った攻撃の中でもトップクラスの威力を誇っていた。最初からあの魔物が強者であることはわかっていたがあそこまで実力差があるとは思わなかった。おそらく千年前の戦いの中でも最後の方まで生き残っていた魔物なのだろう。だからこそ、言わずにはいられなかった。

「お前、何故そこまでの強さを持ちながらゾフィスと戦わないんだ!? それだけの強さなら自分に対する誇りだって持ってるだろうが!」

「……フン、誇りか」

 俺の質問に対して魔物の答えは“嘲笑”だった。しかし、俺たちに向けたものではなく、己に向けたもの。それはまるで皮肉を言われてしまった時のような反応だった。

「確かに千年前、俺は自分の強さに誇りを持ち、この強さで王になろうと戦っていた……でも、それは“何も知らなかった”からだ。何も知らなければ……何も成すことはできない。だから、何も知らないお前たちにこのパムーンが教えてやろう。どれだけお前たちが無知であるのか、をな」

 そう言った魔物――パムーンは両手を掲げるように上に伸ばし、それに呼応するように星たちが輝き始めた。口だけではない。猛攻撃がくる。しかし、だからといってこちらにあいつを止められるほどの(有効打)はない。

「ウヌ、清麿、ラウザルクなのだ! それで私がみんなを守るのだ!」

 どうするか思考を巡らせていると両手を強く握ったガッシュが俺を見上げながら叫ぶ。このまま黙って敵の好きなようにさせておくのも悪手。有効打はなくとも今はこちらから仕掛ける方がベストだ。

「サンビームさん!」

「うむ、双方とも気を付けて戦うのだぞ! 『ゴウ・シュドルク』!」

「『ラウザルク』!」

 術を唱えるとガッシュには虹色の雷が落ち、ウマゴンは体が大きくなりその身を守るように鎧と鋭い角が生えてくる。そして、雄叫びを上げながらパムーンの元へ突撃した。

「ランス!」

「『オルゴ・ファルゼルク』!」

 パムーンがパートナーの名前を呼び、ランスは初見の呪文を唱える。すると、パムーンの頭上を漂っていた星が一斉にパムーンの体に貼りつき、彼の体がガッシュや『サジオ・マ・サグルゼム』を使った八幡さんのように淡い光に覆われた。

「フンっ」

「ヌァアアアアアア!」

 パムーンが右拳をアッパーするように突き上げ、ガッシュとウマゴンをまとめて吹き飛ばした。まさかあそこまで簡単に返り討ちにされるとは思わず、息を呑んでしまう。あの術は『ラウザルク』や『ゴウ・シュドルク』のような肉体強化なのだろう。ただでさえ強いのに肉体強化までされてしまったら手の打ちようがない。

「ヌゥウ! ウマゴン、二手からなのだ!」

「メルメルメ~!」

 吹き飛ばされながら空中で何とか体勢を立て直したガッシュたちは着地と同時に二手に分かれて左右からパムーンへ突っ込む。それを見た彼は黙って両手を横に突き出し、ほぼ同時に体当たりを仕掛けた二人を片手一本で受けて止めてしまう。

「『ラウザルク』と『ゴウ・シュドルク』の全力を、腕一本で?」

 決して『ラウザルク』も『ゴウ・シュドルク』も弱い呪文ではない。ナゾナゾ博士やサイから太鼓判を貰うほどの強力な呪文だ。でも――それでも奴には届かない。奴の力には到底及ばない。それほどパムーンと俺たちには差があるのだ。

「フン、いい力だ。だが、正直すぎる。バカ正直な攻撃だ」

 感心したように、それでいてどこか呆れた様子で話すパムーン。その間もガッシュとウマゴンは何とか奴の腕を押しのけようと力を込めるが全く歯が立っていない。そんな2人を放置してパムーンは再び口を開いた。

「かつての俺もそのようにバカ正直に戦っていた。真っ直ぐな目で、力強く……どこかに心の余裕があったのかも知れん。だから、見抜けなかった。あんな簡単に騙された。だからこそ、お前たちを見ているとなおさら哀れに思う」

「哀れ、だと?」

「まだ気付いていないよう――だな!!」

 その時、ガッシュとウマゴンを受け止めていた腕を体の前へ軽く振るう。支えを失い、そのままつんのめるようにパムーンの前へ飛び出した彼らは思い切り頭をぶつけてしまう。よほど力を込めていたのかガッシュたちの額から血が流れた。

「ガッシュ、ウマゴン、速さを活かせ! その速さで攪乱して隙を作るんだ!」

 咄嗟に指示を出すがそれでどうにかなる相手ではないことぐらいすでに察している。だが、それぐらいしか対策が思いつかなかったのだ。なによりパムーンの言葉の意味が気になった。彼は何か重要なことを知っている。そんな気がしてならないのである。

「そこの人間……お前は聞いただろ? あの子の言葉」

「……サイのことか?」

「あの子は……とても心優しい子だ。俺の感情を読み、理解した上で貴様の愚行を謝ってくれた。だからこそ、お前たちを見ていて腹が立つ。こんなところで……こんなことに首を突っ込んでる場合じゃないだろうが!!」

 彼は親の仇を睨むような目をこちらに向け、上半身に貼りついていた星を鞭のように俺とサンビームさん目掛けて両手から伸ばす。まさか周囲を駆け回るガッシュたちを無視してパートナーを狙ってくるとは思わず体を硬直させてしまった。

「清麿おおおおおお!」

「メルメルメ~!」

 俺たちが狙われたことに気付いたガッシュとウマゴンがパムーンに背中を向けてこちらへ駆け出す。あの速度なら鞭よりも先に俺たちの元へ辿り着くはずだ。『ラウザルク』の効果は消えていないので術は使えないが鞭を弾き飛ばすぐらいならできるはずだ。

「その行動が正直すぎると言うんだ!」

「ヌァ!?」

「メル!?」

 しかし、パムーンの目的は俺たちへの攻撃とは別にあったようで両腕をグイッと引いた。すると鞭の先端がガッシュとウマゴンの体を捕えてしまう。更にガッシュたちを捕えたままこちらへ向かってくる。避けられない。

「サンビームさん、本を体の内側に!」

 俺にできたのは本を死守することだけだった。鞭はガッシュとウマゴンだけでなく俺とサンビームさんもろともグルグル巻きにしてしまう。速く動くガッシュたちを捕えるために俺たちを狙ったのだろう。その上、俺たちを縛り、完全に動きを封じた。ガッシュが抜け出そうともがくが星の鞭はビクともしない。

「正直すぎるから……何もわからないんだ。何も見えていないんだ」

 しかし、狙い通り俺たちを捕えたはずなのにパムーンは悔しそうに顔を歪めていた。むしろ、捕えてしまったことを後悔しているようにも見える。取り返しのつかないことを自らの手で証明してしまったかのように。

「ここまで言われてわからないとは……愚かにもほどがある。あの子は……俺の感情を理解した。理解できた。その異常さがわかるか? 千年もの間、封印される苦しみを理解した(・・・・)んだぞ! その意味が分かるか!?」

「ッ――」

 パムーンの絶叫を聞いた俺は戦闘中にも関わらず頭の中が真っ白になってしまった。そうか、そういうことだったのか。なんて……なんて馬鹿なんだ、俺は。少し考えたらわかることなのにどうして気付かなかった。彼女の言葉を聞いて、表情を見て、どうして安心してしまったんだ。

 たとえば、交通事故に遭った友人の話を聞いたとしよう。きっと、交通事故に遭ったことのない人はその話を聞いても『痛そう』や『大変そう』ぐらいにしか思わない。しかし、交通事故に遭ったことのある人はその友人の感情をより理解できるはずだ。実際に経験したことがあるのだから。

 つまり、感情を理解するためには前提としてその感情を抱いたことがなければならない。そうでなければその人の感情を漠然としか理解できない。

 じゃあ、サイは? 千年前の魔物たちの苦しみを理解してしまった彼女は? これを異常と言わずしてなんと言う。

「苦しみや悲しみ、悔しさ……そんな色々な負の感情の中から『助けて』という声を聞き取ったんだぞ。あの子がどれほど優しいのか……仲間であるお前たちならわかるだろう?」

 そんな彼の怒声は震えていた。心の底からサイのことを心配しているのだとわかった。

 ああ、そうか。だから俺は彼女の忠告を何度も見過ごしてしまったのか。俺の経験が足りず、彼女の忠告の意図を理解していなかったのではなく――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なら、こんなことに首を突っ込む前に……助けてあげろよ、“仲間”なんだろう!?」

 

 

 

 

 

 

 

 ――サイを理解しようとしていなかった。彼女の表面しか見ようとしていなかった。だから、俺は彼女のことを何も理解できない。ただそれだけのことだった。




なお、サイ的にはもうそれが当たり前のことなので今更その件について言われても困ってしまうだけだったりします。








今週の一言二言



・今更ですがfate/stay night[HF]見ました。いやぁ、面白かったですね。もう一回見たいぐらいです。
特典として映画のネガを貰ったのですが、私は『桜が洗濯物を畳んでいるシーン』でした。まだ慣れていない家事に戸惑いながら畳んでいる様子が見れて嬉しいです。
皆さんのネガはどんなものでしたか?










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