やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.144 きっと彼らはまだ何も救えていない

「……っ」

 パムーンの言葉に俺は何も答えることができなかった。『千年もの間、封印され続ける苦しみ』を理解する異常。傍にいた俺たちより少ししか接していない彼がサイの異常を正しく理解し、自分のことよりも彼女の心配をしている。苦しんでいる仲間を放置している俺たちに対して自分のことのように怒っていた。彼の目とサイの目が似ていると感じたのは同じような苦しみを抱いていたからかもしれない。

(ああ……そうだ。そうだった)

 不気味なほど『的確なアドバイス』、『想像を超える悪』、『最悪の一手』。これらの話をした時、彼女は淡々と話していた。ガッシュたちとさほど変わらない女の子の口から決して放たれていけない理不尽(現実)。それに触れていたはずなのに俺は『あり得ない』と頭のどこかで否定していたのだ。“彼女は自分の力ではどうすることもできないほど手遅れであることを”。

「お前たちには理解できないだろう。あの石の恐怖を二度と味わわないためなら何でもする。それぐらい石の呪縛は俺たちの心に深い傷を負わせてるんだ……ゾフィスに逆らった奴が石に戻されかけたのを見た時、俺は心臓が握り潰されそうになった」

 サイの異常に気付けなかったことに歯を食いしばっているとパムーンは震えた声を漏らす。先ほどまで怒りの炎が灯っていたはずの彼の目はいつの間にか恐怖の色に変わっていた。

「ガチガチに体が固まって目の前が真っ暗になった……あんな思いを繰り返すなら死んだ方がマシ。どんなものを犠牲にしても味わいたくない思いだ。そんなクソみたいな恐怖や苦しみをあんな小さな女の子が常に味わい続けているんだぞ!!」

「……一つ、聞かせろ」

 確かにサイのことは放っておけない。彼女の異常を再確認してショックだったし、それに気付けなかった自分が情けない。だが、彼女と同じ苦しみを味わい続けているのは目の前にいる彼も同じ。石から解放されたはずなのに彼らは未だ石の呪縛から逃れられず、苦しみ続けている。そんな彼らをこのまま放っておくこともできない。きっと、ガッシュだって俺と同じことを考えているはずだ。だから、まずは千年前の魔物たちを助ける。

「石に戻されかけた魔物は完全に石にはならなかったんだな? 石に戻りかけただけ、だったんだな?」

「ッ……ああ、そうだ! 途中でゾフィスに服従を誓ったから助かった!」

 彼の怒声を聞いてやっと確信が持てた。ずっとおかしいとは思っていたのだ。彼らを封印したのは千年前の戦いに参加していた『石のゴーレン』という魔物。そして、その封印を解いたのが今の戦いに参加している『ゾフィス』。ゾフィスは月の石を使って千年前の魔物を解放し、本の使い手(パートナー)を操って彼らを縛り付けた。つまり、彼には“精神を操る力”がある。それを利用すれば――。

「それを聞いてどうする!? 分離!」

 そこまで考えた瞬間だった。星の鞭がバツンと千切れ、俺たちを縛り付けている部分以外の星がパムーンの元へ戻って行く。まずい、これで向こうは身動きの取れない俺たちを攻撃することができる。

「照準!」

 俺の嫌な予感が当たり、俺たちの頭上を8つの星が円を描くように旋回し始めた。奴は星を使って術を放つ。そして、使用した星の個数が増えるほど強力な術になる。俺たちを狙っている星の数は8。身動きが取れないこの状況で真上からでかい術を放たれたら一巻の終わりだ。

「くそっ……ガッシュ、ウマゴン!」

「ヌゥ!」

「メル……」

 何とか拘束から抜け出そうと全員でもがくが星の鞭はビクともしない。幸い、ガッシュの顔は自由に動く。術が放たれたら『バオウ・ザケルガ』を使うか――いや、駄目だ。上を取られている今、『バオウ・ザケルガ』で相殺できる保証はない。もっと確実な方法でなければ俺たちは――。

「まさか俺たちを救おうとしてるのか? もし、そうならどれだけお前らは自惚れてる! 仲間すら救えない奴らに俺たちを救えるわけがないだろうが!! 照射!」

「『ディオガ・ファリスドン』!!」

 パムーンの絶叫と共に8つの星から超極太のレーザーが放たれた。予想以上の術の規模に俺たちは一斉に悲鳴を上げ、激しく動いてもがく。だが、それでも星の鞭はビクともしない。どうする? どうすればいい? このピンチをどうすれば切り抜けられる?

「……」

「ッ!」

 その時、サンビームさんが俺の方をジッと見ていることに気付いた。先ほどと変わらず、冷静な目で、ジッと、ただひたすら『落ち着け』と俺を見ていた。落ち着いて脱出方法を模索しろと目で訴えかけてくる。しかし、俺の予想通り、『バオウ・ザケルガ』ですらあれを相殺できないだろう。『バオウ・ザケルガ』でも無理なら他の術も――。

「ッ! そうだ、ガッシュ! 下を向け、斜め下!」

「ヌ!?」

「いいから早く!」

「サンビームさん、ジャンプだ! 『ザケル』!」

 ガッシュが斜め下を見たのを確認して『ザケル』を放ち、それと同時に俺とサンビームさんは思い切りジャンプした。『ザケル』を放った時に発生した慣性によって宙に浮いていた俺たちは1~2メートルほど後方へ飛んだ。よし、これならいける。

「き、清麿! まだだ、まだ当たる! もっと離れないと!」

「な、何いいいい!?」

 しかし、大人2人と子供(一頭は馬だが)2人を飛ばすには『ザケル』では威力不足だったようでまだ攻撃範囲(キルレンジ)内だった。でも、『ザケル』でこの距離しか飛べないのなら『ザケル』よりも威力の高い『ザケルガ』でも飛距離が足りるかわからない。だが、やらなければやられるだけだ。

「ウ、ウマゴンがおらぬ!?」

 魔本に心の力を注ごうとした時、いきなりガッシュが焦ったように声を上げた。ウマゴンの方を見るとガッシュの言う通り、そこにはウマゴンの姿がない。慌てて周囲を見渡すと先ほどまで俺たちがいたところに仰向けの状態で呆然としているウマゴンを見つけた。おそらく術が解けて体のサイズが元に戻って下から滑り落ちたのだろう。ウマゴンに体当たりして貰えば『ザケルガ』で飛ぶよりも飛距離を稼げるはず。

「ウマゴン!」

 ガッシュが名前を呼ぶと我に返ったのかウマゴンがこちらに向かって駆け出す。そして、それからまもなくして超極太のレーザーは地面を穿った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「よかったのかい?」

「別に。関係ないから」

 日本に帰るために空港に向かったサガミの見送りに出ていたアポロの問いに短く答え、目を閉じて意識をアジトの方へ集中させる。さっきアジトの方で馬鹿でかい魔力の膨張を感知したのだ。あの魔力の大きさは修学旅行の時にハイルが使った鎖の術以上だった。もし、その術の直撃を受けていたら怪我だけでは済まないだろう。“すでに1人の魔力が感じ取れなくなった”時点で何が起こってもおかしくない。魔物だけじゃない。もしかしたら、キヨマロやメグちゃんたちも――。

「サイ、それは駄目だ」

 その声とともに両手が温かい何かに包まれる。目を開けるとアポロが笑顔を浮かべて私の手を握っていた。そして、少しだけツンと私の鼻孔をくすぐる生臭い鉄の匂い。

「僕だって何もできなくて歯がゆい思いをしてる……きっと君はこれ以上に悔しい思いをしてると思うけど自分を傷つけるのは駄目だ」

「……うん」

 私が落ち着いたのを確認した彼は私の手を離して『救急箱、取って来るよ』と言って部屋を出て行った。無意識のうちに両手を強く握り過ぎたようで爪が掌を傷つけ、血がダラダラと流れている。

「……」

 仲間がいなくなってしまったのにここにいることしかできなくて。

 謝ろうとしたサガミをただ気に喰わないから追い返して。

 何もできない悔しさで自分を傷つけてアポロに心配をかけて。

 未だ起きないハチマンに少しだけイラついて。

「駄目だなぁ……私」

 新呪文が発現して少しは成長したと思っていた。だが、蓋を開けてみればご覧の有様。昔から何も変わっていない。何も成長していない。何も救えない“悪い子”なのだと改めて実感した。















今週の一言二言



・FGOで1.5部の新章が来ますね。今から楽しみです!


・どうぶつの森のソシャゲが始まりました。ひたすら魚を釣り、虫を取り、木を揺すってどうぶつたちに渡す作業してます。

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