やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.146 ガッシュ・ベルは証明する

 ありったけの心の力を込めて放った『バオウ・ザケルガ』が真っ直ぐ『ペンダラム・ファルガ』へと向かうのを見ながら体から力が抜けた俺はそのまま地面に倒れてしまう。『バオウ・ザケルガ』は術を使えば使うほど威力の増す特性を持っている。しかし、その代わり、一度使用すると俺は立っていられなくなるほど体力を持っていかれてしまう諸刃の剣。使いどころを選ぶ呪文だ。

「くっ……」

 地面に倒れながら俺は頭上で今まさに激突しようとしている二つの術を仰ぎ、魔本を持つ手に力を込める。

 千年前の魔物を救えるだけの力があるのか。

 この先に待つ本物の悪と戦う資格があるのか。

 まだ見ぬサイの闇と向き合う覚悟があるのか。

 パムーンはあの術(『ペンダラム・ファルガ』)で俺たちを試しているのだ。

 俺たちの言葉を信じてもいいのか見極めようとしているのだ。

 ならば、俺たちは証明しなければならない。彼に俺たちの想いを届けなければならない。光り輝く紅い魔本になけなしの心の力を注ぎ、歯を食いしばる。

「負けるなッ……負けるなぁ!!」

 流れ星と雷龍が正面からぶつかった。俺たちの想いに応えるように『バオウ・ザケルガ』が『ペンダラム・ファルガ』の5つある首の1つに噛み付き、それに負けじと『ペンダラム・ファルガ』も5つの顔や腕で『バオウ・ザケルガ』に攻撃を仕掛ける。術同士がぶつかる余波で天井や壁、地面が蜘蛛の巣状に割れ、瓦礫が落ちてきた。そして、『バオウ・ザケルガ』は『ペンダラム・ファルガ』の頭を4つほど消し飛ばしたところで消滅してしまう。1つだけ残った頭が俺たちに迫る。

「その程度の力で俺たちを……あの子を救う!? 王になる!? 笑わせるな!」

 術の向こうからパムーンの絶叫が聞えた。それだけで理解してしまう。俺たちは証明できなかった。彼を納得させられるほどの力を持っていなかった。絶対に負けられない戦いだったのに。必ず勝つと誓ったのに。俺たちは――。

「――おおぉおおおおおおおおおおおおお!!」

 迫る『ペンダラム・ファルガ』を前に諦めかけてしまった己の心を奮い立たせるために雄叫びをあげる。まだだ。まだやられたわけじゃない。確かに『バオウ・ザケルガ』は『ペンダラム・ファルガ』に敗れてしまった。だが、俺たちはまだ生きている。だから、考えろ。この状況を打破する作戦を考えろ。焼き切れてもいい。思考回路を巡らせろ。きっとあるはずだ。何かあるはずなんだ。何か。何か。何か、何か! 何か!!

 

 

 

 

 

 

 

「ワァアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

 

 

 

 

 不意に耳に届いた絶叫に思わず顔を上げるとそこには俺たちを守るように両手を広げ、生身で『ペンダラム・ファルガ』を受け止めるガッシュの背中があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガッシュ・ベルは『ラウザルク』などの例外はあるが術を使うと気絶してしまう癖がある。もちろん、『バオウ・ザケルガ』を放った時も術が消えるまで彼は気を失っていた。

「――ッ!?」

 我に返った彼は思わず息を呑んでしまう。今まさに『ペンダラム・ファルガ』の顔が自分たちを滅ぼさんとばかりにこちらに向かってきているところだったのだ。驚愕のあまり頭が真っ白になってしまった。

「――おおぉおおおおおおおおおおおおお!!」

 その時、背後から清麿の雄叫びが聞こえた。まるで、己を奮い立たせようとするように。たったそれだけでガッシュは『バオウ・ザケルガ』が『ペンダラム・ファルガ』に負けてしまったこと。未だパムーンに自分たちの(想い)が届いていないこと。そして――自分の後ろに守るべき人たちがいることを理解した。だが、『バオウ・ザケルガ』を使った今、清麿は動けない上、『ラウザルク』を使っている暇はない。だから――。

 

 

 

「ワァアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

 

 

 

 

 ――彼は咄嗟に両手を広げて『ペンダラム・ファルガ』を体一つで受け止めた。

 

 

 

 

 

 最初に感じたのは凄まじい衝撃だった。『ペンダラム・ファルガ』は『バオウ・ザケルガ』である程度弱体化はずなのに自分の体がバラバラになってしまうのではないかと錯覚してしまうほどの威力だったのだ。

「ヌ、ゥ……」

 数cmだけ押され、慌てて足に力を込めた。ガッシュと清麿たちの間にほとんど距離はない。たった数cmでも命取り。少しでも気を抜けば――いや、気を抜かずとも何かの拍子でガッシュと『ペンダラム・ファルガ』の均衡は崩れてしまうだろう。

「ガッシュ、よせ! やめろ! 『ラウザルク』も使ってない体で!」

 後ろから清麿の悲鳴に似た大声が聞えた。それに続いてサンビームとウマゴンの心配する声も。

(そう、だ……そうなのだ)

 ビリビリと大気が震えるほどの威力を持つ『ペンダラム・ファルガ』を抑えながらガッシュは改めて心に誓った決意を思い出す。

「バカか!? あれを体で止めたのか!? 生身で受け止められる術じゃないんだぞ!?」

 術の向こうでパムーンが何か言っているが今のガッシュにそれを聞き取る余裕はない。今の彼にあるのは『術を受け止め切る』という想いのみ。

(負け、られぬ、のだ……負けては、ならぬのだ)

 あの子――無理矢理戦わされていた心優しい魔物の女の子が呟いた『やさしい王様』という言葉。きっとガッシュの魔界の王を決める戦いはあの日から始まった。コルルのような魔物をこれ以上増やさないために『やさしい王様』を目指したあの日から。

 それから様々な出会いがあった。一緒に戦ってくれる仲間も増えた。魔界にいた頃の記憶を消され、独りになってしまった彼に“友達”ができた。

 だからこそ、彼は――ガッシュ・ベルは信じられる。

 どんなに辛いことがあっても諦めずに、我武者羅に頑張れば報われることを。

 今は独りぼっちでもいつかパートナーが、仲間が、友達ができることを。

 真っ暗な暗闇の中でもがき続けていれば必ず出口に辿り着ける(救われる)ことを。

 どんなに絶望的な状況でも、自分のことすら見えない深い闇に呑みこまれてしまったとしても彼はきっと己の進む先に希望()があると信じて歩むことができる。

 何故ならば――。

 

 

 

 

 

 

「ヌォオオオオオオオオオ!!」

 

 

 

 

 

 

 ――彼自身がその身を持ってそれが間違いではないことを証明しているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガッシュが吠えると『ペンダラム・ファルガ』に少しずつ亀裂が走り、砕け散った。『バオウ・ザケルガ』ですら相殺し切れなかったパムーンの術を彼は体一つで受け止め切ったのである。

「止め、きれた……ガ、ガッシュ! 大丈夫か、ガッシュ!?」

 まさか術を生身で受け止め切れるとは思わなかったのか呆然としていた清麿だがすぐに我に返り、ガッシュに声をかけた。だが、ガッシュは反応しなかった。いや、違う。反応できなかったのである。そして、清麿もすぐに気付いた。

「……」

 彼の目の前に腕を組んだパムーンが立っていたのである。清麿は『バオウ・ザケルガ』の反動で動けない。ガッシュも『ペンダラム・ファルガ』を受け止め、倒れていないだけマシなほどダメージを受けている。心の力に余裕のあるサンビームとそのパートナーのウマゴンは戦闘経験不足のせいで今の状況に頭が追い付かず、咄嗟に行動を取ることができない。いや、たとえ動けたとしてもほぼゼロ距離でパムーンに術を使われたらウマゴンでは対処することはできない。王手。完全に詰みである。

 

 

 

 

 

 

「……お前の力、見せてもらった」

 

 

 

 

 

 しかし、パムーンは攻撃はおろか敵であるはずのガッシュの肩に右手を置いて優しく微笑んだ。その表情は先ほどまで死力を尽くして戦っていた敵とは思えないほど穏やかだった。彼の佇まいの変化にガッシュたちは困惑してしまう。

「集中!」

「なっ……」

 そんな彼らを見て小さく吹きだした後、パムーンが星を操作して十字の形を作る。あの形は壁に巨大な穴を開けた『エクセレス・ファルガ』のそれだった。いきなり攻撃態勢を取った彼を見て息を呑む清麿。

「ランス、頼む」

「『エクセレス・ファルガ』!」

 しかし、術はガッシュたちではなく天井に放たれ、壁と同様に巨大な穴が開く。そして、スポットライトのようにガッシュとパムーンに太陽の光が降り注いだ。














今週の一言二言


・FGOでとうとう来ましたね、エレシュキガル! いやぁ、待ってました。第7章からずっと待ってました。一応、10連はできるのでそれでお迎えできたらいいなぁと希望的観測の元、クリスマスイベを待ち望んでいます。
……アビーちゃんは諦めました。エレシュが欲しいんです……。


・今更ながら#コンパスを始めました。あんがい面白いですね、あれ。リリカ楽しいです。

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