やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
パラパラと天井に空いた大穴から小さな破片が落ちてくるがそれを気にする余裕はない。先ほどまで俺たちを絶体絶命のピンチにまで追い詰めていたはずのパムーンが目の前にいるのだ。少しでも気を抜けばやられてしまう。だが、彼は攻撃してくる様子はなく、困惑しているガッシュを小さな笑みを浮かべながら見つめていた。
「お前は強い。そして……俺が弱かった。許せ」
力の入らない体を必死に動かして顔を上げるとパムーンは何かを悔いるように顔を歪めている。今の言葉から察するに俺たちは彼に認められたのだろうか。
「ランス」
「『フェイ・ファルグ』!」
そんな俺たちを見て苦笑を浮かべた彼だったがパートナーに指示を出すとパムーンだけではなく、彼のパートナーや俺たちの体が輝き始める。
「お、おぉ……体が、宙に!?」
そして、そのまま俺たちはゆっくりと浮上していく。確かサイの飛行呪文は『サフェイル』。『フェイ』という因子は『飛行』を意味しているのかもしれない。
「お主……」
「俺の持ってる『月の石』のかけらはもうない。だから、これから『月の石』本体のある部屋まで連れていく。そこにいけばお前たちの体も、心の力も回復するだろう」
どこか他人事のように呪文について考察していると天井に空いた大穴に向かいながらパムーンが淡々と説明するが俺は思わず目を見開いてしまう。
『月の石』。千年前の魔物を石の呪縛から解放した石であり、傷、疲労、心の力を回復する。レイラに貰い、実際に使ってみたがその効果は絶大。完全にとまではいえないが『サイフォジオ』以上の治癒効果があることは確かだ。欠片でさえあれほどの効果があるのだ。本体の治癒効果は計り知れない。
「清麿、これは……?」
「どうやら、認めてくれたらしい。とにかく今は様子を見よう」
サンビームさんに問いかけられ、小さな声で答える。罠の可能性もあるが『月の石』の本体に近づけるのであれば好都合だ。『バオウ・ザケルガ』のせいで俺は身動きできないがサンビームさんの心の力はまだ残っている。最悪、『ゴウ・シュドルク』で逃げよう。逃がしてくれるとは思えないがこれしか方法はない。
それからしばらく大穴を移動していると野外に出た。周囲を見渡せば背後に城に繋がる巨大な扉がある。おそらくこの城の頂上に『月の石』の本体があるのだろう。
「よし、ここまで来れれば後少しだ。ここから二つほど部屋を抜ければ『月の石』の本体へ出る」
そっと俺たちを地面に降ろした後、城を見上げながらパムーンが教えてくれた。最初は八幡さんとサイなしでアジトを攻略できるか不安だったが実際に頂上の城まで辿り着くことができたのだ。パムーンの言葉でそれを実感し、自然と頬が緩んでしまう。
「……ガッシュ、だったか」
「ヌ!?」
いきなり声をかけられたガッシュは目を見開いてパムーンへ視線を向けた。声をかけた張本人はどこか不安げにガッシュを見つめている。
「……あの時、お前は言ったな。俺たちを石には戻さない、と。あの子の苦しみをなくしてみせると、。俺と……友達に、なってくれると。それは、本当か?」
「ウ、ウヌ、もちろんなのだ!」
「っ……ありがとう。その言葉が――友達になってくれるという言葉が何よりも、嬉しかった」
その言葉に俺は無意識の内に奥歯を噛みしめてしまった。こうして普通に会話しているが彼らは千年前の魔物。たとえ魔界に帰られたとしてもすでに彼らの知っている魔界はそこにはない。千年も経てば何もかも変わってしまっているのだから。石の呪縛から解放された彼らに待っているのは千年前と現代の魔界のギャップ――時間の残酷さなのである。もしかしたら彼らの戦う理由の一つに『変わり果てた魔界を見たくない』というのもあるのかもしれない。本を燃やされなければ現実を見ずに済むから。
「気を付けて戦え。ゾフィスは強い。そして、狡猾だ……だが、俺も一緒に戦う!
「お主……」
そう大声で宣言したパムーンの顔に戦闘中に見えた恐怖はなかった。レイラに続いて心強い味方ができてガッシュは嬉しそうに呟く。千年前の魔物同士は争えない。レイラがダルモスに攻撃しようとした時、彼女のパートナーは呪文を唱えることができなかった。おそらくゾフィス相手でも同じような現象が起きるだろう。しかし、それでもパムーンの力が強力だ。これで『月の石』の本体に辿り着ける確率がグッと高く――。
「――あなたもバカになったものですね」
「『ラドム』!!」
そんな声と共にパムーンの魔本に爆発の塊が直撃し、後方へ吹き飛ばされた。咄嗟に魔本を抱きしめる。彼の魔本が燃やされた影響からかパムーンのパートナーであるランスがその場に倒れた。爆発の塊が飛んで来た方向へ目を向けるとそこには今回の事件の首謀者であるゾフィスが嘲笑を浮かべていた。
「どうやら、私に逆らう時間はなかったようですね、パムーン」
「くっ……」
「ぱ、パムーン! パムーン!」
悔しそうにゾフィスを見上げるパムーンにガッシュが駆け寄る。ここは戦場。パムーンが仲間になり、気を緩めるべきではなかったのだ。もう少し周囲を警戒していれば彼がやられることはなかっただろう。
「すまねぇ、ガッシュ……一緒に戦うことができなくなっちまった」
「パムーン……」
悔しそうに歯を食いしばる彼を見てガッシュは目に涙を浮かべる。せっかく友達になったばかりなのにすぐに別れが来てしまったのだ。救うを言ったのに俺たちは何もできなかった。それが何よりも悔しかった。
「もう少し利口かと思っていましたが魔界での地位を捨てるほどの馬鹿とは思いませんでしたよ」
「へ、へへ……何が、馬鹿だ」
そんな俺たちを見て嘲笑うゾフィス。だが、そんな言葉をパムーンは軽く流す。あれほどゾフィスに対して恐怖を抱いていた彼が多少声は震えているものの真正面から反抗したのである。
「地位に何の価値がある? てめぇの小汚ぇ口から出た地位にどれほどの
そう言いながら近くにいたガッシュの頭をグイッと引き寄せるパムーン。その頃には声は震えておらず、堂々と言い切っていた。
「こいつなら俺たちを……いや、あの子だって救ってくれると心の底から信じられる。その瞬間、千年経った魔界への恐怖が消えたんだ! ハッ、てめぇが本を燃やしたおかげで石への恐怖も消えた! 馬鹿はてめぇだ! もうてめぇが偉そうにする理由など――」
「――『ラドム』!」
「パムーン!」
ゾフィスは再びパムーンの魔本に爆発の塊を当て、完全に魔本を燃やし尽くした。もちろん、魔本が燃え尽きたせいで叫んでいたパムーンも消えてしまう。きっと最後のガッシュの言葉は彼には届いていなかっただろう。
「友達? 笑わせてくれます。役立たずになった馬鹿が何を吠えているのやら……」
呟くように零したゾフィスの言葉が耳に滑り込んできた。パムーンが馬鹿? 役立たず? ふざけるのも大概にしろ。彼は石の恐怖や時間の残酷さに苦しめられながらもサイの心配をしてしまう優しい魔物だ。それどころか俺たちと一緒に戦うとまで言ってくれたのだ。そんな優しくて勇敢な彼を馬鹿になんてさせない。ふつふつと湧き上がる怒りを必死に抑え、冷静を保つために一度だけ深呼吸した後、未だ俺たちを見下ろしている悪の権化を睨んだ。
「ゾフィス、噂通りのクソ野郎だな。てめぇと一度だけ会話してやる。何故、パムーンの本を燃やした? 逆らった奴は石に戻すんじゃなかったのか?」
パムーンの話ではゾフィスに逆らった魔物は石に戻りかけたらしい。もし、本当にゾフィスが千年前の魔物を石に戻す力があったらパムーンの魔本を燃やさずに石に戻せばよかったのだ。そうすればパムーンは再び石の恐怖に囚われ、言いなりにできただろう。
だが、ゾフィスは自らそのチャンスを手放した。いや、できなかった。彼には“そんなこと出来るわけがない”のだから。
「……」
俺の問いにゾフィスは何も答えなかった。図星だったのだろう。
ゾフィスには精神を操る力がある。人間に暗示をかけられるのだ、魔物にだって幻覚を見せることぐらい容易だろう。問題は彼が40人近くの人間を常に支配し続けながら、魔物に幻覚を見せられるか。おそらくそれは不可能だ。術ならともかく魔物個人の力はさほど強くない。戦闘能力がずば抜けているサイでさえ術を使われたら苦戦を強いられるのだ。彼にそれほど強力な力があるとは思えない。
「小賢しいハエがいるようですね。では、自分がどういう状況にいるのか、教えてあげましょう」
ずっと立てていた仮説が真実であると確信した時だった。ゾフィスはため息交じりにそう言ってパチンと指を鳴らす。
「絶望を抱いて消えなさい。出て来ていいですよ、我が千年前の戦士たちよ!」
そして、ずっと潜んでいたのか俺たちの前に数十体の千年前の魔物たちが姿を現し、横一列に並んで俺たちを睨んだ。
今週の一言二言
・FGOでクリスマスイベが来ましたね。今回ばかりはきっちりとエレシュキガルも当てたので大満足です。
……ですが、スキルマックスに杭が216個必要なのはちょっといただけませんね。さすがにバカなんじゃないでしょうか……。
・きららファンタジア始めました。もうストーリーも全部クリアして100%にしちゃったのでランク上げしかやることがありません。まぁ、コストが全然足りないのでランク上げ頑張ります。