やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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大晦日ですね。
来年も『俺ガッシュ』をどうぞよろしくお願いします。


LEVEL.149 彼らの背中は見上げるほど大きい

「『ギガノ・デズル』!」

「『ギガノ・ボギルガ』!」

 ブラゴとシェリーに雄叫びをあげながら一斉に襲い掛かった千年前の魔物たちだったが冷静さを失っているわけではなかったようで1人がピラミッド型の砲撃を、もう1人が十字の模様が刻まれた砲撃を放った。『ギガノ』は通常よりも強力な術に付いている因子である。初めて千年前の魔物に襲われた時も同程度の術を2発同時に放たれてしまい、『バオウ・ザケルガ』は相殺されてしまった。

「『アイアン・グラビレイ』!」

 しかし、それほど強力な術をブラゴは『アイアン・グラビレイ』(前方の重力を強くする術)でいとも簡単に地面に叩きつける。まさか完璧に防がれるとは思わなかったのか術を放った魔物たちは驚愕のあまり言葉を失った。

「遠距離攻撃が当たる相手ではありません! 数で突入し、攪乱しながらスキを作るのです!」

 全員がブラゴの計り知れない実力を目の当たりにして硬直する中、ゾフィスの怒声が響く。彼はブラゴの実力を知っていたようでさほど驚いている様子はなかった。

「『バルガドルク』!」

「『ギルドルク』!」

 ゾフィスの指示を聞いて今度は肉体強化の術である『ルク』系の術を使用した2体の魔物がブラゴたちへと突撃する。他の魔物たちもブラゴたちに隙ができるのを待っているのかいつでも襲い掛かれるように構えていた。さすがにマズイと判断して咄嗟に魔本に心の力を注ごうとするがまだ回復しておらず、魔本は何の反応も示さない。

「――ッ!?」

 だが、そんな俺の心配は杞憂だったようで突っ込んで来た魔物の1体をブラゴは術すら使うことなく片手1本で受け止めてしまった。ただでさえ現代の魔物よりも強い千年前の魔物の全力――しかも、肉体強化の術を使っているにも関わらずに。でも、敵はもう1体いる。ブラゴは片方の魔物を受け止めている隙を狙い、もう一体の魔物が背後からシェリーへ接近した。

「フン」

 絶体絶命のピンチだというのに鼻で笑った黒い魔物は受け止めた千年前の魔物を握力だけで掴み直し、背後から迫っていた魔物へとぶつける。一切言葉を交わしていないはずなのに最初からブラゴの行動がわかっていたようにいつの間にかシェリーは屈んでいた。そして、彼女はぶつかって身動きの取れない魔物たちの方を見ずに黒い魔本へと心の力を注ぎ――。

 

 

 

 

 

「『ギガノ・レイス』!」

 

 

 

 

 

 ――2体まとめて吹き飛ばしてしまう。まさに以心伝心。言葉を交わさずともお互いの動きを読み、最良の結果を残す。彼らの戦い方はどこか八幡さんとサイと似ていた。

「この……」

「『ネシルガ』!」

 肉体強化の術すら通用しなかったせいで焦ったのか脆弱なパートナーを狙おうと1体の魔物がシェリーへ突っ込み、術の効果で光を帯びている右手を突き出す。だが、術が放たれる寸前にシェリーが彼の右手を蹴り上げ、そのまま魔物の術は空へと撃ち出された。ブラゴの手を借りずに術をやり過ごされてしまった魔物は目を丸くし、その隙にフレイルで魔物の足を払ったシェリーは左足を大きく円を描くように振り上げ、魔物の顔面に踵を落とした。蹴り飛ばされた魔物が顔を歪ませてシェリーを睨もうと顔を上げるがそこにはシェリーではなく、左手を向けるブラゴがいる。

「『ギガノ・レイス』!」

 重力の塊をぶつけられた魔物はもちろん術の威力が高すぎるあまり地面が陥没してしまった。次から次へとやられる千年前の魔物たちを前にこのままではやられると判断したのかずっと傍観していたパティとカエルが魔物たちに指示を出して上空からブラゴたちへと一斉に術を放った。別々の方向から放たれた複数の術を処理する方法がなかったのか面倒臭そうに舌打ちをしたブラゴは近くにいた魔物の頭を掴み、迫る術に向かって投げる。

「ぎゃああああああああああああああ!!」

 投げられた魔物に術が直撃し、そのまま地面に倒れ伏してしまった。頑丈な千年前の魔物といえど同じ千年前の魔物の攻撃をまともに受けて無事でいられるわけがない。

「邪魔ね。降りて来て貰おうかしら?」

 シェリーが上空を飛んでいる2体の飛行型の魔物を見ながら微かに微笑み、魔本に心の力を注ぐ。たったそれだけで彼女が使おうとしている呪文がわかったようでブラゴは飛行型の魔物たちに両手を向けた。

「『ビドム・グラビレイ』!」

 ブラゴの術が発動した瞬間、飛行型の魔物たちが地面に叩きつけられてしまう。『ビドム・グラビレイ』はブラゴの手を向けた先の重力を強くする呪文らしい。基本的に他の『グラビレイ』系はブラゴの前方の空間に作用するがこの術ならばピンポイントで敵の動きを止めることができる。だが、このまま放置すれば飛行型の魔物たちは再び上空へ逃げてしまうだろう。シェリーもそれがわかっているのか地面に墜落した飛行型の黒い魔物に向かって駆け出した。これまで千年前の魔物相手でも怯えることなく、勇敢に戦っていた彼女だったがさすがに単身で突っ込むのは危険すぎる。飛行型の魔物と共に地面に叩きつけられた魔物たちも接近するシェリーに気付いたようで2体の魔物が彼女に襲い掛かった。

「どっちを向いている?」

 しかし、いつの間にかブラゴがシェリーに迫っていた2体の魔物の背後で両腕を突き出していた。シェリーの動きに気を取られていた隙に背中を取ったのだ。

「「――ッ!?」」

「『リオル・レイス』!」

 ブラゴに気を取られ、魔物たちが体を硬直させた隙にシェリーが呪文を唱えた。ブラゴの両手から放射状の重力の塊が放たれ、背中に術を受けた魔物たちはシェリーの両脇を通り過ぎ、地面を転がる。敵を倒すためならば自分の身に危険が迫っても構わない戦い方も八幡さんとサイに酷似していた。

「強い……」

 黒い飛行型の魔物を気絶させたブラゴたちはすぐに白い飛行型の魔物の元へ向かう。そんな彼らの戦いをずっと息を呑んで見ていたサンビームさんが震える声で呟いた。彼らと一度だけ戦ったことのある俺たちでさえ目の前で繰り広げられている戦いに言葉を失っているのだ。昨日初めて魔物同士の戦いに参加したサンビームさんの驚きは相当なものだろう。

「ガッシュ……いいか、よく見ておけ」

 俺が出会った魔物の中で今のままでは勝てないと思ったのは3人。

 ガッシュと出会ってすぐの頃、一方的にやられ見逃されたブラゴとシェリー。

 圧倒的な力でねじ伏せられ、何もできなかったバリーとグスタフ。

 そして、攻撃呪文がないのにコンビネーションと奇抜な策略で相手を翻弄し、確実に勝利するサイと八幡さん。

「『ギガノ・レイス』! 『グラビレイ』!」

 魔物を吹き飛ばした後、その魔物の近くにいた人間を重力で押し潰すシェリー。そのままフレイルを横薙ぎに振り、術を放とうとした魔物の顔面に打撃部をぶつけた後、頭を伏せて飛んできたレーザーを回避する。

「『レイス』!」

 回避した態勢のまま、人間に重力の塊をぶつけた。更に彼女に迫った魔物をブラゴが蹴り飛ばしてその奥にいた魔物たちに激突させる。もみくちゃになりながら後方へ飛ばされた魔物たちを一瞥し、魔本に心の力を注いだシェリーはフレイルの打撃部を回収しながら一歩だけその場から後ずさった。

「『レイス』!!」

 先ほどまで彼女がいた場所に重力の塊が通り過ぎ、今まさに呪文を唱えようとしていた人間に直撃する。その人間のパートナーである魔物が慌ててパートナーの元へ駆け寄ろうとするがその前にその魔物を殴り飛ばすブラゴ。

「『レイス』!!!」

 そのまま近くにいた別の人間に手を向けるとすぐにそこから重力の塊が射出され、吹き飛ばした。その背後では魔物に膝蹴りを喰らわせるシェリーの姿。

 ブラゴ、バリー、サイは力も戦い方も全く違う。だが、彼らにはただ一つだけ共通点があった。

「『アイアン――」

「あれが――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 今もなお、ブラゴの傍で戦い続けるシェリー。

 バリーが術を使って移動する際、彼の足を掴んで共についてきたグスタフ。

 とうとうサイの隣で戦う方法を見つけ、お互いの背中を守り合うように構えた八幡さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――グラビレイ』!」

「――いつか俺たちが戦わなければならない相手。王になるために越えなければならない壁だ」

 

 

 

 

 

 

 大型の魔物を押し潰す彼らを真剣な眼差しで見つめるガッシュに現実を突き付ける。

 彼らはただ呪文を唱えるのではなく、パートナーの傍で戦い続けていたのだ。きっと魔物の動きについていくために彼らは相当な努力をしたのだろう。八幡さんはほぼ毎日サイと一緒に訓練しているらしい。考えることしかできない俺とは大違いである。

(とんでもねぇ……でかい壁だな)

 まるで他人事のようにそんなことを思いながら見たブラゴたちの背中はとても大きかった。




原作を基にしていますが久しぶりにオリジナル要素をいれた戦闘シーンが書けました。
楽しかったです。








今週の一言二言


・毎年恒例FGO福袋ですね。私はバーサーカーとアビーちゃんが欲しいので四騎士の方を回そうかなと思います。あと、正月限定キャラとして村正が出るとか噂が流れていますがどうなんでしょう?
とりあえず、年が明けたらニコ生でガチャ放送でもしようかなと思います。


それでは、皆様!
良いお年を!

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