やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
今年も『俺ガッシュ』をよろしくお願いします。
千年前の魔物を圧倒的な強さで無効化していくブラゴたちだったが燃やした魔本の数は少ない。だが、魔本は燃やされていないものの攻撃を受けて気絶した者やすぐには立ち上がることのできない者が続出し、気付けば十数体ほどいた千年前の魔物は残り数体にまで減っていた。彼らのパートナーは魔本を守るために動くよう暗示をかけられているため、魔本を狙うよりも直接魔物を叩く方がやりやすいのだろう。まぁ、それができるのはブラゴたちが千年前の魔物を複数人相手にしても戦えるほど強いからだが。
「『レイス』!」
不意に呪文を唱えるシェリーの声が耳に滑り込んできた。彼女たちは全てに強い術を使っているわけではなく、『レイス』や『グラビレイ』のような弱い術も多用している。心の力を温存するために術を使い分けている? いや、それならば『アイアン・グラビレイ』のような強力な術で一掃した方がいい。では、何故、あのような戦い方を――。
「『レイス』!」
彼女たちの戦い方に疑念を抱いていると再び
――生きていたければ……この線よりこちら側には来ないことね。
(まさかッ……)
戦いが始まる前、フレイルを使って俺たちの前に1本の線を刻んだシェリーの言葉を思い出し、慌てて周囲を見渡すと人間たちが倒れ伏していた。彼女たちの戦う姿を見るのに夢中になっていたせいで今まで気付かなかったのだ。思い返せば彼女が弱い術を使ったのは決まって人間に攻撃する時だけ。そう、シェリーは弱い術を駆使して人間を全員、線より俺たちの方へ吹き飛ばしていたのである。そして、いつの間にか線の内側に移動していたシェリーの持つ黒い魔本が一際大きく瞬いた。
「皆、伏せろおおおおおおお!」
操られている人間は基本的に魔物の傍にいる。そんな中で強力な技を使えば魔物だけではなく、人間にまで危害を加えてしまう。もし、人間にブラゴの術が直撃すれば最悪の場合、死んでしまうだろう。つまり、シェリーは大技を使わなかったのではない、使えなかったのである。
だが、全ての人間を戦場から排除した今、彼女たちを縛るものはなくなった。すなわち、千年前の魔物たちを一網打尽できるほどの強力な術が使えるようになったのだ。
「『バベルガ・グラビドン』!!」
ブラゴの術が発動すると線より向こう側の空間に強力な重力場が発生し、十数体の千年前の魔物が地面と共に下の階層に落ちていった。術の破壊力と遺跡の劣化具合を考慮すれば2階層以上ぶち抜いている可能性が高い。
(な、なんつー威力だ……)
線の内側にいた俺たちでさえその威力を前にして体の震えが止まらなかった。直撃を受けた魔物たちは一溜りもないだろう。少なくともすぐに戦線復帰できないはずだ。数は多いとはいえ、魔本を燃やすのにそこまで時間はかからないので実質、千年前の魔物たちはブラゴとシェリー――たった一組の魔物と人間に完全敗北したのである。
「お、のれ……よくも、私の戦士たちを……」
「ボンジュール、ゾフィス。ココはどこかしら?」
下の階層に消えた魔物たちを見てゾフィスが悔しげに拳を握っていた。そんな彼に対し、シェリーは勝ち誇ったように挨拶した後、そう問いかける。シェリーはゾフィスのことを恨んでいると聞いたが『ココ』という人物が関係しているのだろうか。
「フン、それほどまでに会いたいですか? 変わり果てた親友の姿に」
「ッ……」
悔しそうに顔を歪めていたゾフィスだったがすぐに嘲笑を浮かべ、シェリーを挑発する。先ほどまで十数体の千年前の魔物を相手にしても冷静さを失わなかった彼女がはっきりと怒りを露わにした。きっとゾフィスはシェリーの親友であるココの心を操り、幸せを奪ったのだろう。そして、おそらくココはゾフィスのパートナー。つまり、シェリーは
「シェ、シェリー」
「……あ奴は私たちに任せてもらいます」
怒りを露わにしているが周りが見えなくなっているわけではないようで声をかけるとギロリとこちらを睨みながら忠告するようにシェリーが答えた。そのあまりの眼光に一瞬だけ怯んでしまうが今はそれどころではない。
「ああ、ゾフィスは任せる。俺たちはまだ残ってる千年前の魔物と操られてる人間を解放するために動く」
「……」
「だが、ゾフィスは俺たちにとっても許せない魔物だ。必ず倒してくれ。俺たちも
「――いえ、それは無理よ。あなたが来る頃にはゾフィスは消えている。消えた相手と戦うことはできないわ」
俺の言葉を遮って断言するシェリー。仮に俺たちが駆けつけたところで彼女は手出しさせないだろう。いっそのことゾフィスのことは完全にシェリーたちに任せて
「なめられたものですね。ついてきなさい、ココのいる場所……戦いの場へ案内しましょう」
こちらの会話が聞こえていたのかゾフィスは気に喰わなさそうに目を細め、背後――荒れた山脈地帯の方を振り返った。ここで戦えば城の頂上にある『月の石』に被害が出る可能性があるので別の場所で戦いたいのだろう。
「……行くわよ」
「やっと骨のある戦いができるか」
シェリーたちも移動することに異論はないのかゾフィスの提案を飲む。しかし、移動する前に何故かブラゴは城の頂上を一瞥した。彼が興味を示すような何かがある、ということだろうか。今からあそこに向かう身としては少々不安になってしまう。そう言えば、作戦会議の時にブラゴの名前が出た時、魔物組が驚く中、サイだけはどこか感心するように声を漏らしていた。何か隠しているような言動だったがブラゴもサイを知っていたりするのだろうか。
「ブラゴ」
「……ああ」
だが、サイについて問いかける前にシェリーとブラゴは山脈地帯へ向かうゾフィスを追って行ってしまった。今はそれどころではないし、また会えた時にでも聞いてみよう。
「絶対に負けてはいけないのだぞー!」
「……行ったか。きっと凄まじい戦いになるだろうな」
「ああ」
遠ざかっていく2人の背中に声援を送るガッシュを見ながら呟いた。ブラゴは重力を、ゾフィスは爆発を操る。そんな2人の術が真正面からぶつかればゾフィスの爆発が四方八方へ飛び散ることぐらい容易に想像できた。正直、ここが戦場にならなくて心の底から安堵している。サンビームさんも俺と同じことを考えていたのか頷いた。
「……しかし、あの者たちの凄まじい術のおかげで部屋の入り口も崖の向こうになってしまった」
「あ……」
「ウヌウ……どうやって向こうに行けばよいのだ?」
『バベルガ・グラビドン』によって先ほどまで彼らが戦っていた地面は下階層へ落ちてしまった。そのせいで城の入り口は崖のようになってしまい、城内へ入ることができない。千年前の魔物を一掃するためとはいえ、ここまで綺麗に地面を崩さなくてもよかっただろう、と心の中でシェリーたちに悪態を吐いてしまう。人間も放置していったのでこちらの処理も俺たちがしなければならない。助けてくれたことには感謝しているがもうちょっとこちらに気を使ってくれてもいいだろうに。
「とにかく、サンビームさんは魔本を一箇所に集めてくれ。ガッシュ、ウマゴン。お前らはどこかに穴が開いてないか探してこい。これだけ古い遺跡だ、どこかに穴が開いてるはず」
「ああ」
「ウヌ!」
「メル!」
『バオウ・ザケルガ』の後遺症で未だ言うことを聞かない体に鞭を打って立ち上がり、皆に指示を出す。城の頂上までもう少しだ。最後まで気を抜かずに進もう。
ここでサイの髪型や服装についてちょっと補足します。
髪型:黒髪のストレート。長さは腰まであり、更にかなりのボリュームがある
服装:長袖の白いワンピース
具体的な絵はありませんがイメージの参考になれば幸いです。
・・・描いてくれてもいいのよ?
今週の一言二言
・FGOで福袋開けて見事頼光ママが来てくれました。これでやっと7騎の星5が揃いましたね。今は鉄杭集めてます。しんどいです。