やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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とうとう評価バーがオレンジ色になってしまいました。
☆1が入ると評価点がかなり削られてしまう上、やはり主人公2人がいないのが原因でしょうか。
もう少しで彼らの出番が来ると思いますのでもうしばらくお待ちください。
なんとか再び評価バーを赤色にできるように頑張ります!


LEVEL.155 彼らはすでに群青色の重圧を経験している

「はぁ、はぁ……っ、はぁ……」

 いつまで経っても整わない呼吸をもどかしく思いながら私は心の力を魔本に注ぐ。目の前には傷だらけになりながらも真っ直ぐ前を見つめるティオ(パートナー)の背中。

 負けられない。

 諦めてはならない。

 挫けてはならない。

 目を逸らしてはいけない。

 そう、自分に言い聞かせ、ただひたすら術を唱え続ける。すでに体の限界は超えている。心の力も残り少ない。味方(ウォンレイ)はボロボロ。でも、敵は戦闘を始めた頃と何も変わっていない。唯一無事なのは“精神()”のみ。だが、それすらいつまで持つかわからない。

(あぁ……これが……)

 アジトに再突入する前から厳しい戦いになるとわかっていたけれど、それは数の暴力によるものだと思っていた。確かにここに来る前に戦った棍を巧みに操る魔物と心を操られていない人間相手に苦戦したが、“勝てない相手”とは思わなかった。『マ・セシルド』(最強防御呪文)『ギガ・ラ・セウシル』(自業自得の盾)も通用しなかったが、“どうにかしてやる”とむしろ自分を奮い立つことができた。そう、心の支えは八幡君の代わりに頑張らなければならないという使命感と格上の存在(サイちゃん)がいたからだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 でも、こいつは違う。強いとかそう言う次元じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 『マ・セシルド』(最強防御呪文)はいとも容易く破壊され、ウォンレイの攻撃など虫にたかられた時のようにあしらわれる。何とか『マ・セシルド』で防げる速度の速い呪文も盾に当たる直前に軌道を変えられ、地面を抉ることで『マ・セシルド』を掻い潜りながら攻撃してくるようになった。

 一言で表すのなら『化け物』。サイちゃんの言葉で言い換えるなら――。

 

 

 

 

 

 

(――理不尽)

 

 

 

 

 

 

 苦し紛れに使った『セウシル』と『レルド』が砕け散る音と共に限界を迎えた私はその場に膝を付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前の広がる光景を見て俺は思わず、現実なのか疑ってしまった。だって、俺たちよりも強いウォンレイが血だらけになりながらその場で倒れたのだから。だが、そんな彼を抱き起こすリィエンの叫び声。その近くでは膝を付きながらも目の前の敵を睨んでいる恵さんの気迫。そして、恵さんを守るように両手を広げるティオの背中が現実であると言っていた。

 ウォンレイの右横腹を抉った鋭い何かは俺たちの前にそびえ立つ壁へと戻っていく。いや、違う。壁と間違えてしまうほど巨大な魔物の元へ戻っていった。そのまま鋭い何かは彼の右腕の角へ変わる。どうやら、あの角は呪文の効果によって伸縮するらしい。巨大な魔物はウォンレイが倒れる姿を満足そうに見つめ、やっと俺たちの存在に気付いたのかニヤリと笑った。そして――。

 

 

 

 

 

 

 

「ルォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

 

 

 

 

 ――新しい獲物を見つけた獣のように歓喜の雄叫びを上げた。それだけでビリビリと大気が震え、言葉を失ってしまう。こいつが、パティやレイラが言っていた『月の石』を守る千年前の魔物。サイやブラゴ、バリーとはまた違った強者。いや、化け物。こんな奴と戦えるのか?

「ウォンレイ!」

 未だに絶叫する化け物に気を取られていたがリィエンの悲痛な叫びでハッと正気に戻った。そうだ、ウォンレイは奴の攻撃で大怪我を負っていた。急いで彼女たちに視線を移すとウォンレイは気絶しているのかピクリとも動かず、そんな彼の名前をリィエンが叫び続けている。さっきの攻撃だけじゃない。俺たちが来るまであの化け物の攻撃を凌ぎ続けていたのだろう。人間より頑丈な魔物でもこのまま放置するのはマズイ。

「ティ、ティオは!? 早く回復呪文を――」

 慌てて視線を彷徨わせ、化け物の前で身動きの取れない彼女たちの姿を見つけた。ウォンレイがやられてしまったのにまだ心は折れていないのか恵さんは魔本に心の力を溜めて何かしようとしていた。さっきウォンレイを貫いた呪文に対し、『マ・セシルド』ではなく『セウシル』を使っていたのはあの呪文に『マ・セシルド』が通用しないとわかっていたからだろう。つまり、あの化け物には『マ・セシルド』ですら防ぐことのできない攻撃方法があることになる。それを使われたら彼女たちはなす術もなく殺されてしまう。

「くっ、ガッシュ!」

「ヌ――」

「――オォオオオオオオオオ!」

 ウォンレイを助けるためにはティオの『サイフォジオ』(回復呪文)は必須。だからこそ、急いで彼女たちを助けに行こうとした瞬間、化け物が俺たちを威嚇するように再び雄叫びを上げた。先ほどとは比べ物にならない威圧と殺気が俺たちを襲う。ガタガタと体が震え、目の前が真っ白になりそうになった。他の皆も化け物の咆哮にやられたのかビクリと肩を跳ね上がる。

「ガッ……シュウウウウウウウ!!」

「ヌゥオオオオオオオオオオオオ!!!」

 だが、そんな中、俺とガッシュだけは化け物の威圧を振り払うように絶叫した。凄まじい威圧と殺気なのは認める。その証拠に足がすくんで何もしていなくても転んでしまいそうだった。でも、これぐらいの威圧はすでに“経験”している。他の人は化け物の威圧で動けない。なら、俺たちが――。

「『ゼモルク』」

 ――しかし、現実はあまりにも無情だった。化け物の右腕の角が凄まじい速度で射出され、恵さんたちへと迫る。想像以上に速い敵の攻撃に一瞬だけ体を硬直させてしまった。その一瞬は致命傷となる。今から助けに向かっても間に合わない。『ラウザルク』を唱えても駄目だ。だが、だからと言って諦めるわけにもいかない。呪文を唱えるために魔本に心の力を込めた瞬間、背後から俺たちを誰かが飛び越えた。

「なっ……レイラ!?」

 俺たちを飛び越えたのはレイラとアルベールだった。レイラは化け物の攻撃に臆することなく、真っ直ぐ恵さんたちの元へ向かい、ティオを巻き込むように恵さんの背中を押し出してタッチの差で化け物の攻撃を躱した。

「ガッシュ、SET!」

「ウヌ!」

 人差し指と中指を化け物の足元へ向けた。攻撃を躱された化け物はすでにレイラたちの方へ顔を向けている。恵さんたちの無事を喜んでいる場合ではない。レイラは千年前の魔物に対して術を放つことができないので戦い辛いはずだ。だから、俺たちがあの化物の気を逸らす。

「『ザケルガ』ァ!!」

 呪文を唱えるとガッシュの口から放たれた貫通力のある雷撃は化け物の足元を粉砕する。その衝撃でバランスを崩す化け物。

「走れ、ガッシュ! 『ラウザルク』!」

 気絶から立ち直ったガッシュは俺の指示通り、化け物に向かって突撃する。バランスを崩している化け物はその巨大さが仇となり、すぐに体勢を立て直せない。そこを突く。

「全力で足を蹴飛ばせぇ!」

「おおおおおおおおおお!」

 絶叫したガッシュが化け物の足を蹴ると彼はそのままその場で尻餅を付いた。その隙にレイラが少しでも時間を短縮するためなのか恵さんとティオをこちらに向かって投げる。空中で何とか体勢を立て直した2人はウォンレイの傍に着地して『サイフォジオ』(回復呪文)を使う姿勢に入った。それを察知したのか化け物がこちらに向かって来ようと動き出す。

「あら、デモルト。狂戦士(バーサーカー)とうたわれた貴方が余裕綽々と放った攻撃を簡単にいなされた挙句、現代の魔物に尻餅を付かされたのに私たちを無視するの? 堕ちたものね」

「ぅ、ォ……オオオオオオオオオオ!」

 しかし、レイラの挑発に乗ってしまったのか化け物――デモルトは彼女に向かって右腕の角を振るう。よし、いいぞ。これでティオたちの邪魔をされずに済む。

「ガッシュ、奴の周りを駆け回れ! 少しでも気を逸らすんだ!」

 俺の指示に頷いたガッシュはレイラを攻撃するデモルトへと駆け出す。

 こうして、最後の戦い(デモルト戦)の火蓋が切られた。












今週の一言二言


・最近、資格の勉強をしています。テキストは分厚く、書いている内容もなかなか専門的なのでかなり面倒です。でも、必要な資格なので1発で合格できるように頑張ります。


・2月23日~2月26日に京都に行くことになりました。25日に開かれるとあるオンリーイベントに参加する予定です。久しぶりのイベントなのでちょっと緊張してしまいますねw

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