やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
また、たくさんの評価ありがとうございました!
これを励みにより一層頑張りますのでこれからも『俺ガッシュ』をよろしくお願いします!
「『ザケルガ』ァ!」
ガッシュの後ろに続く形でデモルトの元へ走りながら呪文を唱える。しかし、デモルトの顔面に向かって電撃は当たる直前に首を傾けて回避されてしまった。そして、そのまま俺たちなど眼中にないと言わんばかりに『月の石』にロッドを向けたレイラへ右腕を突き出す。
「『オルダ・ゼモルク』!」
「ぐっ……」
術が発動すると右腕の角がいくつかに枝分かれし、射出され、レイラの周囲の地面を抉る。千年前の魔物はお互いに攻撃することができない。だが、魔物本人ではなく、地面や天井など別の場所へ術を放ち、攻撃することは可能。
「しまった、アル!」
デモルトが地面を抉った衝撃でアルベールの手を離してしまったのかレイラは呼びながらパートナーの傍へ駆け寄った。その隙を突いてデモルトは術なしでレイラたちに殴りかかる。まずい、術なしとは言え、あんな大質量の一撃を受けたらアルベールはもちろん、レイラだってただではすまない。
「SET! 『ザケルガ』!」
咄嗟に人差し指と中指をデモルトの右腕に向けて呪文を唱えた。ガッシュの口から放たれた電撃はデモルトの右腕を撃ち抜き、その動きを止める。
「『ゴウ・シュドルク』!」
ガッシュが気絶から立ち直ったその時、術によって強化されたウマゴンが俺たちを追い越した。予想以上にウマゴンの速度が速かったのかデモルトはウマゴンの渾身の一撃を顎で受け、大きく仰け反る。チラリと後ろを振り返ればキャンチョメが皆の姿を隠すように壁に変化しているところだった。よかった、皆も何とかデモルトの威圧の呪縛から抜け出すことができたようだ。
奴が怯んでいる隙に俺とガッシュ、サンビームさんと通常形態に戻ったウマゴンはレイラの元へ集まった。レイラもアルベールも大きな怪我はないようで一安心である。
「サンビームさん、ウマゴン。大丈夫か?」
「……ああ、君たちの戦う姿を見て震えが止まった」
「メル!」
「そう、それでいいわ。清麿、頭をフルに働かせなさい。私たちの力を100%引き出さないとまともに戦うことすらできないわ」
「ルガァアアアアアアアア!!」
ウマゴンの一撃を受けて怒ったのかデモルトはゴリラのようにドラミングしながら雄叫びを上げる。たったそれだけで地面は揺れ、腹の奥底がビリビリと震えた。
「デモルトが本気になったわ! ああなったら小細工は通用しないわよ!」
「ああ、レイラは『月の石』の破壊に専念してくれ。ガッシュとウマゴンは肉体強化の術で奴を『月の石』から離れさせろ!
「『ゴウ・シュドルク』!」
虹色の雷に撃たれたガッシュと戦闘形態になったウマゴンはデモルトに向かって果敢に突っ込む。それに対してデモルトは力任せに右拳を振るった。その拳を真正面からガッシュが受け止め、その隙に右腕を利用してデモルトに迫るウマゴン。その後を追うようにガッシュもデモルトの右腕へ飛び乗り、凄まじい速度で登っていく。そして、隙だらけのデモルトの顔面に2人同時に体当たりを喰らわせた。
「ルォホホホホホホホ!」
「よ、喜んで……る?」
だが、デモルトは怯むことはおろか嬉しそうに笑みを浮かべた。そのまま拳を振るい、空中で身動きの取れなかったガッシュとウマゴンを捉える。いや、まだデモルトの拳は振るい切っていない。ガッシュとウマゴンもろとも巨大な拳が『月の石』を破壊するために移動していたレイラに迫る。
「くっ……」
迫る拳を見てレイラは顔を歪め、速度を上げて何とかデモルトの攻撃を躱す。ホッとするまもなく奴の拳は広間の壁を木端微塵に吹き飛ばした。パラパラと瓦礫が落ちるのを見ながらデモルトの出鱈目な攻撃力に息を呑んでしまう。あれが呪文抜きの攻撃? あれを何度も受けていたら『ラウザルク』や『ゴウ・シュドルク』で強化したガッシュたちでさえすぐに動けなくなる。長期戦になれば俺たちが圧倒的に不利だ。多少、無茶してでも『月の石』を破壊しなければならない。
「『リゴン・ゼモルク』!」
だが、そんな考えを見透かすようにデモルトの新しい術が発動し、奴の腕の角が組み合わさり、三連棍に変形した。そして、ウォーミングアップするように三連棍を振り回し始める。術になるだけあってデモルトの三連棍を操る技術力は素人目からしても高かった。
「ヌゥウウウ! 負けるでないぞ、ウマゴン!」
「メルメルメ~!」
瓦礫の山から抜け出したガッシュとウマゴンは再びデモルトへ突撃する。奴もそれを黙って見ているわけもなく、三連棍を巧みに操ってガッシュたちを牽制。しかし、ガッシュたちも負けていない。何度も突き出される三連棍を紙一重で回避し、もう一度デモルトの顔面に左右から体当たりを仕掛ける。
「ルバゥオ!」
体当たりが当たる直前、滑り込むように三連棍がそれを受け止めた。更にガッシュたちの攻撃を受け止めた打撃部をクルリと回転させ、真上からガッシュたちに向かって振り降ろし、地面に叩きつける。
「『ミグロン』!」
デモルトがガッシュたちに気を取られている隙に『月の石』に術を放つレイラ。奴は彼女に背中を向けている。あの状態から体を翻しても
「ルァアアアアアアア!!」
――勝負が付いた、かのように思えたが
「……デモルトの本を持ってるあなた」
どう攻めるか思考回路を巡らせていると不意にレイラがデモルトのパートナーに話しかけた。千年前の魔物のパートナーはゾフィスによって心を操られている。話しかけても何も反応を返すことはできない。それは千年前の魔物であるレイラが――アルベールに何度も話しかけていた彼女が一番わかっているはず。
「ゾフィスに心を操られていないわね」
「ッ!?」
彼女の言葉に俺は目を見開いた。デモルトのパートナーは心を操られていない? そんなことありえるのか?
(……確かパートナーが心を操られたのは戦いたくない、もしくは戦えない人間を無理矢理戦わせるため。つまり、逆に言えば“戦うことを望み、”“魔物同士の戦いについて来られる”のなら心を操る必要はない!)
「く、くくくくく……ははははは!! なぜ俺が心を操られなきゃいけねぇ? ゾフィスのやってる魔物狩りはこの上ない面白さなんだぜ?」
呪文を唱える時以外、口を開かなかったデモルトのパートナーは唐突に笑い出し、そう吐き捨てる。レイラの言っていた通り、彼はゾフィスに心を操られていない。もしかしたらデモルトがパートナーに指示を出していたのではなく、パートナーがデモルトに指示を出していたのかもしれない。そうでなければ背後を通り過ぎる術を見ずに弾き飛ばすことはできない。
「それにゾフィスも俺を気に入ったみてぇでよ……ある『報酬』を約束してくれたのよ」
「報酬、だと?」
「この『月の石』さ。ゾフィスが王になるまで協力し、石を守り切ったら『月の石』をくれるんだ。こいつはいいぜ? でけぇコンピュータに繋げりゃ、ゾフィスがいなくても集団催眠みてぇなことができる」
俺が投げかけた質問にデモルトのパートナーは『月の石』を見上げながら愉快そうに答えた。たとえゾフィスがいなくなっても『月の石』を破壊しなければ新しい犠牲者が出る。そう言うことなのだろう。
「ゾフィスほど巧みに心を操れねぇが、どっかの知らない馬鹿に悪いことを何でもやらせられるんだ! こんな面白いことはねぇ! ゾフィスが魔界に帰っても俺が使い続ける」
そう言うこと? こいつは何を言ってやがる。顔すら知らない人に悪さをさせて、何が面白い? 理解できない。理解したくもない。
「フッ、たまらんなぁ。俺の名が闇の中で恐れられるんだ……てめぇらも覚えておけ! 我が名はヴァイル! ローベルト・ヴァイル! ゾフィスのあとを継ぐ者よ!!」
「清麿ォオオオオオオオオ!!!」
「『ザケルガ』ァアアアアアアア!!!」
デモルトに向かって飛びながらヴァイルの言葉を掻き消すほどの大声で俺の名前を叫んだガッシュ。それに応えるように俺も全力で呪文を唱えた。だが、それでも威力は足りず、放たれた電撃はデモルトの左手で簡単に受け止められてしまう。
「ハッ! なんだ、その蚊が刺したような攻撃は? 弾け飛べ!」
「『ゴウ・シュドルク』!」
ガッシュに向かって突き出された三連棍の打撃部をウマゴンが角で弾いた。その間にガッシュは空中で無理矢理顔をヴァイルに向ける。
「『ザケル』!」
「なっ!? くそがっ!」
ヴァイルに向かって放たれた電撃はまた三連棍に阻まれてしまう。もう一度、攻撃しようと魔本に心の力を注ぐがその前にガッシュが三連棍の一撃をまともに喰らってしまった。
「ガッ……き、清麿おおおおおおおお!」
「『ザケルガ』ァ!!」
吹き飛ばされながらも放たれた電撃がデモルトの顎を撃ち抜く。だが、術を放つ度に気絶してしまうガッシュもろくに受け身を取れずに地面に叩きつけられてしまった。
「ガッシュ!」
「それでいい清麿! 我が身など気にせず攻撃し続けるのだ! この戦いで安全なんてものは存在せぬ! この身が砕けようと、こ奴らは倒さねばならぬのだ!」
そう言ってガッシュはデモルトの元へ駆け出す。
奴は『月の石』の傍にいる。『ザケルガ』を受けてもすぐに回復してしまうだろう。でも、それは攻撃の手を止める理由にはならない。
なにが闇の中で恐れられる、だ。なにがゾフィスのあとを継ぐ者、だ。そんなくそったれな継承者を生み出すわけにはいかない。こんな悲しくて無意味な戦いを誰かに強制させるわけにはいかない。
ギリギリの戦い方を指示するかもしれない。だが、必ず俺が奴を倒す“光”を見つけ出す。見つけ出してみせる。だから――行け、ガッシュ。
「『ザケルガ』ァ!!」
奴らを倒さなければならない理由が増え、
「大丈夫? 体の調子とか悪くない? 熱は? だるさは? 咳、鼻水、動悸みたいな症状は?」
「ねぇよ……熱が下がった次の日に登校する息子を心配する母親か」
ペタペタと心配そうに俺の体を触るサイにツッコむ。俺が目を覚ましてからずっとこの調子だ。実際にそう聞かれたら速攻で仮病に罹って部屋に引きこもる自信がある。だが、さすがに今はそうも言っていられない状況だ。
「もう、わかったよ。あー、大丈夫かな。またハチマンが倒れちゃったりしないかな。あー、心配。心配だよ」
「……お前、実はそんなに心配してないだろ」
「まぁ、昨日の夜にメグちゃんたちにあんなに看病されてたからね。予想以上に目を覚ますのは早かったけどあんだけ看病されれば一日で目を覚ますか」
「え、俺なにかされたの?」
もしかして俺が寝ている間に顔に落書きとかされたとか? いや、でもさっき顔を洗った時は何も書かれていなかったし。じゃあ、俺は一体何をされてしまったのだろうか。向こうに行って『ぷぷー、うわー。八幡君、まだ落書きに気付いてないんだー』とあいつらに笑われたりしないだろうか。い、いや、あいつらは仲間だ。そんなことしないはず……しないよな?
「おっと……ハチマン、そろそろ行こう。また魔力が膨れ上がった」
「……なんで、何度も魔力が膨れ上がる化け物がいるところに行かなきゃならないんかね。すげぇ行きたくないんだけど」
「でも、そんなことを言いながらきちんと助けに行くハチマン。まぢかっこいー」
「はぁ……さてと、そろそろ行きますか。『サジオ・マ・サグルゼム』」
これ以上、油を売って間に合わなかったら目も当てられない。呪文を唱えるとサイの左手から射出された白い球体が俺の体に当たり、白いオーラに変わる。
「『サルク』、『サグルク』、『サフェイル』」
更に立て続けに肉体強化の術を使う。チラリとサイを見れば目は群青色に輝き、体は群青色のオーラに覆われ、背中に可愛らしい2対4枚の半透明な羽が生えていた。
「ハチマン」
「ああ……『サウルク』」
音もなく浮いた彼女の手に掴まるとサイは少しずつ高度を上げ始める。ある程度のところまで飛んだところで最後の呪文を唱えた。そして、俺たちは今のなお、戦い続けている仲間たちの元へ向かう。面倒なことになっていませんように、と願いながら。
・今週の一言二言
・FGOで空の境界イベが復刻しましたね。ギリギリFGOを始めていたので過去の礼装を持っており、かなり楽に周回することができました。ただし、『腐人、素体200体倒せ』、お前らは許さない。面倒で仕方なかったわ。
・プリンセスコネクト、というソシャゲを始めました。まだ配信したばかりですがなかなか面白いですね。少しずつ進めて強くなります!