やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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新しい活動報告がありますので必ず読んでください。


LEVEL.162 妖精が寄り添う群青の龍は化け物を噛み殺す

「ッ! ハチマン、『サウルク』!」

「『サウルク』!」

 切羽詰ったようなサイの声に慌てて『サウルク』を唱える。すると、一瞬だけ景色がブレ、目の前にレイラとアルベールの背中が現れた。いや、俺たちが彼らの背後へ移動しただけだ。

「レイラ、いいよ!」

「っ……もう、本当に――」

「――目障りなんだよ、この三日月がぁああああ!」

 サイの掛け声にこちらを振り返って“懐かしそうに”笑いながら何か言いかけたレイラの言葉はデモルトの絶叫に掻き消されてしまった。レイラの言葉の続きも気になったがデモルトが周囲に浮かぶ三日月を破壊しようと拳を振り上げるのを見つけ、大海に視線を向ける。彼女はティオに支えられながらもこちらへ向かってきているがあの様子では心の力はもうほとんど残っていないのだろう。あれでは『マ・セシルド』は使えない。このままでは三日月ごと俺たちはあの拳の餌食になってしまう。

「アル、行くわよ! (ベー)(エー)(エイチ)12(エル)15(オー)18(アル)23番(ダブ)!」

回転(ロール)!」

 しかし、デモルトの拳が振り降ろされる直前、レイラとアルベールが叫ぶとデモルトの拳を躱すように三日月がクルクルと回転しながら移動した。まさか回避されるとは思わなかったのか目を見開くデモルトだったが構わず、そのまま俺たちに向かって拳の軌道を変える。

(エー)(ジー)13(エム)15(オー)19(イス)――」

「――攻撃(ファイア)!」

 その攻撃が届く前にレイラたちが三日月に指示を出すとデモルトの周囲に浮いていた5つの三日月が同時に爆破。その爆風に煽られ、デモルトの右足は払われ、俺たちに攻撃しようと突き出していた右腕が跳ね上げられ、叩き落とすように左腕が下へ落ちた。

 三日月の爆破はそこまで大きいものではない。そこで的確に力の流れを逸らすように爆破したことでデモルトの体勢が大きく崩れたのである。

(アー)(セー)(エイチ)(アイ)12(エル)17(キュー)20(ティー)22(ブイ)24(エクス)26(ゼツ)!」

連結(コネクト)――」

 今度は三日月から別の三日月に光線が放たれ、10個の三日月が結合された。驚いたデモルトは慌ててその場から離れようと暴れるが三日月を繋ぐ光線には実態がある上、伸縮性も高いのか三日月の檻から抜け出すことができない。

「グォオ!? 何だこのクソ網はあああ!?」

「――&収穫(ハーベスト)!」

 三日月の檻の中でもがいていたが10個の三日月が回転しながら上昇し、巻き取られるようにその場で転倒するデモルト。まさかここまであっさりとデモルトの動きを封じてしまうとは思わず、目を見開いてしまう。

(……あれ、サイがいない)

「清麿!」

「あ、ああ! 『ザグルゼム』!」

 俺と同じように呆けていた高嶺は慌てて『ザグルゼム』を放った。何とか体を起こそうとしていたデモルトも迫る『ザグルゼム』に気付き、必死に顔を背けようとする。

「やあああああ!」

「ガッ」

 しかし、その直後、こうなると読んでいたサイが奴の顔面に“『サウルク』ドロップキック”を喰らわせた。動きを止めるほどの威力は持っていなかった『サウルク』を用いた攻撃でも一瞬だけならば仰け反らせることができる。ドロップキックの衝撃で奴の歯が舞う中、『ザグルゼム』がデモルトの顔面に直撃した。

「当たった……どうやっても当てられなかった『ザグルゼム』が簡単に」

「清麿、あれ(『ザグルゼム』)は相手の体に電撃のエネルギーを溜められるのね?」

「術をほとんど使っていない『バオウ・ザケルガ』でもサイの術を強化する術(『サザル・マ・サグルゼム』)があれば最大威力まで引き上げられる! あと、2発……計3発分も奴の体に溜められたら倒せるはずだ!」

 呆然としていた高嶺にレイラが問いかける。『サザル・マ・サグルゼム』は強制的に術の力を100%まで引き上げる。術を使えば使うほど――逆説的に言えば術を使わなければ威力の出ない『バオウ・ザケルガ』でも『サザル』を使えば術を使っていなくても『バオウ・ザケルガ』の威力は最大になるのだ。

OK(オーケー)よ、いけると思ったらどんどん撃ち込んで……問題は――」

「――レイラ、私のことは気にしないでどんどん三日月を動かしちゃって。ハチマンは出来るだけ『サウルク』と『サフェイル』を維持してね! フォロー入るから!」

 三日月を躱しながら旋回していたサイが一瞬にしてレイラの隣に移動し、そう言ってすぐにデモルトの方へ飛んで行ってしまった。

 デモルトを簡単に転倒させた三日月だが、攻撃(ファイア)した三日月が復活していないところを見ると攻撃(ファイア)すればするほどその数が減ってしまうのだろう。なので、『ザグルゼム』がデモルトの体に蓄積されるまでレイラの援護をするつもりなのだ。

「……ええ、それじゃあ遠慮なくいかせてもらうわ。安心して? これでも“援護”されるのは何度も経験してるの。その強さが身に染みてるほどに、ね!」

 そう言ってレイラは三日月を操り始めた。デモルトの拳を華麗に回避し、三日月同士を結合させて身動きを封じ、爆破させて地面に叩きつける。そして、起き上がろうとしたデモルトの足首にスライディングするように真横から『サウルク』キックを繰り出してもう一度、転倒させるサイ。

 何より、信じられないのがレイラとアルベールは会話もせずに三日月を操作していたことだ。まるで、心と心が通じ合っているかのように。

「八幡君」

 今なら話しかけても大丈夫だと判断したのか少し前から俺の隣にいた大海に声をかけられた。彼女は目に涙を浮かべながら体を震わせている。それを見た瞬間、デモルトに追いかけられた時に耳に届いた彼女の絶叫が脳内で反響した。

「あー……心配、かけたな。すまん」

「うん、本当に……心配したんだよ? すごく、心配したん、だから」

 どうやら、予想は当たっていたようで謝罪を受けた大海は堪え切れなくなったのかポロポロと泣き出してしまう。え、ちょ、それは予想外なんですけど。

 まさかの事態に助けを求めようと大海を支えていたティオに視線を向けるがティオもティオでいかにも怒っていますと言わんばかりに頬を膨らませていた。絶対、味方してくれないな、これ。

「そもそも2人だけで時間を稼ごうとするとか馬鹿じゃないの!?」

「いや、だってあの時、俺たちぐらいしか時間稼ぎできなかっただろ」

「そうだけど! そうなんだけど……ああああああ、もう! むしゃくしゃするわね!」

 俺の言葉が正論だと彼女もわかっているようでもどかしそうに声を荒げながら髪を掻き毟った。お嬢さん、せっかくの綺麗な髪が傷んでしまいますよ? あ、余計なお世話ですかそうですか。

 俺ではこの2人を宥めることはできそうにないので他の人に助けを求めようと視線を彷徨わせるが高嶺は今頃になって戻ってきたフォルゴレとキャンチョメに話しかけているし、サンビームさんは大海たちの味方なのか腕を組んで頑なにこちらに目を向けようとしない。ウマゴン? サンビームさんの顔を舐めているけど?

「ごめんね、八幡君」

「あ?」

「だって……私たちに力がないせいであんな危険な目に遭わせて」

 万事休すか、と項垂れていると唐突に大海に謝られて首を傾げてしまう。もしかして、俺たちだけで時間を稼いだのは『他の奴らではデモルト相手に時間すら稼げない』と判断したからだと“勘違い”しているのか?

「別にそう言うわけじゃねぇよ」

「でも、あの時だって八幡君とサイちゃんだけで何とかしちゃったじゃない! 心の力がなかった私たちはともかくナゾナゾ博士やウォンレイたちもいたのに!」

「……ああ、街で戦った時のことか」

 何となく状況が読めてきた。うん、これは完全に誤解されていますわ。

 確かに大海の言う通り、街で戦った時もデモルトと戦った時も俺たちは2人だけで戦った。もちろん、『敵に俺たちの情報を必要以上に渡さないため』や『デモルト相手に戦って消耗している他の奴らを少しでも休ませ、作戦を練らせる時間を稼ぐため』、という理由もあった。だが、それはあくまでも“ついで”だ。本当の理由は別にある。

 しかし、だからといってそれを彼女たちに言うのは些か恥ずかしい……と、いうかそれを隠すためにごちゃごちゃと理由付けしたのに誤解を解くためにはそれを説明しなければならないとか泣けてくる。渾身のギャグがスルーされ、自分で解説しなければならない時みたいな屈辱感だ。いや、渾身のギャグを披露する相手がいないから知らんけど。

「それに私たちがしっかりしていれば病み上がりの八幡君はここに来ることもなかったのに――」

「俺たちが2人で戦ったのはな。確かめたかったんだよ」

「――へ?」

「だから……俺たちの答えが本当に合ってるか確かめたかった。それに、特にお前には世話になったから見て欲しかったんだよ、俺たちの答えを」

 このまま放置すれば面倒なことになりそうだったので早口で本当の理由を教えた。泣き顔でキョトンする大海の顔を見て居たたまれなくなりサッと顔を逸らしてしまう。うわぁ、これは恥ずい。今まさに俺は黒歴史を作っている真っ最中だ。死にたい。あぁ、魔本の光もどんどん小さくなっていく。サイもそれに気付いたのか俺をチラチラと見て首を傾げている。そんな目で見ないでくれ。ほら、早く持ち場に戻れ。“そろそろだろう?”

「見て、欲しかった……私、に?」

「まぁ、俺たちが答えを見つけられたのはお前のおかげだしな。別にお前たちは関係ない……てか、街の戦いは高嶺たちの力も借りてたじゃねぇか」

「え、ぁ……え、ええ?」

「まぁ、他の理由も本当だけど多分、理由がなくても2人で戦ってたと思う。とりあえず、俺たちの答え合わせはもう終わったからこれからは普通に(・・・)戦うぞ。そう――」

「ハチマン!」

 少し遠い場所から聞こえたサイの声に俺たちは上を見上げた。そこには三日月の包囲網から抜け出そうと高く跳び上がった全身が『ザグルゼム』特有の光に包まれているデモルトとその背後にいる戦闘形態のウマゴンに乗ったガッシュと彼の背中に右手を向けている妖精(サイ)の姿。チラリと視線を横にずらせば、高嶺の近くにガッシュの格好をしたキャンチョメがいる。なるほど、キャンチョメの化ける力を使ってガッシュの居場所を欺いたのか。

 さて、そろそろ心の力も限界だ。これ(俺たちの答え)で終わりにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――仲間と協力して戦う(こんな風にな)。『サザル・マ・サグルゼム』」

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッタレがああああああああ!!」

 サイの声で背後にいる彼らに気付いたデモルトが絶叫する。きっと、彼の目には群青色のオーラに覆われているガッシュとその後ろでニヤリと笑っているサイの姿が映っているだろう。

「『バオウ・ザケルガ』!!」

 そして、高嶺が呪文を唱え、ガッシュの口から群青色の『バオウ・ザケルガ』が放たれた。今まで最大威力の『バオウ・ザケルガ』を見たことはないが、想像以上にでかい。デモルトなど丸呑みにできそうだ。それに『バオウ・ザケルガ』の背中に巨大な翼が生えている(・・・・・・・・・・)。『サザル』で強化された『マ・セシルド』も紋章に変化があった。あの翼も『サザル』の影響なのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グ、ォオ……オオオオオオオオ!! ちくしょおおおおおおおおお!!」

 

 

 

 

 

 

 

 『バオウ・ザケルガ』に噛み付かれ、電撃が四方八方へ飛び散る中、デモルトの断末魔が轟いた。












今週の一言二言



・fate/EXTRAのアニメですが、まさかの続きは7月ですか……一番くじが7月なのは知っていたのですが結構、遠いですね。とりあえず、続き楽しみにしてます。

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