やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
「いやぁ……まさか、ねぇ」
2人並んで壁に背中を預けてわいわいと騒いでいる皆を眺めているとサイが唐突に声をかけてきた。おそらく、レイラが言っていた支援型の魔物のことだろう。
「まぁ、まさかだよな」
すでにレイラとアルベールはここにいない。衝撃の真実を告げた後、ウォンレイが目を覚ましたらしく、レイラとアルベールは皆のところへ行ってしまったのである。そのため、支援型の魔物について追究したくてもできなかったのだ。
しかし、仮にその魔物の詳細がわかったところでサイとその魔物は支援の特性が違う。あまり参考にならないはずだ。
「でも、ティオに言ったらすごいテンション上がりそうだよね」
「あー……あいつ、あの物語大好きだもんな」
ティオは支援型の魔物が主人公の物語である『人間と魔物の恋物語』が大好きであのクリスマス会以降もたまに熱く語られていたのだ。彼女の話の中でレイラらしき人物は登場しなかったがそもそもティオが読んでいたのは
「『ラオウ・ディバウレン』!!」
その時、倒れていたデモルトに巨大な白い虎が放たれた。少し遠いのでどうなったのかまではわからないが皆の反応からして上手く奴のパートナーを吐き出させることができたのだろう。デモルトも消えたし――てか、あの消え方からして魔本が一瞬で燃えつきるほどの威力を持った術を当てたな。あと、消えた瞬間のデモルトのホッとしたような顔を見て少しだけ申し訳なくなった。
「それじゃ、そろそろ行くか」
「……はぁ」
立ち上がりながらサイに提案するが彼女はため息を吐くだけで動こうとしなかった。どうしたのだろうと首を傾げるが今後の展開がふと頭に浮かび納得してしまう。
「は、八幡君、サイちゃん」
不意に声をかけられ、そちらに視線を送るとどこか緊張した様子の大海とその隣で腕を組んでいるティオがいた。
「え、えっと……清麿君が呼んでたよ。サイちゃんにお願いがあるんだって」
ちらちらと俺の方を見ながらサイに伝える大海。なんで、こっち見んだよ。え、邪魔ってこと? いや、待て、この状況でそれはさすがにないか。危ない、いつもの癖でそっとこの場から離れるところだった。
「……仕方ないか」
明らかに乗り気じゃないサイは面倒臭そうに立ち上がって高嶺たちの方へ向かう。そんな彼女の様子を見て大海とティオは俺を見た。俺もよくわかっていないので肩を竦めてサイの後を追いかける。
それから高嶺の頼みを聞いたサイの案内でブラゴたちのところへ向かうことになったのだが、やはり案内役の彼女はさほど気乗りしていないご様子。あの時も逃げるように高嶺たちから離れたし、ブラゴという魔物と知り合いなのだろうか。
そう思って道中さりげなく聞いてみたが見事にはぐらかさせるパートナーがここに1人。やっと二人一緒に戦う方法を見つけたのに
「ウヌ、清麿、あそこなのだ!」
そんなことを考えながらサイと並んで一番後ろを歩いているとガッシュが何かを見つけたらしい。視線を前に戻すとそこには一台のヘリコプター。そういえばさっきからバタバタとうるさかったがヘリコプターの羽音だったらしい。あんなに大きな音に気付かないとかしっかりしろよ、俺。疲れてんのかな、疲れてるよな。だって、目が覚めてからまだ1時間ぐらいしか経ってないし。ホテルに戻ったら早く寝よう。
「あ、ブラゴだ!」
「ほ、ほんとに来てたんだ……」
高嶺と見覚えのない女性――おそらく、ブラゴのパートナーであるシェリーの会話を聞きながらホテルのベッドの柔らかさを思い出していると不意にキャンチョメの悲鳴が聞こえた。彼らの視線の先にはヘリコプターに乗っている上半身裸の男。組んでいる腕には包帯が巻いており、体もボロボロだ。そして、その隣にはロープでぐるぐる巻きにされている魔物がいる。状況的に上半身裸の方がブラゴで、彼の隣で震えているのがゾフィスなのだろう。
ここに来るまでにティオたちにいかにブラゴが怖い奴なのか教えられたが、確かに街で見かけたら思わず悲鳴をあげてしまいそうになる顔だ。俺なら目が合った瞬間に財布を差し出すレベル。
「……」
その時、唐突にヘリコプターに乗っていたブラゴが俺を――いや、俺の後ろに隠れているサイを見て僅かに目を見開いた。それに対し、サイはそっぽを向いてブラゴを見ないようにしている。その姿はまさに会いたくない人を見かけて通り過ぎるのを待つぼっちそのものだ。
「……」
しかし、サイの願いは叶わず、ブラゴはおもむろに立ち上がり、ヘリコプターから降りてしまう。まさか彼が動き出すとは思っていなかったようで高嶺たちはもちろん、パートナーであるシェリーらしき女性も目を見開いていた。そんな彼らを素通りしてどんどん俺たちの方へ向かって来るブラゴ。な、なんだよ、なんか用かよ。こえぇよ。
「おい」
「……何?」
ブラゴに声をかけられ、観念したのか俺の後ろから顔を出したサイ。いや、そこは体ごと出て来いよ。2人に挟まれている俺の気持ちにもなって。高嶺たちもこちらを固唾を呑んで見ている。見てないで助けてください。
「お前――」
「……」
「――あいつの妹か?」
「…………うん、そう。私の名前はマイ。お姉ちゃんからあなたのことは聞いてたよ」
いやいやいや、なにナチュラルに嘘吐いちゃってるのこの子!? 誰だよ、マイって。初めて聞いた名前だぞ。それにお前、自分の誕生日や年齢さえわかってないのに姉がいるとかさすがに無理があるわ。
「あいつもこの戦いに参加しているのか?」
「ううん、私だけ」
「……まぁ、いい。魔界に帰った時にでも伝えておけ。
言いたいことを言い終えたのかブラゴはそのままヘリコプターへと戻っていった。そんな彼を見てハッと我に返ったシェリーも高嶺たちに別れを告げてヘリコプターに乗り込み、空へと飛び立つ。それを手を振って見送る高嶺たちだったが、ヘリコプターが見えなくなった途端、こちらへと駆け寄ってきた。
「サイ、さっきのはどういうことだ!?」
「……私はマイだよ。サイは私のお姉ちゃん」
「アンタにお姉ちゃんがいたなんて聞いたことないわよ! そもそもマイって何よ! 完全に偽名じゃない!」
「マイ、よくわかんなーい」
高嶺とティオの追究をのらりくらりとはぐらかす自称マイ。それにしたってティオたちがあれだけ恐れていたブラゴ本人から『借りを返す』発言とか何やらかしたんだこの子。
「八幡君も知らないの?」
「……ああ」
逃げるサイとそれを追いかけるティオを見ているといつの間にか隣に立っていた大海に問われ、首を振る。今までの反応といい、ブラゴに嘘を吐いたことといい……確実にサイは過去にブラゴと出会い、何かがあった。気にならないと言えば嘘になる。だが、闇雲に問い質してもサイは口を割らない。もう少し様子をみるか。
「ふふっ……さてと。みんな、ありがとう。千年前の魔物を代表してお礼を言うわ」
追いかけっこをする2人を見て笑っていたレイラが唐突に感謝の言葉を口にした。そんな彼女の雰囲気にサイたちも足を止め、全員の視線が彼女に集まる。
「あなたたちは私たちみんなを助けてくれた。それで、最後にお願いがあるの……」
そこで言葉を噤んでしまうレイラ。顔色もどこか悪く、チラリとパートナーであるアルベールの方を見た。
「……ああ、オレからも、頼む」
パートナーの視線を受けて彼はそっと俺たちに青紫色の魔本を差し出した。それだけで彼らの頼みを理解した高嶺が息を呑んだ。
「私の本を燃やして。それが私の最後の願いよ」
今週の一言二言
・昨日、遊戯王の大会に行きました。初めての参加だったのでドキドキしましたが、楽しかったです。私のサイレントマジシャンデッキもそこそこ通用するみたいで嬉しかったです。