やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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第7章 ~ファウード編~
LEVEL.166 どうにか、彼らの日常は再開される


「……」

 深い海の底から強引に引っ張り上げられるような感覚に陥り、自分の意志とは裏腹に目を開けてしまう。しかし、起きたばかりだからか物を認識できないほど視界はぼやけていた。

「……んあ」

 パチパチと何度か瞬きをしてやっと目に映っているのが自室の天井だとわかり、間抜けな声を漏らしてしまう。そして、その声に返事をするように俺の右腕を掴む手に力が込められた。ぼーっとしたまま顔をそちらへ向けると幸せそうな顔ですやすやと眠っている群青の妖精さんが1人。

「……あー」

 未だ働かない頭をガシガシと掻いてここ数日のことを思い返す。確か土曜日に帰ってきたのはいいものの次の日の日曜日に高熱を出して昨日まで寝込んでいた、ような気がする。正直、熱のせいで意識は朦朧としており、ほとんど記憶に残っていなかった。

「ふわぁ……おはよー、ハチマン」

「お? おー、おはよう」

 ぐだぐだと記憶を掘り返しているとサイも目を覚ましたようで体を起こした後、伸びをする。俺も彼女の後を追うように上体を起こした。チラリと壁に掛けられた時計を見ればすでに6時過ぎ。夏休みからほぼ毎日続けていたサイとの早朝マラソンはお預けのようである。まぁ、病み上がりの身であるため、ドクターストップ改め、サイストップがかかると思うが。

「ちょっとごめんね」

「へ?」

 不意に両頬を小さな手で押さえられ、ぐいっと強制的に首を回される。そのままサイの可愛らしい顔が近づき、コツンと俺の額に自分の額を当てた。

「んー、熱は下がったみたい。気持ち悪いとか体がだるいとかある?」

「いや……特には」

「なら、もう大丈夫だね」

 ホッと安堵のため息を吐いたサイは俺の顔から手を離してベッドから降りてしまう。そして、閉め切っていたカーテンを開き、窓を開けた。2月もすでに後半だがまだ気温は低く、冷たい風が部屋の中へ吹き込む。その冷たさに思わず体を震わせた。

「ハチマン、今日が何の日か……そもそも今日が何日かわかる?」

「え? あー……2月21日だったか。それがどうし――」

 言葉の途中で答えを見つけ、口を噤んでしまう。そうだ、今日は2月21日、火曜日。俺に……いや、“小町”にとってとても大切な日。

「うん、思い出してくれてよかった。それじゃ、一緒に降りよっか。きっと、コマチも不安だと思うからハチマンが元気になった姿を見せて少しでも気持ちを紛らわせなきゃ」

「……ああ、そうだな」

 今日はアメリカから帰って来て初めての登校。そして――小町の合格発表の日だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰って来てからも熱のせいで碌に会話できなかった小町と会話を交えながら朝食を取り、俺だけ一足先に学校へ向かった。小町の合格発表は丁度2時限目が終わった頃だ。サイも小町と一緒に合格発表を見に来ると言っていたし、連絡もくれることになっている。

 でも、やはり気になってしまうのがお兄ちゃん。特に小町の受験が終わってすぐにアメリカに飛んでしまったので手ごたえとかその辺の情報が全くない状況である。今朝の小町の様子を見るに絶望的ではないようだが。

 そんなこんなで約1週間ぶりの登校はあまり心臓によろしくないものになってしまった。ずっと寝込んでいたせいで自転車のペダルを漕ぐ足も重たく感じる。

「比企谷」

 えっちらおっちらと必死に自転車を転がして学校に到着し、欠伸をしながら廊下を歩いていると不意に後ろから声をかけられる。振り返ると平塚先生が『よっ』と言わんばかりに右手を挙げていた。逃げる理由もないので軽く会釈をしてその場で立ち止まる。

「おはよう、比企谷……何故か1週間ほど顔を見ていないだけで久しぶりに感じてしまうな」

「……そうっすか」

 俺の顔を見ながら笑う平塚先生の言葉に何となく顔を背けてしまう。夏休みとか冬休みとかもっと長い期間、顔を合わせないことだってある。そのはずなのに俺も先生と同じような感想を持っていた。それだけあの戦いが濃密で、激しかったということなのだろう。だって、死にかけたし。血まで吐いて、『どこの少年漫画だよ』と我ながら呆れてしまう。

「それで? 体調の方は大丈夫なのかね? 昨日まで寝込んでいたのだろう?」

「ええ、まぁ……熱も下がりましたし、サイもゴーサイン出しましたし」

「……何故、女児の診察結果を何の疑いもなく信じているのかわからないが顔色もいいから大丈夫なのだろう。無事に帰って来てくれてよかった」

 呆れながら腕を組んだ彼女は安心したように頬を緩める。一応、平塚先生にはアメリカに行くから数日ほど学校を休むと伝えてあった。俺が体調を崩した原因がそのアメリカ旅行だと気付いてもおかしくはない。

「無事って……ただの旅行ですよ? そんな心配しなくても」

「あんな真剣な顔で数日サボると言われれば誰だって事情があることぐらいわかる。雪ノ下も由比ヶ浜もお前が旅行に行っている間、どこか不安そうにしていたからな」

「……」

「別にその事情を話せとは言わない。こうやって元気な姿を見せてくれたからな……それに、どこか雰囲気が違う」

「雰囲気、ですか?」

 その言葉に首を傾げてしまう。感情や嘘、空気に敏感なサイでさえ何も言っていなかったのだ。にわかには信じがたい。

「旅行に行く前のお前はどこか悩んでいるようだったからな。上手くやったようで安心したよ。相変わらず目は腐っているが……良い目をしている」

「……それ、矛盾してませんか?」

「はは、そうだろうな」

 俺の指摘に平塚先生はニヒルな笑みを浮かべた。しかし、その笑みにはどこか憂い色が見える。面倒見のいい先生のことだ、自分の知らないところで問題を解決したことに寂しさを感じているのかもしれない。

(いや、これは……)

「平塚先生」

「ん? なんだね?」

「何かありましたか?」

「っ……急にどうしたのかね。比企谷が人の心配をするなんて珍しい」

 その問いに彼女は一瞬だけ目を見開いたがすぐにいつも通りの笑顔に戻った。やはり、何かあったようだ。だが、一般生徒には話せない内容なのか、それとも話したくないのか。それはわからないが話すつもりはないらしい。ここで無理に問い質してもあまりいい結果にはならなそうだ。

「いえ、何でもないです。じゃあ、そろそろ教室に行くんで」

「あ、ああ……久しぶりの授業だからって居眠りするんじゃないぞ。それと雪ノ下と由比ヶ浜に元気な姿を見せてやれ」

「……うっす」

 白衣を翻して廊下を歩く平塚先生の背中を見送り、俺も急いで教室へと向かう。

 平塚先生との会話が思いの外長かったのか廊下を歩いている生徒は少ない。さすがに遅刻はしないだろうけどあまりのんびりしている暇もないようだ。少しだけ歩く速度を上げ、ポケットに突っ込んで来た携帯を手に取り、時刻を確認――しようとして全く反応がなく、思わず足を止めてしまう。

 そう言えば家に帰って来てすぐに熱を出してしまったので携帯を充電することをすっかり忘れていた。この数日、一切使っていなかったがさすがに一度も充電しなければバッテリー切れを起こすに決まっている。

 普段であれば一日ぐらい……というより普段からあまり使わない携帯だが、今日ばかりは事情が違う。小町、もしくはサイから小町の合格発表の結果が送られてくるのだ。さすがに放課後まで合格発表を気にするのは心臓に悪すぎる。だが、学校のコンセントを拝借すればそれは立派な盗電であり、その前に俺の席の近くにコンセントがない。てか、そもそも充電器すら持って来ていない。完全に詰みである。

「ヒッキー!」

「ッ――」

 あまりに無慈悲な現実に頭を抱えていると再び背後から俺を呼ぶ声。その声音と不本意なニックネームを耳にして1つの妙案を思い付いた。きっと、彼女なら持っているに違いない。

「よかった、ヒッキー、無事に――」

「――由比ヶ浜、充電器貸してくれ」

「へ? じゅ、充電器?」

 駆け寄ってきた彼女を拝むように両手を合わせて懇願する。唐突なお願いに1週間ぶりに会った由比ヶ浜はキョトンとした表情を浮かべた。




さて、とうとうファウード編が始まりましたが、まずはお詫びすることが二つございます。


1つがカレンダーの矛盾です。


俺ガイル原作を読み返し、スケジュールを設定しようとしましたが……色々な矛盾が発生した。もうリカバリーすら不可能レベルです。クリスマス編で金曜日がクリスマスイブと決めた時点で終わっていたようです。
原作では小町の受験日=バレンタインデーと設定されていました。それを踏まえ、他のスケジュールをまとめますと

・バレンタインデーの前日、八幡たちは登校しているので平日
・小町の受験、まさかの2日連続(14日、15日)
・入試による休みが3日
→つまり、14日、15日、16日が休みであり、高校は17日から再開。


では、金曜日がクリスマスと設定した上で該当するカレンダーから推測される2月中旬のとある日の曜日を書き起こします。


・2月13日、日曜日


はい、矛盾発生。証明終了です。



そのほかにもいろいろ矛盾点はございますがこの時点で修正不可能なので放っておきます。

もう、これに関してはどうすることもできないので申し訳ありませんが2月13日は月曜日として、14日(火)、15日(水)とさせていただきます。
これにより千年前の魔物編の具体的なスケジュールは

2月15日(水)→アメリカへ出発
2月16日(木)→アジト突入
2月17日(金)→アジト再突入
2月18日(土)→日本帰国
2月19日(日)→ぼーなすとらっく3
2月20日(月)→八幡寝込む
2月21日(火)→小町の合格発表


という形とさせていただきます。
そもそも小町の受験2日って11巻の時点で書いて欲しかった……書いてなかったよね? 12巻読んだ瞬間、『マジかぁ』とうなだれた記憶がございます。






そして、2つめのお詫びが……そもそも俺ガイル12巻の内容が破綻した件です。


13巻、14巻がまだ発売されていませんので確信はございませんがいろはがプロムを開こうとした理由はおそらく奉仕部のため……八幡が本物を欲しいと言った時に盗み聞きしていたからだと思います。具体的な理由はわかりませんが原因はそこでしょう。



……うん、いろは盗み聞きしてないね。そもそも奉仕部の部室じゃなくて八幡とサイの修行場だし、八幡じゃなくて雪乃が本物って言っちゃったし。


そのため、いろはがプロムを開くフラグが折れていまして……ファウード編の俺ガイルサイドのお話は完全オリジナルな上、ほとんどないかもしれません。



カレンダーの件や原作破綻の件、申し訳ありません。
これからも『俺ガッシュ』をよろしくお願いします。









今週の一言二言


・ポケモンクエストなるものを始めました。

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