やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.170 彼女は結局のところ独り相撲をしているだけである

「一番気になってたことなのだけど、相模さんは……その戦いに巻き込まれてしまったのかしら?」

 あれから休憩を挟みながら千年前の魔物たちとの戦いについて話したが結局、最後の最後で雪ノ下に相模について質問されてしまった。サイの巧みな話術も彼女には通用しなかったらしい。なお、由比ヶ浜は完全に相模のことを忘れていた模様。雪ノ下が質問した後、『あ、そういえば!』みたいな顔していたし。

「うーん、わたしたちは皆と途中で別行動(・・・・・・)取ってたから。他の皆もゾフィスの罠でバラバラにされちゃったみたいで……とにかくサガミについて誰も言ってなかったよ」

 そんな彼女の言葉に俺は思わず顔を引き攣らせてしまう。

 俺が『サジオ』のデメリットにより倒れたせいで他の奴らと別行動を取った(リタイアした)のも、ゾフィスの罠で高嶺たちがバラバラになったのも、相模について誰も言っていなかったのも事実。ただ、相模と戦ったことを言わなかっただけ。嘘は言っていない。やだ、この子すごく怖い。

「……つまり、相模さんについてはわからない、と?」

「少なくとも私には関係ない(・・・・)話だよ」

 そう言ってサイは不機嫌そうにポスン、と俺の胸に背中を預けた。そんな彼女を見て目を合わせた雪ノ下と由比ヶ浜はこれ以上相模について聞くことを止める。まぁ、サイが相模嫌いなのは2人も知っていたし、触れない方がいいと判断したのだろう。とりあえず、これで俺たちの目的は達成された。その代わり、失った物もあったが。おかしいなぁ、“千年前の魔物をどうにかするために頑張る冒険譚”がいつの間にか“仲間の女の子といちゃいちゃしていた男の話”になってたなぁ。サイもサイで話しながら恨めしそうにこっちを見ないでほしい。

「あ、そうだ!」

 サイから受け取ったクッキーをポリポリかじりながら物思いにふけていると不意にサイが俺の膝の上から飛び降り、後片付けを始めた。チラリと時計を見てもまだ帰り支度をするには早い。

「ん? ああ、ごめんね。そろそろパーティーの準備しなきゃならなくて。明日は最後までいるから。それじゃ、また明日ね!」

 いきなりの出来事に目をぱちくりさせる俺たちに気付いたサイはクッキーが入っていた袋を持って早口で説明する。よっぽど焦っていたのか俺たちが何か言う前に彼女は部室を出て行ってしまった。

 シン、と静まり返る部室内で俺たちは顔を見合わせ、呆れ半分拍子抜け半分な笑みを浮かべ合う。

 数日ぶりの……それでいて懸念事項が何もない伸び伸びとした部活は久しぶりだったので普段以上にテンションが高かったサイ。きっと、雪ノ下も由比ヶ浜もそれには気付いていた。サイが話している間、彼女たちはずっと微笑ましそうにサイのことを見ていたのだから。

「……今日はここまでにしましょうか」

 帰り支度をするには早いと言っても解散する時間まで1時間もない。どうせ今日も依頼者は来ないだろう。雪ノ下の言葉に素直に従い、俺たちも帰る準備を始める。いつもより早めに片づけ始めたからか適当な話をしながら作業していたせいで終わるのに30分もかかってしまった。

「では、鍵を返して来るわ。また明日」

「おう」

 きちんと施錠したことを確認した雪ノ下は珍しく優しげに微笑みながら挨拶してこちらに背中を向けた。サイだけではなく、彼女もそれなりにご機嫌だったらしい。まぁ、あれだけ頑張って立て直した部活がやっと“普段通りに”できるようになったのだ。氷の女王である雪ノ下でさえ頬が緩んでしまうのも仕方ないのかもしれない。

 さて、俺も帰るか。サイの話じゃ小町は眠っているみたいだし、急いで帰ってもあまり意味はないはず。なら、少しだけ寄り道して小町へのプレゼントでも吟味しようか。

「ね、ねぇ!」

 俺もその場から離れようとした時、突然由比ヶ浜が俺たちを呼び止める。俺はもちろんすでに歩き始めていた雪ノ下も足を止め、振り返った。

「あ、あのさ……一緒に帰らない? こうやって集まるの、久しぶりだしさ」

 由比ヶ浜の提案に思わず俺と雪ノ下は目を合わせてしまう。正直、面倒である。一緒に帰るということは自転車を押して帰らなくちゃならないし。いや、小町のプレゼントを一緒に選んでもらうっていうのもありか。でもなぁ、雪ノ下はプレゼント選びの才能は皆無だったし、由比ヶ浜が一緒なら絶対に長くなる。

 それにあの雪ノ下雪乃が乗ってくるとは思えない。由比ヶ浜だけならともかく俺がいるなら――。

「……そうね、たまにはいいかもしれないわね」

 ――あれれぇ、おかしいぞぉ。どうして、雪ノ下さんも賛成しているんですかねぇ。その上、『あなたはどうするの?』みたいな感じでこっち見ないでくれませんか。由比ヶ浜も由比ヶ浜で期待する目で見てくるし。

「……はぁ、途中まで――」

「――ひ、比企谷!」

 ため息交じりに頷こうとした直後、背後から震えた絶叫が誰もいない廊下に響き渡った。咄嗟に振り返るとそこには青ざめた顔で俺のことを見ている相模の姿。彼女の足はガクガクと生まれたての小鹿のように震えており、見るからに無理をしていた。

「……」

 彼女を見て急激に心が冷えていくのを感じる。

 相模と会話はおろかこうやって目を合わせたのは文化祭の時以来だ。俺は元々人と関わるタイプではないが授業の一環で他のクラスメイトと作業する時は必要最低限の会話はする。だが、相模とペアになった時はお互いに目を合せないし、話もしない。黙々と作業をしてその授業をやり過ごしていた。

 そして、それを空気を読むのが上手い由比ヶ浜が知らないわけがなかった。相模とペアになった後、決まって『大変だったね』と眉を八の字にして労ってくれていたほどである。

 さて、そんな冷め切った関係のはずなのに俺に話しかけてきた相模を見て由比ヶ浜はどう思うだろうか。

 ああ、最悪だ。最悪のタイミングだ。あれだけわからないと説明した後で当の本人が訳あり顔で話しかけて来るなど、何かあった(・・・・・)と言っているようなもの。言い逃れはもちろん、誤魔化すことさえ許されない決定的な証拠。

「あ、そ、その……えっと」

「……悪い、先に帰っていてくれ」

「でも……」

 そんな俺の様子に気付くこともなく何か言いかける相模だったがチラチラと雪ノ下と由比ヶ浜を見ていた。つまり、そういうことなのだろう。仕方なく2人に先に帰るように言うと由比ヶ浜がすぐに食い下がろうとした。しかし、その直前で雪ノ下に肩を掴まれ、目を伏せる。俺と相模の関係を知っている由比ヶ浜だけでなく、雪ノ下も察しているのだろう。

「それじゃ、比企谷君、また明日」

「ヒッキー、また明日ね」

「……ああ」

 二度目となる挨拶はお互いに浮かない表情で行われた。そりゃそうだ、俺とサイは話すと言っておきながら肝心なことは何も話していないのだから。彼女たちが知りたかったことを知っておきながら教えなかったのだから。

「……何の用だ」

「ッ……あ、のことについてなんだけど」

 2人を見送り、後ろにいる相模へと視線を向ける。俺の目の腐り具合に驚いたのか、彼女はビクッと肩を震わせた。だが、恐怖よりも勇気が勝ったのかすぐに本題に入る。幸い、ここは普段から人が寄り付かないような場所だ。雪ノ下たちも素直に帰ったようだし、場所を変えなくてもいいだろう。

「別に気にしなくてもいいだろ。お前は巻き込まれただけだ」

「それも、あるけど……ウチが言ってるのは文化祭の話、なんだけど」

「……は?」

 あまりに意外な言葉が出てきたので間抜けな声を漏らしてしまう。今更、文化祭の話を掘り返すとか意味がわからない。

 彼女の考えが読めず、眉を顰めていると相模は自分の体を抱きしめるように右手で左腕を掴み俺から視線を外した。

「……ごめんなさい」

 しかし、居心地悪そうにしていたのも束の間、いきなり頭を下げて謝罪する相模。脈絡のない謝罪に俺はただ困惑するばかり。話がしたいのなら順を追って話せよ、意味がわからなすぎて引くレベル。本当に、何がしたいんだこいつ。

「意味がわからん」

「あ、ごめっ……その、文化祭の時、ウチ、勘違いしちゃって酷いこと言っちゃったから」

「……それだけ?」

「あ、あと! 色々、噂が流しちゃったし……魔物、だっけ? あれでも――」

「――ふざけんな」

 自分でも驚くほど低い声が出た。そんなことを言うためにこんな時間まで待っていたのか? もし、そうなら謝罪という名の嫌がらせである。ふつふつと湧き上がる怒りを気合いで押し殺し、相模に背中を向けた。これ以上、奴の顔を見ていたら殴ってしまいそうになるから。

「……え?」

「そんなことを言うために引き止めたのか? なら、気にすんな。お前の勘違いも、噂も俺たちには関係なかったから」

「で、でも……」

「当事者である俺が気にするなって言ってんだ。お前が気にしたところで意味はない」

 必死に怒りを抑えているが言葉の端々が鋭くなってしまう。だって、そうだろう? こんなくだらないことのためにサイの努力は全て無駄になってしまったのだから。

「そう、だけど」

「だけど……なんだ?」

「……あの時――あの群青色の光を見て気付いたの! ウチが間違ってたって! 全部ウチが悪いって! だから!」

「その苦しさから逃れるために謝罪した。運が良ければ許してくれるかもしれないし、許してくれなくても『反省してるウチ、マジえらい』と自分に酔えるからか?」

「ッ……そういうつもり、じゃ」

 俺の言葉に相模は半歩だけ後ずさりながら何度も首を横に振る。確かに彼女は自分の過ちに気付いたのかもしれない。

 だが、そもそも俺とサイはその過ちを認識していない。勘違い女が勝手に喚いて、勝手に噂を流して、勝手に巻き込まれて、勝手に気付いて、勝手に謝っているに過ぎない。

 そう、俺たちに彼女の言動全てが無関係。サイが雪ノ下に言ったように“関係ない”。ただそれだけが事実である。

「お前の自己満足に俺たちを巻き込むんじゃねーよ……だいたい」

 いつの間にか抑えていたはずの怒りに身を任せ、相模に文句を言おうとしたがタイミングが良いのか悪いのか。ズボンのポケットに突っ込んでいた携帯電話が着信を知らせた。きっと、サイからの電話だ。おおよそ早く帰って来いという催促電話だろう。

「……とにかく、お前は謝らなくていい。お前のして来たことは俺たちには全く関係ないことだったから」

「ぁ……ま、待っ――」

 声を震わせて俺を呼び止める相模に背中を向けて携帯電話を取り出す。相手もわかっているので画面を見ずに通話ボタンを押した。電話が繋がる直前、少し離れたところで誰かが膝から崩れ落ちるような音が耳に滑り混んで来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふーん」

 コマチの合格に久しぶりの部活。今日はとてもいい日だ。だからだろう、私はお玉で鍋を混ぜながら鼻歌を歌っていた。ハチマンも元気みたいだし、明日からの特訓も楽しみだ。

(それにしてもハチマン、遅いなぁ)

 普段通りに部活を終えたと仮定してもとっくの昔に帰って来ているはずである。ハチマンなら寄り道もせずに真っ直ぐ帰って来るだろうし、何かあったのだろうか。

「えっと、携帯携帯」

 やっと料理もひと段落したので鍋の火を止め、携帯を探す。今日は気合いを入れて作ったので思いの外時間がかかってしまい、今の今まで手が離せなかった(・・・・・・・・)のである。

「……ただいま」

 キョロキョロと居間を見渡してテーブルの上に鎮座していた携帯を見つけ、それに手を伸ばした時、玄関からハチマンの声が聞こえた。よかった、事故とかじゃなかったみたい。伸ばしかけた手を引っ込め、エプロンを外した私は急いでハチマンの元へ向かう。

「おかえり! 遅かったね、何かあったの?」

「……」

「……ハチマン?」

「いや……なんでも――あー、うん。あった」

 帰ってきたハチマンはどこか浮かない表情をしており、いつも以上に目が腐っていた。話すようなことではなかったのか最初は首を横に振ったが何かを思い出したようでため息交じりに頷く。やはり、何かあったらしい。この顔で何もなかったと言われても信じることなどできなかっただろう。

「何があったの?」

「……部活終わりに雪ノ下たちの前で相模に声をかけられた」

「なッ……」

「着替えて来る。後で詳しい話するから飯の準備、頼むわ……色々あって腹減った」

 目を丸くして驚いている私の頭をポンポンと撫でた彼はよろよろと自分の部屋へと向かう。正気に戻って振り返った時にはすでにハチマンの姿はなかった。

(サガミが声を? しかも、2人の前で?)

「……最悪。ホント、最悪!」

 思わずその場で力任せに右足を床に叩きつけそうになったが私の脚力でそれをしてしまっては床など一瞬で穴が開く。仕方なく、頭を掻き毟りながら悪態を吐いた。




これでやっと相模さんの役目が終わりました。
……あれ、この子、余計なことしかしてない。



なお、来週は諸事情により投稿は延期させていただきます。
次回の投稿は8月12日です。








今週の一言二言



・FGOAC稼働しましたね!一応、4回ほどやって来ました。『もうひとつの結末』が出たので満足です。一生の宝物にします。



・FGOでも3周年キャンペーンが発表されたりと大賑わいですね。スカサハ当てたくて回しましたが見事爆死しました。なんで、ジャンヌ来るん? 初めてのルーラーだったけどこのタイミングだと落胆の方が大きいよ。



・fate/EXTRAのアニメも再開されますね!楽しみです!
なお、一番くじでE賞のシークレットは当たってない模様。その代わり、A賞をまた当てて今、セイバーフィギュアが家に3つあります。ちゃうねん、そっちはもうええねん。

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