やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.172 大海恵は思っている以上に影響力があること知らない

「……あー」

 土曜日の朝、体にかかる“負荷”で目を覚ました俺は擦れた声を漏らした。やばい、めちゃくちゃ体が重い。熱はないみたいだがとにかくダルいのである。何もしたくねぇ。このままずっとベッドの上で過ごそうかな。

「……ハチマン? 大丈夫?」

 動く気になれず、天井を見上げていると不意にサイが俺の顔を覗き込む。起きた時は隣にいなかったのでぼーっとしている間に部屋に入ってきたのだろう。

「おー……」

「うん、絶対大丈夫じゃないでしょ。だから、無茶だって言ったのに」

 ため息を吐いた彼女は俺に向けて放っていた魔力を止めた。すると、負荷が嘘のように消え、のそのそと体を起こす。そして、ジト目で俺を見ているサイからそっと目を逸らした。

「おはよ、ハチマン。気分はどう?」

「お、おはよ……まぁ、ぼちぼち」

「さっきまで死に体だったのに何言ってるんだか……朝ごはんできてるよ。早く降りて来てね」

 もう一度、深々とため息を吐き、部屋を出ていくサイ。シンと静まり返る部屋の中、何となく頭を掻いた後、ベッドから降りて箪笥から部屋着を取り出した。

 一昨日の夜、訓練を終えた俺はサイに『負の感情が乗った魔力に慣れる』訓練がしたいと告げた結果、彼女も思うところがあったのか渋々了承。早速、昨日からサイに『負の感情が乗った魔力』を俺に放ってもらった。

 その結果、見事に撃沈。少しでも早く魔力に慣れるために朝から気配分散を使って傍にいてもらったが体は重いし、意識は朦朧とするし、そのせいで授業に集中できずに平塚先生に怒られるし、雪ノ下と由比ヶ浜には心配されるし。正直、散々な目に遭った。

 だが、そんな弱音を吐いている場合ではないのも事実。『サジオ』があるとはいえ、不意を突かれた時に速攻で俺が倒れてしまっては意味がない。なので、情けない話だが昨日の夜にもう少し加減して欲しいとお願いしたのだが。

『……ごめん。あれで一番抑えてるの。これ以上、手加減できない』

 そう、申し訳なさそうに言われてしまった。検証したわけではないが負荷の大きさは魔力の量と感情の強さに比例する。認めたくはないがサイは想像できないほど巨大な闇を抱えているため、魔力の量を調節したところで総合的に俺にかかる負荷が大きくなってしまうのだろう。

 例えるならレベルMAXの勇者がレベル1のザコ敵へ攻撃し、無傷で終わらせろと言っているようなものだ。どんなに手加減しても勇者の素のステータスが高すぎるあまり、ザコ敵は一撃で沈んでしまう。

 念のためにもう一度試したいと頼み込んで今朝も負の感情が乗った魔力を放ってもらったが結果はご覧の有様である。このままでは碌に訓練もできずに魔物と戦う羽目になってしまう。どうにかしなければ――。

「ハチマン!」

「うおっ……」

 欠伸を噛み殺しながら着替えている途中、リビングで待っているはずだったサイが部屋に飛び込んできてビクッと肩を震わせてしまう。ほとんど着替え終わっていたからよかったものの全裸だったどうするんだよ。さすがに朝の着替えで全裸になることはないけど。

「買い物! 買い物、行こっ!」

「……はぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わってモチノキ町。高嶺とガッシュが住んでいる町である。この町に来るのは正月休み明けに高嶺の家で作戦会議を開いた時以来だ。サイはガッシュの家に遊びにちょくちょく来ているので道を覚えているのか彼女の案内に従って目的地に向かう。

「それにしてもサンビームさん、わざわざこっちに引っ越して来るのか」

 千年前の魔物たちとの戦いの途中で合流したウマゴンのパートナー、カフカ・サンビーム。確か、彼は車を作る技術を学ぶため、そして、車の走っていない国にその技術を教えるため、日本に来ている技師だったはず。仕事があるのにそんな簡単に引っ越ししてもいいのだろうか。

「うん、なんかキヨマロの家からすごく近いんだって。ほら、ウマゴンって馬だから飼えるアパートがなくて」

「……あー」

 そうだ、魔物だから忘れていたがウマゴンは馬だ。ペット飼育可能なアパートでもさすがに馬は飼えないだろう。

「それで今日、引っ越して来るから引っ越し祝いを買おうってガッシュから連絡が来て」

 俺の手を引いて前を歩くサイがチラッとこちらを振り返り、照れ臭そうに笑った。俺が倒れたりして日本に帰って来てから一度も仲間に会っていないので嬉しいのだろう。小町のプレゼントを選ぼうと思っていたし、俺も丁度よかった。さて、プレゼントはどんなのがいいかな。予算もそれなりにあるし、サンビームさんには申し訳ないが引っ越し祝いはパパッと決めて小町へのプレゼントを選ぼう。

「ここだよ、モチノキデパート」

 プレゼントを選ぶ才能がないながらも頭の中でプレゼント候補を思い浮かべていると目的地に到着した。そのまま2人でデパートの中に入り、待ち合わせ場所へ向かう。

「あ、いたいた。おーい、ガッシュ、キヨマロ」

「サイ、八幡!」

 いち早くサイがガッシュたちを見つけ、駆けていく。俺も彼女の後を追って高嶺たちと合流するが初めて見るショートヘアにカチューシャを付けている女の子がいた。え、誰? 知らない人がいるとか聞いてない。向こうも俺の顔を見て『ひっ』って悲鳴上げたし。

「あ、そうだ。水野、紹介するよ。この人はサイの保護者の比企谷 八幡さん。そして、こっちは俺のクラスメイトの水野 鈴芽」

 どうすればいいかわからずお互いに硬直していると俺たちの様子に気付いた高嶺がフォローに入ってくれた。謎の女の子改め、水野は慌てた様子で頭を下げたのでこちらも軽く会釈する。サイのことを紹介しなかったということはサイと水野は会ったことがあるのだろう。

「それじゃ、サイたちも来たしそろそろ行こうか」

「あ、もう少し待ってくれぬかのう」

「おーい、ガッシュー!」

 その声に振り返ると手を振っているティオと相変わらず軽い変装しかしていない大海がいた。あれ、あの戦いに参加するために仕事を休んでいたから今、めちゃくちゃ忙しいって言っていたのに。

「久しぶり、清麿!」

「ティオ!? 恵さんまで!?」

 高嶺も大海の事情を知っていたのか目を丸くして驚いていた。首を傾げながら2人を見ていると俺に気付いた大海がパタパタと駆け寄って来る。

「八幡君、こんにちは。体の調子はどう?」

「お、おう……まぁ、何とか」

「そっか。完治したって聞いたけどやっぱり心配で――」

「――あ、あの。えっと……ティオちゃんの、保護者さんの、恵さんって……」

「え? あ、うん。初めまして。大海 恵です」

 本当に心配してくれていたのかホッと安堵のため息を吐いた大海に水野がガタガタと震えながら話しかけた。そりゃアイドルだもんな。いきなり目の前に現れて今から一緒に行動するってなったら混乱するよな。今じゃ普通に話せるようになったがあの小町でも最初は状況が飲み込めなくて上手く話せていなかったし。水野のあの混乱っぷりから察するに彼女も大海のファンなのだろう。

「ッ――あ、あの……これ、これ」

「あ、私のブロマイド。嬉しいわ、持ってくれてるのね?」

 名前を聞いても現実だと認めたくなかったのか鞄から1枚のカードのような物を取り出して大海に見せる水野。それを見て嬉しそうに笑う大海だったがもう少しファンの心臓のことも考えてあげて欲しい。お前が思っている以上に心臓に悪いらしいぞ。ソースは小町。そんなのん気に自分のブロマイド見てないでフォローしてあげて。

「ガッシュが呼んだのか?」

「ウヌ、恵まで来てくれるとは思わなかったぞ」

「最近、頑張りすぎちゃったみたいでポッカリと時間ができたの」

「頑張りすぎはよくないでしょ。ハチマンみたいに倒れないでね?」

 高嶺たちも水野の様子には気付いていないようで和気藹々と雑談していた。こうやって今大人気のアイドルと買い物に出かけているなんて普通じゃ考えられないことだ。その張本人がちょくちょく家に遊びに来ているせいで感覚が狂っていた。

「じゃあ、改めて行こうか」

「ぅ、うん、そ、そそそだね……」

 高嶺の言葉に頷く水野だったが未だに現実を直視できずにビビりまくっている。高嶺、友達ならもう少し気にしてあげろよ。可哀そうだよ、見ていられないよ。

「ほら、八幡君、置いて行かれちゃうわ」

「お、おう」

 フラフラと高嶺の後を付いていく水野を見ていると大海に手を掴まれ、引っ張られる。ちょっとそれは止めて。俺の心臓も持たないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなでサンビームさんへの引っ越し祝いと小町へのプレゼント(俺だけ)選びが始まった。

 




さすがにこの話を1話で終わらせるには勿体ないと思い、続くことになりました。



だって、原作で数少ない恵さんが登場する日常シーンですし……次話では大海さんの変化とかお見せできたらいいなと思います。











今週の一言二言



・FGOで10連しました。メイヴ出ました。いや、違うんですよ。欲しいのはBBなんですよ。お願いです、BBちゃんください。
……明日、ログインボーナスで30個来るのでそれが勝負ですね。祈ります。

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