やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
ですが、そのせいで他の感想を返せないのも申し訳ないので批判関係の感想は他の感想より遅れて返信することにしました。ご了承ください。
「オイオイ……もう夕方かよ」
モチノキ町のとある公園。平日ということもあり、人気のない中、1人の少年が肩を落として歩いていた。彼の名前はテッド。千年に一度行われる魔界の王を決める戦いに参加している魔物の一体である。
(働こうとしてもガキだからって断りやがる……力は人一倍あんだ、ナメてねーで使ってみろってんだ)
とある目的のために世界中をパートナーと共に旅をしている彼は今日の宿を確保するために今日一日、街中を歩き回っていた。
もちろん、今までの経験上、タダで泊まれるとは思っておらず、宿を取るための資金稼ぎをしようと仕事を探していた。しかし、どれだけ
(飯代もまたジードへのツケか……)
自分のことは自分でやる。それが彼のパートナー――ジードの方針だった。つまり、宿を確保できなければ野宿。お金を稼げなければジードへのツケとなる。見た目というハンデがあるテッドは簡単にお金を稼げるわけもなく、すでにツケは膨大に膨れ上がっていた。
(オレの全財産はガムが2個……むなしいな)
ジードの憎たらしい顔を思い浮かべながら手の中で転がしていた2個のガムを見てため息を吐く。心なしか、自慢の金髪リーゼントもくすんでいるように見えた。
「まぁ、いいや。とりあえず野宿するところを……」
気持ちを切り替えるために
「お?」
しかし、そんな中、テッドは茂みの奥に辛うじて建物と呼べそうな物を見つけた。茂みを掻き分け、自分の身長と同じぐらいの高さしかない何枚もの段ボールをテープで固定しただけの簡素なそれの前に立つ。カモフラージュのつもりなのか屋根の上には草が敷き詰められている。そのほとんどが周囲に生えている植物とは違うので逆に目立っているが。
(ラッキー! 段ボールもあるし、こいつは温けぇ寝床が作れそうだぜ!)
願ってもなかった雨風を凌げそうな寝床候補を見つけ、彼は目を輝かせる。寝床の大きさ的に体格のいいジードは入れない。まさにデッド専用の寝床。むしろ、設営の手間がかからない分、こちらの方が利便性は高い。これならば普段はテントに入っていくジードの背中を眺め、惨めな思いをしていたテッドだったが今日ばかりは立場が逆転するだろう。
そう思いながら嬉々として寝床の入り口である段ボールの板を持ち上げ――。
――バーコード頭のちょび髭と目が合った。
(……は?)
そのちょび髭はどこか高価そうなブローチが付いた黒いローブを着た子供であった。その子供もいきなり現れたテッドを見て目を見開いている。数秒ほど沈黙が流れ、すぐにちょび髭の子供がバーコード頭のカツラを外しながら叫んだ。
「お、お主なんなのだ!? ここは私の秘密基地だぞ!!」
「秘密……なんだ、遊びで居るならオレに譲りな、いいだろ?」
秘密基地がどういうものかよくわからなかったテッドだったが、子供の周囲に散乱している無数のカツラや彼が持っている簡素な玩具(のように見える物)を見てそう判断した。別にこの場所を一生譲ってもらうわけではない。今日一日、貸してもらうだけ。そのつもりで言ったつもりだった。
「ウヌウ、ダメなのだ! ここは私が作ったのだぞ! 公園でナオミちゃんから逃れるために必死で――」
しかし、テッドの事情を知らない子供――ガッシュ・ベルはちょび髭を外しながらテッドの言葉を拒否した。よく公園でナオミちゃんに虐められるガッシュにとってこの秘密基地は心を落ち着けて遊べるオアシス。そう簡単に譲れるものではなかった。
「――やかましい! オレはお前みたいに遊びじゃねんだよ! 今を生き抜くことで必死なんだ! わかったらどけぇ!」
だが、テッドもまたガッシュの事情を知らない。やっとの思いで見つけた寝床。なんとしてでも手に入れる。そんな思いが先行してしまい、自分の事情を説明することも忘れ、絶叫してしまった。その拍子に口の中にあったガムを吐き出してしまい、ガッシュが持っていた
「ヌァァアアアア、バルカンに何をするのだ! これは私の親友だぞ!」
左目をガムに浸食されているバルカン300を見てガッシュは悲鳴を上げた。バルカン300はガッシュのパートナーである高嶺清麿がお菓子の空き箱を利用して作った玩具。2人が出会って間もない頃に作ってくれた大切な玩具である。ガムを吐きかけられ、黙っていられるわけがなかった。
そんな気持ちが溢れたせいかガッシュは
「オォオオオオ!? 俺の
ガムを中心に結合してしまったリーゼントとバルカン300を見上げ、テッドはあまりのショックに後ずさって声を荒げる。毎朝時間をかけてセットしている自慢のリーゼント。それが事故とはいえ、
「てめぇ、もう許さねぇ、表出ろ!」
「ウヌウ、望むところなのだ! バルカンを侮辱した罪は重いのだ!」
ガムとバルカン300を慎重に剥がした後、テッドとガッシュは言い争いをしながら秘密基地を後にする。
そのまま人目のつかない場所に移動し、パートナーのいない魔物2人は対峙してすぐに
「オレのパンチをナメて、立っていられた奴はいねーぜ!」
「ウヌウ、お主のパンチなどバルカンの空気ミサイルの10分の1の威力もないのだ!」
叫びながら右腕を振るうテッドとそれを額で受け止めるガッシュ。ゴスッ、という鈍い音が響き渡り、その衝撃で砂埃が舞った。
(な、なんて、石頭だ!?)
(バルカンと……同じくらい強いかも、知れぬ)
テッドは渾身の一撃を受けて倒れないガッシュの頑丈さに、ガッシュはその拳の破壊力に目を丸くし、お互いに一歩だけ後退する。しかし、怯んだのは一瞬だけで間髪入れずにテッドがガッシュへ高速ジャブを放った。先ほどの右ストレートよりも威力は落ちるものの魔物の腕力で放たれた高速ジャブは人間が一撃でも受ければ悶絶するほどである。そんな拳が目にも止まらぬ速さで放たれるのだ、人間はもちろん魔物であっても躱すのは容易ではない。
「――ッ」
だが、千年前の魔物たちとの激闘を潜り抜け、たまに絶対的強者であるサイと組手をしているガッシュはテッドの拳を全て回避してしまう。そして、このまま接近された状態では危ないと判断し、慌ててテッドから距離を取った。
「なっ……」
普段なら離れようとする敵を追いかけ、
(こいつ……面倒だぞッ)
どこであの身のこなしを覚えたかは知らないがたった今覚えた既視感が勘違いでなければガッシュに攻撃を当てるのは至難の業。このまま喧嘩を続けるなら呪文が必要になるだろう。しかし、相手はただの子供。呪文を使うのは少しばかり気が引ける。
「て、てめぇ、いい気になるなよ! ちょっとついてこい!」
魔力の腕力を見せればビビッてすぐに負けを認めるだろう。そう考えたテッドは慌てて勝負の形式を変更することにした。
「うォおおおおおおおお!!」
公園を捜索した時に見つけていた自分の体より何倍も大きい岩まで駆け寄り、ガッシュがついてきていることを確認した後、それを持ち上げる。
(こ、これで――)
「ヌァあああああああ!」
「は!?」
予想以上に重かった岩に冷や汗を掻くテッドだったが勝ちを確信し、ガッシュを見た。だが、テッドに対抗してガッシュも近くの岩を持ち上げてしまう。しかも、彼が持ち上げた岩はテッドのそれよりも大きかった。
「フ、ハハハハ……てめぇ、なかなかやるじゃねぇか!」
「お、おおおお主もすごいではないか」
岩の重さに足をガクガクさせながらお互いを褒め合うテッドとガッシュ。しかし、ここで負けを認めるのはプライドが許さない。だからだろうか、テッドは無意識の内に見栄を口にしていた。
「う、運がよかったな! 本を、持ってるジード、さえいれば、呪文の力でオレの圧倒的な勝ちに――」
「――ウヌ!? 本!? お、お主、魔物なのか!?」
「な、てめぇ、魔物!? い、いや? そんなのオレは知ってたぜ? 会った時からなぁ!」
「ウ、ヌヌ……やはり、魔物。私は、わからなかった、のだ……」
その見栄を聞いたガッシュとそんなガッシュの反応でテッドはやっとお互いに魔物だと気付き、驚愕する。まさかこんな街中……しかも、公園で魔物に出会うとは思っていなかった2人は岩の重さに押し潰されそうになりながらも相手の出方を窺い合う。
「アッハハハハハハハ!」
「フハハハハハハハハ!」
そのせいでどちらからともなく岩を地面に置くまでの間、2人の乾いた笑い声が公園内に木霊し続けた。
今週の一言二言
・FGOでfate/zeroイベ復刻来ましたね。私はすでにアイリ持っているので今回はほどほどに周回します。