やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

180 / 257
LEVEL.177 彼らは結局のところ、似た物同士である

 あれからガッシュと金髪リーゼントの子供――テッドから事情を聞いた清麿はガッシュと楽しそうに話す魔物とそんな彼らを気まずげに見守るパートナー(ジード)を見て仕方ないと呆れながらも彼らの宿泊を承諾した。敵意がないことは一目見てわかったので様子見ということで一先ず受け入れたのである。

「ジードさんたちはこの部屋を使ってくれ」

「悪いな、いきなり押しかけて」

 晩御飯を食べ終え、テッドがお手伝いとして茶碗洗いをしている間、清麿はジードを客間へ案内した。案内されたジードの目に入ったのは8畳一間の和室だった。これほどの広さがあれば図体の大きいジードでも伸び伸びと横になることができるだろう。いきなり押しかけた上、ここまで世話をしてくれたことに罪悪感を覚えたのかジードは頭を掻きながら謝罪の言葉を述べた。

「あはは、気にしないでくれ。それより布団はここに……あ、ジードさんたちは布団初めてだよな? 今、敷き方を――」

「――ああ……いや、それよりも、どうなってる」

「……え?」

 襖を開けて布団を引っ張り出す作業を止め、ジードへ顔を向ける清麿。そこには先ほどとはうって変わり、鋭い視線を向ける本の持ち主(ジード)の姿があった。

「魔界の王を決める戦い……100体の魔物が互いに戦い、互いの本を燃やし合う。本を燃やされた魔物は魔界へと帰り、この人間界に最後まで生き残った1体が魔界の王となる。いわば俺たちは敵同士。ちょっとは警戒してもいいだろ?」

 テッドと出会ってからジードも少なくない魔物と対峙し、戦ってきた。その上、世界を旅していた彼は厄介事に巻き込まれることもあり、敵意には敏感である。だからこそ、清麿がジードたちに一切、それを向けていないことに気付いていた。

「あー……なんというか、ガッシュが仲良さそうにしてるだろ? だから、大丈夫かなって」

 しかし、ジードの問いかけを聞いた清麿はケロッとした様子で布団を敷きながらそう答えた。

 ジードたちは知る由もないが、彼はガッシュと出会った4月から10か月という短い期間で数多の修羅場を越えてきた。

 戦いは常に自分たちが不利な状況であり、それをガッシュと共に何度も跳ね除けた。

 戦闘中、敵の術を受け、何度も死にそうになった。

 救えたかもしれない心優しい魔物の本を自らの手で燃やし、悔し涙を流したこともあった。

 様々な人と出会い、幸運にも心強い仲間ができた。

 そして、本物の悪と対峙し、巨大な化け物とも激闘を繰り広げた。

 清麿が彼らの宿泊を受け入れたのはただ単純にそれらの経験がテッドとジードに敵意がないことを教えてくれたからである。敵意がないのなら戦う必要がない。ただそれだけのこと。ましてや、ガッシュはテッドを友人と認めているため、警戒する理由がないのだ。

「……なるほど、場数を踏んでるか」

「ん? ああ、多分、他の魔物よりは……俺たち、あまり戦い自体好きじゃないんだ。どうしてもって時は戦うけどあんたも強そうではあるけど悪い人の感じがしないしな」

(それに……)

 仮にテッドたちが襲ってきたとしてもその魔力を感知したサイと八幡がすぐに駆けつけることになっている。コーラルQ戦の後にサイ本人から『魔力を感知したら飛んで行くから私の魔力探知範囲内で戦ってほしい』と言われたほどだ。

 そもそもサイの魔力探知は少々特殊であり、魔力の感知だけでなく魔物の強さや術の大きさがわかるのはもちろん、その魔力に乗った感情まで読み取ることができる。つまり、清麿たちへ敵意を持った瞬間、サイが文字通り、飛んでくるのだ。

 そんな保険もあり、清麿はテッドたちを警戒していない。むしろ、どうやって仲間に誘おうか考えているほどである。

(ハッ……こいつ……)

 話は終わったとばかりに布団を敷く作業に戻った清麿を見てジードは彼の底知れない何かを感じ取った。自分より一回り以上年下の少年にしては肝が座っている。それほど相当な修羅場を潜り抜けてきたのだろう。

「クッ……アーッハッハッハ! 納得したぜ、なかなか苦労してるじゃねぇか坊主!」

「ちょっ」

「俺も今日は戦わねぇ。美味い飯と宿も世話になったしな」

 布団を敷いていた清麿の首に腕を回し、大声で笑うジード。いきなりのことで戸惑う清麿だったがすぐに解放され、腕を回された首に手を当てながらジードを見た。彼は窓を開け、ベランダへ出ていた。懐から煙草を取り出したのでそれを吸うためにベランダに出たらしい。

「それに俺も……いや、テッドも誰かれ戦ってるわけじゃねぇ。別の目的があるんだ」

「別の、目的?」

「あいつの唯一の家族って奴だ。そいつを探してる」

 煙草を加えたジードはジッポライターを口元へ近づけ、煙草に火を点けた。彼の口から吐き出された呼出煙が星空へと昇っていく。

「家族……それがテッドの目的」

 テッドの目的が魔物の捜索ならばサイの魔力探知の出番――そう思ったがすぐにその考えを打ち消す。サイの魔力探知は精度は高いがその分、範囲が狭い。それこそ清麿たちが住むモチノキ町――しかも、モチノキ町の郊外まではカバーできていないのである。集中すれば範囲を広げられるが世界中を旅しているテッドたちが未だに見つけられていないのだ。多少、範囲を広げたからといって焼け石に水だろう。

「ああ、バカで生意気だが大切なものが何かはわかってる。だから、俺もあいつに付き合ってんのかも知れねぇな」

 星空を見上げるジードの表情を見てハッと目を見開き、笑みを零す清麿。

 “優しい王様を目指す”ガッシュと“家族を探す”テッド。

 そして、パートナーの願いを叶えるために協力を惜しまない清麿とジード(本の持ち主)

 自分たちがそうであるようにテッドとジードも本が燃やされるその時まで決して夢を追うことを諦めない。手を伸ばすことを止めない。

 結局のところ、彼らは似た物同士だったのだ。

(ああ、だからこそ……)

 彼らは強い。実際に戦うところを見たわけではないが清麿はそう確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そろそろ日付が変わりそうな夜更け、すっかり寝静まった住宅街で二組の魔物とそのパートナーが見つめ合っていた。

「フム、やはり貴公達……できるようだな? 貴公達に向けて放った殺気のみで目を覚ましてくれた」

(こいつら……)

 自室の窓から家の前でこちらを見上げる二等辺三角形状の剣を持ったマント姿の魔物とパートナーらしき少女を見て清麿は冷や汗を流す。先ほど突然、放たれた殺気で飛び起きたのだが、あれほどの殺気ならばウマゴンやテッドも気付いてもおかしくはない。そのはずなのに家の中は相変わらず静寂に包まれていた。つまり、あの殺気を感じ取ったのは自分たちのみ。

「某の名はアース。戦える場へとおもむき願おう。それとこの場にもう2体、魔物がいるようだが……話があるのは貴公達のみ。他の魔物に助太刀を頼もうなら……この家が戦いの場になると思え」

「……ああ、わかった。待ってろ、すぐ行く」

 アースの言葉に頷いた清麿は窓を閉め、出かける準備を始めた。そんな彼の様子をどこか不安げに見ていたガッシュだが、意を決して口を開く。

「清麿、あの者の強さ……」

「ああ、まずい……」

 殺気を放つだけならばさほど難しいことではない。しかし、その殺気に指向性を持たせる難しさを彼らは知っている。何故ならば、仲間の1人にそれを難なくこなしている絶対的強者がいるからである。そう、それは殺気に指向性を持たせられるほどの実力を彼らが有していることに他ならない。

 また、今までの経験から本能的に彼らが強敵であると悟ってしまったのである。

 そして、アースという魔物はもちろん、彼のパートナーである少女も清麿より明らかに年下なのに臆することなく、真っ直ぐ対戦相手を見つめていた。それだけ場数を踏んでいるのだろう。

「できればウマゴンだけでも一緒に戦いたいが、お袋が寝てる家で戦うわけにもいかん。それにこんな時間ならサイたちの救援もあまり期待できない。気合を入れていくぞ、ガッシュ!」

「ウヌ!」

 強敵相手に仲間の援護なしにどこまで戦えるかわからない。だが、たったそれだけで怖気づくほど清麿とガッシュは腑抜けではない。むしろ、負けられない戦いを前に気合が入るほどである。

 出かける準備を終えた彼らは他の人を起こさないように静かに自室を後にした。

















今週の一言二言



・とうとう始まりましたね、地獄のボックスガチャ。今回も頑張って周回して箱開けます。あと、超高難易度も……。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。