やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.178 鎧の剣士は自らの手で脅威へ引導を渡さんとする

 誰も起こすことなく家を出た清麿はアースたちを連れ、少し離れた河川敷に移動した。ここならば住宅街から離れているため、戦闘音を聞きつけて一般人が集まってくることもない。また、サイの魔力探知の範囲内なので望みは薄いが救援に来てくれる可能性はゼロではないのだ。

「では、参るぞ」

 河川敷に到着し、清麿たちから数メートルほど距離を取った後、剣を構えたアース。まさかいきなり戦闘になるとは思わず、清麿は慌てて右手を前に突き出して待ったをかける。

「待て、話くらいは聞かせろ! 何故、俺たちを狙って――」

「――理由は一つ……貴公達がバオウの使い手であるからよ!」

(バオウ!?)

 清麿の言葉を遮ったアースだったが『これ以上、話すことはない』と言わんばかりに極限まで姿勢を低くし、一気に前へ跳躍。それに対し、彼はアースの口から出た予想外の言葉に戸惑い、反応が遅れてしまった。

「『ソルセン』!」

 その一瞬の隙を見逃すほどアースのパートナー――エリーは甘くない。清麿の動揺を見て即座に術を唱え、すぐさまアースがまだ間合いに入っていないのにも拘らず、剣を横薙ぎに払った。その瞬間、アースの剣からガッシュに向けて斬撃が飛び出す。

 アースの剣はリーチが短く、攻撃する為には敵の懐に潜り込まなければならない。そのリーチの短さを補う呪文こそ斬撃を飛ばす遠距離攻撃呪文、『ソルセン』だった。

「くっ……『ザケルガ』!」

 凄まじい勢いで向かってくる斬撃に清麿は歯噛みした後、『ザケルガ』で斬撃を相殺した。だが、その拍子に生じた砂塵の中からアースの剣が飛び出し、ガッシュへ振り降ろされる。『ソルセン』で敵を足止めし、その間に攻撃範囲(シュートレンジ)へ潜り込むことこそアースたちの狙いだった。

「ヌゥウウウ!」

 咄嗟に振り降ろされる剣を刃に触れないように両手で受け止めるガッシュ。その重い一撃に彼は目を白黒させ、軋む体に鞭を打って何とか耐えきった。

「フン、やはり術の力がない剣ではいまいちか。エリー!」

「『ゴウ・ソルド』!」

(あの術はッ!?)

 エリーが術を唱えるとアースの剣がオーラに覆われた。しかし、清麿が驚いたのは『ゴウ・ソルド』という呪文に聞き覚えがあったからだ。そう、千年前の魔物たちとの死闘の中、八幡とサイが戦った大剣の魔物が使用していた呪文である。

 呪文に法則性があることがわかってから清麿たちは可能な限り、戦った相手の呪文とその効果を記録していた。もちろん、その活動にサイも協力しており、大剣が使用した呪文に関する情報を提供していたのだ。

(『ゴウ・ソルド』の効果はリーチの拡大と剣の攻撃力を上げるものだったが、それは大剣の魔物が使用した場合の話……鵜呑みにするのは得策じゃない。けど、同じ呪文なら効果も類似しているはず!)

「『ラウザルク』!」

 『ゴウ・ソルド』によって先ほどよりもアースの攻撃力が上がっているのは間違いない。また、今は情報が少なすぎる上、ガッシュは術を使えば気絶してしまうため、下手に攻撃呪文を連発するわけにもいかない。

 そう判断した清麿は即座に肉体強化の呪文を唱え、ガッシュに虹色の雷が落ちた。

「はぁっ!」

「ヌァアアアア!」

 『ゴウ・ソルド』によって攻撃力が増したアースの剣撃をガッシュは強化された体でいなし続ける。その隙に少しでも情報を引き出そうと清麿は口を開いた。アースの口ぶりから戦いを挑んできたのはガッシュの最大攻撃呪文、『バオウ・ザケルガ』が原因だ。情報を手に入れ、話し合いに持ち込めればこの不毛な戦いを終わらせられるかもしれないと踏んだからである。

「お前、『バオウ』とは『バオウ・ザケルガ』のことか!?」

「フン、それ以外に何がある……人間の方、貴公は『バオウ』を普通の術と思っているのか? まぁ、気付いていないのなら、それもよかろう」

 清麿の問いにアースは剣を振るいながらも答える。しかし、答えた彼の顔にはどこか失望の色が見て取れた。

 確かにアースの言う通り、『バオウ・ザケルガ』には謎が多かった。『術を使えば使うほど威力が高まる効果』と『使用した後、体から力が抜けるデメリット』は他の術にはない。唯一、似ているのは魔力ではなく八幡の気力を消費して効果を持続させる『サジオ・マ・サグルゼム』くらいである。だが、『サジオ』も類似しているのはデメリットだけで攻撃呪文ですらない。

「だが、数日前に『魔界の脅威』が人間界に現れた以上、脅威の一つを野放しにしておくわけにはいかん!」

「ッ!? あの、建造物のことか!?」

「ホウ、建造物? 貴公達の目にはあれが建造物としか映らぬか? あれの本当の姿がわからぬか!?」

「本当の、姿?」

「どうやら何も気付いておらぬな。あれの脅威についても、『バオウ』の力についても!」

 そう叫んだアースは実際に目の当たり(・・・・・)にした『魔界の脅威』の一つを思い出す。もし仮にあの脅威と同等、またそれ以上の力を清麿の言う『建造物』と『バオウ』が持っているのなら人間界は確実に滅びる。それを止めるために一刻も早く『魔界の脅威』をどうにかするしかない。だからこそ、アースは『バオウ』を持つガッシュへ戦いを挑み、敵の出方によっては倒すつもりでいた。

「ならば、こちらとて好都合よ! 今なら貴公も某の手に負える相手、一気に決めさせてもらおう」

「『ジャン・ジ・ソルド』!」

 何度も剣撃を受け流し、肩で息をするガッシュを睨みつけたアースは剣を高く振り上げる。

 あれ(・・)を止めるために数多の魔物がこの世を去った。

 最強と呼ばれた名家さえ滅びた。

 当時、まだ幼く、自分は何もできなかった。

 だからこそ……今度こそ『魔界の脅威』を自らの手で止めるべく、彼は勢いよく剣を振り降ろし、エネルギー状の巨大な剣(『ジャン・ジ・ソルド』)をガッシュへ叩き込んだ。

「ガッ……」

「が、ガッシュ!」

 フラフラだったガッシュはアースの一撃を受け、その場で倒れ伏してしまう。『ラウザルク』は攻撃力だけでなく、ガッシュの肉体を頑丈にする効果もある。そんな彼を一撃で戦闘不能に陥らせるほどアースの攻撃は凄まじかった。

(くそ、やはりこいつ……)

 慌てて倒れているガッシュへ駆けよる清麿はアースの強さに奥歯を噛みしめる。まだ戦闘を始めて10分すら経っていないのにすでにガッシュは満身創痍。一方、アースは呪文を数回しか使っておらず、心の力もほとんど消費していない。絶体絶命のピンチである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、そんな状況でも彼は油断しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「一寸の距離にて確実に引導を渡さん」

「ッ――」

 ガッシュへ駆け寄った清麿へアースが追撃を仕掛けたのである。もちろん、術を使えば清麿は確実に死ぬので術は使用しない。しかし、人間相手ならば術なしでも一撃で気絶へ追い込むことくらい容易である。

「ヌォオオオオオオ!!」

 今まさにアースが剣を横薙ぎに振るおうとした瞬間、満身創痍だったガッシュが清麿を突き飛ばしながら起き上がった。立っているのもやっとな状態であるにも拘らず、自分を睨みつけるガッシュを見てアースは思わず感心してしまう。

「見事、最期までおのが主人を守ろうとするか。ならばその姿に恥じぬ一撃にて、この勝負に決着をつけん!」

「『ジャン・ジ・ソルド』!」

 再びアースの剣からエネルギー状の巨大な剣が出現した。『ラウザルク』のおかげで何とか意識を保っていられたガッシュだが、術はすでに解けている。この一撃を受ければ彼は確実に戦闘不能へ陥るだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ドラグナー・ナグル』!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、呪文を唱える声と共にガッシュとアースの間に何かが割り込んだ。そのあまりの速さにガッシュはもちろん、アースでさえ反応できず、体を硬直させる。

「フッ」

 そして、その何かは短く息を吐き、剣を振るうアースの頬へカウンターの要領で右ストレートを叩き込んだ。アースの体はエリーの傍までそのまま吹き飛ばされ、エネルギー状の巨大な剣もその拍子に消えた。

「よぉ、ガッシュ、大丈夫か?」

 一先ず危機が過ぎ去ったことにホッとした束の間、疲労のせいで背中から倒れそうになったガッシュだったが誰かに支えられる。顔を上げると苦笑いを浮かべながら声をかける数時間前に友達になった魔物――テッドの姿があった。


















今週の一言二言



・FGOのネロ祭は相変わらず周回ゲーですね。まだ20箱ぐらいしか開けておらず、まだまだだなぁと思う今日この頃。とりあえず、100は開けたいですね。皆さんも周回頑張ってください!

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