やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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感想や評価欄で原作通り過ぎるという意見をいくつかいただきました。
私としてもオリジナル部分を入れたいと思っているのですが、特に今のシーンはかなり重要な部分でして、前話でお気づきかもしれませんがアースの事情が原作と違います。
そのため、サイを早々と介入させるとアースが……ちょっとまずいことになるのでここ数話はほぼ原作通りの流れにさせていただきました。


もしかしたら今後もほぼ原作通りの流れになるお話があるかもしれませんが、話の流れ的に必要なことでもありますのでご了承ください。


LEVEL.179 戦いの中でリーゼントの少年はギアを上げる

「お主……どうして?」

 背中を支えられながら目の前にいる友達の姿にガッシュは思わず声を漏らした。家を戦場にしないために起こさないように清麿と共にこそこそと家を後にした記憶は新しい。彼は清麿の家でパートナーのジードと一緒に寝ているはずなのだ。

「すまねえな……あの鎧には気付いてたんだけどよ、ジードがなかなか起きなくてな」

 エリーの傍まで殴り飛ばされたアースを睨みつけながらテッドは明るい口調で事情を説明する。件のジードはすぐに起きなかったせいでパートナーの友人がボロボロにされたと自覚しているのか気まずげに顔を逸らしていた。

「あんたたち、俺たちを助けて……」

「ん? あー、何つーかよ、ホラ……まぁ、なんだ」

 ガッシュの容態を確かめながら清麿がテッドに視線を向けるとそれに気付いた彼はどこか居心地悪そうに頬を掻き、ポンとガッシュの頭にその手を置いた。

「ここはオレに任せな。お前はここで休んでろ」

 そう言ったテッドはガッシュを清麿に託して数歩前へ出る。その間、体の調子を確かめるように軽くジャブを放ち、トン、トンと小さくステップを踏む。その姿はまさにボクサーのようだった。

「よぉ、そこの鎧……てめぇの相手はオレだ」

「……フン」

 そんなテッドを見てアースは不機嫌そうに鼻を鳴らし、剣を構える。目の仇にしていた『魔界の脅威』の一つを自らの手で消すことができたのにそれをあと一歩のところで邪魔されたのだ。

 そして、アースの様子を見て彼の考えを読んだエリーはすぐに魔本に心の力を込め、一つの術を唱えた。

「『ボルセン』!」

「ッ――」

 呪文が発動すると同時にアースは一気に跳躍し、テッドへ迫る。まさかバカ正直に正面から来るとは思わなかったテッドは一瞬、目を見開くがすぐに意識を切り替えてタイミングを見計らい、右拳を突き出す。

「なッ……」

「ヌァアアアア!?」

 だが、テッドの拳はアースを捉えず、すり抜けてしまう。慌てて振り返ると丁度、本物のアースが剣を斬り上げ、ガッシュたちを吹き飛ばしたところだった。

 『ボルセン』はアースの幻を生み出す補助呪文。リーチの短いアースが敵に近づく際に

囮として使うのはもちろん、接近戦に持ち込んだ後も敵を攪乱させる時にも使用される。

 今回の場合、アースの目的は『魔界の脅威(バオウ)』の討伐。テッドと戦う理由はおろか、構っている暇すらないのである。

「次の太刀にて引導を渡さん」

「ジードォ! ギアを上げろ!」

 地面に倒れた後も身動きの取れないガッシュにとどめをさそうとアースが剣を振り上げた。今から駆けつけてもアースの剣がガッシュの体を捉えるのが早い。そう判断したテッドは急いでパートナーへ指示を出した。

「『セカン・ナグル』!」

「フン、何をしても間に合わ――ッ!?」

 すぐにジードが術を唱えるがその頃にはすでにアースは剣を振り降ろしており、数秒もせずにガッシュを戦闘不能へ追い込むはずだった。しかし、その寸前、再びテッドが2人の間へ割り込んだ。

「ブロォオオオオオオ!」

 そして、先ほどよりも重い拳をアースの腹部へ叩き込む。その強烈な一撃に顔を顰めるアースだったが、それ以上にテッドの速度に驚いていた。

(この速さ……肉体強化の術か!?)

 テッドの術の効果を察したアースは思わず舌打ちした。あれだけの速度で動けるのならどれだけガッシュを狙おうとテッドのフォローが間に合ってしまう。つまり、ガッシュを倒すためにはまず、テッドをどうにかしなければならなくなってしまったのである。

「オレを無視してんじゃねぇぞ、クソ鎧! ガッシュ、もっと下がってろ!」

「あ、ああ……ガッシュ、立てるか?」

「ヌ……ヌゥ」

 テッドの言葉に従ってガッシュの体を起こした清麿だったが自力で立てないほど疲労しているガッシュを見て奥歯を噛みしめた。そう、彼のやられ方があまりに異常だったからである。

 確かにアースの攻撃は激しく、防ぐだけでも体力を削られただろう。だが、あの時のガッシュは『ラウザルク』で強化されていた。攻撃を防ぐだけでこれほど消耗するとは考え辛い。

(それに大技(『ジャン・ジ・ソルド』)を受ける前にガッシュはフラフラだった……つまり、ガッシュの激しい消耗の原因は別の――っ!)

「テッド、気を付けろ! そいつの剣、魔物の力を吸い取る力があるかも知れん!」

 サイと八幡が戦った大剣の魔物も『触れた物体を削る』という能力を持っていた。サイもはっきりと大剣の魔物から大剣の能力を聞いたわけではない。

 仮に術の効果で『触れた物体を削る』が付与されているのならあれほどの手練れであれば削る対象を絞ることも可能だったはず。しかし、大剣の魔物は大剣に触れようとしなかった。それは使用している本人ですら『触れた物体を削る』という能力を受けてしまうことに他ならない。だからこそ、彼女はその能力は大剣の能力だと推測していた。

 別に今回の場合、その推測の正誤は関係ない。重要なのは剣そのものに能力があるかもしれない、という点のみ。また、ガッシュのやられようを見て清麿自身、その考えは間違っていないと確信していた。

「ホウ……」

 清麿の忠告にアースは感嘆の声を漏らす。まさかこの短時間でアースの持つ剣――ヴァルセーレの剣の秘密を暴かれるとは思わなかったのである。

「へぇ……力を吸い取る剣か。オレには関係ねぇなぁ!」

 もちろん、その言葉はテッドにも聞こえていた。だが、彼はお構いなしに何度も拳を振るい、その度にヴァルセーレの剣でガードされていた。もちろん、アースも隙があらば剣で攻撃を仕掛けるが、回避し切れない時は躊躇いなく、腕で防御している。

「ちっ……うるさいハエめ」

「『ゴウ・ソルド』!」

 テッドとの攻防で煮えを切らしたのか、アースはチラリとエリーの方へ視線を送るとすぐに強化の呪文が発動した。すぐさまテッドを断ち切らんとオーラを纏った剣を振るうがそれすらも彼は軽々と躱し――。

 

 

 

 

 

 

 

(ワン)(トゥ)!」

 

 

 

 

 

 

 ――がら空きのアースの横腹へ拳を連続で叩き込む。鎧の上から殴られたはずなのにその衝撃と激痛でアースはうめき声を漏らした。やはり、厄介なのは凄まじい速度だ。どれだけ威力のある攻撃でも当たらなければ意味がない。

「エリー、パワーではない! スピードだ!」

「『ウルソルト』!」

 ならば、と戦法を切り替える。『ウルソルト』は自身の速度を上げる強化の呪文。その証拠にあれだけテッドの速度に翻弄されていたアースだったが、呪文が発動した途端、テッドのそれと同等のスピードで戦場を駆け始める。

「ハハッ、てめぇも結構スピードが出るじゃねぇか!」

 そんなアースの速度を見て戦闘中であるにも拘らずテッドは笑みを浮かべた。友達(ガッシュ)を倒そうとする敵だが、それと同時に強者と戦う楽しさを感じずにはいらえなかったのである。

「だが、それじゃあオレにダメージは与えられねぇぜ!」

 アースの速度が上がったはずなのにテッドの攻めは一向に止まない。肉体強化の呪文で強化されたテッドの身体能力は『ウルソルト』一つでは攻めに転じられないほど上昇しているのである。しかし、『ウルソルト』が無駄に終わったわけではない。術の恩恵を受け、テッドのラッシュをアースは確実に剣で受け止められていた。

(なんて速さだ……)

 2人の攻防を目の当たりにした清麿は思わず生唾を呑みこんでしまう。2人の速度はサイが『サウルク』を使った時と同様――むしろ、それ以上かもしれない。彼が出会った魔物の中でもサイはトップクラスの速度を誇っていた。しかし、彼女以上の速度を持つ魔物が戦いを目の当たりにし、自分たちと力の差を見せつけられたのだ。

「フン、それでいい」

 テッドの攻撃をヴァルセーレの剣でガードし続けるアースはテッドの言葉に笑みを浮かべた。清麿の言う通り、ヴァルセーレの剣には魔物の力を吸い取る能力がある。つまり、テッドが剣に触れる度にじわじわと体力は削られるのだ。アースはそれを狙っているのである。

「お……」

 その作戦は見事に成功し、テッドの足から力が抜け、一瞬だけ動きが止まってしまった。そして、その隙をアースは見逃さない。

「迅速の剣にて引導を渡さん!」

「『サーズ・ナグル』!」

 動きを止めたテッドに迫る剣撃の嵐。だが、ヴァルセーレの剣がテッドを捉える直前、ジードは新しい術を唱え、剣が何度も地面に叩きつけられ、砂塵が舞った。

「……フン、貴公に某は倒せぬ」

 パラパラと小さな瓦礫が落ちる中、アースは離れた場所にいるガッシュへ視線を向ける。今度こそ、『魔界の脅威』へ引導を渡すために。

「へ……そんな柔な攻撃、あいつ(・・・)に比べたら屁でもねぇ」

 しかし、アースが動き出す前に砂塵を振り払うように右腕を雑に払い、一歩前へ出るテッド。彼に怪我一つない。それどころか先ほどよりも身に纏う気配が大きくなっている。まさかあの連撃を回避されるとは思わなかったアースは目を見開き、体を硬直させてしまう。

「お返しだぜ」

 一言、そう言ったテッドは右手を硬く握りしめ、アースの顎へアッパーカットを放つ。その鋭い一撃に反応すらできなかったアースは空中へ投げ出され、地面を何度もバウンドしながらエリーの傍へ落ちた。

「……」

 剣を地面に付きたてて立ち上がろうとするアースを見てエリーは思考を巡らせる。『ウルソルト』の恩恵で速度の上がったアースの連撃を易々と回避したテッド。

 おそらく、彼の術は肉体強化中心――下手をすればその全てが肉体強化の呪文で構成されている可能性が高い。また、制限としていきなり強力な肉体強化の呪文を発動できないのだろう。発動できるのなら最初から発動しているはずだからだ。つまり、段階を踏んで肉体を強化していく――時間をかければかけるほど強くなっていくスロースタータータイプ

 現段階でテッドの術が発動したのは3回。2回目の時点で肉体強化を施したアースですら翻弄されるレベルの強さを誇っていた。3回目の肉体強化を済ませたテッドの戦闘能力は計り知れない。

「すぅ……」

 このままぐだぐだと戦ってもアースが不利になる一方である。少しばかりこちらの手の内を見せてでも一刻も早く、テッドを倒すしかない。『死』を待つ己に『生』を教えてくれたパートナーが望む願いを叶えるために、パートナーの胸で燻る後悔を断ち切るために。

「キェエエエエ!!」

 限界まで息を吸ったエリーは気合いを入れるために奇声を上げた。今まで術を唱える時にしか声を出さなかった小さな少女が奇声を上げたため、アースを含めた全員の視線が彼女へ集まる。

「アース、スマナイな。オレが奴をナメたせいでお前を傷つけた」

「何を申しますか、エリー。今の落ち度は私に――」

「――言うな。もう無様な姿はさらさせん」

「……はっ」

 エリーの気迫にアースも覚悟を決めたのかテッドの方へ振り返り、その場で右膝を付いた。そして、エリーの持つ紅紫色の魔本から凄まじい光が放たれる。

「『ジェルド・マ・ソルド』!」

 エリーが術を唱えるとアースはヴァルセーレの剣を体の陰に隠すような構えを取る。それは八幡が考案した片手を体の陰に隠す独特な構えによく似ていた。

(なんだ、あの異様な光は……)

 また、アースの正面に立つ清麿たちには体の陰に隠したヴァルセーレの剣から放たれている光が見えていた。一向に攻撃を仕掛けて来ないことからあれはカウンターの類。何の策もなく突っ込むのは無謀である。

「ジード、心の力を溜めろッ! ギア上げてから突っ込むぞ!」

「ああ、わかった!」

 ()の経験から無闇に突っ込む愚かさを知っていたテッドは即座にそう判断してパートナーへ指示を出す。エリーの推測通り、テッドの術は時間をかけてギアを上げていかなければならない。敵が待ちの体勢に入ったのならテッドもギアを上げるためにジードの心の力が溜まるのを待つことにしたのである。

「なるほど。猪のように無様に突っ込んで来ると思っていたが……ならば」

 向かって来る様子のないテッドにアースはため息を吐き、姿勢を崩さないように『すり足』で前へ進み出した。

 『すり足』は足を上げず、足全体で地面をするようにして移動する歩行術であり、剣道や能楽、相撲などに使用されている。しかし、アースのそれはあまりに高速だった。

「なっ……何故あの姿勢で動けんだよ!?」

 まさか待ちの体勢を保つと思っていたアースが姿勢を崩さず――しかも、高速で近づいてくるのを見てテッドは声を荒げてしまう。その間もアースの動きは止まらず、とうとうヴァルセーレの剣が届く範囲に到達した。

「シッ――」

 その刹那、アースはヴァルセーレの剣を横薙ぎに振り払う。その速度は文字通り、目にも止まらぬ速さ。テッドですら反応できないほどの速度で振るわれた剣は彼の体を捉える――はずだった。

「な、にっ……」

「ゴッ……」

 テッドの体を捉えるはずだったヴァルセーレの剣が突如、真上へ打ち上げられ、テッドの自慢のリーゼントに可愛らしい靴のつま先が蹴り落されたのである。

「いッッッてええええええ!? てめえ、なにしやが、る……」

 頭部に広がる激痛に悲鳴を上げたテッドは蹴った相手の姿を見て言葉を失くした。

 背中まで届く異様にボリュームのある長いストレートの髪。その髪は今にも吸い込まれそうなほど深い黒髪だが、その毛先は群青色に染まっていた(・・・・・・・・・・・・・・・)

「無闇に突っ込まなかったのはよかったけど、安易に待ちを選んだのは減点かな」

「て、てめえ……なんで、ここに」

「それはこっちの台詞でしょ。まぁ、久しぶりって言っておくよ、テッド」

 そう言って『サマーサルトキック』でヴァルセーレの剣を蹴り上げ、その勢いのままテッドの頭部を蹴った魔物――サイは群青色に光る瞳を腐れ縁(昔の知り合い)へ向けた。















今週の一言二言




・ネロ祭、お疲れ様でした!私はあまり周回できませんでした。さぁ、次はハロウィン復刻からのハロウィンですね!イベント、頑張りましょう!

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