やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.182 彼の中の化け物はきっと弱くなった

「……くそ」

 様々な思いがどこからか湧き上がって胸を締め付け、思わず足を止めそうになったが今はそれどころではないと頭を振って河川敷へと急ぐ。最近は『サジオ』を『負の感情に乗った魔力』から身を守る防具服のように扱っているが本来の使い方はパートナー()の強化である。人間の足で数分かかる道を1分と経たずに走破した俺はぐったりしているガッシュと彼を支えている高嶺に駆け寄った。

「は、八幡さん……来てくれたのか」

「ああ、遅れてスマン。状況がわからなくて様子を見てた。それで――は?」

 ほっとしたような表情で微笑む高嶺に謝った後、魔本に心の力を注ぎながら視線をサイへと戻す。だが、すぐに間抜けな声を漏らしてしまった。

「てめぇ、いきなり蹴ることねぇだろうがよ! たんこぶできただろうが!」

「それはあんた(・・・)があんまりに間抜けだから喝をいれてあげただけでしょ。言うのは文句じゃなくてお礼じゃない?」

「はああああ!? 少しはマシになったと思ったけど中身はあの頃と変わらねぇな、クソ女!」

「そうやってすぐに声を荒げるあんたは相変わらず子供のままね、クソガキ」

「んだとッ……なんならあの時の続き、今から再開してもいいんだぜ? やんのか? ああ!?」

 金髪リーゼントが明らかに怒った様子でサイに詰め寄り、それを彼女は腕を組んで不機嫌そうにあしらっている。そんな2人を金髪リーゼントのパートナーらしき外人が少しだけ戸惑った様子で見ていた。

(あの、サイが……口喧嘩をしている、だと)

 そんなことより俺が驚いたのがサイの態度と口調だった。サイは味方には優しく、敵には容赦しないタイプ。そして、味方でも敵でもない人には無関心である。

 だからこそ、人と喧嘩をしない。

 喧嘩して仲間と気まずくなることを恐れ、喧嘩になる前に彼女の方が折れるか、速攻でその場から逃げて距離を取り、ほとぼりが冷めるまで待つ。

 そもそも喧嘩というものは仲がいい相手とするぼっちには無縁の行為だ。敵や無関心の相手とは成立しない。

 つまり、サイにとってあの金髪リーゼントは喧嘩するほど仲がいい相手、ということになる。

(じゃあ、あいつは……サイが魔界にいた頃の知り合い、か)

 それもティオが教えてくれた誰とも仲良くしようとしなかった『孤高の群青』時代より前の知り合い。サイの過去に繋がる重要なキーパーソン。この戦い、サイやガッシュだけじゃなく、あの金髪リーゼントの魔物にも生き残って貰わなければならないようだ。

「ぁ……あぁ……」

 戦いが終わった後に話しかけようとぼっちらしからぬ決意を決めているとガシャン、という音が河川敷に響き、自然と目がそちらへ吸い寄せられる。見れば剣士の魔物が己の得物を手放したせいで剣が音を立てて地面に落ちたようだった。いや、それよりも気になるのが剣士の表情。ジッとサイを見ながらどんどん顔から血の気が引いていく。

「……アース?」

 後ろから見ていても彼の異変に気付いたのだろう、剣士の魔物――アースのパートナーが声をかけた。だが、それでもアースはサイを見つめるばかりで何も反応しない。サイとテッドも喧嘩を止めてアースを警戒し始めた。

「な、んで……なんで、お前(・・)がここにいる?」

 そんな擦れた声が彼の口から零れるが問いかけられたサイは意味がわからないと言わんばかりに首を傾げ、俺の方をチラリと見た。アースの言葉から察するにサイのことを知っている。しかし、俺もサイも彼に見覚えはない。そのことをサイに伝えるために首を横に振った。

「……誰かと勘違いしてるんじゃない? 私はあなたなんて知らない」

「そんなわけあるかッ!! 白いワンピース、群青色の瞳……髪の色は違うが(・・・・・・・)先ほど毛先が群青色に染まっていた!!」

「ッ……」

「はぁ? 何言ってんだ? こいつはずっと黒髪だぞ?」

 アースの発言に金髪リーゼントは少しばかり不機嫌そうに答えたがサイが息を飲んだのを見逃さなかった。サイにも心当たりがありそうなので少なくともアースの勘違いではない、ということか。

「何故、ここにいる? 何故、生きている? お前はあの時、王の手で討伐(・・)されただろう!? なのに、どうして……そんな何事もなさそうな顔で、のうのうと生きていられるんだ!?」

「そ、れは……」

 その心からの絶叫にサイは何も言い返せず、俯いてしまった。その拍子に彼女の体を覆っていた群青色のオーラ(『サウルク』)が消えてしまう。まずい、素の状態のサイでは剣士の攻撃を回避し切れないだろう。今すぐにでも『サウルク』を掛け直さなければならない。

「……」

 そのはずなのに、俺の喉は一向に震えなかった。おい、どうした、俺。声を出せよ。心の力は十分残っているだろう? なら、早く、唱えろよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――でも、気になるんだろ? サイの過去が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ――」

 その心の声に俺はガツンと金槌で頭を殴られたような衝撃を受けた。ああ、そうか。俺は彼女の過去を、秘密を、“サイ”という存在を知りたいのだ。パートナーだから、大切だから、彼女を守りたいから俺はサイのことを何でも知りたい。どんなに小さなことでも知っていたい。

 ああ、わかっている。それが傲慢なことぐらい痛いほど知っている。

 人は他人を理解できない。きっと、サイから全てを聞き出したとしても出会って1年すら経っていない俺に彼女の全てを理解はおろか共感すらできないだろう。彼女の全てを理解し、共感するには当時の出来事を同じタイミングで、同じ環境で、同じ考え方で、同じ状況で経験するしかない。そんなことできるわけがない。

 その逆もまた同じ。サイは俺のことを全て理解できないし、俺の考え方に共感しないだろう。だからこそ、俺たちは間違い続け、ここまで来るのにこれほどまでに時間がかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも、たとえ人が他人を理解できなくても、この衝動を止めることはできない。人の感情はそこまで簡単なものじゃない。無理だとわかっていても欲望はそんな屁理屈など気にせず、湧きあがるものなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

(……前の俺なら、どうしてたんだろうな)

 少なくとも今のようにサイが俯いている状況を見逃しはしなかっただろう。サイの過去を聞きたいという欲望を理性で無理矢理押さえつけて『サウルク』を唱えていた、かもしれない。

 雪ノ下雪乃の姉、雪ノ下陽乃は俺を『理性の化け物』と評したことがある。

 だが、今の俺はどうだ? いや、今じゃない。サイと一緒に過ごすようになった俺はどうなった?

 文化祭では感情のままに相模を、文化祭実行委員たちを断罪した。

 奉仕部を守るために自分勝手に雪ノ下の正義感を模倣し、由比ヶ浜の雰囲気を纏って一色の依頼をこなし、サイを傷つけた。

 一緒に戦うことに固執し、サイを困らせ、『負の感情の乗った魔力』を浴びてピンチに陥らせた。

 わざわざ謝りに来た相模を怒りに身を任せて追い返した。

 何が『理性の化け物』だ。本能に、感情に振り回されて失敗してばかり。俺の中の化け物(理性)大切な物(サイ)を得て、牙を抜かれてしまったのだろう。なんか感情を得た化け物って恰好いいな、と現実逃避をしなければやっていられない。本当に、自分が情けなくなる。

「お、おい? どうしちまったんだよ、サイ」

「っ! やはり、サイという名前なんだな? そうなんだな!?」

「だからどうした!? てか、お前さっきからなんなんだよ! 意味わかんねぇんだよ!」

「知らないなら教えてやる! そいつは『三つの脅威』の一つ、数年前、魔界を――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――駄目えええええええええ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 金髪リーゼントの質問に答えようとしたアースだったがサイが絶叫しながら一気に跳躍してそれを止めた。まさか突っ込んでくるとは思わなかったのかアースは慌てて剣を拾い、サイの拳を受け止める。

「ッ! サイ、その剣には力を吸い取る力がある! あまり触れるな!」

「ああああああああああああああ!!」

 高嶺のアドバイスすらサイの耳には届いていないようで何度もアースへ拳を振るい、彼も顔を歪ませてそれを剣で受け止めた。まずい、このままではアースの剣にサイの力が吸い取られてガス欠を起こしてしまう。だが、高嶺の声も届いていない状況で俺の声すら届かない可能性が高い。なら――。

「『サシルド』!」

 ――強制的に壁を作る。

 いきなり目の前に群青色の盾が現れたことに驚いたサイは慌ててバックステップしてそれが『サシルド』だと気付き、俺の方へ振り返った。戦闘時間は1分未満だったのにすでに彼女は肩で息をしている。『サウルク』を使っていたら更に剣と接触していただろうから結果的にはよかったかもしれない。

「くっ……やはり、貴様を放っておくわけにはいかん! エリー、標的を変えても!?」

「あ、ああ!」

 『サシルド』が消え、アースと彼のパートナー――エリーの姿が見えた時にはすでに彼女の手に持つ魔本の光は大きくなっていた。

「サイ、落ち着いたか!?」

「え、あ……うん。ごめん、テッド。もう大丈夫」

「ったく……まぁ、いい。やるぞ、久しぶりのタッグマッチだ」

「向こうは一人でしょ」

 そう言いながらもサイはいつものように右手を背中に隠し、その隣でテッドがボクサーのような構えを取った。

 何が起きているのか。

 誰が何を知っているのか。

 敵は何を思っているのか。

 誰もが疑問を持ち、わけのわからない状況の中、戦いは再開される。




なお、一番置いて行かれているのはサイを知らず、アースの事情も知らず、バオウすら見たことのないジードなもよう。










今週の一言二言



・FGOでONILANDが始まりましたね。シトナイちゃん来ないです。今のところ、アルターエゴは全員持っているのでぜひコンプリートしたいところです。
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