やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.188 彼の事情を彼女たちは知らず、彼女の心情を彼は知らない

 テッドとの出会いから4日ほど過ぎ、暦は3月に突入していた。まぁ、だからといって急激に何か変わったわけではない。

 相変わらず昼間は教師の話を聞き流しながら『サジオ』のコントロールに集中し、夜は夜で『サジオ』の出力を強弱させつつ、サイと組手をする。そして、ベッドに転がって泥のように眠るサイクルを繰り返していた。

「それで? 言い訳はそれぐらいかしら?」

 夕焼けに染まる部室でいかに『サジオ』のコントロールが難しく、効果が切れた途端、疲れ果ててしまうか丁寧に雪ノ下に説明していたのだが、聞き終えた彼女は絶対零度の眼差しを俺に向けたまま、にっこりと笑って問いかける。その視線に俺はそっと顔を背け、心配そうにしている由比ヶ浜を見てしまう。しまった、背ける方向を間違えた。

 そう、とうとう2人に一日中、『サジオ』のコントロールをしていることがばれてしまったのである。それも情けないことに雪ノ下が淹れた紅茶が熱くて動揺した際に白いオーラが漏れてしまったのが原因。俺は悪くないんです、この猫舌な舌が悪いんです。こんな時に限ってサイはまた用事でどこかに行っており、部室にはいない。

「……はぁ。最近、妙に疲れていると思っていたけれどそんなことをしていたのね」

「まぁ……はい」

「本当に、大丈夫なの?」

 呆れたように手で額を押さえる雪ノ下に頷くと今度は由比ヶ浜が潤んだ瞳をこちらに向けて質問する。術の効果が切れた瞬間、立っていることすら億劫になるほど疲労してしまうと聞けば心配する気持ちもわからなくもない。だが、実際に『サジオ』のデメリットを何度も経験した身としては本当に疲れるだけなのでさほど気にしなくてもいいと思ってしまう。

「ああ、疲れるには疲れるが一日眠ればそれなりに回復するし、今後、『サジオ』は必要になる。だから一刻も早くコントロールできるようにならないといけないしな」

「必要になる? 今までも戦えていたのでしょう? サイさんもいるのだし」

「……」

 この戦いが始まってそれなりに時が過ぎた。生き残っている魔物の具体的な数はわからないがそこまで多くないだろう。そして、ただ運がよかっただけでこの戦いは生き残れない。だからこそ、ここまで生き残っている魔物たちには必ず理由がある。

 俺たちのように複数の魔物が組んで協力し合う。

 テッドやアースのように実力で戦い抜く。

 ゾフィスのように人間たちを利用してあくどく生き残る。

 その理由は様々だがそのほとんどが実力で生き残っている奴らだろう。

 協力し合えば生き残る確率はグンと高まるがこの戦いは最後の1人になるまで終わらないバトルロワイヤル。最終的に味方だけが生き残れば味方同士で戦わなければならず、お互いの手の内はほとんどばれている。そんな状態で戦えば勝つのは十中八九、高嶺たちのように司令塔だったペアか、どんな作戦でもねじ伏せられるほどの実力を持ったペア。頼れる仲間が一瞬にしてこちらの情報を全て知っている強敵へと変貌するのだ。

 つまり、組めば最後の方まで生き残られる可能性は高いが最後の1人になるためには手の内を知られている相手を倒すための作戦を思い付く地頭、その作戦を実行するための実力が必要になる。それと同時に相手がこちら以上の作戦を思い付かないことを祈るしかない。

 魔物たちの心情はその魔物によって違うが彼らの目的は共通して最後の1人(魔界の王様)になること。そんな危険を冒すぐらいなら最初から個人で戦った方がいいと考える魔物の方が多いだろう。

 また、ゾフィスのように悪事を働けば高嶺たちのように正義感の強いペアと対立する。バトルロワイヤルは最後の1人になればいいのでわざわざ敵を増やす必要はない上、悪事が世間に露見すれば世界そのものと戦わなければならない。たとえ、魔物の力が強力だとしても心の力は有限。数に物を言わせた物量で攻められれば勝つことはほぼ不可能だろう。

 だからこそ、ほとんどの魔物は個別に動き、戦っている。そして、ここまで生き残ってきたからこそ強い。そう、あのサイが遅れを取るほどに。

 サイの強みは術よりも彼女自身の身体能力と隠密スキルの高さ。彼女の魔力探知で敵の居場所を突き止め、優れた身体能力と隠密スキルを使った奇襲。これがサイの強みを使った理想的な戦い方だ。

 しかし、それだけでは倒せない。それほど現在生き残っている魔物たちは強い。

 それに加え、俺には『負の感情』の乗った魔力を浴びると異常をきたす体質がある。戦闘中に俺が倒れればその時点で俺たちの負けは確定。

 だから、俺は早急に『サジオ』のコントロールを完璧にして『負の感情』が乗った魔力に慣れなければならない。テッドたちのような強敵と戦うために、そしてそう遠くない未来(・・・・・・・・)、始まるであろう戦いのために。

「……きっと、私たちには言えない事情があるのでしょう」

 雪ノ下の問いに答えなかった俺を見てそっとため息を吐いた彼女は手に持っていた本をパタンと閉じた。その仕草がどこか失望しているように見え、すぐに彼女から目を離す。

 今のところ何の情報もない謎の建造物はまだしも、相模の件は未だに彼女たちに話していない。それだけじゃない。今までだって魔物に関することはほとんど雪ノ下たちに隠している。それが積もりに積もって俺に魔物に関することを聞いても無駄(・・)だと判断されたのだろう。

「すまん」

「別に謝って欲しいわけではないの。それにそういう事情があるならしばらくここには来ない方がいいわ」

「……は?」

 それを聞いて思わず声を漏らしてしまった。確かにここ数日、依頼人は来ていない。だが、だからといって『サジオ』のコントロールのために部活を休むのは違うだろう。むしろ、雪ノ下がそれを許さないと思っていた。由比ヶ浜も意外だったようで目を丸くして雪ノ下のことを見ている。

「無理して倒れられたら困るし、その、『サジオ』だったかしら? そのコントロールが上手くできるようになれば生き残る可能性が高くなるのよね?」

「あ、ああ……それはまぁ」

 現状、『サジオ』は『負の感情』が乗った魔力から身を守る防御壁として使っているが俺自身の強化もしてくれる。それを使えば魔物相手でもすぐに倒されない上、人間であれば気絶させることだって難しくはない。やはり、コントロールできるようになった方が生存確率はグッと高くなるだろう。

「それなら『サジオ』のコントロールができるようになるまで部活は休んでそっちに集中しなさい。平塚先生には私から上手く言っておくわ。由比ヶ浜さんも教室で彼のサポートをしてあげて」

「う、うん、それはもちろんいいけど……あ、そっか。最近のヒッキー、授業中ぼーっとしてること多かったけど『サジオ』のせいだったんだ」

「……いいのか?」

 今頃気付いたのかハッとする由比ヶ浜を無視して再度、雪ノ下に問う。人の目がある学校では『サジオ』の出力を極限にまで抑えることしかできないが家に帰れば自室にこもることができる。確かに部活に出ず、家に帰って『サジオ』のコントロールに集中した方が効率はいいだろう。

「もちろん『サジオ』のコントロールができるようになったら部活には出てもらうわ。サボることは許さないからそのつもりで」

「お、おう……なら、帰るわ」

 鋭い視線と共に釘を刺された俺は床に置いていた鞄を手に取り、立ち上がる。部室を出る前にチラリと振り返ると真剣な表情の雪ノ下と心配そうにこちらを見ている由比ヶ浜がいた。

「じゃあ、また」

「ええ、また」

「また、明日」

 どこかもやもやしたまま、俺は雪ノ下と由比ヶ浜に軽く挨拶して部室を後にする。学校の廊下は3月になったのに思わず身を震わせてしまうほど冷えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハチマン! ウマゴンがいなくなった!」

「……は?」

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