やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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あけましておめでとうございます。
今年も『俺ガッシュ』をよろしくお願いします。


LEVEL.190 結局のところ、彼らはお互い様である

「ん?」

 モチノキ町の駅に到着した俺たちは改札を抜け、サンビームさんの家に向かっていると不意にサイが何かに気付いたように声を漏らした。そして、急に走りだし、前方を歩いていた見覚えのある2人組へと駆け寄る。

「ティオ、メグちゃん!」

「あ、サイ。それに八幡も」

 サイの声でこちらを振り返ったティオが驚いたように目を丸くした。彼女の隣を歩いていた大海もサイを見た後、俺に視線を向け、少しだけ顔を強張らせる。え、なにその反応。ちょっと傷つくんだけど。最近、大海が忙しくてあまり連絡取っていなかったが何かしてしまったのだろうか。

「偶然だね」

「そうね。あ、お菓子とか買ってきたから後で食べましょ?」

 そう言いながらティオは笑顔で手に持っていたビニール袋をサイに見せた。今日の話し合いには日本に住んでいる高嶺、ガッシュ、大海、ティオ、サンビームさん、ウマゴン、俺たち8人の他に海外からわざわざフォルゴレとキャンチョメ、リィエン、ウォンレイ、ナゾナゾ博士が来る。総勢13名も集まるのだ、お菓子の量も自然と多くなる。その証拠にティオと大海が持っているビニール袋には大量のお菓子が詰め込まれていた。

「ほれ」

「え、あっ……あり、がと」

 それに気付いた俺はお兄ちゃんスキル『荷物持ち』が発動して大海に近づき、右手を差し出す。一瞬、差し出された手を見てキョトンとした大海だったがすぐにハッとしておずおずとビニール袋を渡してきた。同じようにティオからも荷物を受け取って話しながら歩き出したサイとティオの後ろをついていく。

「ごめんね、荷物持ってもらっちゃって……重くない?」

「普段ならきついだろうけど、今は『サジオ』使ってるから大丈夫だ」

 サイとティオが並んで歩いているからか俺の隣に移動した大海が申し訳なさそうに言うのに対し、少しだけ『サジオ』の出力を上げながら答えた。まだ完璧ではないとはいえ『サジオ』のコントロールの修行を始めてすでに2週間あまりが経過している。これぐらいの調整ならば話しながらでもできるようになった。

「『サジオ』ってあの八幡君を強化する術の?」

 大海はそう言って俺の全身を眺める。『サジオ』の白いオーラを探しているのだろう。だが、今の出力値では白いオーラは視認できないほど薄い。そうでなければこんな街中で『サジオ』の出力を上げたりしない。

「出力を抑えてるから白いのは見えないぞ」

「あ、そういえば『サジオ』をコントロールする特訓してるんだっけ? でも、『サジオ』が解除されたら倒れちゃうんじゃなかった?」

「確かに疲れるけど解除されるまでは平気だし、倒れるほどじゃない。連続で『サジオ』を使えばわからんけど」

 千年前の魔物との戦いで倒れたのも『サジオ』を何度も使ったせいで疲労が蓄積され、過労状態になってしまったせいだ。一日一回解除するだけならしっかりと睡眠を取れば次の日には『あー、疲れてるなぁ』程度にまで回復する。常に『サジオ』のコントロールに意識を向けていなければならないのでどちらかといえば肉体的疲労よりも精神的疲労の方が激しい。

「そっか……無茶だけはしないでね」

「ああ、わかってる」

 心配そうにこちらを見つめる大海に頷いてみせた。きっと、『サジオ』のせいで倒れでもしたら最初から『サジオ』の特訓に否定的だったサイに『サジオ』禁止令を出させてしまう。

 そこで会話が途切れ、楽しそうに話すサイとティオの後を黙ってついていく。大海とはこうやって顔を合わせるのが久しぶりだからか少しだけ気まずい空気が流れた。

「あー……最近、どうだ? 忙しいんだろ?」

 その空気に耐え切れず、親戚のおじさんのような質問をしてしまう。まさか俺の方から話し出すとは思わなかったようでビクッと肩を震わせた大海だったがすぐに苦笑を浮かべた。

「まぁ、ね。あの戦いで数日休んだ時の仕事とか残ってて」

 千年前の戦いに参加するために大海は事務所に数日間、休みをもらっている。一応、参加する前に可能な限り、仕事を消化したらしいが彼女は大人気アイドル。次から次へと仕事は増え、今もなお、忙しいそうだ。

「大変だな」

「それに来週、海外で撮影があるからその準備もあって。1週間も海外に行くからそのためにできるだけ仕事を、ね」

「それは……大変だな」

 生憎、仕事らしい仕事はバイト(しかも数か月で辞めた)ぐらいしかしたことがないので彼女の大変さに共感することはできない。そのせいでそんな陳腐な感想しか言えなかった。

「その間、ティオはどうすんだ? 一緒に連れて行くのか?」

「さすがに1週間は長いから連れて行けなくて……清麿君の家に預けて貰えるように頼んだよ」

 『最初は八幡君に頼もうと思ってたけどね』と残念そうに呟く大海。仲間の中でティオと一番仲がいいのはサイだ。だからこそ俺に頼もうと思ったのだろう。しかし、俺の家は両親が共働きであり、俺と小町も日中は学校で家にいない。そんな家にサイとティオを置いていくより高嶺の家の方が安全だろう。確か高嶺の母親はパートだが両親のような社畜ではないし、サイもサイで何だかんだいって1人でどこかに行く。それならばガッシュやウマゴンと一緒に公園で遊んだ方がティオもいいだろう。

「……」

「……」

 再び沈黙。やはりというべきか今日の話し合いの議題が議題なので少しばかり気持ちは沈んでいる。サイもティオと話しているが主に喋っているのはティオであり、サイの表情はどこか固かった。今回の情報提供者はサイなので俺たち以上に緊張しているのかもしれない。

「あの、建造物」

「あ?」

「ほんとうに、何なのかしら。今ではもう見えないんだよね?」

「そうらしいな」

 あの謎の建造物が撮影されたのはユーラシア大陸北部にあるレスカ山脈。あれだけ巨大な建造物だ。よほど節穴でなければレスカ山脈近くから見えるだろう。しかし、現在、謎の建造物はレスカ山脈から姿を消し、それ以降、目撃情報は一切なかった。

 もちろん、レスカ山脈周辺の探索はしたらしいがそれでも見つかっていない。ただ透明になっただけ、とも考えたがそれなら探索に使用したヘリコプターが建造物に激突していたはずだ。それすらないということはレスカ山脈からどこからへ移動したか、物体をすり抜けるステルス機能があるか、あの建造物そのものが幻覚だったとしか考えられない。

「とにかく少しだけ情報が出てくるからそれを聞いてから考えた方がいい」

「情報? 清麿君がそう言ってたの?」

「いや……」

 大海の問いに俺は思わず前を歩くサイの背中を見つめてしまう。それだけ情報提供者がサイだと気付いたのか彼女は目を丸くした後、どこか納得したように視線を落とした。

「そういえば、あの時、サイちゃん何かに気付いてたよね? でも――」

 そこで大海は言葉を区切った。きっと、『あの時、言わなかったのにどうして今になって情報を提供したのか』と言いたいのだろう。彼女もサイが自分の過去と俺が危険な目に遭いそうなことを隠す傾向にあることを知っている。だからこそ、サイが話したことに驚いていた。

「この前戦った魔物が建造物について言ってたからな。それで話す気になったんだろ。まだまだそれがどんな情報なのか知らんが」

「え、じゃあ、なんで……」

「高嶺に相談したんだと」

「ッ……」

 自分でも驚くほど他人事のようにそんな言葉が漏れた。それを聞いた大海が唖然とした後、どこか苦しげに奥歯を噛み締める。

「八幡君は、それでいいの?」

「俺より高嶺に相談した方が早いだろ」

「そうじゃなくて!」

「……ほら、置いて行かれる。早く行こうぜ」

「八幡君!」

 話すのに夢中になっていたようで気付けばサイとティオは随分先を歩いていた。だから、というわけではないが俺は歩くスピードを上げる。後ろから大海の声が耳に届くが意図的に無視した。

 確かに高嶺に話した方が早いとはいえそれに対し、俺が何も感じなかったわけではない。サイが何かと隠し事をすることを知っていたとしても納得できたわけじゃない。

 だが、隠し事をしているのは俺も同じ。話していいものか、情報がなさすぎて判断すらできなかったとしても俺がそれを誰にも話していないのは事実だ。

 だから、おあいこ。隠し事をしている俺がサイに何か言う権利はない。ただそれだけの話である。

(今日の話し合いで何かわかればいいが)

 そんな淡い期待を胸に抱きながら駆け足で追いかけてくる大海をどうはぐらかそうか悩み、そっとため息を吐いた。


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