やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

194 / 257
LEVEL.191 彼は彼女の過去に繋がる鍵を見つける

「……」

「……」

 サンビームさんが借りているアパートに辿り着いた俺たちだったが、今の状況に困惑を隠せない。いや、マジで早く誰か帰って来て。そろそろ伝家の宝刀、『机に突っ伏して寝た振り』を使ってしまいそうになるから。

「……」

「……OH」

 目の前に座るやたらと胸のでかく、きわどい服を着ている外人の女も俺と同じように気まずいのか冷や汗を流しながらそっと目を逸らした。気まずいだけだよね? なんか目が合った瞬間、ビクッとしていたけど俺の目が腐っていてそれにビビっているとかじゃないよね?

「ただいまー」

 どうしたものかと悩んでいると玄関の方から愛しきパートナーの可愛らしい声が響いた。それから間もなくして先ほどと同じようにいくつものビニール袋を持ったサイ、大海、ティオの3人が居間へと姿を現す。話し合いの間に食べられるようにと大量のお菓子を買ってきたはいいが、飲み物のことをすっかり忘れており、近くのコンビニまで買いに行っていたのだ。

「……何してんの?」

「いや、なにも……それより、それ冷蔵庫に入れるんだろ? 手伝うわ」

「ううん、こっちは大丈夫だから。八幡君はゆっくりしてて」

 ティオのジト目から顔を背けながら立ち上がろうとするがそっと両肩を大海に押さえられて強制的に座らされてしまう。『サジオ』の特訓のことを話したせいで何故か大海が俺に対して過保護気味になってしまったのである。

 そのため、飲み物を買いに行く時も俺と外人の女――ビッグ・ボインに留守番を任せて3人で出かけてしまったのだ。因みに高嶺とガッシュはキャンチョメとフォルゴレ、ウォンレイ、リィエンの迎えに、ナゾナゾ博士は別室で休んでいる。なんでもまた高嶺をからかって(『ザケル』)を受けたらしい。

「……」

「……」

 飲み物が入ったビニール袋を携えて台所へと消えていった3人。そして、再び俺とビッグ・ボインが居間に取り残される。チクタクと壁に掛けられた時計が時を刻む音が異様なほど部屋に響く。

 もはや、ここは地獄だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなでキャンチョメたちを迎えに行った高嶺たちが帰宅し、休んでいた真っ黒こげのナゾナゾ博士が居間に姿を現し、北海道で魔物と戦い、ボロボロになってしまったサンビームさんとウマゴンが帰って来て謎の建造物に関する話し合いが始まった。なお、ナゾナゾ博士が来た途端、ビッグ・ボインは彼の背中に隠れ、それだけで状況を察したナゾナゾ博士が大笑いしてサイから軽めのボディブロー(それでも大人の男が軽く宙に浮くほどの威力)を受けていた。

「それで、『魔界の建造物』とはこの間、ニュースでやってた」

「ウヌ、そうなのだ」

 全員が着席し、飲み物が行き渡ったところでサンビームさんが質問すると頷くガッシュ。しかし、サンビームさんとガッシュの会話を聞いてキャンチョメ、フォルゴレ、ウォンレイ、リィエンの外国組が首を傾げている。どうやら、ニュースそのものを見ていないらしい。

「何があったんだ、ガッシュ?」

「ウヌウ、アースとかいう魔物と戦っての。その者が『魔界のキョウイ』とか言っておったのだ」

「その言葉を信じるならあの建造物は魔界と関係があることは間違いない。問題はその時に言った、『貴公達の目にはあれが建造物としか映らぬか?』という言葉」

「つまり、あの建造物はただの建造物ではない、別の何か。それを皆で見極めようというのだ」

 キャンチョメの問いに再びガッシュが答え、それに続くように高嶺とナゾナゾ博士が今日の趣旨を説明する。頭脳担当である高嶺とナゾナゾ博士が真剣な眼差しで言ったからか他の皆も姿勢を正した。

「……」

 そんな中、俺は思わずサイの方をチラリと見てしまう。確かにあの建造物について話し合う必要はある。しかし、アースが言っていたのはあの建造物のことだけではない。ガッシュの『バオウ』、謎の建造物――そして、サイ。この三つを合わせて『魔界の脅威』と呼んでいた。それを話題に出さないのは少しおかしい気がする。後で言うつもりなのか。それとも今日は触れないつもりなのか。もう少し様子を見て必要そうならば俺から言ってもいいかもしれない。さすがに言わないままでいるのはまずい気がする。

「そんなニュースがあったあるなんて」

「ああ、家にテレビはないからな」

「へへへ、僕たちも気付かなかったよ」

「大スターは大忙しだからな」

 ティオがビデオデッキにVHSのテープを入れた後、リモコンを操作して件の建造物が映るところまで早送りする高嶺。それを見ながら建造物を見たことがない外国組がそれぞれ感想を漏らした。テレビがないウォンレイとリィエンはともかく大スターならもう少し世間の目を気にした方がいいと思うのは俺だけだろうか。

「よし、ストップ。これだ」

 高嶺の声に全員がテレビに視線を向けるとそこにはあの日、ニュースで話題にされていた建造物が映っていた。改めて見てもこの巨大さは異常だ。初めて見た外国組も予想以上の大きさに目を大きく見開いている。

「ティオやキャンチョメ、ウォンレイは魔界でこれを見たことはあるか?」

 数秒ほど時間を置いて高嶺が3人に質問すると全員、首を振って見たことがないと答えた。ガッシュは魔界の頃の記憶はなく、ウマゴンは幼すぎる。サイは事前に高嶺に聞かれているだろうから質問されなかったのだろう。

「ふむ、では次はこれを見て欲しい。この画像を拡大したものだ。これを参考にしながらこの建造物が何なのか話し合おう」

 そういいながらテーブルの上に置いてあった封筒から複数の紙を取り出し、皆に配り始めるナゾナゾ博士。俺にも回ってきたので紙を見れば丁度、建造物の上の部分――ドーム状のところを拡大したものだった。テレビで見た時は気付かなかったが、家らしきものが映っていた。

「これ……家、だよな?」

「うん、魔界の家ってこんな感じよ」

「じゃあ、これは街? でも、なんで建造物の上に街が……」

「……あッ!?」

 資料を眺めながら高嶺とティオの会話を聞いていると不意にキャンチョメが悲鳴を上げた。何だろうと目を向けると彼はテレビを見ながらダラダラと冷や汗を流している。

「ん? どーした、キャンチョメ」

「い、いや、なんでもないよ」

 フォルゴレに聞かれ、慌てたように誤魔化すキャンチョメを見て俺とサイは自然と目が合った。おそらくキャンチョメは何かに気付いたのだろう。しかも、拡大していないニュースの映像だけで。

「サイ」

「ううん、絶対に違う。私の知ってることとキャンチョメが気付いたことは間違いなく別のこと。ハチマン、そろそろ次に行くからキャンチョメのこと見ててくれない?」

「ああ、わかった」

 人の表情を読むのに長けている俺たちは小声で会話し、そのままサイが立ち上がって高嶺の肩を叩いた。それが合図だったのだろう。すぐに高嶺も立ち上がって2人は連れだってテレビの横に移動した。

「皆、聞いてくれ。実はサイがこの映像を見て気付いたことがあるんだ」

 そんな高嶺の言葉に事前に話を聞いていた俺と大海以外が目を丸くした。どうやら、ナゾナゾ博士にも言っていなかったようで彼も『どういうことだ?』という視線をテレビの横にいる2人に向けている。

「まぁ、気付いたことっていうか……知ってる物が映ってただけなんだけど。ナゾナゾ博士も資料を作ってる間に見てるはずだよ」

「ふむ、それは何なのかね?」

「これだよ」

 そう言ってサイが持っていた資料を皆に見せた。そこには画像は荒いがそこには鍵穴のようなものが映っている。これがサイの気付いたもの。そして、それを聞いたキャンチョメは冷や汗を流しながらも特に反応はしていない。やはり、サイの予想どおり、彼らの気付いた点は違うのだろう。

「映像でいえばここ――柱と家が建ってる部分の境目にある、この鍵穴。これはただの模様でも装飾でもない。意味のあるもの」

「……その意味、とは?」

「封印だよ。この建造物は魔界で封印されてたの」

 そう答えたサイは目を伏せて右手で左腕を掴んだ。まるで、自分の体を抱きしめるように。

 それだけで俺は気付いてしまった。この『鍵穴』こそ、サイが俺に相談しなかった理由――サイの過去に繋がる鍵なのだと。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。