やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
「『アムロン』!」
「おお!? 凄え勢いで腕が伸びた!?」
シスターが呪文を唱えるとモモンの右腕が凄まじい勢いで伸び、ティオたちへと迫る。予想外の術に体育座りしていた高嶺も思わず、前のめりになって驚愕した。
「さぁ、モモン! あの人の本を奪うの!」
腕が伸びるという術に体を硬直させたため、ティオと大海は完全に出遅れている。これではあの腕を回避することはできないだろう。シスターの指示通り、この戦いはモモンが大海の持つ魔本を奪って終わ――。
「……」
――るかと思ったがモモンの右手はティオのスカートを捲り、その勢いでスカートは大きく捲れ上がり、俺たちにその中身を曝け出した。
「……わあああああああ!?」
「違います! 本を奪うのです!」
捲れ上がったスカートを慌てて抑えるティオと何度もモモンの頭を叩いて叱るシスター。なんというか、ここまで馬鹿馬鹿しい魔物同士の戦いは類を見ないのではないだろうか。サイも呆れたように溜息を吐いているし。
「……ティオ、俺たち、席を外そうか?」
「「イイエ! ここにいて!」」
高嶺もこれ以上、ティオのパンツが曝されることを危惧したようで気を利かせてそう提案したがそれを拒否したのは大海とシスターだった。まぁ、ティオは完全に切れているし、シスターも初戦がこれでは不安にもなるだろう。あんなに泣いているし。
「……どうする?」
「いてあげよっか……」
さすがに
「わ、わわ!? 恵、あのサルを私に近づけさせないで!」
「『セウシル』!」
何度も『サイス』を連発するがその全てを回避され、少しずつ接近される状況に恐怖を抱いたのか、ティオは慌てて指示を出す。大海もティオに逆らう気はないのか『
「ぶ、ぶつかる! 『アグラルク』!」
それを見たシスターが咄嗟に呪文を唱えるとモモンの体はその場で急降下し、地面に沈んでいった。
「え!? 地面に飛び――きゃあああああ!?」
まさか地面の中に消えるとは思わなかったのか、目を見開くティオだったがいつの間にかティオの背後の地面から飛び出したモモンにスカートを持ち上げられ、悲鳴を上げる。
「あの術、地面の中を自由に移動できるみたいだね」
「ああ、使い道さえ間違わなければかなり使えるぞ」
「うん、あれは完全に間違った使い道だね」
モモンはサイと同じように魔物の居場所を探知できる能力がある。『魔力探知』で敵の居場所を特定し、『アグラルク』で地面の中を移動すれば不意を突くことができるだろう。そう、少なくともスカート捲りに使うためのものではないことは確かである。
「こ、のおおおおおお!」
乱暴にスカートを掴むモモンの手を振りほどき、鬼のような形相で殴りかかった。この距離ではあの拳は回避できない。今度こそティオの怒りの一撃が当たる。そう思われた時だった。
「あ、危ない! 『オラ・ノロジオ』!」
シスターが呪文を唱え、モモンの両手から光線が放たれてティオに直撃する。今まで術をスカート捲りにしか使ってこなかったので俺もサイも油断していた。まさかこのタイミングで、しかも今まで暴力はいけないと訴えていたシスターが攻撃呪文を使うとは思わなかったのである。
「……あれ」
しかし、ティオの様子がおかしいことに気づき、思わず声を漏らしてしまう。攻撃呪文の直撃を受けたのに彼女の体は吹き飛びもせず、むしろ殴りかかった状態で
「ティオの動きがゆっくりになってる……もしかしてあの呪文、光線が当たったものの時間をゆっくりにする?」
サイの驚いたような声を証明するようにティオの拳はスロー再生のようにゆっくりとした速度でモモンへと迫っている。そんな様子を鼻をほじりながら見ていたモモンは徐に殴った拍子に大きくスカートが翻ったティオに背後に回った。そして、パンツが見える位置で体育座りをしてジーっと彼女の子供パンツを観察する。おい、あいつマジでやばいぞ。あんな強力な術をパンツを見ることにしか使わない。サイもエロザルのエロ魂を見て軽く恐怖心を抱いているのか顔を青ざめさせていた。
「……」
しかし、モモンのエロ魂はパンツを見るだけでは収まらなかったのか、右手の人差し指でティオのお尻をツンツンと突っつき、にっこりと満面の笑みを浮かべた。
「ごふっ」
「は、ハチマン!?」
その瞬間、ティオから放たれる『負の感情』が爆発し、俺は口から血を吐きながらその場で膝を突く。慌てて駆け寄ってくるサイに背中を擦られながら袖で血を拭う。今のティオはやばい。彼女の魔力量はさほど多くないがそれ以上に『負の感情』が強すぎて『サジオ』の出力を最大にしなければ俺の体が壊れてしまう。この戦い、長引かせたらまずい。何故か関係のない俺の命的な意味で。
「ごめんなさい、ティオちゃん! 私、そんな術とは知らなかったの、許してください!」
嬉しそうに耳をピコピコ動かしているモモンに対し、シスターは真っ青な顔でティオに許しを請う。それにしても術の効果を知らない? それってまさか――。
「やっぱり、さっきから様子がおかしいと思ったら……持ってる呪文の効果をほとんど知らないのね」
「オヨヨぉ……」
大海が指摘するとシスターは誤魔化すようにさっと魔本で顔を隠した。マジか、魔物と会ったことはないどころか呪文の効果すら知らないのは予想外だった。つまり、彼女は今まで目に付いた呪文を唱え、その効果をモモンが即座に理解し、スカート捲りのために使っていた、と。なんというか……爆弾みたいな奴らだ。
「ギャジャああああああ!」
「キキィいいいいい!」
『オラ・ノロジオ』の効果が切れたティオが獣のような雄叫びを上げながらモモンの顔面をぶん殴る。お尻を突っつくことに夢中だったモモンは反応できずに吹き飛ばされ、シスターの傍に落ちた。
「ハチマン、大丈夫?」
「あ、ああ……」
サイの手を借りながら立ち上がるがこれ以上、ティオの怒りのボルテージが上がれば『サジオ』の魔力抵抗を突破されてしまう。今も白いオーラが強風に煽られるように揺れている。
「みんなも変な分析してないで助けなさいよおおおおおお!」
「ごっふ……」
せっかく立ち上がったのにティオの怒りの矛先が僅かにこちらに向いたせいで再び吐血。やめて、もう八幡のライフはゼロよ。サイも『サルフォジオ』を使うために泣きそうになりながら俺の鞄から魔本を取り出し始めた。
「ティオ、パンツを見られただけであろう。そう怒るでない」
「がああああああああああ!」
「ガッシュ、ティオを煽るのはやめて! ハチマンが死んじゃうからぁ!」
「八幡君!? ティオ、ダメ! 落ち着いて、ここままじゃ八幡君が!」
ガッシュの一言にティオが絶叫し、サイが悲鳴をあげる。そして、やっと俺が満身創痍だと気づいた大海がティオを落ち着かせようと声をかけるがすでに大海の声が聞こえなくなるほど切れているのかティオは何故かモモンではなく、サイの方へ視線を向けた。
「サイ……そうよ、サイなら、女の子ならわかるでしょう? この屈辱が……この怒りが……この憎しみが……」
「え、あ……うん。まぁ……いや、今はそれより――」
「――なら、助けてくれてもいいじゃない。あのサルを殺すのを手伝ってくれてもいいじゃない。だって、私たち……
「……え?」
ティオの言葉を聞いたサイは魔本を俺に渡そうとしていた手を止め、顔を上げる。そこには左右に揺れながらサイへ手を差し伸べる
「親、友?」
「ええ、親友。これまでたくさん一緒に遊んで、戦った親友でしょう。だから、サイ……手伝って? あのサルを捕まえて、ぶっ飛ばして、この世から葬り去るの。こんなこと、親友のサイにしか頼めないの。だから、お願い」
「……ッ!?」
しばらくティオの言葉を飲み込めなかったのか、茫然としていたサイだったが彼女の言葉を理解した瞬間、その手に持つ魔本から凄まじい光が漏れ始める。やめろ、ティオ。
いや、俺たちの魔本だけじゃない。大海の魔本も同じように強い光を放っていた。放心状態のサイから震える手で魔本を奪い、慌ててページを捲る。
「ああ、憎い。あのサルが憎い……でも、サイと一緒ならあのサルを葬れる。やっと、あのサルとおさらばできる。あは、あはははははははははははははは!!」
「親友……親友……えへ、えへへ。親友……えへへへへ」
ティオが気が狂ったように笑い始め、いつの間に彼女の隣に移動してサイも緩み切った頬に手を当ててくねくねと体を動かしながらぶつぶつと呟く。完全にティオの親友発言に心を奪われているようだ。哀れ、ハイル。友達の座だけでなく、親友の座もティオに奪われたぞ。
そんな中、やっと見つけた。急いで顔を上げ、大海を見ると彼女も俺の方を見ている。そして、ほぼ同時に頷いた。どうやら、向こうも同じらしい。新呪文の発現だ。
生まれたての小鹿のように震える足を懸命に動かして立ち上がり、サイの背後に――大海の隣に移動する。
「八幡君、まさか」
「ああ、そっちもだろ?」
「うん……だけど……」
大海は冷や汗を流しながら魔本へと視線を落とす。そりゃ、あんな状態のティオを見れば唱えるのも躊躇われる。いや、絶対にやばい術だ。それだけはわかる。小さく溜息を吐きながら今もなお、体をもじもじさせているサイへと声をかけた。
「サイ」
「えへ、なぁに? ハチマン」
「新しい呪文だ。強そうなのと弱そうなの、どっちがいい?」
「強そうな方!」
「へいへい」
ティオの親友発言はサイにとって衝撃的なことだったのか、こちらはなんと新呪文が二つも発現していた。でもなぁ、ティオとは違った意味でこっちも唱えるのが怖いなぁ。サイ、完全にイっちゃっているし。絶対、ろくでもない呪文だぞ、これ。
「もうだめ、あの女の子たち、私たちを殺す気でいるわ! 神様、どうか私にお力を! どんな術かわかりませんがこの一番強そうな呪文であの女の子の怒りをお鎮めください!」
呪文を唱えるのを躊躇っている間にシスターも覚悟を決めたのか魔本に心の力を注ぎ始める。その光の強さに俺は思わず、目を見開いてしまった。これは、まさか本当に攻撃呪文か?
「……」
「……」
俺と大海は顔を見合わせ、諦めたように魔本に心の力を注ぐ。シスターがどんな術を使ってくるかわからない上、このまま黙っていればティオの怒りが俺に向くかもしれない。下手するとサイもティオの味方をするだろう。もう、唱えるしか道はない。俺の命が危ないから。
「ガッシュ、三人の術に注意しろ! いつでも相殺できるように!」
高嶺も俺たちの様子にただ事ではないと思ったのか魔本を取り出してガッシュに指示を出した。まさかスカート捲りがこんな修羅場に発展するとは思わなかった。これも全てあのエロザルのせいである。
今もなお、ティオのパンツを持ちながらへらへらと笑っているモモンを睨みながら――。
「第六の術、『チャージル・サイフォドン』!」
「『ミンフェイ・ミミルグ』!」
「第
――俺たちはほぼ同時に呪文を唱えた。