やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.202 何も決まらず、事態は急変する

「……」

「――ン」

「……」

「ハチマンってば!」

「ッ……お、おう。なんだ?」

 耳元で大きな声で呼ばれ、慌ててそちらを見るとエプロン姿のサイが少しばかり怒った様子で俺を見ていた。相変わらず可愛らしいその姿に安心(・・)して思わず頬を緩ませてしまう。

「もう、何にやけてるの? お昼、おうどんかおそばどっちがいいか聞いてるんだけど」

「あー、じゃあうどんで」

「うん……ねぇ、ハチマン」

 注文を聞いて踵を返そうとしたサイだったがその途中で足を止めてこちらを見据える。その探るような目に耐え切れず、俺は手に持っていた携帯に視線を落とした。

「何か、あったの? ここ数日、ずっとぼーっとしてるけど」

「……いや、特に」

「……そう」

 俺の返答にサイは寂しげな表情を浮かべ、台所へと消えていく。俺が隠し事をしていることなど彼女にはお見通しなのだろう。

 だが、言えない。言えるわけがない。正直、あの手紙(・・・・・)に書かれていたことが真実なのか確証はない。しかし、もし、あの内容が本当だった場合、サイにだけは言ってはならない。彼女に知られれば何をするかわかったものではないから。

「……」

 ハイルとの密会から数日過ぎた今になっても答えは出ていなかった。リオウという魔物の仲間になるのもそうだが、断ることすらできていない。それだけあの手紙の内容が問題だった。

 幸い、あの手紙を読んだハイルがリオウに文句を言いに行くと言って返事を待ってくれたこと。また、何かわかったことがあったらすぐに知らせてくれると言ってくれたこと。さすがにこればかりは他の人に相談するわけにもいかず、現状、ハイルからの情報待ちである。まぁ、リオウもサポート主体のサイの力を借りようとするぐらいなのでそれなりに切羽詰まっているのだろう。少しぐらい待たせても問題はないはず。

「……ん?」

 そう、考えていた時だった。不意に手に持っていた携帯が震え、着信を知らせてくれる。その画面に映し出された名前は『高嶺 清麿』。

「……もしもし」

 珍しく俺の携帯が鳴ったので何事かと台所から顔を覗かせるサイを尻目に電話に出る。嫌な予感が脳裏を過ぎったせいか出た声は掠れていた。

『八幡さん、今大丈夫か? 緊急事態だ』

 いつになく深刻そうな高嶺の声に俺の予感が的中したことを悟った。そして、その内容を聞いて覚悟を決めなければならないことも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、あの謎の建造物は『ファウード』って言って……リオウという魔物がその封印を解くために力を集めてるってこと?」

「ああ、それでウォンレイたちもそのリオウの仲間になったそうだ」

 自室でボストンバッグに着替えを突っ込みながらサイに事情を説明する。高嶺からの電話は新しく手に入った建造物に纏わる情報だった。それはハイルの情報よりも劣っていたが無視できない内容がいくつかあった。その一つが千年前の魔物たちとの戦いで共に戦ったウォンレイとリィエンが誘拐されたことである。

「でも、どうしてウォンレイたちがリオウとかいう魔物の仲間に? 力を求めるようなタイプじゃないでしょ」

「……リオウは『呪い』を使うらしい。その『呪い』をウォンレイかリィエンにかけた」

「ッ……それって人質ってこと!?」

 驚きのあまり、サイは台所から持ってきた二つの水筒を床に落としてしまう。ハイルがリオウは目的のためならばどんな手段でも使うと言っていたがまさか『呪い』というオカルトを使ってくるとは思わなかった。

「それで……その呪いはどんな効果があるの?」

「あと4日の内に『ファウード』の封印が解けなければ呪いをかけられた人は死ぬ。ウォンレイたちの他にも何人かいるみたいだ」

 そして、もう一つの新情報こそこの『呪い』である。どうやら『呪い』はリオウの術ではなく、『魔力探知』やハイルの飛行能力のような魔物個人の特殊能力らしい。そんなものを使えるとわかればあの手紙の内容も無視できない。

(ただ……)

 気になるのはその情報を高嶺に教えた情報提供者のことである。高嶺が言うには不気味な姿をした人形のようなものだったらしいが正体を問い詰める前にその場から消えてしまったそうだ。その人形は『ファウード』が巨大な魔物だと教えてなかったのも気になる。

「だから、今日中に出発する。それだけ時間がないってことだ」

「……許せない」

 とりあえず、情報提供者に関しては今のところ、どうすることもできないので保留にする。

 小さく息を突いた後、数日分の着替えを詰め終わったので地面に転がっていた水筒をリュックサックに入れた。その時、不意にサイの低い声が耳に飛び込んでくる。顔を上げると彼女は可愛らしい顔を歪ませていた。

「許さない。自分の目的のために人の命すら利用するなんて……絶対にリィエンたちを助けてみせる」

「……」

 そんな彼女の姿を見て俺は思わず奥歯を噛み締める。ああ、わかっていた。仲間を人質に取られれば身内に異常な執着をみせるサイがこうなることぐらい、容易に想像できた。だからこそ、俺もハイルもあの手紙の内容は黙っていようと決めたのだ。

「サイ、すまないが俺たちが海外に行くことを親父たちに伝えてくれ。俺から言うよりも説得しやすいだろうし」

「うん、わかった。突然、友達から旅行に誘われたってことにしておく」

 相変わらずの社畜な両親だが、サイや小町からの電話には必ずと言っていいほど出る。いや、そもそも俺から電話を掛けることがなかったわ。まぁ、信用度に関しては俺よりもサイの方が確実に高いので大丈夫だろう。

(問題は……)

 幸い、ハイルはリオウのように『ファウード』の力を手に入れようとしているのではなく、サイゼで言ったように純粋に俺とサイを助けようとしてくれているので彼女とは協力できるはず。あとは『ファウード』の封印を解くまでの動き方とその後の立ち振る舞い方。

(考えろ……考えるんだ)

 あの手紙の内容からしてサイにすら相談できず、事情を知る味方はリオウ側であるハイルのみ。そんな状況の中、『ファウード』の封印を解き、『呪い』をかけられた人を助け出しながらリオウたち『ファウード』の力を求める魔物と巨大な魔物である『ファウード』本体をどうにかしなければならない。そんなことできるのか? 高嶺のような天才でもなく、サイのように絶対的な強さを持っているわけでもなく、誰かに助けを求められるような人脈もないただのぼっちであるこの俺に。

「……」

 とりあえず、ハイルが味方であることは間違いない……というより彼女すら敵だったら完全に詰みだ。こればかりは希望的観測になるが致し方ない。

 とにかく今は情報が欲しい。どんな些細なことでも構わない。判断材料になるような情報さえ手に入れば今後の方針を決めることができる。そんな僅かな希望を手にするために出発の準備を進める手を止め、俺は珍しく長文を打ち込み、ハイルへとメールを送信した。








次回からサイ視点で物語が進みます。
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