やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.203 仲間を助けるために彼の気持ちを踏み躙る

 お昼頃に出発準備を始め、ハチマンパパとハチマンママに連絡するなど色々とやっているうちにそれなりに時間が経ち、空港に着いた頃には空はすっかり夕焼け色に染まっていた。

「遅くなっちゃったね。もう皆、着いてるかな?」

「どうだろうな。高嶺の話じゃ最後に連絡を取ったのは俺たちみたいだし、揃ってるんじゃね?」

 そう言いながらハチマンは大きなボストンバッグを肩に掛けなおし、スマホの画面に視線を落とす。どうやらキヨマロに空港に着いたことを報告するつもりらしい。空港集合とは聞いたが具体的な場所まで知らされていなかった。

「……はぁ」

 スマホを操作するハチマンをちらりと見上げ、小さく溜息を吐く。ここ数日、ハチマンの様子がおかしかった。何か隠し事をしているのは間違いない。そして、私が気づいていることにハチマンも気づいている。普段なら私にばれた時点で白状していたのに今回ばかりは頑なに話そうとしなかった。誰かに口止めされているのか。また、私に話すほどのことでもないのか、それとも私だけには話してはならないと判断したのか。

 気にならないと言えば嘘になる。しかし、隠し事をしているのは私も同じで……ハチマンはこれまで私が隠そうとしたことを無理やり聞き出そうとしなかった。特に私の過去について、彼は私が話すのを待ってくれている。

 それなのに私がハチマンの隠し事を無理やり聞き出そうとするのはあまりに卑怯だ。

 彼の優しさに甘え、過去を隠しながら彼の秘密を暴こうとするのはあまりに傲慢だ。

 だから、私は言えない。暴けない。動けない。

 ハチマンと出会ってからこれまで隠し事(ズル)しかしてこなかった私にそんな資格はないのだから。

「……あっちみたいだな」

 そんな自己嫌悪に陥っているとキヨマロと連絡が取れたのか、スマホをポケットに仕舞った後、上の階に昇るエスカレーターへ向かうハチマン。慌てて私も軽くジャンプしてリュックサックを背負いなおしてから彼の後を追う。

 それから広い空港内をキョロキョロしながら歩き、ソファとテーブルが置いてある場所に出た。窓の外を見れば飛行機が飛び立つところがよく見えるので飛行機の時間まで待機する場所なのだろう。

「……あそこ、みたいだね」

「ああ」

 そんな場所で何やら騒がしい一団がいることに気づき、私とハチマンは何となく足を止めてしまった。こんな閑散としたところであれだけ騒いでいるのだ。なんというか、あそこに突撃するのが躊躇われる。しかし、こんなところで立ち止まっていても仕方ないので私はとりあえず、あの一団から離れた場所で話しているキヨマロとアポロへと向かった。

「キヨマロ、アポロ」

「お、サイ。それに八幡さんも……急にすまなかった」

「ううん、仕方ないよ。それで……あれは?」

 そう言って目を逸らしていた一団――大声で何かを喚きながらモモンをタコ殴りにしているティオたちを指さす。どうやら、キャンチョメとフォルゴレはまだ到着していないようで一つのテーブルを囲むようにガッシュ、ティオ、メグちゃん、ウマゴン、サンビームさん、モモン、シスターがソファに座っている。いや、殴っているティオを止めようとガッシュとメグちゃんが立ち上がっていた。ティオはモモンを殴るためにテーブルに乗っているし。なんというか、カオスという言葉が当てはまる状況だった。

「あー……モモンが『ファウード』の場所を教えてくれないんだ」

「キヨマロ、手続きもあるんだ。なんとか30分で頼む」

「すまない、アポロ」

 そう言ったアポロは腕時計を見て少しだけ焦った様子で少し離れた場所でガッシュたちを眺めていたナゾナゾ博士の元へ移動する。

「キャンチョメとフォルゴレは?」

「日本には着いてるはずなんだが……一向に姿を現さない。何かトラブルでもあったのか?」

 心配そうに外を眺めていたキヨマロだが『とにかく今はモモンだ』と騒がしい一団へと合流する。私もキヨマロの後を追うがハチマンは何故か立ち止まったままだった。気になって振り返るが面倒くさそうな顔をしていたので合流するつもりはないらしい。彼の気持ちもよくわかるので仕方なく単独で一団へと突撃した。

「皆、こんにちは」

「あ、サイちゃん。こんにちは」

 最初に私に気づいたのはメグちゃんだった。キヨマロが輪に入ったのでティオの暴走が収まり、周囲に目を向ける余裕ができたからだろう。

「どう?」

「それが……オーストラリアの周辺なのはわかったんだけど」

 そこまで言ってメグちゃんはモモンに視線を向ける。テーブルの上にはオーストラリアを拡大した地図が広げられており、それを使って『ファウード』の場所を問いただしているようだ。

「モモンとの長い付き合いで私には嘘がわかります。モモン、『ファウード』の場所はわかってるんでしょ? だとしたら後は指さすだけなの」

 シスターはトントンと地図を指で叩き、モモンを見るがその直後、モモンの二本の指が彼女の鼻の穴を貫く。モモンは完全にふざけていた。

(いや……ふざけてるというより)

 逃げている。目を逸らしている。そう表現した方が正しい。私と違ってモモンの『魔力探知』は広範囲まで届く。そのおかげで『ファウード』の恐ろしさを魔力から察し、どうにか『ファウード』から逃げようとしている。

「んー……最悪、オーストラリア周辺を飛び回るしかないかなぁ」

 シスターが地図を指さしてなんとか場所を聞き出そうとしているのを見ながらボソリと呟く。私も範囲は狭いが『魔力探知』を使える。そのため、『魔力探知』の範囲に『ファウード』が入るまで飛行機でオーストラリア周辺を移動し続ければ可能といえば可能である。

「でも、それだとあまりに非効率的だ。燃料も無限じゃないし、なにより時間がなさすぎる。それは最後の手段だ」

 私の呟きにキヨマロが反論した。彼の言うとおり、タイムリミットがあるので今の案は最終手段なのである。きっと、30分経ってモモンが口を割らなければ今の案が採用されるだろう。

「わああああああ! このサルううううう!!」

「ウヌウ、シスター、落ち着くのだ!」

 その時、とうとう堪忍袋の緒が切れたのかあの温厚なシスターが立ち上がって拳を振り上げる。それが振り下ろされる前にガッシュが止めに入った。あれだけ暴力はいけないと言っていたシスターが切れるほどモモンは頑なに話そうとしない。

「はぁ……しゃーない。モモン、耳を開いてよく聞いてくれ」

 そんな様子を見て溜息を吐いたキヨマロはモモンの閉じられていたウサギ耳をこじ開けた。ああ、そうか。シスターは質問すら聞いていなかったモモンに切れていたのか。

「いいか? お前がいくら逃げようとしても……お前が恐れている謎の建造物、『ファウード』はあと4日で封印が解かれる」

「ッ……」

 キヨマロの言葉にビクッと肩を震わせたモモン。やはり、場所を教えなかったのは恐れていたからだったようだ。

「確かな証拠はない。だが、俺たちの親友とも呼べる魔物がリオウという『ファウード』を復活させようとしている魔物の味方になった。もし、4日以内に『ファウード』の封印が解けなければウォンレイかリィエンが死んでしまう。そういう呪いをかけられ、仕方なく敵側に味方している。その呪いも実際に俺の目で確かめたわけじゃない。でも、あの二人が敵に回るなどそれ以外には考えられないんだ。きっと今も二人は苦しんでる。俺たちはそんな彼らを助けたいんだ」

 そう言いながらキヨマロは拳を握りしめる。ウォンレイたちの苦しみや屈辱、そんな彼らを今すぐ助けられない無力感。焦り、怒り。一見、冷静に見えるキヨマロだが様々な感情が入り乱れているのだろう。

「……」

 そして、モモンも先ほどまでのふざけた態度は消え去り、ガタガタと震えながら滝のような冷や汗を流していた。この中で『ファウード』の恐ろしさを一番知っているのはその魔力を感じ取れるモモンである。いや、むしろ私たちが何も知らないだけなのだろう。

 未だに『ファウード』がどんな存在かわからないけれどあの『鍵穴』がある時点でろくでもないものであることには違いない。それを知っていながら封印を解く行為はあまりに愚かである。

 それでも4日後までに『ファウード』の封印を解かなければ呪いをかけられた人が死ぬ。もし、ウォンレイたちの呪いを解呪する方法がわからなければどんなに愚かな行為だと知っていても封印を解くしかない。仲間の命を救うためにはそれしか方法がない。それが危険なものだとわかっていても、モモンの気持ちを踏み躙っても私たちは『ファウード』の正体を暴き、封印を解き、『ファウード』をどうにかしなければならないのである。

「お前も『ファウード』が復活したらとんでもないことになるのはわかっているはずだ。それを止める時間があと4日もない。今、頑張ってウォンレイたちにかけられた呪いを解き、『ファウード』の復活を止めるのと、目先の恐怖に怯えて取り返しのつかないことになるのと、どっちがいい?」

「……」

 キヨマロの言葉にモモンは悩んだ。数秒、数十秒、数分と沈黙が続く。刻一刻と時間が過ぎていく中、キヨマロはただひたすらモモンが動き出すのを待っていた。

 そして、モモンは徐に右手を動かし、地図に指を置く。そこ『ニュージーランド』と書かれていた。『ファウード』はニュージーランドにある。決戦の地はニュージーランドだ。


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