やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.204 群青少女は改めて必ず日常へ帰ると心に誓う

「ニュージーランド! シスター、こいつ、嘘は吐いてないな!?」

 キヨマロの説得でやっと『ファウード』の場所を指さしたモモンだったが、今までのこともあり、キヨマロはすぐにシスターに確認を取った。

「ええ、大丈夫。顔が元に戻ってる」

(……顔?)

「よし、アポロ! ニュージーランドだ!」

 シスターの言葉に首を傾げるが彼女の言葉は信用できるものだったようですぐにキヨマロがロビーに響き渡るほどの大声で叫んだ。自然と私の視線もアポロの方へ移り――。

(……………え?)

 

 

 

 

 

 

 

 ――少し離れた場所で内緒話をするように顔を寄せ合って何か話していたナゾナゾ博士、アポロ……そして、ハチマンの姿を見つけてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……ああ、すぐに手続きに入る!」

 ナゾナゾ博士、ハチマンと話していたアポロは頷いた後、携帯を取り出してこの場を後にする。飛行機の手配の続きをするのだろう。

「……」

 それにしてもどうしてハチマンはあの二人と話をしていたのだろう。いくらこちらに混ざりたくなかったとはいえナゾナゾ博士たちと会話する必要はないはず。つまり、あの二人と話す必要があったことに他ならない。

(……もしかして、ハチマンの隠し事について?)

「ナゾナゾ博士、『ファウード』のある細かい地名がわかれば連絡する! その場所をこのメールアドレスのジードという人に送ってほしい」

「ウム、私も他に動いてくれそうな魔物を探してみる」

 キヨマロからテッドの本の使い手(パートナー)であるジードのメールアドレスが書かれたメモを受け取ったナゾナゾ博士はニヒルな笑みを浮かべ、ハチマンを一瞥してアポロの後に続くようにどこかへ向かっていった。

「ねぇ、ハチマ――」

「――おーい、清麿!」

 何を話していたのか気になり、ナゾナゾ博士の背中を見送っているハチマンに声をかけようとしたがナゾナゾ博士と入れ替わるように現れたフォルゴレの声に遮られてしまう。彼は泣きながらバタバタと暴れているキャンチョメを抱えていた。あの様子を見るに遅れた理由はキャンチョメにありそうだ。

「フォルゴレ、キャンチョメ!」

「すまない、キャンチョメがトイレに閉じこもってしまって!」

「嫌だよぉ、やめようよぉ! 僕はあの建造物のことには何も気づいてないんだってばー!」

 誰も何も聞いていないのにキャンチョメは『何も気づいていない』と叫ぶ。その時点で何かに気づいていると自白しているようなものだが、フォルゴレに抱えられている彼は逃げようと必死にもがき続けている。

「キャンチョメに関しては飛行機の中で聞き出そう。第二ラウンドの始まりだ……」

 ため息交じりにそう呟いたキヨマロを見て思わず、苦笑を浮かべてしまう。そして、改めてハチマンに話しかけようと視線を戻すが彼の姿はどこにもない。フォルゴレたちに気を取られている間にどこかへ行ってしまったようだ。

「ねぇ、ハチマンどこに行ったか知らない?」

「ヌ? トイレ行ってくると言っていたのだ」

 『ファウード』の場所を正直に話したモモンを褒めている皆に話しかけるとガッシュがすぐに教えてくれた。ガッシュにお礼を言った後、周囲を見渡しても近くにトイレはない。空港内は広いのでハチマンがどのトイレにいったかわからないため、闇雲に探しても合流は難しいだろう。彼が戻ってくるのを待つしかない。

「……ん?」

 その時、不意に私の携帯電話が震える。取り出して画面を見てそこに表示されていた名前に思わず、目を見開いてしまう。

「ユイ?」

 そこには奉仕部の部員である『由比ヶ浜 結衣』の名前が表示されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユイ! ユキノ!」

「サイ!」

「……サイさん」

 彼女たちから連絡を受けた私は荷物をメグちゃんに預け、空港内を全力疾走して彼女たちと合流する。私の姿を見つけた私服姿の彼女たちは不安そうな表情を浮かべていた。家を出る前に旅行に出かけることをハチマンパパとハチマンママに報告するついでにユキノたちに海外に行くので奉仕部の活動にはしばらく出られないと連絡しておいたのだ。

 『ファウード』のことは伏せておいたのだが魔物のことを知っている彼女たちは私たちが魔物関係で海外に行くと察したらしく、慌てて空港に来たのだろうか。

 もしくは家を出る時にどこか心配そうに見送ってくれた小町も私たちがただの旅行で海外に行くとは思っていなかったのか、二人にそのことを教えたのかもしれない。

「もう、どうしたの? ただの旅行なのに見送りに来てくれるなんて」

「……やはり、あの建造物のことなのね」

 心配かけないように嘘を吐いたのだが、ユキノには通用しなかったようですぐにばれてしまう。ユイも今にも泣きそうな顔で私を見ていた。どうやらこれ以上はぐらかしても意味はないようだ。

「……うん、そうだよ」

「危なく……ないわけないよね。やっぱりヒッキーも行くんだよね?」

 ハチマンは私の本の使い手(パートナー)だ。彼がいなければ私の力は使えない。

 ハチマンには日本に残ってほしいという気持ちがないわけではないのだ。でも、あの『ファウード』は封印されていた。魔界で封印されるほどの驚異的な力を持っていることは間違いない。あれの封印を解けばほぼ間違いなく、人間界は大混乱に陥るだろう。下手をすれば人間界そのものが崩壊してしまう可能性だってゼロじゃない。あの封印(鍵穴)はそれほどのものだと私は身をもって知っている(・・・・・・・・・・)。だから、ハチマンの協力は必要不可欠なのだ。

「……うん。今はトイレに行ってるみたい。せっかくだから呼んでこようか?」

「いいえ、その必要はないわ……彼だって困るでしょうし」

 ハチマンを呼ぼうと携帯電話を取り出そうとしたがその前にユキノに止められてしまう。そして、その後に彼女が何か言ったようだがその声は空港の喧騒に紛れてしまい、聞くことができなかった。

「え? 今、なんて――」

「――そんなことより、サイさん。無事に帰ってくるのよ」

「……それはもちろん。そのつもりだよ」

 『ファウード』がどんなものなのか、まだわからない。けれど、負けるつもりは一切ない。

 あの頃とは――たった独りで戦っていた、独りぼっちになってしまった頃とは違うのだ。

 かつて一度は失ってしまい、もうできることはないと思っていた仲間がいる。

 心配して見送りにきてくれる友達がいる。

 何をしてでも守りたいと思える存在(ハチマン)がいる。

 だから、私たちは必ず『ファウード』を止めて帰ってくる。

「……うん、待ってるね。あ、はいこれ」

 私の顔を見て少しだけ安心できたのかやっと笑顔になったユイが鞄から細長い箱を取り出し、私に手渡してくれた。

「これは?」

「サイのメールを見た時、お守りってわけじゃないけど何か渡さなきゃって……それでゆきのんと一緒に買ってきたんだ」

「……そっか、ありがとう。大切にするね」

 箱を抱えてお礼を言うとユキノとユイはほぼ同時に両手を広げる。彼女たちが何を望んでいるかすぐに察し、二人の胸へと飛び込んだ。

「絶対に、帰ってくるのよ……比企谷君と一緒に」

「サイ、ヒッキーをよろしくね」

「うん、任せておいて」

 温かいぬくもりに包まれながら改めて思う。絶対に、生きて帰ってくる――そして、必ず二人と再会して笑い合う、と。

 私は、そう心に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……行っちゃったね」

 空港の屋上で遠ざかっていく飛行機を眺めながら隣に立つ由比ヶ浜さんが言葉を零した。あの飛行機にはサイさんと比企谷君、そして、彼女たちの仲間が乗っている。

 少し前から世界中で話題になっている『謎の建造物』は間違いなく、魔物関係だ。それを知っていたからサイさんからのメールを読んだ時、すぐに『謎の建造物』関連で海外に行くのだと分かった。

「そろそろ行きましょう。ここにいても私たちにできることはないわ」

「……そう、だね」

 私の言葉に悔しそうに奥歯を噛み締めた由比ヶ浜さんは頷く。そう、私たちにできることはない。ただの人間である私たちにできることなど何もないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ……雪ノ下雪乃君と由比ヶ浜結衣君だね?」

 

 

 

 

 

 

 不意に聞こえた声に私たちは目を見開く。街を歩いていた時、男の人から突然、話しかけられたことはあった。しかし、今のように知らない声で名前を呼ばれた経験はない。だからこそ、私は酷く動揺してしまった。

「私の名前はナゾナゾ博士。何でも知ってる不思議な博士さ」

 激しく鼓動する心臓の音を聞きながら慌てて振り返るとそこにはクエスチョンマークが付いたシルクハット。目にはモノクルを付け、漆黒のマントを風で揺らす長身の老人が立っていた。




来週、5月19日(日)の更新はお休みです。
次話の投稿は5月26(日)となりますのでご了承ください。

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