やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.205 彼女たちからのプレゼントに彼女は頬を緩ませる

 再会を誓った後、ユキノとユイと別れた私は急いで皆の元へ戻るとすでに出発の準備が整っていたようで皆、私の帰りを待っていた。長く話したつもりはなかったがここからユキノたちと会った場所は離れていたので移動に思いのほか時間がかかってしまったらしい。

 遅くなってしまったことを謝罪し、メグちゃんから群青色のリュックサックを受け取ってユキノたちから貰ったプレゼントをその中に仕舞い、アポロの指示に従って飛行機に搭乗。それからこれからの予定や騒ぐキャンチョメを落ち着かせるのに時間を取られ、やっと落ち着けたのは外がすっかり暗くなってしまった頃だった。

「さぁ、キャンチョメ……もう飛行機にも乗った。逃げられないぞ、白状するんだ」

 騒いでいたキャンチョメを落ち着かせたはいいものの、彼は未だに床に這いつくばって怯えている。元から弱虫な彼だがあれほど怯えるのも異常だ。彼が気づいた『ファウードの情報』はそれほどのものなのだろうか。

「ねぇ、どう思う?」

「何が?」

「あれについて、どう思う?」

 ディスプレイに映し出されている『ファウード』を見ながら隣に座るハチマンに声をかけた。キヨマロから『ファウード』について知らされてから出発の準備に追われ、そのことについてハチマンとあまり話し合っていない。それにモモンを説得している最中にナゾナゾ博士とアポロと話していた内容も気になる。そのことも聞けるように上手く話題をコントロールしなければ。

「……いいものではないのは確かだな。それにあんなの使おうと思う奴がまともなはずがない」

「……」

 数秒ほど黙った後、ハチマンは外を見ながらそう言った。『ファウード』の封印を解こうとしている魔物――リオウは呪いを使って言うことの聞かない魔物を無理やり協力させている。目的のためならば手段を選ばないゾフィスと同じようなタイプなのだろう。でも、それよりも今のハチマンの言葉にどこか違和感を覚えた。どこ、と具体的に言えないほど些細な引っかかり。

「う、うぅ……だったら、言うよ。皆も聞いた後で後悔しないでよ」

 しかし、違和感の正体がわかる前にキヨマロの説得にやっと折れたキャンチョメが指示棒を受け取りながら立ち上がる。色々と気になることはあるが今はキャンチョメの話を聞いた方がよさそうだ。

「僕にはこれが巨大な建造物じゃなく、とてもとても大きな魔物にしか見えなかったんだ」

「……え?」

「ウヌウ、キャンチョメ、何を馬鹿なことを」

「メルメル~」

 他の皆は彼が冗談でも言っていると思ったのか笑顔を浮かべているが私はその言葉を聞いて一瞬だけ頭が真っ白になってしまった。

 『ファウード』が大きな魔物? そんな、ありえない。

 そう、思いたかったが私にはそれを否定し切れなかった。

 あの『ファウード』は『魔界の脅威』の1つであり、封印されている。つまり、封印されるほどの理由があった。あの『鍵穴』で封印されていることはわかったがその理由だけはどうしてもわからなかった。

 でも、キャンチョメの直感が正しければ? あの巨大な魔物が魔界で暴れ、『魔界の脅威』となったのなら? 封印される理由には十分。そして、その巨大な魔物の封印があと4日もしない内に解かれる。そうなれば人間界は――。

「いいから聞いてよ。一番見えたのはここなんだ」

 私の顔から血の気が引いていくのとキャンチョメがトンと指示棒でディスプレイを叩いたのはほぼ同時だった。自然と皆の視線が指示棒の先端に集中する。

「大きな人型の魔物がこういう風に腕を組んでるように見えないかい?」

「……ぁ」

 そう言いながら腕を胸の前でクロスさせるキャンチョメ。他の皆はまだ気づいていないようだが、最悪を考えてしまった私にはただの岩肌だと思っていたその場所がクロスしている腕にしか見えない。もう、『謎の建造物』ではなく『巨大な魔物』にしか見えなかった。

「そして、頭のところに大きなヘルメットみたいなものをかぶせて、牢屋のような柱で体の周りをぐるっと囲んで……その柱が外れないように鍵をしている」

 あぁ、そうか。『魔界の脅威』はやはり脅威だった。あんな巨大な魔物が暴れれば人間界だけではなく、魔界だって滅亡してしまうだろう。だから、『ファウード』は封印された。封印されるのに十分な理由。あの『鍵穴』に間違いはなかった。あれを施されるものは良くないもの(・・・・・・)だ。

「……」

 皆もあれが『巨大な魔物』だと気づいたのだろうか、各々が喚き散らしている。そんな中、言葉を発していなかったのは私と頭を抱えながら震えているモモン――そして、腕を組んでディスプレイを睨み続けているハチマンだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ――……いいものではないのは確かだな。それにあんなの使おうと思う奴がまともなはずがない。

 

 

 

 

 

 

 

 不意に先ほどのハチマンの言葉が頭に浮かんだ。何気ない一言。特に気にするようなところはないように思える内容。でも、今ならわかる。『ファウード』の正体がわかった今ならこの言葉の違和感をしっかりと認識できた。

(どうして……あんなのって言えたの?)

 それではまるでハチマンは最初から『ファウード』の正体を知っていたようではないか。そうでなければ……『ファウード』の正体を知っていなければ『あんなの』などと言えるわけがない。

「……」

 ねぇ、ハチマン。あなたは一体、何を知っていて、何を考えて、何を隠しているの?

 ジッとディスプレイを見続けるハチマンの顔を見ても彼の考えていることはわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キャンチョメの言葉により一時は阿鼻叫喚となった機内だったが数時間もすれば皆も少しは落ち着き、各々好きなように過ごしている。まぁ、あんなことを知った後だったので食事もあまり喉を通らなかったようだったし、言葉数も少なく、皆の顔は沈んでいた。

 そんな静かな機内で私は一人で『ファウード』対策を考え、隣に座るハチマンは本を読んでいる。彼が本を読み始めた時はこんな時に本を読むのかと思ったがあまりページ数は進んでおらず、読書に集中できていないようだ。

 私も色々と対策を考えているが今のところ、何も思いつかない。それに加え、ハチマンの隠し事についても聞き出すタイミングを完全に失い、結局、聞けていなかった。ただでさえ、『ファウード』の正体を知って動揺している皆の傍でハチマンを問いただせば空気が完全に崩壊してしまう。それだけは絶対に避けなければならなかった。

「あ、そういえば」

「どうした?」

 ふとリュックサックにユキノたちに貰ったプレゼントの存在を思い出し、リュックサックに手を伸ばす。私の行動が気になったのか、本から顔を上げたハチマンも私のリュックサックに視線を向けた。

「実は空港にユキノとユイが見送りに来てくれてね。本当はハチマンも呼ぼうとしたんだけど時間があまりなかったから」

「……そうか」

「それでユキノたちからこれを貰ったの」

 そう言ってリュックサックから細長い箱を取り出してハチマンに見せる。その時、何故か彼がどこか居心地悪そうな表情を浮かべていたが私も『ファウード』の正体を知って多少なりとも動揺していたのか、彼の表情について言及せずに細長い箱を開封した。

「よっと……って、これ水筒?」

「……みたいだな」

 ユキノとユイからのプレゼントは群青色の水筒だった。どうして、水筒なのだろうかと首を傾げる。

「あ、もしかして」

 千年前の魔物の問題が解決した後、部室でメグちゃんから水筒を借りたことを話したがそのことを覚えていたのだろうか。ハチマンも私が持つ水筒を見て少しばかり顔を引きつらせていた。

「ねぇ、水筒って……」

「2つ持ってきてるぞ」

「全部で3つだね。まぁ、あって困るものじゃないし。ありがたく使わせてもらおう」

 千年前の魔物戦の時はなくて、今回は1本多い。その事実がなんだかおかしくて自然と頬が緩んでしまった。

 『ファウード』の正体が『巨大な魔物』だとわかり、この先どうなるかわからなくなり、不安になってしまったがユキノとユイと約束したのだ。ハチマンと一緒に無事に帰る、と。

「……頑張ろうね、ハチマン」

「……おう」

 『ファウード』に人間界を滅ぼさせはしないし、私たちも生き残る。だから、必ず帰ろう、私たちの日常に。

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