やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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先週は何も言わずに更新を止めてしまってすみませんでした。
いきなりPCに触れられない状況になってしまって……。


また、感想の方でサブタイトルのナンバリングがずれていると指摘がありましたので今回から正しいナンバリングを表記します。修正は暇なときにやりますのでご了承ください。


LEVEL.206 彼らは現実から目を背けるが彼はそれを許さない

 日本を出発してすでに1日半以上過ぎ、私たちは『ファウード』に最も近い位置にある飛行場に到着した。日本から乗ってきた飛行機では大きすぎるため、ここで小型の飛行機に乗り換えて『ファウード』へ接近する予定だ。

 その乗り継ぎの手続きに少しばかり時間を要するらしく、皆は荷物や気持ちの整理など今できることを各々していた。特にキャンチョメとモモンの怯えようは酷く、フォルゴレとシスターがそれぞれ顔を蒼くしながら必死に宥めている。

「何してんだ?」

 全ての準備を終えた私は携帯を操作していると不意に話しかけられ、顔をあげる。そこには私の携帯を見ながら不思議そうにしているハチマンがいた。こんな時に携帯をいじっているのが意外だったのかもしれない。

「皆にメール。飛行機に乗っている間は使えなかったから」

 2月にゾフィスを止めるために海外に行った時、携帯が使えなかったのが思いのほか不便であり、少し前にナゾナゾ博士に頼んで海外でも携帯を使えるようにしてもらったのである。今は日本にいるコマチたちに無事に目的地に着いた(実際は携帯が通じる最後の地点だが)こととこれからしばらく連絡が取れないことを伝えるためにメールを打っていたところだ。

「そうか」

「ハチマンも送ったら? ユキノとユイは絶対心配してるよ」

 私は空港で話すことができたが時間がなかったため、ハチマンを呼ぶことができなかった。きっと、彼女たちもハチマンからのメールを待っているに違いない。それに魔物のことを知らないコマチだって私たちのただならぬ空気を察して心配していた。

「あー……お前からやっておいてくれ」

「それはいいけどさ。ハチマンから送ることに意味があるんでしょ」

「いいんだよ。あいつらだって俺がそういう奴だってわかってるだろ」

「もう……」

 そう言って再び荷物整理に戻ってしまったハチマンの姿に溜息を吐く。そして、すぐにリュックサックの中を覗いてガサゴソと荷物を整理しているハチマンの背中を見て私は首を傾げた。

 私より荷物が少ないのにどうしてハチマンは未だに荷物整理をしているのだろうか?

(まぁ、いいか)

 ハチマンのことだ、きっと少しだけサボってこんなに時間がかかってしまったのだろう。そう考えた私はハチマンの背中から視線を外し、メールを送り忘れた人がいないか確信した後、携帯の電源を切った。『ファウード』に向かう前に壊れやすい携帯類はアポロに預けることになっている。

「……」

 年末に買ってもらった携帯。買ってもらってからは肌身離さずずっと所持していた。これがあればいつでもどこでも誰かと繋がっていられたから。

 でも、『ファウード』の件を片づけるまでしばしの別れだ。願わくばもう一度、この子を手に取ることができますように。

 そう願いながら私は携帯をポケットに仕舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、乗れるぞ! みんな、早く!」

 飛行機の準備が整い、キヨマロの指示に従って私たちは機内へ乗り込み、椅子に座る。少し遅れてハチマンも私の隣に腰かけた。

「この小さな飛行機で『ファウード』まで行くのだな?」

「ああ。正確な場所は上空を移動しながらモモン――それに『ファウード』に近づけばサイにもわかるはずだから二人が探知する。それが一番早い、そうだな? 二人とも」

 最後に乗り込んできたガッシュが確かめるようにキヨマロに問いかけると彼は頷きながら私たちに視線を向けた。

「『ファウード』に近づくまでモモンが誘導。私の『魔力探知』の範囲内に入ったらモモンより精度の高い私が『ファウード』の場所まで案内するよ」

 私の言葉にモモンもこくりと首を振り、それを見たキヨマロが勢いよく飛行機の扉を閉める。これで後は出発するだけだ。

「『ファウード』の復活まであと二日しかない! みんな、頑張ろう!」

「おー!」

「……」

 右腕を上げ、気合を入れるキヨマロだったがそんな彼に続いて声をあげたのはガッシュのみで他のみんなは俯いたままだった。巨大な魔物である『ファウード』の場所まであと数時間とせずに到着してしまうのだ。気落ちしてしまうのも仕方ない。

「な……み、みんな、元気がないぞ! そんなことでは『ファウード』に着いても――」

「――清麿だって無理して元気なふりしてるくせに」

 予想以上にみんなの空気が沈んでいることに今頃になって(・・・・・・)気づいたキヨマロが早口で元気づけようとするがその途中で顔から血の気が引いているキャンチョメに遮られてしまう。

「『ファウード』が富士山よりも大きい魔物だってわかってどうしたらいいか困ってるくせに……」

「ッ……」

 図星だったようで言葉を詰まらせた彼にキャンチョメが更に追撃する。その口調はどこかキヨマロを責めているように聞こえた。きっとキャンチョメも余裕がなくて言葉はきつくなってしまったのだろう。

「そうよ! 『ファウード』はあんな大きな魔物なのよ! あれが復活したら清麿はどうやって倒す気なのよ!?」

 そこへティオが泣きそうな顔でキヨマロへ問い質した。『ファウード』が大きな魔物だとわかってからキヨマロは一度も作戦を口にしていない。そう、『ファウード』の近くに来た今になっても具体的な作戦を私たちは知らされていなかった。

「それ、は……」

 ティオの質問にキヨマロは目を伏せる。その表情だけで未だに『ファウード』対策が思いついていないのだとわかってしまう。他のみんなもそれを悟ってしまったのか、機内の空気が更に重くなった。

「い、いや待て! 『ファウード』がでっかい魔物なんてまだキャンチョメの予想にすぎないぞ! ほら、目の錯覚だってあるじゃないか。心霊現象と思った写真がただ単に木の影が人の顔に見えただけとか……つまり、魔物に見えただけでまだ魔物と決まったわけじゃない!」

 さすがにこのままではまずいと思ったキヨマロが声を張り上げた。みんなの空気が重いのは『ファウード』が巨大な魔物だとわかり、どう倒せばいいかわからなくなってしまったからだ。その前提を崩せば空気は元に戻る。そう考えたのだろう。

 でも、その考え方はあまりに危険だ。それはただ現実から目を逸らしているに他ならない。

 

 

 

 

 

 

 

「いや、あれは巨大な魔物だ」

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 そう思ってすぐにキヨマロの言葉を否定しようとしたがその前にハチマンがそれを口にして目を見開いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは紛れもなく超巨大な魔物だ」

 森の中を歩くガッシュと瓜二つな容姿を持つ魔物――ゼオンがパートナーであるデュフォーにそう断言した。しかし、それでもデュフォーは無表情のまま、首を横に振る。

「やはり信じられんな。お前の頭からその『ファウード』の映像を見せてもらったがあれはかなりの大きさだったぞ。あれが魔物だと麓の山々が膝の高さにも届いていない」

「オレだって昔見た本がなければ信じていなかっただろう。だが、事実だ」

「……」

 そう言ったゼオンに対し、デュフォーはそれ以上、反論することなく機械のように一定のスピードで歩みを進める。別に『ファウード』が巨大な魔物だと信じたわけではない。ただ魔界のことを知らない己の考えより実際に『ファウード』について記された文献を読んだゼオンを信じた方がいいと答えを導いた(・・・・・・)に過ぎなかった。

「その本でのアレの呼び名は『魔導巨兵ファウード』。その力があまりに強大で危険だったため、魔界の極地に封印された魔物だ。なぜあれほど巨大な魔物が存在したのか、それはわからん。オレが読んだ文は『ファウード』を封印するまでの過程だったからな」

 そう言いながら彼が思い出しているのは禁断の書庫で読んだ本の内容ではなく、別の場所で見つけた白い髪を持つ幽閉されていた魔物の姿。『ファウード』は現在、人間界にあるがあの魔物は今頃、どうしているのだろう。今も幽閉されているのだろうか。

「その魔物の誕生は全くの謎となっている。ある記述にはその力を操っていた者がいたから魔導の力をもって『造られた魔物』とも言われてたようだ」

 そんなことを考えながらもゼオンは一呼吸おいて『ファウード』の情報を口にする。

「操れるのか?」

「ああ。だからこそ皆があの力を手に入れようとしている。あれほど巨大な力を操る……考えただけでもゾクゾクしないか?」

「……少なくとも俺が今まで味わったことのない感覚だろうな」

 デュフォーの疑問にゼオンは口元を歪ませ、笑みを浮かべる。その顔はゼオンの後ろにいるデュフォーには見えなかったが、声音と雰囲気から珍しくゼオンのテンションが上がっていることに気づいていた。

「……ゼオン」

 だからだろうか。彼は自然と立ち止まり、パートナーの名前を呼んだ。背後からの足音が聞こえなくなったのでゼオンも歩むのを止め、振り返る。やはり、彼は禍々しい笑みを浮かべていた。

「俺は……その力で今までとは違う景色が見れるか?」

「……ああ、オレも変わる。この力で……今までとは違う景色を見る」

 ゼオンはデュフォーにそう告げた後、再び前を見据える。この森を抜けた先が目的地だ。今はまだ見えないがあそこに彼らが求める『ファウード()』がある。

 二人は言葉を交わすことなく、ほぼ同時に歩き始めた。まだ見ぬ景色を見るために。


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