やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
ハチマンの言葉に機内はシンと静まり返ってしまう。みんな、彼を見て目を丸くしている。ハチマンもそうなるとわかっていたのかいつものようにきょどったりせずに腕を組んで続きを話した。
「下手に希望的観測だけで結論付けるのは危険だ。あの画像を見てキャンチョメだけが巨大な魔物に見えたのならまだしも……ここにいる全員があれを巨大な魔物に見えたんだろ?」
「……」
ハチマンの言葉に全員が言葉を失う。そう、すでにみんなは『ファウード』が大きな魔物だと認めてしまった。どんなに目を逸らそうとその事実は変わらない。ならば『ファウード』が巨大な魔物だと最悪の状況を想定して動いた方が賢明である。
しかし、それは私が『魔界の脅威』の恐ろしさを知っているからこそ出した答えだ。普通であればキヨマロたちのように『そんなはずがない』と否定するだろう。ハチマンは普通の人より理性的だがここまで断言するのはあまりに不自然だ。あの飛行機の言葉といい、やはり、ハチマンは『ファウード』が巨大な魔物だと事前に知っていたと考えていい。
(でも、それを誰から聞いたの?)
悪意に敏感で人の好意を簡単に信じない彼が真実だと信用するほどの相手……正直、私とコマチ以外、思いつかない。
もしくは証拠を揃えられて信じるしかなくなった。もし、そうならその相手は『ファウード』のことを知っている、リオウ側の存在となる。そんな相手といつ接触したのだろうか。最近、ハチマンと別行動を取ることが多くなったので私の目を盗んで会うこともできるが、相手が魔物なら狭いとはいえ私の『魔力探知』に引っかかるはず。じゃあ、相手は人間? 駄目だ、情報が少なすぎて候補すら思いつかない。
「……ああ、すまない。認める、あれは巨大な魔物だ」
キヨマロが悔しげに拳を握りしめ、
「……」
ハチマンのことも気になるが今はこの空気をどうにかするのが先だ。チラリとハチマンを見れば彼は少しばかり居心地が悪そうに身を捩った後、私に視線を向けた。おそらく彼もこの空気をどうにかする方法は思いついているし、それは私と同じ方法だ。しかし、口下手な自分では上手くいかないと判断し、私に任せたいのだろう。
「……こほん。キヨマロ、具体的な作戦は決まってるの?」
ハチマンに頷いてみせ、みんなの注意を引くために咳払いを一つ。そして、キヨマロにそんな質問をした。
「いや……」
「うん、そうだよね。頭のいいキヨマロでもこんなに情報がなさすぎるんじゃ作戦の立てようもないよね」
いきなり敵が『巨大な魔物』だとわかっても『ファウード』がどんな魔物なのか、どうやって封印を解くのか、リオウは『ファウード』を使ってどうやってこの戦いを勝ち抜こうとしているのか。他にも知らなければならないことは山ほどある。それを知らないことには何も始まらない。あの天才的な頭脳を持つキヨマロでも情報がほぼ皆無な状態で具体的な作戦を立てるのは不可能だ。まずはキヨマロ一人が責められないようにそれをみんなに知ってもらわなければならない。
「でも……無理は承知でお願い。なにか方針を決めて欲しいの」
「……方針?」
「可能性の話でいい。高望みでいい。希望的観測でいい。最悪を想定した上で私たちが取れる最良を教えて」
今、私たちに必要なのは
だからこそ、今後の方針を決める。
目指すゴールを作る。
もちろん、私やハチマンがその役目をしてもよかった。だが、やはりこの役目は司令塔であるキヨマロがやるべきだ。そうしなければ多少なりともキヨマロの信用が落ち、仲間の誰かが彼に不信感を覚えてしまう可能性がある。そんな小さな不信感が積み重なれば彼の指示を聞いた時に迷いが生まれ、咄嗟に動けなくなってしまうことだってあるはずだ。
それに――。
「……そう、だな」
その時、目を閉じて考えていたキヨマロが不意に声を漏らす。開けた彼の目は先ほどまで見て取れた迷いはなくなり、みんなを見渡した後、続きを話し始める。
「まず、確認したいことがある。モモン、『ファウード』は最近になって突然、現れたんだよな」
キヨマロの質問にモモンは無言のまま、頷く。モモンだけではない。キヨマロとガッシュが戦ったコーラルQという魔物が言っていた『魔物の感じはするが、魔物ではありえないもの』というのは『ファウード』のことだろう。つまり、『ファウード』は封印された後、人間界に送られたわけではなく、この戦いが始まってから魔界から人間界に来たことになる。
「きっと、転移のような……そんな機能があってそれを使い、『ファウード』は人間界に来た。なら、それを使えば魔界に送り返すことだって不可能じゃない」
そのキヨマロの一言に俯いていたみんなは一斉に顔を上げた。
その機能が本当にあるのか。
それを探す手段があるのか。
その機能があったとしても私たちに使えるのか。
もちろん、色々な問題はある。しかし、『ファウード』を送り返せるかもしれない、という可能性があるだけで救われる。
「それに『ファウード』が『巨大な魔物』ならリオウは『ファウード』を利用して他の魔物を倒すだろう。なら、『ファウード』をコントロールする必要がある。そのコントロールをリオウから奪えば人間界が滅茶苦茶になることはない」
そこにキヨマロは畳みかけるように別の案を出した。
たとえ『ファウード』を魔界に送り返せなくても『ファウード』を私たちが奪ってしまえばいい。もっとわかりやすく言えば敵を全員倒してしまえば私たちの勝ち。あるかどうかわからない機能に期待するより遥かに気持ちが楽だろう。
「……」
気づけば先ほどまで気持ちが沈んでいたみんなの目に生気が戻っている。まだ具体的な作戦は決まっていないし、キヨマロが言ったのも『どうすることもできなかったらとりあえず敵を倒せばいい』という脳筋丸出しの方針だ。
でも、これで真っ暗だった先に光が灯った。私たちが目指すべきゴールが見えた。今はそれだけで充分である。
「それじゃあ、まとめるが……『ファウード』に潜入後、タイムリミット――呪いが発動するまで『ファウード』を魔界に送り返す方法を探す。もし、見つからなければ『ファウード』の封印を解いた後、リオウや奴に協力している魔物を倒す! 今はこんなことしか思いつかないし、この先どんなことが待っているかわからないが……みんな、付いてきてくれるか?」
キヨマロの問いに全員が力強く頷く。どん底まで落ちた士気は今、回復した。これですべての準備は整った。あとは実際に『ファウード』へ潜入するだけ。
(でも……)
キヨマロはあえて言わなかったのか、それとも考えもしなかったのか。それはわからないが私たちに取れる行動はもう一つある。
『ファウード』を魔界に返す方法などなく、リオウに勝てる見込みもなく、『ファウード』を止める方法がなくなってしまう――最悪を想定した私たちの取るべき行動。
それは『ファウード』の封印を解かないこと。ウォンレイたちを見捨てること。
――私はいつだって最悪を想定して動いている。そんな人に
何故なら、『最悪を想定して動く』ということは最初から『幸せになれるわけがない』と決めつけていることに他ならないのだから。
「よーし、みんな、必ずウォンレイたちを助けるぞ!」
キヨマロの声にみんなは笑顔を浮かべて『おー!』と叫ぶ。もちろん、私も同じように声をあげた。脳裏にこびりつく想像してしまった
次回、『ファウード』へ突入。